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■少女たちの伝承(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2020-10-25
 
母は父に相談していた。
 
「中学の時に仲良かった子の結婚式なのよ。行ってきてもいい?」
「それ男?女?」
「もちろん女だけど」
「再婚?」
「初婚」
「35-36で初婚って凄いな」
「34歳だけど」
「・・・」
 
武矢は津気子の年齢を勘違いしたことで少し申し訳無い気がして、結果的に容認してもいいかという雰囲気になる。
 
「だけど三重までも交通費が無いぞ」
「旅費は彼女が出してくれるらしいのよ」
「御祝儀は?」
「パート先からボーナス出そうだからそれで払う」
 
「分かった。だったらカップ麺か何かでも置いてってくれ。何とかするわ」
「ありがとう。チンしたら食べられるようなもの置いていくね」
 
「千里と玲羅は?」
「連れていくよ。その分まで交通費出してくれるということだったから」
「だったらまあいいか」
 
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それで母は、中学の時の同級生の結婚式に出席することになったのである。
 

2001年10月、当時小学5年生の千里の家近くにある留萌P神社では、10月13-14日(土日)を中心とする七五三に続いて、27-28日の土日には秋祭りが行われた。
 
(北海道では11月は寒すぎるので、一般に10月15日に七五三を行う)
 
秋祭りでは4人の巫女さんが先導する“姫奉燈”を氏子さんたちが曳いて回る。氏子さんたちの衣装が赤い服だし、神職さんもピンクの衣装である。昔は女装していたのでは?と年配の氏子さんが言っていた。
 
昨年の巫女役は、蓮菜の従姉の女子高生・守恵さん、近くの女子高生朱理さん、千里の叔母・美輪子、それと小春の4人で守恵さんが先頭を務めたのだが、今年は女子中生の純代さんが加わり、小春は「私は引退する」といって外れた。
 
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「小春、もしかして体調よくないの?」
と千里は尋ねたが
「私も年だからなあ」
と小春は言っていた。
 
そして
今年は朱理さんが先頭を務めた。
 
「え〜?私、去年加わったばかりなのに」
と朱理は言うが
「去年しっかり務めていたから大丈夫」
とおだててやらせた。
 
「私もそろそろ引退したいなあ」
と美輪子は言っている。
 
「千里が女子中生になったら巫女に加わってよ」
「その女子中生になる自信があまりない」
「でも小学校卒業したら中学生になるでしょ?」
「うん」
「千里は女子だよね」
「そのつもり」
「だったら自動的に女子中生になるね」
「そうかなあ」
 
セーラー服を着ている自分を想像する。ああ、セーラー服着たいなあ、と千里はマジで思った。
 
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千里が所属している剣道部もソフトボール部も、12月いっぱいで6年生は引退するので、12月上旬に続けてお別れ会があった。
 
剣道部では、6年生vs5年生で試合をした。今回卒業するのは、男子5人と女子2名である。卒業する男子5名の対戦相手は、竹田・原田・佐藤・工藤・西村と指名されたので、私は見学していればいいな、と思っていたら、女子2名の対戦相手として、沢田・村山、と千里まで呼ばれてしまった。
 
「私が相手でいいんですか?」
「村山は5年生で女子だから」
「うーん」
「少なくても男子ではないと思う」
「男子の試合には出たことがないし、女子の試合には何度も出ている」
「そもそも白胴着を着ているし」
 
胴着の色は特に定められている訳ではないものの、男子は藍色、女子は白の胴着を着る人が多い。実際N小の剣道部も男子は全員藍色を使用しているし、女子は白を使用している。そして千里は4年生の時からずっと白を使用している。
 
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「竹刀も女子用を使用している」
「**先輩から頂いたんですよー」
 
ともかくもそういうことで千里は送別試合に指名されたので、女子の武智さんと試合をし、1本ずつ取った後、千里が1本取って勝った。もう一組の試合でも玖美子が宮沢さんと勝負して玖美子が勝った。
 
「来年の女子は期待できるね」
と6年女子2人は笑顔で言っていた。
 
男子は・・・5人とも6年生が勝ち「お前らなってない。道場20周!」などと言われていた。
 

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ソフトボール部も6年生vs5年生で試合をしたが、6年生は5人、5年生は4人しかいないので、6年生は助っ人を頼み、5年生側には4年生も加わった。
 
結果は千里の丁寧で制球の良い投球と時折混ぜるカーブとのコンビネーションに6年生が翻弄され、走者2人0点に抑え、5年生は初枝が2塁打で出たのを麦美がタイムリーヒットで帰して1点を挙げ、この1点を守り切って勝った。
 
