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■△・葉月救済大作戦(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2020-03-13
 
2018年7月22日(日)、桜野みちると森原准太は一緒に記者会見を開き、婚約したこと、みちるは2019年1月以降、しばらく休養することを発表した。
 
2人が各々の所属プロダクションの社長に婚約のことを話したのは金曜日である。コスモスは驚いたものの容認する姿勢だったが、紅川会長は激怒した。しかしコスモスが何とか紅川を説得し、紅川はふたりの結婚を許してやり、違約金も取らないことも告げた。それでこの日の記者会見となったのである。
 
(しかしこの件で経営者としての自信を喪失した紅川は所有する§§ホールディングの全株式をケイに買い取ってもらい2018年一杯で業界から引退することになる。紅川の“引退”は5年ほど続く)
 
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桜野みちるは年内一杯で活動をいったん停止する。それで現在出演しているテレビ番組からは順次降板することになった。その後任として、コスモスはその番組での役割に応じて、姫路スピカや花咲ロンド・白鳥リズムなどを充てていったのだが、みちるが品川ありさ・高崎ひろかと一緒に“信濃町シスターズ”として出演している『3×3大作戦』に関しては、門脇真悠を充てることにして、この機会に“彼”には大崎志乃舞という芸名を与えることにした。
 

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その交代後最初の撮影は9月初めに行われた。
 
「そういう訳で、信濃町シスターズの桜野みちるちゃんがお婿さんに行くことになってしばらく休養するので」
と(事実上の)司会の金墨円香が言うので
 
「お婿さんじゃなくて、お嫁さんです」
と高崎ひろかが訂正する。
 
「なんだお嫁さんになるの?じゃ女の子に性転換するの?」
「みちるちゃんは元々女の子ですー」
「そうだったか。済まん、済まん。で、後任は大崎志乃舞ちゃんである」
 
という金墨の紹介で拍手の効果音が鳴る。志乃舞が一礼した後カメラに向かって手を振る。
 
「ところで後で視聴者が騒いだら面倒なので、最初に確認しておきたいのだが」
と金墨は言う。
 
「なんでしょうか?」
と笑顔の志乃舞。
 
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「君の性別は?」
「男ですけど」
 
ここで「え〜〜!?」というスタジオ内の声(むろん台本)。
 
「男でもシスターズでいいの?」
と金墨が品川ありさに尋ねる。
 
「志乃舞ちゃんは女子中学生ですから、シスターズになる資格あります」
とありさ。
 
「あんた女子中学生なの?」
「そーでーす」
「男でも女子中学生なんだ?」
「ふつうに女子制服着て通学してますし、普通に女子トイレ・女子更衣室使ってますから、間違いなく女子中学生です」
 
(ちなみに彼は現在中学3年である。なお、志乃舞は下着を含めて女の子の服しか着ないし、声変わり防止のために女性ホルモンを飲んでいて、既に男性能力は消失し、胸も膨らみかけているが、本人はしばしば『ボクは男ですよ』と言い、性転換手術を受けるつもりもないと言っているので、便宜上“彼”という代名詞を使用する。もっとも彼の性別意識は今後揺れる可能性もある。姉からはさっさと去勢しちゃいなよと言われているらしいが、さすがに中学生の去勢をしてくれる病院は存在しない。青葉は睾丸が自然消滅したので性転換手術までしてもらえた)
 
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「うん。だったら問題無い。では子猫チームの一員として頑張ること」
と言って、金墨は最初のゲームの説明を始めた。
 
この番組では“香炉チーム”スリファーズの春奈も元男の子(性転換済・戸籍も女に変更済み)なので、大きな問題は無いだろう、とプロデューサーの名古尾も言っていた。
 
なお、大崎志乃舞は2016年夏のロックギャルコンテストで3位に入り、研修生になっている。この番組に出ている《三つ葉》の月嶋優羽は2016年春に§§ミュージックを退所してオーディションに参加し、事実上合格して三つ葉の結成に至ったので、優羽と志乃舞はすれ違いになっており、特にお互い面識は無かった。
 

