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■少女たちの伝承(3)

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さて剣道の大会は1月20日(日)に行われたのだが、今回の大会はもう6年生が抜けたので4〜5年生だけで出場する。そして5年生は玖美子と千里の2人だけで、4年生3人と一緒に出る。実はこの5人で剣道部の女子全員である。男子の方は部員が12人いるのでその中から5人選抜になったようである。
 
それで千里は当日、大会会場の市民体育館剣道場まで出かけて行ったのだが・・・・
 
「え〜〜!?4年生全員休み?」
「インフルエンザで3人とも仲良くダウンしているらしい」
「うーん・・・。私とくみちゃんの2人だけなら、棄権?」
「いや、出る」
「2人でできるの〜?」
「それが私もうっかりしてたんだけど、この大会は勝ち抜き方式なんだよ」
「勝ち抜き?」
 
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「普通の星取り式なら、2人しかいないと3人不戦敗になって自動的に負けになる。1回戦敗退。でも今日の大会では勝った人が次の相手と対戦するから、1人で多人数を倒していくことができる」
 
「つまり、くみちゃんが相手5人を倒せば勝ち上がれる?」
「私が負けても千里が5人倒せば勝ち」
 
「むむむ」
 

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そういうわけで、本来は先鋒・次鋒・中堅・副将・大将と5人いるべき所を、3人休んでいるので先鋒だったはずの玖美子が副将になり、千里が大将である。
 
初戦、天塩町(てしおちょう)の学校と対戦する。副将の玖美子が出ていく。向こうの先鋒が出てくるが、結構強い!どちらもなかなか1本が取れず、このままだと判定か・・・と思っていたら制限時間ギリギリに玖美子が相手の小手を取ることができて何とか1本勝ちした。
 
(剣道は通常2本先に取った方の勝ち(二本勝ち)だが、片方が1本だけ取っている状態で制限時間になるとその1本取っている側の勝ちとなる。どちらも一本取れなかった場合や両者1本ずつの場合は本来延長戦だが、時間の都合で判定やジャンケンで勝負を決する場合もある。今回の大会は決勝戦以外は延長無しのルールである)
 
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玖美子が勝ち残ったので相手の次鋒が出てくる。これは玖美子が2本取って勝てた。中堅が出てくる。わりと簡単に2本取れる。副将が出てくる。見ると明らかに素人だ!初心者か人数合わせとみた。大将はどうだ?と思ったが、この子も素人だった!
 
そういう訳で、このチームは一番強い人が先鋒をしていたようである。
 
でもそれはうちもだなぁと千里は思った! 玖美子が負けるような相手に自分が勝てるとは思えない。
 

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参加校が8校しかないので、次はもう準決勝である(男子は20校参加なので1回戦→2回戦→準々決勝→準決勝→決勝となっていた:N小男子は実際には2回戦で敗退した)。千里たち女子の準決勝の相手は増毛の小学校だった。
 
玖美子が出て行く。先鋒と1本ずつ取った後、相手の攻撃をうまくかわしてカウンターで玖美子が1本取り、こちらの勝ちとなった。次鋒はやたらと逃げまわってばかりで攻撃の姿勢が見られないので審判から注意されるに至る。しかしその後何とか玖美子が小手を取り1本勝ちした。多分逃げまくって引き分けに持ち込めと言われていたのだろうが、ここまで戦う姿勢が無かった場合は判定になっても負けになると千里は思った。判定基準は、技→態度である。
 
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中堅が出てくる。この人は玖美子といい勝負をしたが、もうすぐ時間切れという時に玖美子が相手の一瞬の隙に打ち込んで面を取って勝った。副将はあまり大したことがなく、短時間に玖美子が2本取って勝つ。そして大将は強かった。開始早々1本取られる。しかしその後はなかなか両者1本取れない。このままでは負けるかと思った時間切れ間際、玖美子がうまくカウンターで1本取った。時間切れになり判定となるが、判定が引き分け!でジャンケン勝負になった。
 
玖美子がジャンケンに勝った!
 
ということでN小の勝ちである。向こうが凄く悔しがっていた。
 
「やはり普段からジャンケンも鍛えておかないとダメね」
などと玖美子は言っていた。
 
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しかしここまでは千里は出番無しで“座り大将”を決め込んでいた。
 
そしてとうとう決勝戦である。相手は留萌市内の別の学校だ。
 
玖美子と向こうの先鋒が対決する。
 
ここで玖美子は開始そうそうに2本立て続けに取られて負けてしまった!
 
