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(C)Eriko Kawaguchi 2011-02-02
GWにも夏休みにも帰ってなかったので、1年ぶりの実家だった。いきなり髪が長いと父から叱られた。眉も「何だ。その女みたいな眉は」と言われた。が、適当に流しておいた。上に着るものこそ中性的なものを選んでいたが、下着は全部女物だった。着替える時は家族に見られないようにしていたが、妹にはバレた。
「兄貴、ブラ付けてるよね?」「うん」「ジーンズもレディス?」「まあ」
「中身も改造済み?」「いやまだ何もしてない」「なあんだ。でもさあ」
「ん?」「どうせ取っちゃうなら早い方がいいよ」
妹はどちらかというと単純に面白がっている感じであった。
長居すると色々とボロが出そうだったので、2日の夕方にはもう帰路に就いた。別れ際にバス停まで来てくれた母がひとこと言った。「身体、大事にして。また帰って来なさいよ。あんたがどういう姿になっていてもいいから」
千里は黙って頷いてバスに乗った。千里はちょっと涙が出た。
千里は戻ってくると、まっすぐ桃香の家に行き、掃除をした!ふたりとも年末はレポートとゼミ準備の追い込みで家の中など完全に放置状態だったのである。年末は食事を作る手間を省くため、千里がずっと桃香の家に泊まり込んでいた。3日の日、1日掛けて大掃除をしていたら、夕方桃香が戻って来た。桃香は上機嫌であった。いきなり抱きついてキスしてくる。
「待った待った。こんなことしてたら、またみんなから誤解される」「今日は誤解されてもよい気分なのじゃ。しかし部屋の中、随分綺麗になったのお」
「結構大変でしたよ、お姉様」「うむ、大儀であった、妹よ」「でも年末はずっとボクもこちらにいたしね」「うーん。朱音にいわれたようにいっそ少し広めの部屋借りて同棲、じゃなくてルームシェアしようかね・・・」「たしかに部屋2つ借りてるのも不経済だし。同棲でなくてルームシェアならボクも賛成」
「よし今度不動産屋さんに行こうぞよ。学生街は3月には部屋が空くからのう」
「御意。でも、ほんとに上機嫌だね。彼氏でもできたの?」
桃香はしばし考えていたが、やがてにこっと笑って語り始めた。「昔の恋人と地元の成人式で会ってさ」「縒り戻した?」「向こうは縒り戻したいと言ったけど、私はその気無いんで断って、でもしつこくされて。そしたらその子の別の昔の恋人が現れて、なんか修羅場になっちゃって」「あらあら」「もう私は他人の振りして取り敢えず逃げてきたよ。あとでニュース見たら成人式で乱闘なんて記事が出てるし」「わー、危なかったね。下手したら逮捕されてるところだ」
「うんうん。私は無事セーフ。私の振袖も無事セーフ」「そちらのほうが痛いね。留置場で一晩すごすより」「全く」「ところで、今出て来た登場人物って・・・・みんな女の子だよね?」「うん。私、男との恋愛経験はないよ」
「・・・・・今夜はくっついて寝る?」と千里が声を掛けると桃香はまた千里に抱きついてきた。今度は千里も抵抗しない「少しでいいから慰めて、千里」
「よしよし」千里は桃香を促して布団に連れていった。
今年の成人式は1月10日だった。ふたりは前日に美容室に行って髪をセット。当日はのんびりと着付けの予約時間に呉服屋さんに行った。今日は畳敷きのエリアに仕切りが作られていて、何人もの着付け士さんが入り、長襦袢まで着せる人と振袖を着付ける人で分担して流れ作業になっていた。
女子会メンツでは真帆だけ別の会場で、あとはみんな一緒になっていた。成人式は13時からだったが、みんなで12時に会場近くのミスドに集まってから会場に入ることにしていた。生物科の5人の内3人もこの会場で、一緒に集まっていた。
「わあ、千里も振袖着てきたんだ!」と玲奈が嬉しそうに言った。
「可愛い、というか綺麗な振袖だね。友禅?」と友紀が言う。
「友禅風」と千里と桃香が一緒に言った。「何故桃香も答える?」
「私が見立てたからね」と桃香は得意そうに言った。
「私と玲奈で千里は何着て来るか賭けてたんだよ」と美緒が言った。
「どっちが何に賭けたの?」「玲奈が振袖、私はドレス」。
「最初振袖か背広かという賭けだったんだけど、どちらも背広に賭けないから仕方ないから振袖とドレスにした」「じゃんけんで勝った方が振袖を選んだんだけど、じゃんけんで既に勝敗が決していたな」と玲奈が笑っていう。
「でも、振袖着た千里ってもう完璧に女の子だよね」
「うんうん。マジで可愛いし、千里にとっては成人式というより成女式?」
彼氏のいる子は堂々と彼氏を連れてきていた。玲奈の彼氏は同い年なので向こうも成人式に出るのに背広を着ている。美緒と友紀の彼氏は年上なので普段着で来ている。生物科の3人のうち2人も彼氏付きだ。
「この中で振袖の着付けができる人?」と美緒が訊いた。誰も手を挙げない。「千里、秋頃からかなり和服着てたみたいだけど出来ないの?」と朱音。
