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■女たちの結婚事情(4)

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ともかくも、それで千里は緩菜にタックさせることを提案した。それで試しに1度してみようとしたのだが、ここで困った事態が判明する。
 
貴司の説明では、緩菜は、停留睾丸の治療のため睾丸を陰嚢の皮膚に縫い付けて固定されているというのである。それではタックで必要な「睾丸を体内に押し込む」作業ができないと思われた。
 
千里はこの問題に関して曲作りに関する盟友でもある蓮菜(葵照子)に相談した。蓮菜は外科医で、多数の性転換手術を手がけている。可愛い男の娘のおちんちんを切り落として女の子の型に整形していく最中は興奮して自分が濡れるなどと危ないことまで仲間内では言っている。
 
蓮菜が「取り敢えず連れてきて」というので、千里は“かんな”を連れて蓮菜の病院に行った。蓮菜は最初に“かんな”のペニスのサイズを測った。1.5cmしかなく蓮菜は「これはマイクロペニスだ」と診断した。
 
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「停留睾丸の手術してくれたお医者さんは1.5cmあればマイクロペニスではないと言ってたけど」
 
「それは1歳の基準だよ。2歳4ヶ月でしょ?この年齢だと2.5cm以下はマイクロペニスなんだよ」
「なるほど」
 
「普通なら男性ホルモンとか投与するんだけど、それ嫌だよね?」
「それは本人がいちばん望まないこと。むしろ女性ホルモンを出してもらえると嬉しい」
「それ、私が処方しないと勝手に入手するでしょ?」
「まあ入手ルートはあるけどね」
「診察の上で必要だと判断したら処方箋書くから、素人療法はできるだけしないで欲しい。思春期前の子への投与量は難しいんだよ」
「分かった」
 
念のため心理療法士さんに診せて心理テストをしていたが
「この子は心理的には完璧に女児ですよ。そもそも自分は女の子だということを信じて疑っていない」
という診断をしてくれた。
 
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その結果も見た上で蓮菜は
 
「この子が18歳なら、今すぐ性転換手術してあげたいけどなあ」
などと“かんな”の小さなおちんちんを触りながら言った上で
 
「基本的に子供にタックはお勧めできないんだけどね」
とも言う。
 
「でも医者の立場からはそもそも大人でもタックは推奨しないでしょ?」
「うん。睾丸が死んでしまう程度は、どっちみち男を辞めようとしている人がするんだから構わないけど、腸や血管が圧迫されて、思わぬ所に障害が出る可能性もある」
 
「でもこの子、女の子の外見にしてあげないと、女の子としての発達をさせてあげることができないと思うんだよ。いくら本人が女を主張しても周囲の友だちとかが認めてくれないじゃん。それ以前に姉妹もだけど」
 
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蓮菜はしばらく考えていたが、やがて言った。
 
「今睾丸は皮膚に縫い付けてあるんだよね?」
「うん」
「だったら、その縫い付けを外そう」
「外して大丈夫?」
「体内に戻ってしまう可能性もある。でもそもそも体内に押し込みたいんだよね?」
 
「そう」
「男性ホルモンが生産されなくなって、陰茎が更に縮むかも知れないよ」
「それは問題無い」
「それと定期的に私の診察を受けさせてくれ。万一腫瘍などができたりしたら速攻で摘出する必要がある」
 
「分かった。停留睾丸ってやはり腫瘍ができやすいの?」
「そんなことは無い。腫瘍ができる確率はふつうの睾丸と変わらないと私は思うよ。ただ、腫瘍ができた時に、陰嚢内にある睾丸は変化が分かりやすい。でも体内にある睾丸だと発見が遅れがち」
 
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「なるほどぉ!」
 
「だから半年に1度は私に見せること。それがこの手術をしてあげる条件」
「うん。ちゃんと診察受けに来るから、手術お願い」
 
それで“かんな”の睾丸は11月下旬に蓮菜の手術でいったん陰嚢の皮膚から取り外された。しかしそのまま体内に戻って行くことは無かった。またタックのためにいったん体内に押し込んでも、タックを外すと、ちゃんと陰嚢内に出てくることを確認した。
 
