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■△・葉月救済大作戦(8)

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2019年2月16-17日、アクアと葉月はアクアの新譜『白い霧の中で』のPV撮影のため、長野県までやってきた。この町は霧がよく発生することで有名である。撮影クルーは朝東京を出て。お昼頃に現地に着き、最初は共演する信濃町ガールズの三田雪代・南田容子(2人とも葉月と同じく高1)と一緒に霧が晴れているシーンの撮影をする。
 
そして日が落ちて霧が出始めた所で、霧の中の撮影をした。この日の撮影は21時までおこなって、ホテルに引き上げる。明日は早朝また撮影しますということで明日は午前4時ホテルのロビーに集合なので、葉月はすぐ寝なきゃと思い、お風呂に向かった。ホテルの部屋は、アクアはバス付きシングルで、葉月は三田雪代・南田容子と一緒に3人で4人用和室である。お風呂は大浴場に行くのだが、雪代は
 
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「疲れたから取り敢えず寝る。お風呂は明日の朝入る」
と言って眠ってしまった。
 
それで葉月は容子と2人で着替えとタオルを持ち、ホテルの浴衣を着たまま地下の大浴場に向かった。
 
殿様・姫様と書かれた暖簾がある所まで来る。一瞬立ち止まるが、容子に
「何悩んでるの?男湯に突撃する?」
と言われ
「さすがに無茶だよねぇ」
と言って、一緒に姫様と染め抜かれた方の暖簾をくぐる。入口の所に居た40代の女性従業員がバスタオルを渡してくれた。
 
一礼して受けとり、中に入る。
 
これで女湯5回目か、と思う。
 

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服を脱ぎかけた時
「あれ?セイちゃん?」
という声が掛かる。驚いてそちらを見ると従姉の紅良々(くらら)だ。
 
「あ、クラちゃん」
「やはりセイちゃんだよね。なんであんた女湯に居るの?」
と彼女は言う。
 
ちょっとヤバい所でヤバい人に会ったなと西湖は思った。紅良々の言葉を聞きつけて入口の所にいたおばちゃんがこちらに来る。
 
「お客さん、どうかしましたか?」
「いや、この子、男の子なのになんで女湯に入ってきたんだろうと思って」
 
と紅良々。紅良々は自分がヤバい発言をしていることを認識していない。
 
「お客さん、男なんですか?」
とおばちゃんは西湖に厳しい顔で訊く。男なら痴漢として警察に突き出すぞ、という感じだ。
 
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西湖は何とかなるような気はしたものの、どうすればいいのか瞬間的には思いつかなくて
 
「えーっと・・・」
と言った。
 

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その時、隣にいた容子が言った。
「脱いでみれば分かる」
 
それで西湖も
「そうだよね」
と言って、浴衣を脱いだ。キャミソールも脱ぐと、大きな胸を保持するブラジャーと、何も盛り上がりの無いショーツのラインが露わになる。紅良々が「えー!?」という顔をしている。
 
西湖は後ろ手でブラのホックを外すとそれを取り外す。Bカップのバストが露わになる。乳輪も発達している。ショーツを脱ぐと、何もぶらさがってないお股が露わになる。毛の向こうに縦の線も見える。
 
「女の子だね!」
とおばちゃんが言う。
 
「女湯に入っていいでしょうか?」
「もちろん!あんたを男湯に入れたら、うちのホテルが摘発されちゃう」
それでおばちゃんは
「疑ってごめんねー」
と言って入口の所のカウンターに戻った。
 
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紅良々が
「変なこと言っちゃってごめんね。でもセイちゃん、女の子になっちゃったの?」
と小さな声で言う。
 
「西湖ちゃん、去年の春に女子高に進学したんですよ」
と容子が言った。
 
「そうだったんだ!」
 
「進学前の3ヶ月くらいお仕事休んで、あの時、性転換手術を受けたんだよね?」
と最後の方は西湖に確認するように言うが、西湖は何も答えない。えーっと、うちの事務所の中では、ひょっとしてそういう話になっているんだろうか、などと考えている。
 
「すごーい。でもセイちゃんは女の子にしてあげたいと思うくらい、女の子らしかったよ。舞台でもいつも女の子役だったし」
 
と紅良々は感心するように言った。黒部座では紅良々も西湖もしばしば子役として舞台に立っていたが、どらちも女の子役としてであり、男の子役は別の従兄の渚君がすることが多かった。実は紅良々でさえ男役をしたことがあるのに、西湖は男役の経験が無い!
 
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「でもだったら、一緒に入って中でおしゃべりしようよ」
と紅良々は言い、紅良々も容子もさっと服を脱いで、3人で一緒に浴室へ移動した。
 

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2019年2月27日(水)-3月1日(金).
 
西湖の高校では2学期の期末テストが行われた。実は1学期の時は西湖は多くの科目で赤点を取り、追試を受けてやっと通してもらったのだが、結果的にかなり仕事を休むはめになった。今の時期は『少年探偵団』の撮影も大詰めに近づき、スケジュールが立て込んでいるので、追試にならないよう頑張らなきゃと思って西湖は車で移動中なども教科書を読み、深夜に帰宅した後も問題集などをやったりして頑張って勉強していた。
 
「ねえ、西湖ちゃん、どのくらいの成績取れると思う?」
「平均点で10点くらいじゃない?」
 
と西湖のアパートに頻繁に訪れるおキツネさんたちは話していた。
 
「だいたい周期律表も覚えてないし。水兵リード祖父の船とか言ってたよ」
「どういう原子記号なんだ?」
 
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「不規則動詞の変化がほとんど分かってない。I goed to school. なんて言ってた」
「だいたい三人称単数のsをすぐ忘れる」
 