「N小は安泰だな」
「すみませーん。私は公式戦には出られないので」
「やはり村山さんは3月までにちょっと病院に行って手術して女になってくること」
「どっちみち大人になるまでには性転換するんでしょ?ちょっと早めに性転換してもいいじゃん」
などと言われた。
 
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剣道部で女子の登録カードをもらってしまったことはソフト部のメンツには内緒にしている。
 

12月20日(木)、5年生の生徒が全員体育館に集められた。吹奏楽部顧問の角田先生が前に出て説明した。
 
「この1年間、6年生が鼓笛隊を編成して色々な行事で演奏してきたのですが、みなさんにこれを引き継いでもらいます。取り敢えず卒業式と、その前にある卒業生を送る会で演奏してもらいます。今日は取り敢えずパート分けをしたいと思います。現在5年生は56人なので、これをこう分けます」
 
と言って先生は黒板にこのように書いた。
 
ドラムメジャー(指揮者) 1
サブメジャー(副指揮者) 3
カラーガード 8
バスドラム(大太鼓) 2
テナードラム(中太鼓) 2
スネアドラム(小太鼓) 8
シンバル 2
ベルリラ 4
リコーダー 8
ファイフ 6
ピアニカ 6
トランペット 2
メロフォン 2
ユーフォニウム 1
スーザフォン 1
 
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「金管楽器は難しいので吹奏楽部で経験している人にお願いしたいと思う」
と言って先生は直接指名する。指名された側もあらかじめ言われていたようで「はい、やります」と返事していた。
 
ドラムメジャーには児童会長の川崎典子(2組)が指名された。サブメジャーを1組から2人、2組から1人、各クラス委員から指名がある。だいたい言われていたようで「はい」と返事していた。カラーガードは希望者を募り、12人いたのでジャンケンで8人選んだ。
 
大太鼓には、運動会の応援合戦でも大太鼓を叩いていた留実子(1組)と水流君(2組)が指名され、シンバルにも腕力のある飛内君(1組)と祐川君(2組)が指名される。ピアニカ係はピアノを習っている子が6名選ばれた。ベルリラもピアノが弾ける女子が4人指名される。
 
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さて・・・・残りはその他大勢である。残っているパートはリコーダー、ファイフ、スネアドラム、テナードラムで、比較的誰でも演奏できる楽器だ。
 
ただファイフは経験の無い人は音が出せない。
 
「先生、村山さんが横笛うまいです」
とピアニカ係になっている蓮菜が言った。
 
「あっそう?だったら村山はファイフで」
ということで、千里はすんなりファイフ担当になった。ファイフは他に祭りの篠笛を吹いたことのある女子が5名指名された。そして残っているメンツの中で比較的腕力のありそうな男子2名を中太鼓係に指名する。
 
残りはリコーダーとスネアドラムで、これはリコーダー希望の人に手をあげさせ、これが10人だったのでジャンケンで8名を決め、残った人が小太鼓係になった。
 
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ということでパート分けはほんの30分ほどで終わったのであった。
 
卒業式で演奏する曲目は『ヤングマン』と『ほたるの光』、卒業生を送る会では『ヤングマン』と『情熱』(Kinki Kids)を演奏するということで、この日各パートごとの譜面も配られたが、結局2月末までの2ヶ月で3曲覚えなければならない。これはなかなかハードだぞと千里は思った。
 

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千里は篠笛は小春からもらったのを吹いて時々練習していたのだが、ファイフは持っていなかった。それを蓮菜に言うと
 
「2000円くらいだから新しく買えばいいよ」
と言う。確かに2000円くらいなら、神社でもらっているバイト代のストックで買える。
 
「でもどこで売ってるの?」
「じゃ今度うちのお母ちゃんが旭川に出た時、買って来てもらうよう言っとくよ」
「ありがとう!」
 
それで12/22(土)に蓮菜のお母さんが旭川の楽器店で買ってきてくれたので、千里は早速吹いてみた。
 
「一発で音が出るのは凄い」
「そう?でも吹き方は篠笛と同じだし」
と言ったものの、吹いてみて違和感を感じた。
 
「篠笛とは音階が違うんだね」
 
「むしろ篠笛の音階が特殊なんだけどね。龍笛とも違うでしょ?」
と蓮菜は言う。
 
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「そうそう。龍笛は凄くきれいな音階なんだけど、篠笛は変な音階なんだよ。このファイフの音階は龍笛に近いけど、微妙に違うと思った。響きが良くない」
と千里は言ったが
 
