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■女の子たちの成人式(6)

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連休はバイトは休みにさせてもらい、北陸の桃香の実家までJRで往復してきた。桃香は千里に連れていく条件としてスカートを穿くこととお化粧をすることを要求した。千里は恥ずかしいと言ったが、スカートも穿いて歩けない人が成人式に振袖着ていける訳ないと強く主張した。駅での待合せにスカートを穿いてやってきた千里はうつむき加減で、消え入りそうなほど恥ずかしがっていた。そんな千里を桃香はつい「可愛い」と思い、惚れてしまいそうな気分だった。しかし列車を降りる頃には、だいぶ慣れてきたようで、普段通りの千里に戻っていた。お化粧も一応自分でさせたのだが、かなり問題があったので桃香が修正してあげた。
 
実家に入り千里を紹介すると、美人のお友達ねと言われる。でも実は男の子なんだよと言うと、更に驚かれた。しかし桃香の母は千里の性別は問題にせず機嫌良く迎え入れてくれた。晩ご飯をふるまった後、早速着付けのミニ講座となる。取り敢えず下着姿になるように言われ、千里は服を脱いだ。パッド3枚重ねのブラジャーにローライズのショーツを付けている。着物を着る時にはローライズが良いと言われたので、それを選んだのであった。あの付近は上手に「処理」して、付いているようには見えないようにしている。
 
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「あら、おちんちんはもう取っちゃってるの?」と桃香の母が言う。
「いえまだ付いてますが隠してます」と千里は苦笑いしながら言った。変に婉曲的に言わず、こうストレートに聞かれるのは気持ち良い。
桃香の母はやり方を教えながら、裾よけを着けさせ、続いて肌襦袢を着せた。
「夏は『嘘つき』が便利なんだけどね。まずは基本をちゃんと覚えたほうがいいだろうから」と言う。
 
次はタオルを使って補正をする。
「あなたそのパッド抜いちゃいなさいよ」と桃香の母はいきなり言う。
「えー!?」
「洋服は出てる所と引っ込んでる所を強調するけど、和服はドラム缶型の方がきれいに着れるようになってるのよね。だからそのパッドを抜いちゃった方がうまく着れるのよ」「はあ」
パッドがないとホントに平坦な胸になる。恥ずかしかったが千里はパッドを抜いてバッグに入れた。
「うんうん。これで楽になった。でもあなたウェストがとってもくびれてるのね。ここは補正しなくちゃ」と桃香の母は、なんだか楽しそうである。
「この補正量を覚えておいてね。タオルを縫い合わせておいてそれをいつも付けるという人もいるけどね」
「ああ、それ便利そうね」と桃香が横から口を挟む。
 
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補正が終わって長襦袢を着ける。
「これ、もしかして上に着る和服で長襦袢のサイズも変わります?」
「正解。袖丈を合わせる必要があるのよね。普通の和服は袖丈が1尺3寸、というか49cmなのだけど、振袖は3尺くらいあるからね。普通の和服用
の長襦袢と振袖用の長襦袢は兼用がきかないね」
「私の振袖は袖丈何cmだったっけ?」
「あんたのは3尺ちょうどで頼んだよ。113cmくらい。身長が160cmだからね。それ以上長いと歩くときに袖を踏んでしまうよ。あんた荒っぽいし」
「あはは、私ならやりそうだ。千里の振袖は袖丈たしか3尺2寸で頼んだよ」
「身長169cmでおしとやかならそのくらいでいけるね。3尺2寸は121cmかな」
 
長襦袢が終わると、いよいよ和服本体を着る作業だ。ここは悪戦苦闘の連続だった。特に腰紐を結ぶところは1本目は何度かトライして仮合格をもらったものの、おはしょりを作って締める2本目がうまくいかない。とうとうその夜は保留ということになった。帯に関しては巻き付ける所までは問題なかったが、さすがに千里が結ぶとまるで形にならなかった。
「これは練習あるのみだからね。毎日頑張って練習してね」「はい」
 
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和服を脱ぎ、きちんとたたんでバッグにしまい、千里が手洗いにたった時、母が桃香に小さい声で尋ねた。
「ね、あの子、どこに泊めるの?」「え?私の部屋で一緒に寝るけど」
「でも男の子でしょ。あの子にあんたの部屋使ってもらって、あんたは私の部屋で寝るかい?」
「ああ、気にしないで。一緒に寝ても問題無いから。今までも何度か一緒に夜を過ごしたことあるけど、何も起きてないから」
この桃香の言葉は嘘ではないが、かなり誤解させることばだ。一緒に夜を過ごしたというのは、千里がバイトしているファミレスで、桃香が徹夜でレポートを書いた時のことである。
「じゃ、ほんとに女の子と同じなんだね」「うんうん」
 
桃香は千里がお風呂に入っている間に自分の部屋に布団を2つ敷き、しばらく考えていたが、その布団をピタリとくっつけてみた。千里がお風呂から戻ったので代わりに桃香が入りに行く。桃香が戻ると、布団は距離を離してあった。桃香は心の中で爆笑していた。
「桃香どうしたの?楽しそう」と千里が言う。千里は可愛い花柄のパジャマを着ている。この子、こういうのが似合うのよね。この子を女として調教してみたくなっちゃう、などと桃香は過激な妄想をしていた。
 