「ボクより桃香のほうがうまいけど、ふたりとも普通の和服はできても、振袖の着付けは無理」「じゃ仕方ないなあ。今日のHは無しにしよう」というと美緒の彼氏が「何か洋服買ってあげるからさ」などと言っている。
「カップルの人達はホテル予約済み?」と香奈が訊くと「当然」と玲奈。「しかしまさかこの中でシングルは私と香奈だけ?」と呆れたように朱音。「私もだよ」と桃香と千里が同時に言った。「おふたりはホテル予約はこれからですか?どこも満杯だと思うよ」などと友紀が言う。
「だからそういう関係ではないと」とまた桃香と千里が同時に言うと
「すごい息が合ってる」と玲奈が羨ましそうに言った。
入場の時、千里が招待状を受付で渡すと受付の人が「あら?」と言った。
「女の方ですよね。すみません。こちらの名簿が間違って男性になってました。あやうく男の人向けの記念品をお渡しするところでした。こちらをどうぞ。名簿修正しておきますね」「あ、はい。よろしくお願いします」
「女子向けの記念品は、お裁縫セットと折りたたみ傘か。傘の色が・・・私のは黄色、千里のは赤だね」「私は青」「私はピンク」どうも傘の色はいろいろあるようだ。「男子向きの記念品は何だったのかな?」「ネクタイと折りたたみ傘だよ」と玲奈の彼氏が見せてくれた。傘の色は黒だった。男性用は黒なのだろうか??どっちみちネクタイは使わないので、千里は女性用をもらって良かったようだ。
式典が進んで行く。ちょっと退屈であった。最近は式を荒らす馬鹿もいるようだが、幸いにもこの会場ではそういう変なことは起きずに、無事式典が進んでいた。偉い人の話はどうでも良かったが、そのあと出て来た、今売り出し中のお笑い芸人さんの話は面白かった。下積みの長かった人で年齢は食っているせいか、話の運び方が巧みである。こちらを飽きさせない話術は凄いと桃香は思った。
「解散前にみんなで記念写真撮ろう」と美緒が言う。
「俺が写真撮るよ」と美緒の彼氏。「よろしく」と美緒は言って、みんなを促して並ばせた。数枚撮影する。念のため玲奈のカメラでも数枚撮った。
「じゃ写真は私のブログにパスワード付きで上げとくからみんな勝手に落としてね。パスワードは adult20 ね」「じゃ私も同じパスワードで」
カップルがみな各々手を取り合って去ったあと、残ったシングル?の4人だけでマクドナルドに入った。真帆から連絡があったので場所を伝えるとこちらに来るということであった。
「振袖でバーガー食べてるの見たら、うちの母ちゃん卒倒するかも」と香奈。「まぁ、汚さなきゃいいよね」と桃香も応じた。「私はこれ汚れてもいいや。もうひとつあるし」「結局それどっちの振袖?自分で買った奴?お母さんが買った奴?」「母ちゃんの。こっちがどうみても高そうだったし。あ、桃香、私の携帯でこの写真撮ってくれる?バーガー食べてるところを」「意地っ張りだねえ。640x480でいい?」と笑いながら桃香は朱音の携帯で、片手でシェイクを持ち、思いっきりバーガーを頬張っている朱音の写真を撮った。
「よし、これ母ちゃんに送信っと」
やがて真帆もやってきたが、その後、5人はカラオケ屋さんに移動し、6時頃まで歌いまくった。カラオケ屋さんで全員振袖を脱いで普通の服に着替えたが、脱ぐのは全員自分でできたものの、たたみ方が分からないというので、桃香と千里のふたりでたたんでバッグに入れてあげた。5人は普段着でまた写真に収まった。セルフタイマーで5人並んだ所を撮影した。千里はピンクのセーターに白いロングスカートで、また香奈や真帆から可愛いとしきりに言われて照れていた。
やがて地元出身の真帆が家族と食事会があるといので離脱。香奈もバイトがあるというので帰っていき、千里と桃香と朱音が残ってしまった。
「とりあえず桃香のアパートに行こう」と千里。「お酒ある?」と朱音が言う「無いよ。でも成人の日だしビールでも買ってく?」と桃香。「うんうん」
「なんか、この日のためにあれこれやってきた割には、あっさり終わっちゃったね。成人式」と早いピッチで飲んでいる朱音が言う。ビールは1箱24缶入りのを買って来たのだが、朱音のそばには既に空き缶が5本転がっていた。「結局、ここに至る過程というのが『成人式』の本体なのかもね」と桃香が答えた。桃香は3本目を開けたところだった。
「確かに夏からここまで、お互いにいろいろあったよね」と千里は桃香の言葉に頷きながら答えた。
「実際、千里はかなり変わったよね。夏頃までは『半分女の子』だったけど、今はもうほぼ女の子。スカートもよく穿いてるし。あとひとつひとつの動きが女っぽいというか、あと発想が女だというか」と朱音は正直な感想を言った。「女らしい仕草をかなり桃香に仕込まれた」「なるほどねえ。でも身体の方も少しいじってるみたいだけど、内面的な女性化が凄く進行してる感じだね」