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■女たちの結婚事情(7)

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この203番の部屋に千里は更に楽器用の棚を置き、龍笛・フルート・木管フルート・篠笛・明笛・クラリネット・ウィンドシンセ・ナイ・ヴァイオリン・アコギなどのほか数個のキーボードも置く。キーボードは25鍵の小さなものから88鍵のフルサイズのものまで6個もある。25鍵は旅先でのMIDI入力用だ。シフトキーを使うことで実際には88鍵と同様の広い範囲のデータが入力可能である。
 
「こんな楽器、今までどこにあったんだっけ?」
「マンションの押し入れに入れてたよ」
「そうだったんだ?」
「以前置いていた所から、あのマンションに引っ越した時持って来てたんだけど、出す暇もなくまた引っ越したし」
 
「ああ。私も箱を開けないまま、また移動したものがある」
 
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貴司がヴァイオリンを撫でている。
 
「このヴァイオリンもやっと落ち着き場所が決まったなあ」
などと言っている。
 
「それ私と貴司の間をこれまで何往復したんだろうね?」
と千里も微笑む。
 
「それって君たちの愛の交換の軌跡?」
と桃香が訊くが
 
「往復した回数≒私が貴司に振られた回数だと思う」
と千里。
 
「いや、申し訳無い」
と貴司は頭を掻いていた。
 
「私と貴司の関係が変化する度に移動していたから。まあそれ以外の理由で移動したことも何度かあるにはあったけどね」
 
「君たちの関係もほんとによく分からん」
 
貴司がそのヴァイオリンを弾こうとしたが音が出なかった。千里が持って弾くと美しい音が奏でられた。
 
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「理歌の結婚式でも思ったけど、千里、随分うまくなったね」
と貴司。
「うん、以前よりうまくなってる気がする」
と桃香も言う。
 
「青葉と一緒にだいぶ練習したからね。まあヴァイオリンのお稽古している小学生程度の音だよ」
と言って千里は笑っていた。
 

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結婚式はオリンピックの後の予定なのだが、千里と貴司の婚姻届けは2021年1月17日の朝9:50に、さいたま市役所に提出した。
 
2人で一緒に届けに行った。準備しておいたものは、婚姻届け、各々の戸籍謄本、運転免許証(本人確認書類)、印鑑である。婚姻届けの証人欄は、千里の父と貴司の父が署名した。
 
これで2人はやっと法的な夫婦になった。高校2年の2007年1月13日に内輪の結婚式を挙げて以来、15年越しの婚姻届けであった。
 
届けを出した後は、自宅に戻り、記念写真を撮った。千里と貴司が並んだ所を桃香が撮り、千里と桃香が並んだ所、および千里を中央に、右に桃香・左に貴司と並んだ所を、いづれも天野貴子さんに撮ってもらった。カメラは桃香のLumixを使用した。
 
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その後、天野さんは「遠慮する」と言って帰ったので、3人で“ウェディングケーキ”を切って、子供たちも一緒に食べた。
 

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この日時は次のように選定した。
 
この月の朔が1月13日14:00、望が1月29日4:16で、その間の太陽・月両方が出ている時間帯でボイドを避けた場合、下記の時間帯が候補となった。(太陽・月の出没時刻は浦和の経度緯度で計算している−新こよみ便利帳の計算式使用。ボイド時刻はStargazerの数値)
 
13(水)14:00-16:21
14(木)7:46-16:50
15(金)無し
16(土)9:06-16:52
17(日)9:37-16:53
18(月)10:06-12:44,16:07-16:54
19(火)10:32-16:55
20(水)10:57-16:56
21(木)11:23-16:57
22(金)11:51-16:58
23(土)16:42-16:59
24(日)12:57-16:16
25(月)13:39-17:01
26(火)14:26-17:02
27(水)15:22-17:03
28(木)16:23-17:04
 
ところで千里の出生の太陽は魚11.5 水星11.98 貴司の出生の月が魚11.5で、千里の太陽(夫を表す)と貴司の月(妻を表す)が合(コンジャンクション)である。経過の月がこのポイントに来るのは1月17日4:42で、これに近い日時として千里は1/17 朝一番という時刻を選定した。
 
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この日の六曜は仏滅だが、千里は六曜は根拠の無い迷信と考えている。それより十二直が「たつ(建)」で最大吉なのを重視した。前日16日夕方を選ぶ手もあるが、16日は六曜は先負だが、十二直が「とず(閉)」で最悪である。建設の起工式や棟上式も十二直を重視する。
 

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なお阿倍子さんとの慰謝料交渉だが、双方の弁護士も交えて協議した結果、貴司は阿倍子さんに追加の慰謝料を4000万円、また未払い分の養育費200万円を払うことを決め、今後阿倍子さん側も追加の金品請求はしないことを約束してこれらの合意事項を公正証書にした。
 
