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■女の子たちの成人式(10)

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「私ね。以前は『女の子になりたい』と思ってたんだけど、最近は『自分は女の子』
と思ってるの。そう思うようになってから、心にゆとりができてきたというか」
千里は最近一人称を『ボク』から『私(わたし)』に変えていた。
 
「桃香も変わった気がするな。桃香も別の意味で前より女っぽくなった」
「千里は成女式だったみたいだけど、私も成女式だったかもね。私自身の性別認識がけっこう揺れてたんだけど、やはり自分は女でいいと確信した。以前は自分は『女はこうあるべきだ』みたいな自己規制に捕らわれていた気がするの。それでそういう女になれない自分は男として生きた方がいいんじゃないかと。でも女だってもっと自由に生きていいんじゃないか。いろんな女がいていいんじゃないか、と思うようになった。千里ごめん。千里見てて、この子だって女の子なんだから、私だってきっと女の子なんだと思うようになったのもある」
「うん。いいよいいよ。私はボーダーラインみたいなものだし」
 
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「でもふたり見ていると、ほんとに自由に生きてるなと羨ましくなることあるよ。女というものに囚われて生きているのは、むしろ私だろうな」
 
「朱音だって成長したじゃん。とりあえずお母さんの買った振袖を着てあげて写真も送ってあげたし。妥協ができるようになるのはいいことだよ。それと女の子って、もともと自己規制して生きるように仕込まれちゃってる人多いと思うな。良いお嫁さんになれるように、みたいな感じで。男の人に従順であれみたいな。そういう自己規制は取っ払っちゃった方がいいかも。今時従順な女って、男から見てそんなに魅力的でないかもよ」
 
「やはり肉食系女子のほうがいいよね」
「うんうん。草食系男子が増えているらしいから、肉食系女子が増えないと、セックスできなくなって、日本人絶滅しちゃうよ」
「日本って、もともと女系文化の国だし、肉食系女子と草食系男子だったのかも」
「よし。決めた。私も肉食系女子になろう」「うん、頑張れ頑張れ」
 
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「ところで、おふたりさん、今日着てた振袖のお値段は?」
「私のは69万」「私のは62万」「ふたりともいいの買ってるね〜」
「朱音が着ていた振袖もそのくらいしそうだけど」
「ほんと?価格聞いてないからなあ。。。私が自分で買ったのは19万だよ」
 
「今度さ、みんなで振袖会でもしようよ。その時朱音、自分で買った方を着といでよ。振袖着て集まって観劇かコンサートか。そのあとお食事会して」と千里が言い出した。
「振袖着てカレー食べに行く!」「こらこら」
「でもいいね、振袖会。だけど着付け料金が高いなあ。誰か振袖の着付けを覚えてくれないかなあ」と朱音はけっこう乗り気な様子。
 
「よし、千里、着付け教室に通って、振袖の着付けをマスターしてみようか」
「え〜私が? でも私に触られてもいいのかな?みんな」
「桃香に触られるよりいいと思う」と朱音が笑っていった。
 
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その晩、朱音はビール18缶を飲んでさすがにダウンし、桃香の家で朝まで寝ていた。朱音がすやすや寝ているのを遠くに見て、残ったお総菜をふたりで食べながら桃香と千里は明け方近くまでおしゃべりを続けていた。朝少し仮眠した後、3人で近所のファミレスにモーニングを食べに行ってから解散となった。
 
その日はふたりとも講義は午後からだったので桃香の家に戻る。
 
「私さすがに眠くなってきたから寝るね」と千里。
「うん。私も寝る」といって桃香は服をぜんぶ脱いでしまった。
「ちょっと、桃香・・・・」
「いいでしょ?やらせてって言っといたし」
「眠いよ」
「Hしてからの方が熟睡できるよ」
千里はふっと息をつくと自分も裸になり、布団の中に潜り込む。そこに桃香が入ってきて、千里に抱きつき、ディープなキスをした。
 
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「桃香〜。助けて〜。由美が泣き止まないよ〜。私のおっぱいじゃダメみたい」
「しょうがないなあ」私はパソコンのふたを閉じて立ち上がり、千里から由美を受け取った。早月の方はすやすやと寝ている「やはりお乳の入ってるおっぱいと、入ってないおっぱいの違いはよく分かってるのね」「けっこう、空のおっぱいでもしゃぶってるだけで満足してくれることもあるのになあ。あれ?桃香、何見てたの?」「あ、見ていいよ」「どれどれ」と千里は桃香のパソコンのふたを開けた。
 
「あ。懐かしい。これ私たちの成人式の時の写真じゃん」「うんうん」
「やはりこの振袖、可愛いよね〜」
「そうそう、玲奈からまた振袖会しようってメール着てて。ふと成人式の時のを思い出してさ」「わあ、私は今度はどの振袖着ていこうかな」
あれから、千里は結婚するまで毎年1着、振袖を買っていたのである。私たちはもう28歳になっていたが、ふたりとも頻繁に振袖を着てお出かけをしている。千里は60歳まで振袖を着たいと言っていた。私も40歳くらいまでは着ていいかな。ふたりとも今は『独身』だし。。。。
 