どうも1年間にわたって陰嚢内に固定されていたおかげで、そこを定位置として安定していることが推測された。
 
そういう訳で、緩菜のおちんちんやタマタマが、早月や由美の目に触れることは無かった。
 
「かんなちゃん、おとこのこだっていってたけど、おちんちんないじゃん」
と早月は緩菜と一緒にお風呂に入れた時に言った。
 
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「わたしおんなのこだよ」
と緩菜も言うので、早月はその後、緩菜のことを普通に妹として扱ってくれた。
 
そして千里は小さな声で呟いた。
「環和(かんな)ちゃん、可愛い女の子になれるといいね」
 

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千里たちの「今後の方針」がだいたい固まった所で、千里はあらためて信次の仏前に挨拶してくることにした。相手側の都合で訪問は11月11日(水)になった。
 
「ひとりで行ってくるの?」
と桃香から訊かれる。
 
「由美と・・・ついでに緩菜も連れていくかな。京平と早月を見ててくれる?」
「千葉に行くなら**屋のお団子をよろしく」
「了解〜」
 
それで千里はアテンザの後部座席にチャイルドシートを2個セットして緩菜と由美を座らせ、まずは桶川市に住む康子のもとを訪れた。
 
「おお、由美、元気してたか?」
と言って康子が由美をだっこする。
 
するとそれを緩菜が羨ましそうに見ているので
「えっと、その子がカンナちゃんかな?あんたもおいで」
と言って一緒にだっこしてあげていた。
 
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「由美もお兄ちゃん・お姉ちゃんが合わせて3人もできてみんなに可愛がられていますよ」
 
信次の好きだったペヤングのカップ焼きそばと、御仏前の封筒を置き、蝋燭に火を点けて線香を立てる。緩菜を左側、由美を右側に座らせ、合掌するように言い、千里は鈴(りん)を鳴らした上で数珠を手に持ち(祝詞風!)般若心経を奏上(?)する。康子も後ろで合掌してくれていた。
 
仏壇に向かって一礼してから、向き直って康子にも一礼した。
 
「ありがとね。わざわざ挨拶しにきてくれて」
「結婚したら私はさすがにこちらに顔を出せなくなりますけど、もし良かったら由美たちとデートしてあげてください。私の新しい婚約者もお義母さんにはいつ来てくれても歓迎と言っておりますので」
「うん。遊びに行くね」
「はい」
 
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アテンザの助手席に康子さんを乗せて、久喜市に住む水鳥波留・幸祐の家を訪問した。ここを訪れるのは千里は実は初めてである。
 
「ここ以前来たことあるの?」
「いえ。初めてですよ」
「でも迷わず来れた」
「私、めったに道に迷いませんから。私が迷う時は、迷う意味のある時だって、先輩の巫女さんに言われたことあります」
「へー」
 
持参のケーキを出して、波留さんとお姉さんに挨拶した。お姉さんとは初対面である。千里は波留さんもさばさばした感じの人と思っていたが、お姉さんは彼女以上に豪快な感じの人で気持ち良く感じた。
 
「信次君もまあ、くたばる直前にバタバタと自分の種をあちこちに撒いたもんだね」
などと言っている。
 
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お母さんの前でいいのか〜?と千里は内心冷や汗を掻いたものの、康子さんも
「ほんとに節操の無い子だったからね」
と笑っていた。
 
「そのふたりも信次君の忘れ形見?」
などと尋ねられる。
 
康子さんが
「いえ、こちらの由美だけですけどね。緩菜ちゃんは千里さんが今度再婚する相手の娘さんなんですよ」
 
「あ、そう?なんか幸祐と似てる気がしたし。でもあれ?女の子だっけ?男の子かと思った」
とお姉さんが言うので、千里は「へ〜」と思ったものの康子さんは
 
「男の子がスカート穿きませんよぉ」
と言う。
 
「あ、そうだよね」
と言ってお姉さんはまた豪快に笑っていた。
 
千里は、京平は男の子だけどスカート好きだけどなと思う。京平の場合は女の子になりたいとかではなく純粋にファッションとしてスカートを穿いている感じだ。
 
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幸祐(1歳7ヶ月)は人見知りしないようで、千里のそばに寄ってきては
「おばちゃん、だれ?」
などという。
「由美のお母ちゃんだよ。この由美は知ってるよね」
「うん。ぼくのおねえちゃん。おばちゃん、ぼくのおかあさん?」
「幸祐君のお母ちゃんはそこにいるじゃん」
「あ、そうか」
 