それで1月末、千里が貴司に4200万円を貸して貴司が阿倍子にその金額を支払った。むろん千里は貴司に借用証書を書かせた。
 
結果的に今回の一連の出来事で千里が出したお金は、まず貴司を美映から「買い取った」5000万円、家を買った7000万円+4000万円、バスケット練習部屋の改造費300万円、ガレージ建設費1000万円、阿倍子さんに払った4200万円で2億1500万円にものぼる(その後更にプール建設のために5000万円使う−但し5000万円の臨時収入もあった)。
 
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「貴司。万一他の女と浮気して私と離婚したいなんて言ったら、この借用証書(4200万円)を貴司に突きつけた上で慰謝料3億円請求するからね」
と千里は貴司に警告した。
 
「払えないよ」
と貴司は情けない顔で言う。
 
「だったら浮気しないことね」
と千里。
 
「まあこれで貴司君はもう千里の奴隷のようなものだな」
と桃香は言っていた。
 
「そもそも私美映さんから貴司を買い取ったんだし」
「確かにそうだった!」
 
「2012年にいったん婚姻届まで書いていたのに婚約破棄された件でも私は慰謝料請求したい気分だったんたけどね」
「あれもあらためて申し訳無い」
「その件は結果的にそれで千里が私と結婚してくれたんだから、こちらとしては構わない」
「まあ桃香の浮気ですぐ離婚したけどね」
「申し訳無い!」
「でもあの時は正直、桃香が居なかったら私自殺してたかも知れないよ」
 
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「まあ物事はなるようになるものだ」
 
「それでなくても性転換手術でホルモンバランスとか無茶苦茶になって精神的に不安定になってたしさ」
と千里が言うと
 
「なあ千里、2012年に性転換手術したという大嘘はいいかげんやめないか」
と桃香が言う。
「うん。千里は2005年か2006年に性転換したはず」
と貴司。
 
「こないだは2007年5月に女の子になったと言ってたけど、それでも納得がいかない。どう考えても千里の性転換は2006年夏以前だと思う」
と貴司は更に言う。
 
「まあ私の性転換手術の証明書の日付は2006年7月18日になってるんだけどね。病院の領収書も2006年7月25日」
「やはりその時期か」
 
「私は千里の性転換手術に同行して、その時青葉にお土産を買ったんだけど、そのレシートの日付が2006年7月になっていたんだよ」
と桃香が言う。
 
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「不思議だよね。私や桃香のパスポートに押されたタイ入出国のスタンプは間違いなく2012年、アテンダントの領収書も2012年4月なのに」
と言って千里は笑っている。
 
「それに私2011年に精子の採取をして、その精子で早月が生まれた訳で」
と千里が言うと
「それ本当に千里の精子なんだっけ?例えば貴司君の精子で誤魔化したとか」
と桃香が疑問を呈す。
 
「桃香の血液型はRh-B型・貴司の血液型もRh-B型。桃香と貴司で子供を作れば子供は必ずRh-になる。ところが早月の血液型はRh+B型だからね。私はRh+AB型」
 
「うーん・・・」
「親の血液型と子供の血液型を考えると、この4人の親が誰かというのは実はかなり分かるようになっている」
と千里は言う。これは美鳳さんからも言われた話だ。
 
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「誰が何型だったっけ?」
と桃香は悩んでいる。
 
「まあ、こないだもちょっと紙に書いた通り、早月の遺伝子上の父親は間違いなく私だよ。自分が父親になったということ自体に私はかなり落ち込んだんだけどね、当時」
と千里は言った。
 

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2021年1月17日の朝一番、区役所に季里子と桃香が赴き、必要書類を提出または提示して、パートナーシップ宣言をした。この制度は千葉市では2019年1月29日に始まった。つまり前回2人が結婚した時はまだこの制度は無かった。
 
必要な書類は、パーパートナーシップ宣誓書、運転免許証(住所確認+本人確認)、戸籍謄本(独身であることを確認するため)である。
 
宣誓書は左側に桃香、右側に季里子が名前を書いた。
 
この日に届けたのは、桃香が「思い立ったが吉日」と言ったからである。一週間前に電話してこの日に提出を予約しておいた(本当は頭の中が混乱しないように千里と貴司の婚姻届けと合わせたのである)。
 
「今日仏滅だけど」
「私は唯物論者だ。そんなものは科学的根拠が無い」
「桃香らしいね。じゃ17日に届けよう」
 
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と言ってふたりは市役所に出かけたのである。同時に桃香の住所を浦和から千葉市の季里子宅に移す転入届も提出している。季里子は夏樹と結婚していたので親とは別の住民票になっていたのだが、その住民票に桃香と早月が同居人として掲載されることになった。この住民票には、来紗・伊鈴も記載されているので、まさにこの2人のパパになった感じである。
 

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