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■女たちの親子関係(7)

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「阿倍子さん、まさか自然妊娠?」
「そうなんですよ。自分でもびっくりした」
「自然妊娠できたの!?」
 
「お医者さんに以前にやった不妊治療の話とかもしたんだけど、恐らくは一度妊娠したことで、それまでちゃんと機能していなかった生殖系統が働き始めたのではないかと。ただ次の妊娠があるかどうかは何とも言えないと」
 
「わあ。でもだったら、京平が生まれたおかげで、阿倍子さん、次の子を妊娠できたんだ!」
「ええ」
 
すると京平が
「ママ、あかちゃんができるの?」
と訊く。
 
「うん。京平の妹か弟ができるよ。それも京平のお陰だよ」
と阿倍子は笑顔で答える。
 
「わあ」
と京平は少し感動している。
 
「でかしたぞ、京平」
と半分も事情を理解していない桃香も京平を褒めると
「えへへ」
と言って本人は照れているが、やや悩む顔をする。
 
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「それ、ぼくのいもうとかおとうと? けんたのいもうとかおとうとじゃなくて?」
「賢太の妹か弟でもあり、京平の妹か弟でもあるね」
「だったら、さつきやゆみのいもうとかおとうとにもなるの?」
「早月ちゃんや由美ちゃんとは関係無いかな」
 
「なんかむずかしくてわからない!」
と京平は音を上げたが、大人でも1度聞いただけでは理解できない話だよなと千里は思った。
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そんなことを考えていたら、その日の夕方、高岡から朋子が突然出て来た。朋子も新幹線を避けて実は千里のドライバー・矢鳴さんの運転するアテンザで出てきたのである。
 
「何か用事でした?」
「ううん。孫たちの顔が見たくなっただけ」
などと言って、取り敢えず寄って来た早月の頭を撫でている姿は、本当に普通のおばあちゃんという感じである。
 
「桃香が高校生、そして大学1−2年の頃は、この子には孫はできないんだろうな、って思ってたから、こうやって3人も孫の顔を見れるとなんかもう信じられない気分だね」
などと朋子が言うので
 
「私もこないだ同じようなこと考えました!」
と千里は言った。
 
おばあちゃんサービスで京平は幼稚園の制服を着てみせるので、早月も並ばせ、由美は朋子自身が抱いて、桃香が記念撮影をした。こういう時、カメラを扱うのは千里ではなく、桃香でなければならないのはこの家のお約束である。
 
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「でもこの子たちの親子関係が私は何だかよく分からないよ」
と朋子は言う。
 
「法的な親子関係、遺伝子的な親子関係に分けて考える必要はありますけど、結論からいえば、全員、桃香さんか私かどちらかの子供です」
と千里は言った。
 
「その辺がさっぱり分からない」
と朋子。
「いや、実は私もよく分からん」
と桃香。
 
「由美が生まれた時に、私たち一度言いましたよね。『育てる人が親だ』って。3人とも私たちが育てますから、私たちが親です」
と千里は明解に言う。
 
「京平と私の間にも親子関係があるんだっけ?」
と桃香が訊くと、千里は微笑んで
「桃香は京平のお父さん」
と千里。
 
「そうなんだよなぁ」
と桃香。
「何それ?」
と朋子。
「京平は桃香のことをお父さんと呼ぶからね」
と千里。
「うん。ぼくのお父さん」
と京平は嬉しそうに言う。
 
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「まあ、あんた小さい頃、おちんちん欲しいと言ってたからね」
と朋子は桃香に言う。
 
「ああ。おちんちんはあると結構便利なんだ」
と桃香は言った。
 
なお帰りは千里がオーリスで高岡まで送って行った。
 

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9月下旬。
 
貴司の所属していたチームが突然その月限りで廃部になってしまった。その日突然業務部長が会議室に全員を集め、今日限りで解散というのを宣言したらしい。選手全員呆然としていたという。
 
貴司は2月にこちらの会社に移ってきてチームにも4月から正式に登録したものの、コロナの影響でチームは試合どころか練習もできない状態が続いていた。それで会社としては経費ばかりかかるので、廃部することになったという。
 
貴司としては前の大阪のチームが廃部になってこちらに移ってきたのに移籍後全くチーム活動できないまま、半年での廃部で、取り敢えず行き先が見当たらない。
 
「コロナの影響で、どこの会社も生き残りに必死で、スポーツ関係の予算を減らしているんだよ。そもそもどこのチームも活動できない状態が続いている。今は移籍とかも難しい」
 
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と貴司は電話口で言っていた。
 
「取り敢えずどうすんの?」
「今入っている会社の一般社員になることは可能らしい。僕は選手契約じゃなくて社員契約だから」
 
実業団の選手には、選手としてチームと契約しているプロ選手(登録I種)と、社員としてその会社に所属している社員選手(登録II種)が混じっている。貴司は大阪の会社に入って以来、社員選手としてやってきたし、今の会社にも社員として所属している。チーム解散でプロ選手は全員契約解除になるが、社員選手は社員としての籍が一応残る。
 
「じゃふつうの会社員になるんだ?」
「頑張ってみようかと思ってる。給料は今より少し安くなるけど」
「まあバスケ選手を60歳までは続けられないからね」
「うん。それは最初から考えていたことではある。だから、TOEICも毎年受けていたし、簿記2級とか、危険物取扱者とか、大型二種免許とか、情報処理技術者とか中小企業診断士とかの資格も取っているし」
「そのあたりは勉強嫌いな貴司にしては偉いと思ってた」
「ははは」
 