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2018年9月22-30日、バスケット女子ワールドカップが、スペインのカナリア諸島テネリフェ島の2つの体育館を舞台に行われた。日本はグループCになり、スペインに敗れたもののベルギーとプエルトリコに勝った。この結果、スペイン、ベルギー、日本は2勝1敗で並んだが、得失点差で3位となった。
 
スペインチームは日本をよく研究していて、千里・玲央美・王子の中核3人に付くマーカーにかなりの特訓を積ませている感じだった。今回は情報戦に負けた。
 
決勝トーナメントでは“準々決勝進出決定戦”(準々々決勝)でD組2位の中国に敗れ、ベスト8にも進出できず、最終順位は9位という極めて不本意な成績となった。千里・玲央美・王子はスペイン戦の敗戦をひきずってしまい、3人ともリズムが狂ってしまって、その後のゲームでもなかなか調子が出なかった。
 
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結局千里は試合数が少なかったこともあり、スリーポイント女王を獲得できなかった(全体で3位)。花園亜希子も同様に調子が悪かった(同5位)。日本選手では、水原由姫がスティール1位になったくらいで、佐藤玲央美も高梁王子もあまり得点ができなかった。
 

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2018年10月15日(月).
 
今井葉月(天月西湖)はその日深夜1時過ぎまで撮影を続け、アクア・桜木ワルツと一緒にスタジオを出た。
 
「遅くまでお疲れ様。今夜はゆっくり寝てね」
「ワルツさんもこんなに遅くなって大丈夫ですか?」
「私は付き添いだし、撮影中は仮眠してたから大丈夫だよ」
 
それでワルツは Volvo V40 に2人を乗せ、まずアクアを赤羽のマンションまで送り、その後、10分だけ仮眠させてもらった後、葉月を用賀のアパートまで送ったが、その後、とても自分のアパート(板橋区)へは帰り着く自信が無かったので、用賀駅近くのTimesの駐車場に駐めると、そのまま車中泊した。
 

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ワルツに送ってもらった西湖は
「最近、連日深夜まで撮影が続くよなあ」
と思ったものの、取り敢えず寝ることにする。
 
お腹が空いているのでストックしているカップ麺を作ろうとお湯を沸かし、カップ麺の蓋を開けてお湯を注ぐ。そして3分タイマーを掛けて・・・
 
そのまま眠ってしまった!
 

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西湖が目を覚ました時、時計は6時だった。朝の光が射している。結構爽快に目が覚めたなと思い、トイレに行くと物凄い量のおしっこが出た。よほど疲れているんだろうなと思う。
 
完璧に伸びて冷めてしまっているカップ麺を朝御飯代わりに食べる。それから西湖は今日の学校で必要な教科書とノートを時間割を見ながら詰める。
「水曜日は・・・0時間目(**)がリーダー、その後、日本史、化学、OC1(**), 音楽、家庭科、数Iか・・・」
 
(**)この学校は芸能人の生徒が多く、出席授業数が足りなくなりがちなので0時間目に補習が行われており、芸能人の生徒は原則として0時間目から出席する。
 
(**)OC1 は Oral Communication 1 で、昔風に言えば「英会話1」。概して私立校では導入率が高く、西湖の学校ではイギリス人の女性講師が担当している。
 
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軽くシャワーをして汗を流すと、洗濯済みのパンティとブラジャー(**)を着け、ブラウスを着てリボンを結び、制服のスカートを穿いてブレザーを着て、学生鞄を持ちアパートを出た。
 
(**)西湖は忙しくてなかなか洗濯する時間が無いのだが、おキツネさんたちが西湖に代わって洗濯してくれているので、おかげで西湖はいつも洗濯済みの服を着ることができている。
 

