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「ところでこの子たちって結婚できる子と結婚できない子を意識しておかなくていいか?」
と桃香が言った。
「うーん・・・」
「そもそも各々は誰の子供なんだっけ?」
と貴司が言う。
「それがどうもよく分からんのだけど、実は」
と桃香。
「取り敢えず親権者は、京平は阿倍子さん、早月は桃香、緩菜は貴司、由美は私だね」
「親権者がバラバラなのか!」
「ついでに4人とも血液型が違う(と千里は思っている)」
「凄い兄妹だなあ」
「で遺伝子上はどうなってんだっけ?」
「どうなんだっけ?」
すると千里は言った。
「あまり深く追求しないで欲しいのだけど」。
「この場だけで、この話は忘れて欲しい。全員、私たち3人の子供と思うようにしたい」
そう言って、千里は4人の子供の名前を紙に書き、その各々の横に《法的な父・法的な母・養母(これは由美のみ)・遺伝子上の父・遺伝子上の母・出産した母》の名前を書いた。
(千里はここで実は緩菜の遺伝子的父親を誤って記載している。千里が緩菜の遺伝子的父親が誰かに気づくのは、もう少し先である)
「嘘!?」
「こうなってたの?」
「どうしたらこうなる?」
千里は桃香や貴司がその表をよく読む前に、紙を折りたたむと、シュレッダーに掛けてしまった。
「ちょっと待って。**の親って?」
「質問は受け付けません」
と千里は笑顔で言い切った。
「緩奈は女の子として育てるという前提で考える。そして女の子同士は結婚しないと仮定する。すると京平が他の3人と結婚できるかということだけを考えればいい」
と千里は言った。
「うん、それでいい」
と桃香と貴司は同意する。
「京平と早月はどちらも遺伝子的に私の子供だから結婚不可」
「その件について質問があるのだが」
「質問は受け付けません」
「うむむ」
「京平と緩菜はどちらも法的に貴司の子供だから結婚不可」
「その2人がいちばん分かりやすい」
(本当はこの2人は遺伝子的に千里の子供なので結婚できない)
「京平と由美は現時点では全く無関係だから結婚できる。私が貴司と結婚 しても連れ子同士だから結婚できる」
「その組合せだけか!」
「遺伝子的にも無関係?」
「うん。無関係」
「じゃ京平と由美の関わりだけは注意しておきたいね」
「うん。結婚可能とは言っても、結婚させたくないよ。早月や緩菜がショック受けると思うし」
「うん。京平にはあくまで早月・緩菜・由美という3人の妹のお兄ちゃんでいて欲しい」
同性婚もありとした場合の4人の関係は以下のようになる。
京平−早月 どちらも千里の遺伝子上の子供
京平−由美 無関係
京平−緩菜 どちらも千里の遺伝子上の子供・どちらも貴司の法的な子供
早月−由美 どちらも桃香の遺伝子上の子供
早月−緩菜 どちらも千里の遺伝子上の子供
由美−緩菜 どちらも信次の遺伝子上の子供
つまり同性婚ありと考えた場合でも結婚できるのは京平−由美のみ。
「住居だけど、やはり3部屋しかない状態では無理がある気がする。最低4部屋ある家に転居を考えよう。貴司の合流はそれまで保留ということで」
と千里は言う。
「やはり転居しないと無理か」
と桃香。
「無理だと思う。できたら4LDKSくらい」
と千里。
「家賃高いぞ」
と桃香。
「私、頑張って稼ぐよ。私の月給、今年はコロナの影響で全然チーム活動ができなくて親会社も苦しいから、月20万に抑えられていたんだけど、コロナが落ち着いてくれば来年は月70-80万円くらいはもらえると思うからさ」
と千里が言うと
「それ何の話?」
と桃香が言う。
「私、舞通レッドインパルスのプロ選手だから」
と千里。
「嘘!?」
と桃香と貴司が同時に声をあげた。
「千里現役引退したんじゃなかったんだっけ?」
と貴司。
「それいつからプロ選手なの?」
と桃香。
「実質入団したのは2015年。24歳の年。この年は私は40minutesに正式には籍を置いていたから、レッドインパルスは選手外の練習生扱い。2016年春に正式に登録された。それからずっとこのチームで活動している。日本代表にもずっと参加している」