「ごめーん」
「私負けてきてもいい?」
「そう言わずに頑張ってよ」
 
それで千里が向こうの先鋒と対決する。強そう!と思う。
 
しかし逃げる訳にはいかない。対峙する。隙を見つけて打ち込んでいくが、さっとかわしカウンターを取りに来る。でもかわす!
 
向こうはどうもカウンターがうまいようだと見た。玖美子も2本ともカウンターで取られている。向こうからも攻めてくるが、どうもこちらがカウンターを取りに行く所を更にカウンターを取るつもりだという気がした。それで隙を見せないので向こうは悔しそうである。向こうがわざと隙を作るのでそこを狙うかと見せて反対側から打ち込む。向こうはギョッとしたようだが、すんでで逃げられた。
 
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こうして読み合いの攻防が続く中、お互い1本ずつ取った所でタイムアップ。決勝戦なので延長戦に入るが、延長戦ではどちらも1本取れないまま時間が来る。規定により2度目の延長戦は行わず判定となる。
 
引き分け!
 
それでジャンケン勝負となるが、実は千里はジャンケンに負けたことがない。軽く勝ってまずは1人勝ち抜きである!
 

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次鋒はあまり強い人ではなかったので2本取って勝ち抜く。
 
中堅は結構強かった。開始そうそうに1本取られるが、その攻防で相手のパターンが読めたのでその後は取らせない。逆に相手の攻めからのカウンターで胴を取る。そして時間終了間際。やや強引な攻めで、相手がカウンターに来た所をギリギリで交わしながら面を取って勝った。
 
副将は大したことなかったのでまず1本取るが、そのあと向こうは逃げまくる。審判から注意される。それで向こうが逃げるのをさすがに控えた所できれいに1本取って勝った。
 
そして大将戦である。
 
この人は無茶苦茶強かった!
 
開始早々1本取られる。しかしそれで相手のパターンが分かるので警戒しているとその後は向こうもなかなか決めきれない。こちらからも打っていくが、きれいにかわされる。カウンターが来るがそれは避ける。
 
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時間が無い。あと少しでこちらの負けになるというところでイチかバチか打ち込みにいく。わずかに届かず!カウンターが来る。こちらもギリギリで避ける。
 
しかし時間切れ!
 
それで1本負けになってしまった。
 
残念!
 
礼をして退く。
 

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「ごめーん。負けた」
「いや、強豪相手に4人に勝ったんだから大活躍だよ」
と玖美子は言ってくれた。
 
「1人はジャンケンだけどね」
「ジャンケンも実力のうち」
 
そういう訳でこの大会の団体戦は準優勝に終わったのであった。
 
でも面白かった!
 
なお、個人戦の方は準々決勝で強い人と当たって敗退した。玖美子は準決勝まで行き4位となった(三位決定戦にも敗れた)。準々決勝で千里に勝った人が最終的に優勝した。
 
「手抜きはいけないなあ」
「え?何のこと?」
 

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さて、千里は母と玲羅と一緒に1/26-27の土日に母の友人の結婚式、およびナガシマ・スパーランドに行ってくることにしていた。
 
この時期は学校は隔週土休の時代である。
 
1992.9.12 公立小中学校及び高等学校の多くで毎月第2土曜日が休日に。
1995.4.22 第2土曜日に加え第4土曜日も休日に。
2002.4.6または4.20から公立小中学校及び高等学校の多くで毎週土曜日が休日となる。
 
それで今月は1月12日と1月26日が土曜休みだった。母の友人の結婚式は1月26日にあるので、ちょうど良かったのである。旅費に関しても母は偶然にも福引きでナガシマスパーランドの入場券が往復旅費コミで当たったのでといって辞退する連絡を入れている、しかし実はそのおかげで、包む御祝儀も少なめで済む!という利点があるのである。旅費を出してもらった場合、どうしても高額の御祝儀を包む必要が出てくる。
 
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父の船は金曜日夕方に帰港するので、それを迎え、土曜朝の飛行機で名古屋に移動することにしていた。結婚式・披露宴は午後からなので朝の飛行機でも間に合うのである。
 
千里は父が行かないなら、旅行中は女の子の服を着てもいい?と尋ね、母もまあいっかと言っていた。
 

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ところがである。
 
1月7日に出港した父の船は翌日戻って来た。母は連絡を受けて慌てて迎えに行った(車を運転できる母が行かないと武矢は帰宅する手段が無い!)。
 
「通信機器が故障したんだよ」
「あらぁ」
「修理するのに今月いっぱいは船は休みになった」
「ありゃりゃ」
「給料はここ1年間の平均額を払ってくれると鳥山さん(船長=船主)が言ってた」
「それは助かる」
 