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学校に着いて教室に入る。
 
「おはよう」
「おはよう」
とクラスメイトたちと挨拶を交わす。それで0時間目はリーダーと思い、リーダーの教科書を出す。ところが入って来たのは担任の大月先生だ。大月先生の担当は地理である。
 
「あれ?今日は時間割変わった?」
と隣に座っている優美に尋ねる。
 
「え?変わってないよ。木曜の0時間目は地理じゃん」
「木曜!?今日は水曜じゃないんだっけ?」
「木曜だけど。10月18日木曜日。あ、そういえば聖子ちゃん、昨日は休んでいたね」
「嘘!?今日は18日!?」
「そうだけど」
「え〜〜〜!?」
 
西湖があまり大きな声を出したので先生に叱られる。
 
「こらそこ静かにしなさい。そうそう、天月さん、昨日は休んでいたみたいだけど、欠席届が出ていなかったよ。急に仕事が入った時は仕方ないけど、今日中に出しておいてくださいね」
 
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「あ、はい」
 
西湖は血の気が引いた。もしかしてボクって16日の夜から18日の朝まで30時間くらい眠っちゃった?そしたら昨日17日の学校はいいとして、仕事をさぼっちゃった!?プロデューサーさんが怒っているんじゃないかな。それにボクが休んだらきっとアクアさんに負担を掛けている。
 

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それで西湖は0時間目が終わったらすぐ廊下に出て、階段の下から桜木ワルツに電話を掛けた。
 
「葉月です。すみません。私、昨日の仕事、サボってしまって。プロデューサーさん、怒っていなかったでしょうか?アクアさんにも負担を掛けてしまって」
 
「へ?何言ってんの?昨日も夕方から深夜まで仕事してくれてたじゃん。もしかしてあまりにも疲れて昨日のこと忘れちゃった?」
 
「え?昨日って10月17日ですよね?」
「もちろん。『クイズ探検隊』『マーチェリー×ザンダム』のリハーサル役をこなした後、『家具屋姫の秘密』の撮影でアクアのボディダブルして深夜まで。本当は高校生は22時以降使ってはいけないのに申し訳無かったけど、撮影日程がかなりずれ込んでいるからね」
 
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「私・・・そんな仕事しました?」
「してたじゃん。頑張るなあと思って見てたよ。記憶に残ってないって、やはり疲れが溜まっているのでは?」
 
西湖はだんだん自信が無くなってきた。
 
「疲れもピークだよね。だったら、今日はスピカちゃんに代役してもらうよう言うからさ。今日は休みなよ」
 
「そうですか?」
「たまには休まないと西湖ちゃんも身体がもたないよ。西湖ちゃん最近女性ホルモン飲み過ぎてない?あれあまり飲むと身体が弱くなるらしいよ」
 
「女性ホルモンとか飲んでませんけど」
「うん。そういうことにしておこうね。今日の仕事の件は、ゆりこ副社長には私が言っておくから」
 
「分かりました。そしたら休ませて頂きます」
「うん。じゃ明日またお願いね」
「はい、頑張ります」
 
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それでワルツとの電話を終えたものの、ボク、自分がした仕事も忘れているなんてと、自分はよほど疲れているんだろうなと悩んだ。
 

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そしてこの後、葉月は自分では長時間寝ていて仕事に行けなかったような気がするのに、ちゃんと仕事に出てたじゃんと言われる、ということがしばしば(だいたい週に2回くらい−多くは火曜と木曜か金曜に)起きるようになった。
 
そしてその内、この問題について葉月は何も考えないことにした!
 
ボクって記憶が飛ぶほど疲れているんだろうな思っていた。ただし自分では休んだ気がするのに仕事に出たことになっている場合、その仕事の記憶がある時もあれば無い時もあり、それも疲れのせいだろうと思っていた。
 
こういう状態が2020年1月まで続くことになる。
 

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△・葉月救済大作戦(1)

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