「それが分かるのが千里の音感の良さだよなぁ」
と蓮菜は言っていた。
 
(龍笛はピタゴラス音階なので五度が整数比の周波数になり美しい。現代のフルートやファイフの多くは他の西洋楽器と合うように平均律で造られているので五度さえも完全には共鳴しない。共鳴する音とは微妙な周波数の差が出る)
 

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連休明けで終業式の行われた12/25には第1回の鼓笛隊練習が行われる。この日は終業式で6年生の鼓笛演奏が行われたあと、6年生のドラムメジャーから児童会長で次のドラムメジャーになる典子に指揮棒の伝達が行われた。
 
練習で千里がきれいにファイフを吹いていると、角田先生は
「君うまいね。君が先頭に立って」
と言い、結局千里と2組の映子の2人が先頭で吹くことになった。
 
「ファイフはずっと前から吹いてた?」
などと聴かれる。
 
「パンフルートと篠笛はわりと前から吹いてますけど、ファイフは初めてで、実は土曜日に買ってもらったばかりです」
 
「それでここまで吹くって凄い」
と先生。
 
「でもこの子、リコーダーは全然吹けないんですよ」
と恵香がバラす。
 
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「それは不思議な人だ」
と角田先生は呆れるように言った。
 

終業式が行われたのは25日なのだが、今年2001年の12月24日は天皇誕生日の振替休日で休みだった。千里はこの日、合唱サークルのメンバーは市内のクリスマスイベントに参加した。これが6年生たちには最後のステージになる。
 
演奏曲目は、コンクールでも歌った『流氷に乗ったライオン』と、今年こそは『きよしこの夜』を歌う予定である。
 
(昨年は『きよしこの夜』を歌うつもりが伴奏の鐙さんが誤って『もろびとこぞりて』の伴奏を弾いてしまったので『もろびとこぞりて』を歌った)
 
秋のコンクール全国大会の時は怪我人が出たりして変則的になったものの、今回は本来の形で、阿部さんがピアノを弾き、海老名君のトランペット、真島さんのアルトソロで演奏する。またジングルベルでは全員鈴を持ち、それを鳴らしながら歌う。トランペットは、東京駅での乱射事件で穴が空いたのを鞠古君のお父さんが穴を塞いでくれたものを使用する。
 
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(あの後、教頭先生が鞠古君のお父さんが勤めている工場の社長さんに修理代として3000円払った。でも社長さんはその金額をあらためて合唱サークルに全額寄付してくれた)。
 
今回小春はこのイベントにも参加しないと言った、
 
「今凄く不安定な状態になってて、小学生みたいな見た目をその時維持できないかも知れない」
 
と小春は言っていた。確かに最近20代くらいに見える格好をしていることが多い。小春は今12歳だが、これは人間でいうと60歳くらいに相当するらしい。小春は自分の寿命自体が尽きつつあると千里には言っていた。
 

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合唱サークルの制服はペールピンクのチュニックに、えんじ色のスカートで、むろん千里はその制服を所有しているのだが、当日は休日なので父が在宅であった。それで千里は制服で出かけるのは自粛して、制服をバッグに入れてセーターに厚手のスリムジーンズを穿き、ダウンのコートを着て出かけた。
 
普段の週なら父は月曜日に出港して金曜日に帰港するのだが、今週は月曜が祝日だったので明日出港するらしい。
 
それで千里は中性的な格好で出かけたのである。
 
会場の市民体育館に着くと女子更衣室に指定されている柔道場で制服に着替えた。ちなみに柔道場なので畳敷きである。男子更衣室には剣道場が指定されており、そちらは板張りである。北海道の冬の板張りはとっても冷たい。日本ってわりと女尊男卑っぽい所あるよな、と千里は思った。
 
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自分たちの出番までは2階の観覧席からステージを見ていたのだが、馬原先生が
 
「あら、漁協の団体さんが来てるわね」
と言った。へーっと思って眺めていたら、穂花が言った。
 
「あ、千里のお父さんも来てるね」
「え!?」
「ほら、あそこ」
 
確かに父が来ている。同僚の漁労長・岸本さんも一緒だ。何だか楽しそうに会話しているようである。
 
どうしよう!?
 
と千里は焦る。この制服姿を見られたら何と言われるか。いやその前に怒鳴り出したりして、ステージを台無しにされないかと焦った。
 
「まあお父さんに千里の実態を見てもらう良いチャンスだね」
などと蓮菜は言っているが、それは自分が殺されなかったらだなと千里は思った。
 
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