「連立方程式のタスキ掛け法を全く理解していない」
「連立どころか、こないだ 5x = 3x + 2 を解けなかった。 x=2 と答えてたよ」
「変格活用どころか、下二段活用も分かってない」
 
「やばくない?」
「この高校は留年させることはないけど、3−4回追試を受けないといけないかも」
「でも西湖ちゃん、仕事も忙しいんでしょう」
「だったら私たちで何とかしてあげようよ」
 

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それで2月27日の朝、彼女たちはここの主である京平を呼んできて、彼の力で西湖を眠ったままにして、代わりにわりと頭のいいタキチという名前の男の子!のおキツネさんが、西湖の振りをして、西湖の女子制服を着て学校に登校し、代わりに試験を受けた。タキチは女の子下着に、女の子の制服を着て嬉しそうにしていた。
 
「タキちゃん、いっそ女の子に変えてもらう?」
「京平さんのお母さんなら男の子を女の子に変えたりできるよ」
「西湖ちゃんもそれで女の子にしてもらったからね」
「女の子になるのは嫌だけど、ボク時々この服着たい」
「まあいいんじゃない?でも男だとバレないようにしろよ」
 
と女の子キツネたちから言われる。
 
タキチは、あまり良い点数を取ると不正を疑われると考え、全科目、ギリギリで赤点を免れる点数になるように解答を書いた。
 
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西湖は27日は夕方近くになって起きて「ぎゃっ!期末試験なのに学校休んじゃった」と思い、取り敢えず無断欠席のお詫びを大月先生に電話して言ったのだが、大月先生は
 
「何言ってんの?天月さん、ちゃんと出て来てたじゃん。テストの内容も結構しっかりしてたよ。今日の試験は現国が32点、生物が21点、グラマーが35点、数Iが19点。この数Iはおまけで20点ということにしてあげるって森田先生言ってたよ」
などと言う。
 
(実態は追試を受けさせるのが面倒なのでこの程度はおまけする。この学校はそもそも100点満点の20点未満が赤点という、とてもゆるい学校である)
 
「ありがとうございます!」
「忙しいのによく勉強も頑張ってるね。明日のテストも頑張ってね」
「はい。頑張ります」
 
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それで電話を切ったものの、西湖は「あれ〜〜?」と思った。
 
「またいつもので、ボク学校に出て行って試験を受けたこと忘れちゃったのかな」
などと思い、取り敢えず買物に行ってきて夕飯に豚汁を作って食べると、また眠ってしまった。
 
次に西湖が起きたのは2月28日の夕方だった。
 
そういう訳で、2月27日から3月1日までの3日間、西湖は自分では全く記憶が無いのに学校で試験を受けたことになっていて、全科目ギリギリで赤点を免れ、追試は受けずに済んだのであった(但し数Iと化学Iはおまけで20点にしてもらった)。
 
ちなみにこの3日間はさすがに仕事は免除してもらっていたのだが、西湖が追試を受けなくて済んだと聞いたコスモスは、代役の手配に悩まなくて済むのでホッとするとともに西湖には
「あんたよく頑張ったね」
と褒めてあげた。
 
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京平は毎朝こちらに来て西湖に関する“操作”をしたが、
「全く世話が焼ける。でも西湖さん、とても気持ちのいいボクの巫女長さんだよ」
などと呟いた。
 

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2018年12月29日(土)、大田区総合体育館でWリーグ・オールスターが行われた。千里は東軍のメンバーとして出場したが、試合は97-87で西軍が勝った。一応千里はスリーポイント女王になり、ベスト5にも選出されたが、試合に負けたので、大きな不満が残った。
 
2019年1月10-13日、さいたまスーパーアリーナで全日本バスケットボール選手権が行われた。千里たちのレッドインパルスは準決勝でサンフラワーズに敗れ、ベスト4に留まった。この大会でも千里はスリーポイント女王とベスト5を獲得したものの、決勝戦にも進出できなかったことで大いに不満が残った。
 
Wリーグのレギュラーシーズンでレッドインパルスは6位という極めて不本意な成績で終わった。更にプレイオフでは2月16日に行われたセミクォーター・ファイナルで8位のフリューゲル・ローストに、まさかの敗戦。
 
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早々にトーナメントから消えてしまった。
 
今季はワールドカップにしても、Wリーグにしても千里にとっては極めて不本意なシーズンとなった。
 

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《きーちゃん》は3番に言った。
 
「今シーズンは実は2番(千里2)も調子が良くない。たぶん1番が絶不調になっているのが、2人にも影響しているのだと思う」
 
「やはり影響するんだ?」
 
「結局は同一人物だからね。だから今年これから1番が精神的に回復してくれば、2人とも調子が上がってくると思うよ」
 
「それなら1番には早く復活してもらいたいね」
 

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2019年3月11日、和実は仙台市内の病院で帝王切開により“奇跡の子”明香里を出産した。当日、千里3が病院に詰めていて、青葉と一緒に出産をサポートしたが、千里2も何かあった時のために病院内の別室で待機していた。
 
ひとつ間違えば母子共に死亡の可能性もあるという緊張の出産現場に千里2と3が詰めていたので、《きーちゃん》は出産後数時間したところで、その2人を休ませ(青葉も休む)、千里1に和実と赤ちゃんのメンテをさせた。
 
千里1は病室に入ってくると
「和実よく頑張ったね。私出産の時に付いててあげられなくてこめんね。今青葉も休んでいるし、この後は私が夜まで付いているね」
と言った。
 
和実は分娩室の中に千里も居た気がするけど、とは思ったものの、自分の記憶が混乱しているのかもと思った。
 
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それで和実は千里と“握手”した。
 
 
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