正直、今月無給になったらどうやって子供たちを食べさせていこうと一瞬悩んだのである。自分のパートの給料だけではとても足りない。しかし給料がもらえると聞いて、津気子はがぜん余裕ができた。
 
「休みになるなら、あんたも名古屋に行く?」
「ああ。行ってもいいかな。船が出ないとすることないし」
 
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それで急遽武矢も行くことになった。旅行代理店に照会してみたら、土曜日朝一番の便で行く枠はもういっぱいだが、金曜日の最終便で行く枠なら余裕があるということだったので、その枠に切り替えてもらい家族4人で行くことになった。
 
しかし千里は母から言われた。
 
「父ちゃんが一緒に行くから、女の子の服は勘弁して」
「分かった」
とは答えたものの、千里は悲しかった。しかし悲しいことよりもっと大きな問題があった。
 
お風呂どうしよう?
 
父から一緒にお風呂行こうと言われても応じられない。自分はとても男湯には入れない身体である。千里が暫定的に(?)女の身体になっていることは母も知らない(知ったら驚愕するだろう)。
 
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(癌摘出手術後の治療を受けている母の卵巣・子宮を守るため、母の生殖器が一時的に(?)千里の身体に入れられており、千里の睾丸は実は父に移植され、千里の陰茎は小春があずかっている−貧弱な千里の睾丸が移植されたことで、実は父はあまり暴力をふるわなくなった。それで千里は現在男性器が存在せず母の女性器があるので、毎月月経が来ている。更に卵巣から出る女性ホルモンの作用で千里の身体はどんどん女性化しつつある)
 

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1月8日以降、父がずっと家にいるので千里はかなり閉口した。あれこれ父が干渉してくるので、千里は「剣道部の練習があるから」と言って、母が仕事を終えて帰宅するくらいの時間までずっと学校にいて、本当に剣道部の練習に出ていた(玲羅は図書室で時間を潰し、千里と一緒に帰宅していた)。1月20日の大会で千里が活躍できたのも、ふだん練習をサボってばかりの千里が珍しく練習に出ていて、男子の部員にも稽古をつけてもらっていたお陰である。
 
「もっとも村山は男子部員ではないかという説もあるのだが」
「夏の大会の時は男子の方に名前書いてたのに、勝手に女子の部に移動されちゃったんですよぉ」
と千里は言い訳する。その結果、女子の登録証まで発行されてしまったのである。
 
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「まあ本人を見たら女子としか思えんよなあ」
「金玉は既に無いらしいから、女子で構わない気がする」
 
「だけど村山は気合いが凄いから、俺たちでも負けそうな気がする」
「いや気合いは凄いけど、さすがに男ほどのスピードは無いから恐れずに打ち込んでいけばだいたい勝てる」
「そうそう。技術はあるし気合いも凄いけど、スピードは普通の女子よりむしろ遅いくらい」
「それがまあ村山の課題でもあるがな」
 
男子たちがそんな話をしているのを玖美子はニヤニヤしながら聞いていた。まあ、千里は男子相手には本気出さないからなぁ。
 

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1月25日(金)の午後、津気子は武矢をスバル・ヴィヴィオの助手席に乗せ、千里たちが通う小学校まで行くと、授業の終わった千里をピックアップした。玲羅はもっと早く終わっていたが、図書室で待機していた。
 
4人が乗る車は R233-R275-R36 と走り、18時頃新千歳空港に到着した。もう少し早く着けるかと思ったのだが、途中から雪が降ってきたので少し予定より遅れた。ツアーの看板を持って立っている旅行会社の人のところに行き、引換券を提示して、航空券・ホテルクーポンを受けとる。
 
すぐ荷物を預け、手荷物検査場に向かう。
 
母は財布が引っかかり、ウィッグのネットがひっかかり(母は癌治療の影響で髪がかなり抜けているのでウィッグを使用している)、最後はプラジャーのワイヤーまで引っかかった。父に至っては、財布とベルトのバックルで引っかかり、ポケットに入れていたサバイバルナイフで引っかかり(高価なものなので到着空港で受けとることにしてもらった)、靴底に打っている鉄板で引っかかり、腕時計とネクタイピンでも引っかかり、「もう嫌だ。飛行機は2度と乗らん」などと言っていた、
 
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千里も実はブラジャーのワイヤーで引っかかった!が父は先に行っていたので、この件は母と玲羅しか聞いていない。
 
「あんたブラジャーつけてんだ?」
と母が小さな声で訊く。
「だって女の子だもん」
「まあいっか」
 

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少女たちの伝承(3)

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