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「おお、由美の吸い付きが強いぞ。ぐいぐい吸われる」「お腹すいてたのかな」
「この子もうミルク2本飲んでるのにね」「食欲旺盛だね」
 
千里も幸せそうに由美の顔をのぞき込んでいる。一時期に比べたらずいぶん精神的に落ち着いたかな? と私は思った。ずっと泣いてばかりだったもんね。。。。
 
千里は、私の医学部の友人のツテを使い、精子を6本ほど冷凍保存した上で大学3年の夏休みに去勢。4年の夏に性転換手術を受けて、直後に戸籍上の性別を女性に変更した。私も千里も大学を卒業したあと、そのまま大学院に進学し、修士課程を終えてから私は大手電機メーカーに就職。千里は小さなソフトハウスに就職した。私たちの共同生活はこの就職の時まで続いた。
 
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千里も大きな会社を狙っていたようであったが、性別を変更した人を受け入れてくれる所はなかなか見つからなかった。特に当時は誰でも就職難の時代だった。千里を雇ってくれた会社は、千里が情報処理技術者試験やドットコムマスターの資格を持っていることを好感し、実力があれば性別は気にしないといって採用してくれたのであった。千里は入社して2ヶ月もすると、もう大きなプロジェクトのリーダーを任せられるようになっていた。
 
私は会社に入ってから1年して仕事も落ち着いてきたので、保存していた千里の精子を使って妊娠した。ところが直後に、難癖を付けられ辞表を提出させられた。妊娠している社員をクビにするなんてひどい会社だ。もっとも1年ではなくて2年くらいしてから妊娠すべきだったかな?と私も少し後悔した。妊娠中の求職活動は困難を極めた。しかし千里は「私が生活費もつから、赤ちゃん産まれて少し落ち着いてから仕事を探すといいよ」と言ってくれた。私は千里の好意にすがった。
 
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私が無事、早月を産み落とした頃、千里に恋人が出来た。彼は千里は充分女らしいから、生まれた時の性別がどうだったかは気にしないと言ってくれた。千里は私の生活費のことを心配していたが、幸いにもずっと書いていたブログに注目した科学関係の雑誌の編集者からコラムを書く仕事を頼まれ、それをきっかけとしていくつか文章を書く仕事の依頼をもらえるようになったので、こちらは大丈夫だから、結婚しちゃいなと千里を煽った。ふたりは早月が生後10ヶ月の時に結婚した。
 
千里は実家からは性転換した直後に絶縁されていたが、連絡したらお母さんと妹さんが結婚式に来てくれた。私は友人代表で祝辞を読んだ。朱音からは元恋人が友人代表でいいのか?などとからかわれた。もっとも私と千里は恋人であった時期なんて無いのだけどね。
 
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私は約束通り千里に卵子を提供し、千里の夫の精子と授精させて代理母さんに産んでもらうことになった。当時が千里としても幸せの絶頂だったろう。
 
ところがその赤ちゃんが妊娠4ヶ月の時、千里の夫が業務中に事故死してしまった。千里はお葬式が終わった後、ほんとに泣いてばかりいた。私は千里自身が妊娠しているのでなくて良かったと思った。代理母ではなく千里が妊娠していたのだったら、きっと流産してしまっていたろう。
 
やがて代理母さんが由美を出産した。私は千里に子育てに協力するから一緒に住もうと提案した。早月はまだ2歳になっていなくて、私はずっと授乳していたので、結局由美に続けて授乳することとなった。千里の夫のお母さんも私がおっぱいあげますからと言うと、とても安心していた。向こうも息子が元男性の花嫁さんもらって、体外受精・代理母、というのでかなり不安が大きかったようなのが、元々の卵子提供者でもある私が育ててくれるというので、ほっとした様子であった。お母さんはかなり頻繁にうちに来て由美をあやしていく。
 
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そういう訳で結局、私と千里は協力して、早月と由美を育てることになったのであった。私も執筆や翻訳で一応安定した収入を得ていたし、千里も結婚でいったん仕事をやめていたものの、夫の死後、元の会社に復帰させてもらっていたので経済的にはかなりの余裕が出るようになった。
 
そういうわけで結局、私と千里はまた学生時代と同様に「ルームシェア」で暮らしている。戸籍や住民票の上では母娘の世帯が2つ同居している状態だ。私の戸籍上の子供である早月の父親欄は空白だが、遺伝子的な父親は千里。千里の戸籍上の子供(実子として入籍できなかったので養子だが)である由美の遺伝子上の母親は私。
 
つまり2人の子供は、各々にとって自分の子供なので、実質的には親ふたり子ふたりの、とっても標準的な家庭。
 
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でも戸籍上は私も千里も女なので、結婚することはできない。ビアンの私としては紆余曲折あった上で、女性と事実婚したようなものだから満足だけどね。
 
あ、でも「事実婚」と思っているのは、大学時代からの友人たちと私だけ。千里としては、あくまで友人同士の共同生活と言い張っている。
 
Hにしても実は成人式の翌日に1回だけした後1度もしなかったし、今回また共同生活をはじめてからも一度もしていない。その内、何とか口説き落としてやっちゃいたいけどな・・・・・
 
でもとにかく今、私も千里も幸せだ。
私はやっと寝付いてくれた由美の顔を見ながら、そんなことを考えていた。
 
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