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■女たちの親子関係(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-08-17/2015-12-25改/2020-04-08改
 
2020年の春は慌ただしく始まった。
 
この年の2月。ローズ+リリーの政子が自宅の敷地内に離れを建設し始めた。
 
「そこで大林さんと暮らすの?」
とその直後にクロスロードのメンバーに訊かれた政子は「えへへ」などと笑っていたので、その時期は本人も当時交際中であった俳優の大林亮平と結婚して、そこで暮らすつもりなのだろうと、みんなが思っていた。
 
ところがである。
 
「別れた〜〜〜!?」
「なんで?」
と友人達が驚きの声をあげたのに対して
 
「うーん。別に男と別れるのに理由は無いよ」
と政子は言った。
 
「政子にしては今回長続きしてるなとは思っていたんだけどね」
と相棒の冬子は言う。
 
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政子と大林亮平の交際は、大林が出演するドラマの主題歌をローズ+リリーが歌ったのをきっかけに始まったのだが、番組の撮影終了とともに交際も終了してしまったようであった。
 
「妊娠してるんでしょ? 赤ちゃんどうすんの?」
「産むよ〜。予定日は10月。来年の2月までライブは休業」
「ああ。また白髪が増える人たちがいるな」
「離れは〜?」
「建てるよ。恋人連れ込むのに便利」
「まだ彼氏を作るつもりなのか!?」
「だって妊娠中は避妊の必要無いし」
「それ男の論理だ!」
 

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(2020年)1月18日(土)、千里は思わぬ人から連絡を受ける。東京に出て来ているというので会いに行く。
 
阿倍子は京平を伴ってショッピングセンター内の待ち合わせ場所にやってきた。
 
「ちさとおばちゃん、こんにちは〜」
「こんにちは〜。元気そうだね」
と言って、千里はいつものように京平の頭を撫で撫でする。
 
「うん。ぼくげんきだよ」
と京平も答える。
 

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京平をボールハウスで遊ばせておいて、ふたりで近くの喫茶コーナーに入る。ここからボールハウスが見えるので親としては安心である。
 
「どうかしたの? 何か深刻な悩みっぽい」
「実は京平のことなんだけど」
と言って阿倍子は話を始めた。
 
「私、実は再婚することにしたのよ」
「おめでとう!!」
「向こうも×1(ばついち)なんだけどね」
「まあ、いいんじゃない? 私なんて×2(ばつに)だ」
 

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「それでね。私が結婚する相手だけど、子供が3人居るんだよ」
「へー。子供を奥さんが引き取ったんじゃないんだ?」
「色々事情があったみたい。それでその子たちは私になついてくれた」
「それは良かった、良かった」
 
「ところが京平と合わないみたいなんだよ」
「うーん・・・・」
 
「何度か京平をその子たちと一緒に遊ばせたんだけど、必ず最後は喧嘩で終わる」
「困ったね」
「京平も我が強いから」
「京平君、きちんとしたのが好きだから、子供特有の悪戯みたいなのが我慢できないんだよ」
「うん。そのあたりもあるみたい。向こうの一番上の子とかなりやりあってるんだよね」
「向こうは何歳?」
「5歳・3歳・2歳」
「その5歳と《お兄ちゃん争い》しちゃうのかな。あっと、子供は男・女・男だっけ?」
「千里さんって、そういうの良く分かるね!」
と阿倍子は感心したように言う。
 
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「それでいっそ、京平を貴司に託そうかとも思ったんだよ」
「なるほど」
 
「貴司と京平は会う度に仲良くしてるし。ちょっと保志絵さん(貴司の母)に打診してみたら、京平が貴司の所に来るのは大歓迎というんだよね」
 
「まあ、保志絵さんとしては、京平が阿倍子さんの元に居るのよりは会いに来やすくなるよね」
 
「うん。それでそれ考えてみていたんだけど、私、京平を美映さんには託したくないと思ってさ」
「ああ。その気持ちは分かる」
 
「貴司を横取りされたのに、その相手に京平まで渡したくないよ」
「それやると完璧な敗北だもんね」
「そうなのよ! 自分が物凄く落ち込みそうでさ」
「うん。落ち込むと思う」
 
「それで思ってたんだけど、千里さんに託せないかなと思って。京平も千里さんには小さい頃からなついていたし」
 
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千里はそういうことかと理解した。1分ほど考えた。阿倍子はじっと待っていた。
 
「私は構わないよ。うちは3歳と1歳で女の子だけだから、京平君としては《妹たちのお兄ちゃん》になれて楽しいかも」
 

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それで千里は阿倍子と別れた後、新幹線で高岡に移動し昨年末の(新人アナウンサーになる青葉の家がテレビに映るという話になって桃香・千里を高岡に呼んで実施した)“大掃除”以来実家に居座っている桃香と会って、京平の引取について相談した。
 
桃香が
「で、何? 大事な相談があるって。ティラノザウルスでも飼育したいとか?」
と言う。
 
「ああ。ティラノ並みに破壊力あるかも」
「うそ!?」
 
千里は桃香に、阿倍子の再婚と子供の件を話した。
 
「話は分かった。京平君の名前は聞いていた。でも私は京平君と直接会ったことが無いから、彼と仲良く出来るかどうかを試してみてから考えさせてくれ」
と桃香は言った。
 

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そこで、翌日1月19日(日)、阿倍子に京平を連れて金沢に来てもらい、桃香とデートさせた。結果は良好で桃香は京平と仲良くなった。
 