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11月4日(水)。
 
京平を幼稚園にやった後、桃香と千里が早月や由美と遊びながら、部屋の掃除とかをのんびりやっていたら、突然の訪問者があった。
 
緩菜(2歳2月)を連れた美映であった。
 
取り敢えずお茶を出して、先日友人からお裾分けにもらった山口のウイロウを出す。由美や緩菜には喉につまらせないよう薄くスライスして与えたが、2人とも食べてみて変な顔をしていた。早月は「このようかん、あまくない」などと言っている。
 
「ね、5000万円で買ってくれない?」
と美映は言った。
 
「5000万円って一体何ですか?」
「貴司」
「は!?」
 
「私、バスケット選手の貴司に憧れて結婚したんだよねぇ。でも貴司バスケ辞めちゃったじゃん。そしたら、私冷めちゃってさ」
と美映。
 
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「貴司さん本人を好きじゃなかったの?」
と千里は尋ねた。
 
「あくまでバスケしている貴司が好きだったんだよ」
「でも貴司さん、社員選手だったから、今までも営業したり、事務作業したり、してましたよね?」
「それはあくまでバスケの練習の合間にやってるイメージだったんだよね。この春以降もチーム練習はできないけど、千里さんが作ってくれた練習場で毎日4−5時間練習していたし」
 
「ああ、あれ知ってた?」
「貴司のチームの人たちみんな感謝してたよ」
「それはよかった」
 
実はコロナ問題でチーム練習ができない貴司たちのために、千里が1000万円出して、アクリル板で完全に区切られたプレハブの練習場を建てたのである。ひとりひとりの空間が仕切られていて空気の行き来がないので感染のおそれがない。換気扇で強制換気される。1人分のスペースは幅2m 長さ14m(ハーフコートサイズ)で、バスケットのゴールがある。アクリルなのでお互いが見えるから、連帯感が出る。ゴールはリモコンで回転して向きを自在に変えられるので、様々な角度からのシュート練習ができる。同様のものを千里は川崎のレッドインパルスの練習場そばにも建てている。こちらは半額チームが出してくれたので千里の負担は500万円で済んでいる。
 
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なお9月で貴司のチームの活動が終了し、この練習場も貴司の会社から撤去を求められたので、千里はその施設を深川アリーナに移設し(正確には《こうちゃん》とお友だちの《じゅうちゃん》の2人で「よいしょ」と持ち上げ、運んできてポンと置いた)、現在は40 minutesや江戸娘などのメンバーが使用している。建蔽率オーバーなのだが、コロナ対策の一時的なものとして、都は黙認してくれている。
 

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しかし千里が貴司のために何かしたと聞き。桃香が厳しい顔をしている。
 
「でも貴司この1ヶ月は、一度もバッシュ履いてない」
 
「今は新米社員だからそちらに集中しているんだと思う。きっと仕事に慣れたら趣味でバスケ再開するよ」
 
「趣味でバスケやってるおじさんには興味無いなあ。あくまで現役バリバリのバスケ選手が好きだったから」
 
「美映さんの愛情ってそんなものだったの?」
千里はちょっと怒って彼女に言った。
 
「まあそんなものかもね。だいたいあいつインポだしさ」
と美映は言う。
 
千里は思わず桃香と目を合わせた。
 
(“この”千里はこの事情を知らない)
 
「それって、いつから?」
と桃香が訊いた。
 
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「最初から。全然立たなかったよ。だから貴司とは実は一度もセックスしてないんだよ」
「ちょって待て」
「セックスせずに、なぜ子供ができる?」
 
「結合はできなかったけど、貴司のペニスを立たないまま私の割れ目ちゃんの中でコロコロしてたんだよ。そしたら緩菜ができちゃってさぁ。入れる前に付けるつもりだったから、コンちゃん付けてなかったんだよねぇ」
 
「ねえ、緩菜ちゃん、ほんとに貴司さんの子供なの?」
と桃香が訊いた。
 
「だと思うけどなあ」
「DNA鑑定した?」
 
「してない。別にいいじゃん。貴司は認知してくれたんだし」
 
DNA鑑定するとやばいよなあと千里は思った。実は緩菜は美映の子供ではなく千里の子供である。この時点で千里は父親は貴司だと思い込んでいるが、実は父親は貴司ではなく信次である。緩菜は“かっこうの子供”である。
 
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「だから相談なのよ」
と美映は言う。
 
「私、貴司と別れて大阪に帰るからさ。実際この半年の関東での生活も、凄いストレスだったのよ。食べ物は何だか味の辛いのばっかりだし、加入したバスケチームのチームメイトと世間話とかしてても、考え方とかから違って話が合わないしさ。私の感覚じゃ物は安く買えたことを自慢したい。でも東京の人は高い物を買ったのを自慢するんだよなあ」
 
確かに関東と関西の気質の違いはあるだろう。しかしこの人の場合、それ以前の問題があるような気もした。私この人ともお友だちになれそうな気がしていたけど見込み違いだったのかなあと千里は考えていた。
 
「それにコロナの騒動で私疲れちゃって」
「あれは国民全員疲れ果ててるよね」
 
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