と千里は説明した。
「全然知らなかった!」
と桃香は言っている。
「なんか趣味のチームで活動しているのかと思った」
「貴司はなかなか代表に復帰できないね」
と千里は言う。貴司は2018年以降は日本代表(候補)に1度も招集されていない。2017年の代表活動が最後になっている。
「さすがに23-24歳くらいの選手には体力的にかなわん」
「浮気ばかりしてて鍛錬不足なんじゃない?」
「うっ・・・」
「それと京平と離れたのも貴司の運気が落ちた理由」
すると桃香が言った。
「ね、京平って強い金運を持ってるよね」
「まあ金運だけじゃないけどね」
「だって京平がうちに来てすぐ宝くじの100万円が当たったじゃん」
「阿倍子さんも京平とふたりで暮らしてた時期、宝くじが当たるんで何とかなってたらしいよ。薄情で無責任な元夫は全然養育費をくれないし」
と千里が言うと
「ごめーん。本当にお金が無くて」
と貴司は面目無さそうに言っている。
「いつの間に日本代表とかしてたんだっけ?」
「桃香は秋花ちゃんにご熱心だったから、これ幸いと練習してた」
桃香がむせる。
「いい加減別れないと、季里子ちゃんに教えちゃうぞ」
「それは勘弁してぇ」
貴司は季里子のことを知らないので、話がわからず首をひねっている。
「千里さぁ、もしかして私の浮気相手全部把握してる?」
「してるよ。2009年以来の全ての恋人の名前を言えるよ」
「それは私も言えん!」
「貴司の浮気相手の名前も全部言えるけど」
「千里、君は異常だ!」
「でも桃香の浮気のおかげで私は色々自由に活動できるし」
「うむむむ」
「まあそれで来期はもう少しもらえると思うから、音楽関係の収入と合わせたら、たぶん家賃40万円までは払えると思う」
「40まん〜〜〜!?」
と桃香が叫んで絶句する。
「千里、その家賃出すなら、いっそ買っちゃわない?」
と貴司が言う。
「うーん・・・・その手もあるか」
と千里。
「私も買うほうに賛成。そんな高額払って賃貸というのはもったいない」
「確かに月40万なら年間480万、10年で4800万だからね。でも貴司は2008年春から去年まで12年間、そんな家賃を払ってたんだけどね」
と千里。
「大阪のマンションってそんなに高かったの?」
「いや、あれは会社から家賃補助が出てたから払えた金額。自己負担は月10万だったんだよ」
「なるほどー」
3人は更に検討の末、最低4LDKSという条件なら、マンションより戸建てを買った方がいいという結論に到達。その条件で家を探すことにした。
そして千里は貴司に言った。
「貴司さあ。今の会社辞めちゃわない?」
「え!?」
「給料安くてもいいから、バスケットできる所探しなよ(今の所も信じがたいほど安いけど)。美映さんじゃないけど、私もバスケしてる貴司が好きだよ。経済的な問題は気にしないで。私が貴司を養ってあげるから」
貴司はしばらく考えていた。
「実はこないだからバスケがやりたくて、やりたくて、やりたくてたまらない気分になってた。でも今仕事が忙しすぎるし、コロナのせいで練習場所も無くて悶々としていたんだよ」
「貴司って取り敢えず元日本代表だしさ、探せば選手として入れてくれる所あると思うよ。Bリーグの下位のチームか、あるいはどこかの社会人チーム上位あたり」
「でも入れてくれるところが、この近くじゃなかったら?」
「その時は単身赴任で」
「うっ」
「もちろん遠くにいても浮気しようとしたら確実に潰すからね」
「もう諦めたよ。千里の目を盗んで浮気するのは不可能だ」
「ふふふ」
「千里の目が無くなっていた2017年の後半は浮気し放題だったけど、結果的に美映とのトラブルに至るし」
「自業自得」
「反省してる」
「まあでもそのおかげで緩菜が生まれた訳だけどね」
「それって結局、千里と信次君の出会いで、由美も緩菜も生まれたということになるのかな?」
と桃香が言う。
「幸祐もだよ。運命って本当に面白いね」
千里・桃香・貴司の3人が「結婚」して4人の子供と一緒に共同生活をするという話は、最初に千里が青葉に連絡した。青葉は大笑いして
「いいと思うよー。披露宴の司会させてねー」
と言っていた。
青葉は千里と信次の結婚式の時も披露宴の司会を務めた。