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連休の間はひたすら和服を着る練習をしていた。付きっきりで教えても仕方ないので、千里が基本的にはひとりで練習し、分からないところがあったら呼んでもらったら母が教えるという方式にした。また晩には通してチェックを受けるようにした。
 
桃香もかなり手伝ったりもしたが、途中で少し飽きたので、町に出て散歩などもしていた。高校の同級生の優子とバッタリ出会った。いきなり抱きつかれた。彼女とは高校時代少し怪しい関係だったのだ。「ちょっと優子、人目があるって」「だって久しぶりなんだもん。キスしていい?」「だめだめ。私今回『お友達』連れて帰ってきてるし、こんなことしてたって噂とか伝わったら困るし」「恋人?」「想像に任せる」「男の子?女の子?」「女の子」
「じゃ諦める。男の子になら負けないけどな。まあいいや、桃香、成人式どうするの?こちらでは1月2日にするらしいよ」「へー。でも私、住民票、むこうに移しちゃってるから」「それは構わないみたい。この町の出身者なら今住民票なくてもどうぞと」「じゃ出ちゃおうかな。こちらと向こうと両方出て、記念品の二重取り」「うんうん。それでいいと思うよ。幹事に伝えておく。桃香は振袖?」「うん。でも2回使えたら高いの買う価値も出るな」
「わあ、買うんだ。偉いなあ。私も振袖だけどレンタルだよ。1度しか使わないのにもったいなと」優子はどこまで本気なのか判断しかねるものの、話ながら桃香の手を握ったり腰に触れたりしていたが、やがてあっさり手を振って去っていった。
 
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千里はかなり頑張ったようであった。連休最終日には、もう2本目の腰紐もちゃんとおはしょりを作って、結べるようになっていた。
「やはり若い子は飲み込みが早いね」と桃香の母は感心していた。
「あと結び目は自分で研究してね」「はい」
 
帰りの特急の中、少し眠くなってきた桃香はわざと頭を千里の肩に乗せて眠り込んだ。千里は少し困っているようすであったが、そのまま少し体勢を変えて、桃香の頭を支えてくれた。桃香は楽しい気分になってそのまま眠りの中に入っていった。
 
千里は関東に戻ってからも毎日着物を着る練習をして、それでしばしば昼間の町を散歩していた。桃香にいわれて以来、深夜の外出は逆に避けるようにしていた。9月のうちはまだ浴衣も着ることができたので、交互に着ていたがさすがに10月に入ると浴衣では涼しすぎる感じになったので、街着のみになった。また千里はスカートで昼間出歩くということもしはじめた。学校にもそれで出て行ったが、クラスメイトの反応が小さかったので拍子抜けした。
 
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「だって、もうみんな千里のことは『女の子』に分類しているから、女の子の千里がスカート穿いていても誰も変に思わないんだよ」とその日の女子会で真帆が言った。「あ、ごめん。私個人的には千里のスカート姿何度も見ているから、今いわれて今日スカートだったことに気づいた」と桃香などは言うしまつである。
 
千里が和服やスカートで休日の昼間出かける時に、しばしば桃香が付き合っていた。「電車に乗ってる時は膝をくっつける。眠っても開けちゃだめ」
「道で人と鉢合わせたら即こちらが譲る」とか「あ、スカート穿いたまま前屈みはダメ。短いスカートだとパンツ見えちゃう事もあるよ。物を落とした時は、前屈みじゃなくて膝を曲げて腰を落として拾うんだよ」などと
「女子モード」の指導をしていたのであった。また千里はもともと中性的な声だったが、桃香は発声も指導して前よりぐっと女っぽい声の出し方をさせていた。
 
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ふたりがよく一緒に出かけていることは、他の女子たちの間で少し噂になっていた。「ねえ、もしかしてあのふたり出来てるとか?」などと恋愛温度がいつも高い美緒などは言う。
「まさか、千里は恋愛対象は男の子だと思うけど」と朱音が言う「格好いい男の子見ると目で追ったりしてるよ」
「いや、桃香があぶないよね」と玲奈が言う「あの子バイだと自分で言ってたよ」「私もそう思う。あのふたり、ひょっとしたらレズなのかも」と美緒。「複雑〜。私には理解不能」と真帆は言った。「でもそれじゃ千里が女の子っぽくなるほど、桃香としては恋愛温度が上がっていくわけ??」
 
しかし友人達の思惑とは別にふたりの仲は「恋人」として進む気配は無かった。「仲良し度」は進行していたが、桃香自身、一時期千里との恋愛要素を密かに期待していたことさえ自分で忘れていた。ふたりはよくお泊まりもしていた。千里が桃香のアパートに泊まることが多かっが、桃香が千里のアパートに泊まることもあった。がふたりはキスさえしたことがなかったし、同じ布団で一緒に寝ても、何かが起きることもなかった。冗談の範囲で、桃香が千里の身体に触ったりすることもあれば、千里も桃香に触り返したりすることもあったが、それでHな雰囲気になってしまうこともなかった。
 
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