金沢でのデートの後、阿倍子と京平を連れて高岡に戻り、早月・由美に会わせたが、早月たちはすぐ京平と仲良くなった。
 
そこで千里たちは阿倍子の再婚にあわせて京平を引き取ることにしたのである。
 

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「しかし、京平君を引き取るとしたら、経堂の1Kのアパートでは無理だよな」
と翌日(1.20)、阿倍子たちが神戸に戻った後、桃香は千里に言った。
 
「9月までもよくあの狭い所に4人も住んでいたなという感じよね」
と千里も言う。
 
(千里・桃香・早月・由美の4人が経堂のアパートで暮らしたのは2019.1.22から2019.9.12までの期間で累計約6ヶ月間である。↓参照)
 
01.22-4.07 4人で暮らす
04.08 千里は岡山出張
04.09-18 千里が編曲・作曲作業で由美とホテルに籠もり、桃香と早月は季里子宅
04.19-30 千里は由美を季里子に預けて全国走り回る
05.01-6.16 4人で暮らす(但し坂東33ヶ所している間は千里は留守→その間は季里子の所に避難)
06.17-6.26 千里と由美が西国33ヶ所を巡る(またもや季里子の所に)
06.27-9.12 4人で暮らす
09.13-15 玲羅の結婚式で北海道へ
09.16-10.20 千里1がお遍路。その間桃香は早月・由美と一緒に高岡に滞在
10.21-10.29 高岡に4人で滞在
10.30-12.19 水害の影響で千里は早月・由美と一緒に康子の家で過ごす。桃香は経堂で季里子の両親と同居
12.20-01.04 大掃除のために高岡に呼ばれそのまま居座る
01.05 千里1+3が東京に戻る。
 
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それで桃香と千里は引越をすることにした。
 
経堂のアパートは桃香が大学院を卒業して都内の企業に就職した時に借りたものである。千里の勤め先も都内で、その時点ではふたりは別々のアパートに住んでいた(桃香:経堂、千里:用賀)。千里のアパートは信次と結婚した時に引き払ったのだが、信次が亡くなった後、千里が復職した時、この桃香のアパートに転がり込んだ。それで由美が生まれた後は4人でここで暮らしていたのである。
 
「しかし都内は家賃が高いよ。少し離れた所にしようよ」
と桃香。
「そうだねぇ。埼玉か千葉か神奈川か」
と千里も同意する。
 
桃香と千里で最も価値観が一致するのが「安いのが好き!」ということである。
 
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その日の午後、早月・由美を朋子に託して高岡に置いたまま千里と桃香の2人だけで新幹線で東京に戻る。2人で手分けして、千葉市、さいたま市、横浜市、川崎市、の住宅情報雑誌を買ってきて、一旦経堂のアパートで落ち合い、眺めてみた。
 
「お、浦和に2DKで4万8千円のアパートがあるぞ。駅から10分」
と桃香が言ったが
「そこ、来年火事で焼けるからダメ」
と千里が言う。
 
「うーん。武蔵小杉駅から歩いて9分。2DKで3万8千円」
「そこは年末にガス爆発に巻き込まれる」
 
「都賀駅から歩いて12分。2DK+Sで2万8千円。これかなりお買い得っぽい」
「そこは来年来る地震の後、雨漏りが酷くて居住困難になる」
 
「戸塚駅から歩いて14分、3DKで2万円。超格安!」
「そこはシロアリの被害が凄まじくて2年後に自然崩壊する」
 
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「・・・・」
「どうしたの?」
「千里、なぜそういう先のことが分かる?」
「さあ。私なんかポンポン予言してたね」
 
「自分でもなぜか分からないのか!?」
「うん」
 
「来年地震来るの?」
「うーん」
と言って千里は斜め上の方を見る。
 
「その地震は死者が出るほどのものではないって」
「今誰に聞いた?」
「えへへ」
 

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千里は、さいたま市の情報誌をめくっていて1つの物件に目を留める。
 
「ここはどうだろう?」
「うん?」
「浦和駅から歩いて5分。3DKで家賃10万円」
「高い!」
「この値段なのにオートロックで、追加料金は居るけど居住者用の駐車場がある。ふつうこのクラスは20万円するんだけど、ここは築年数が古いから安いんだよ」
「10万円で安いのか〜?」
「いや、男の子と女の子を育てるんなら、同じ部屋に入れられないから3DKでないと無理」
「う・・・・。面倒くさいなあ。京平君、性転換しちゃったらダメか?」
「だめ」
「どっちみち1部屋に子供3人は厳しいよ」
「確かになあ。私と千里の寝室も必要だし」
「子供がそばに寝てる所でHできないよね」
 
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「確かにそれはある。しかし家賃10万円なんて払えないぞ」
「大丈夫だよ。そのくらい頑張って稼ぐよ。私、巫女に戻ったし」
「巫女って、そんなに儲かるのか?」
「巫女ではもうからないけど、巫女の副業だね」
「ふむふむ」
 

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