次に電話を替わってもらって桃香が自分の母・朋子に説明したが、朋子は
「意味が分からないんだけど」
と言った。
「法的には千里と細川君が結婚するんだよ。でも私も一緒に共同生活して4人の子供を3人のおとなで育てる」
「あんた新婚の家庭に同居していいわけ?」
「私も千里と夫婦だから」
「あんたは細川さんと結婚するんじゃなくて、千里ちゃんと結婚するの?」
「私が男と結婚する訳無い」
「えっと、じゃ千里ちゃんは細川さんの奥さんと、あんたの奥さんを兼ねるということになるのかな?」
「そうそう。一妻多夫の変形だよ」
「あ、なんか少し意味が分かってきた。それであんたは性転換して男になるんだっけ?」
「私は性転換する趣味は無い」
「そのあたりが実は私もよく分かってないのよね」
と朋子は結局事態がつかめてないようで、隣で青葉が「私が説明するよ」と言っていた。
しかし朋子も3人の計画に反対はしないと言ってくれた。
次に千里は貴司のお母さん・保志絵さんに連絡した。本来は貴司が連絡すべき所なのだが、貴司はどう説明したらいいか分からない、などと言っているので、千里が話すことにしたのである。
「え?貴司、美映さんと離婚したの?」
「昨日離婚しました。即結婚してもいいのですが、離婚即結婚は節操が無さすぎるのではないかということで、半年後くらい、今考えているのは貴司さんの誕生日の、2021年6月25日に婚姻届を出そうかと」
「じゃ、千里ちゃん、貴司のお嫁さんになってくれるの?」
「はい。本来は2012年に結婚しようと言ってあの時、婚姻届の証人欄まで、お父さんに署名して頂いたのに、紆余曲折で8年遅れになってしまいました」
「あんた苦労させたね」
「いえ。私もその間に別の男性と結婚したし」
「貴司と結婚してくれるなら大歓迎よ!」
と保志絵さんは言った。
「ただ、済みません。あれこれ紆余曲折の後遺症で、実は私の長年の恋人とも同居して3人同棲状態になる予定なんです」
「え〜〜!?他の男の人も同居するの?」
「いえ、女性です。2011年来の私の同居人なんですよ」
「あ、桃香ちゃんか!」
「はい、そうです」
「あの子、千里ちゃんと恋人だったんだ?」
「私、貴司さんとも高校時代結婚式を挙げたけど、実は桃香とも私が貴司さんに2012年に振られた後、結婚式を挙げていたんですよね。ですから、私って、川島さんまで入れると×3(ばつさん)なんですよ」
「それなら貴司も、千里ちゃんと阿倍子さんと美映さんとで同じ×3だわ」
「ええ。ですからお母さんの前でこんなこと言ったら怒られるでしょうけど、割れ鍋に綴じ蓋で」
すると保志絵さんが沈黙したので怒らせたかなと思ったのだが、やがて言った。
「それって性的な意味でもそうだよね? 貴司って、あの子、EDでしょ?」
「実は貴司さんは私とだけセックスできるんです」
「え〜〜!?」
「昨夜、念のためちゃんとできることを確認しましたよ」
「ほんと!?」
その間、桃香は季里子の家に“帰宅”していたのである。
「たぶん精神的なものでしょうね。本人の弁によれば貴司さんがセックスできたのは、私と緋那さんだけらしいです」
「え?じゃ、あの子、阿倍子さんや美映さんとは?」
「どちらとも、結婚してたのにその間1度もセックスできなかったらしいです。自業自得だと思いますけど」
「ちょっと待って。京平は体外受精と聞いたけど、緩菜は?」
「どうやってできたのか本人たちも分からないそうです」
「ね、緩菜って本当に貴司の子供なの?」
「お母さん。こんなこと多分信じないですよね?」
「うん?」
「実は京平も緩菜も私が産んだんですよ」
保志絵さんはしばらく考えていた。
「いや、多分そうだと思っていたよ。それを信じる」
「ありがとうございます」
保志絵は桃香の同居の件については目を瞑ると言い、近い内に千里と会いたいと言っていた。また貴司の父には自分から伝えると言ってくれた。
その後、貴司の2人の妹、理歌・美姫に各々、やはり千里が連絡したが、貴司と千里の結婚については2人とも大歓迎と言い、桃香との同居についても、「あ、そのくらい良いですよ。兄貴も散々浮気したんだから」と言っていた。