幸祐は「おねえちゃん、あそんで」と言って、由美を引っ張っていき、一緒に積み木をし始めた。緩菜も付き合っていたが、幸祐がアバウトに積むのを緩菜が微調整してあげている。緩菜ってけっこう神経質だよなと千里はここ1週間ほど見ていて思った。とりあえずこの場では緩菜はお姉ちゃん役である。
 
「幸祐君、元気ですね」
「典型的O型人間かもね」
 
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などと波留のお姉さんは言っている。
 
「うちは伝統的にO型ばかりでさ。うちの父ちゃんと母ちゃんもO型、双方のじいさん・ばあさんがO型、私も波留もO型。私の亭主もO型、幼稚園行ってる息子もO型、信次君もO型で幸祐もO型」
 
「それはまた凄いです!」
 
「まあ細かいこと気にしないのがうちの一家の良い所でもあり欠点でもある」
と言って、またお姉さんは笑っていた。
 

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その後、また康子さんと一緒にアテンザで東北道・外環道・東関東道と走って千葉市郊外の霊園に行く。お花と供物をそなえ、線香をあげて合掌し、般若心経を唱えた。
 
ここは川島家之墓とは書かれているが、中に入っているのは信次のみである。信次の父(康子の夫)は、先妻とともに別の墓所に眠っている。この墓に入る予定があるのは、太一と康子のみである。太一が再婚した場合はそちらに引き継がれていく可能性はある。
 
「太一さんのお母さんはそちらのご実家のお墓に入っているんですか?」
「うん。そうなの。太一の実父もそちらはそちらの実家の墓。なんかここの家はお墓もバラバラだね」
と言って康子さんは困ったような感じの笑みを浮かべていた。
 
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お墓参りした後は、康子さんが
「千葉に来たついでにちょっと寄ってもいい?」
と言ったところに寄ってから、桃香に頼まれていたお団子を買う。それ以外に康子さんは「お土産」と言ってケーキを7個買って千里に渡した。その後で千里は康子さんを桶川市のマンションに送り届け、夕方頃、浦和のマンションに帰還する。
 
帰り着くと桃香が「千里〜。疲れた。お腹空いた」と言ってカーペットの上に寝ていた。京平と早月もカーペットの上で熟睡している!
 
いったい何をしていたんだ!?
 

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貴司は勤めていた会社を11月いっぱいで退職した。
 
その上で選手として入れてくれそうな球団を探していたのだが、東京都内に本拠地を置くBリーグ2部のメトロ・エクシードが貴司に関心を持ってくれた。
 
それで入団テストを受けたところ
「31歳ではあっても、これだけ動けるなら欲しい」
 
と言ってくれ、貴司は1月付けでそのチームに合流することになった。但し給料は取り敢えず3月までは無給!で、4月以降は月20万円(リーグで定められている最低年俸)と言われた。実戦での動きを見て、2022年度からは給料があがる可能性もあるが、むろん2021年度中に解雇されてしまう可能性もある。
 
しかし貴司は1年ぶりのバスケ活動に意欲満々であった。
 
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貴司は2008年にMM化学に入社して以来、12年半にわたって「社員選手」をしていた。そしてこの時初めて彼は「プロ選手」になったのである。
 

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「考えてみると、千里って高校卒業したあと、ずっとプロだったんだよな?」
と貴司は言った。
 
「うん。私は社員選手はやったことない。もっともプロだけど無給というのが多かった。ローキューツも40minutesも当時は給料出してなかったから」
と千里は答えた。
 
取り敢えずグラナダとマルセイユのことはバッくれておく。
 
「今はどちらも強豪プロチームだからなあ。千里は凄いよ」
 
ローキューツと40minutesは千里が40minutesを退団した2016年にどちらも運営会社が設立されて実質プロのクラブチームとなった。実は運営会社の筆頭株主はローキューツは唐本冬子(ローズ+リリーのケイ)、40minutesは村山千里になっているのだが、そのことを貴司や桃香は知らない。
 
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「貴司はもっと冒険すれば良かったと思うんだけどね」
「それ今になって思う。僕はぬるま湯につかっていたんだ」
「でも30歳過ぎて、やっとプロに挑戦することになった」
「うん。今から頑張ればいいんだよ」
 
と言って千里は貴司にキスをした。
 
 
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