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■少女たちの伝承(4)

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母が売店でお弁当を買ってきたので待合室で食べた。搭乗時刻になるので慌ただしく乗り込む。そして飛行機は定刻を少し遅れて離陸したが、父は飛行機初体験だったし、雪が降っていて雲を通過する時に結構揺れたこともあり、かなりビビっていたようだった。玲羅は揺れるのを「ジェットコースターみたい」などと言って面白がっていた。
 
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空港を出てホテルに到着したのはもう22:00頃である。部屋はツインにエキストラベッドを2つ入れてあった。
 
「もう風呂入って寝よう」
「そうだね」
 
それで、お風呂セットを持って地下の大浴場に行く。大浴場なので当然男女に分かれている。千里はつい女湯に行きかけたのだが父に停められた。
 
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「お前何やってんの?女湯に入ったら逮捕されるぞ」
などと父から言われる。
 
それで強引に男湯に連行された。
 
いや、私、男湯に入ったら逮捕されそうなんですけど!?
 
母がちょっと心配そうにこちらを見ていた。
 

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千里が男湯の脱衣場に入ると、視線が集中するのを感じる。
 
だよねぇ。男湯の脱衣場に女の子が入ってきたら何事かと思うよね。逆なら即逮捕される所だよ。
 
案の定、従業員さんが見とがめてこちらに来る。しかし千里は父に言った。
 
「あ、ごめん。忘れ物取ってくる」
「いいけど、何忘れてきたの」
「ちょっとね」
 
それで千里は男湯の脱衣場を出てしまったのである。従業員さんがこちらを見送る視線を背中に感じた。
 
いったん地下ロビーまで戻る。そして目を閉じて、“玲羅の目”で様子を伺う。
 
まだ服を脱いでいる所か・・・・
 
ふたりが浴室に移動するのを待つ。
 
「よし行こう」
 
それで千里は女湯の脱衣場に行く。脱衣場の入口の所に女性の従業員さんが立っていて、タオルを渡してくれた。
 
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「ありがとうございます」
と言って受けとってから中に入る。
 

脱衣場の中は女性ばかりである(男がいたら大変だ)。千里は緊張がゆるむのを感じる。さっき男湯の脱衣場に入った時は凄く緊張した。
 
母と玲羅が使ったロッカーは“波動”で分かるので、その近くを避け。母たちのロッカーからは死角になる所のロッカーを開けた。自分の着替えを入れ、服を脱ぐ。少しだけ膨らみかけた胸、そして何も無いお股が露わになる。千里は入口で渡されたタオルの内、バスタオルはロッカーに入れ、フェイスタオルだけ持って浴室に移動した。
 
父は普段から入浴時間が短いので多分20分くらいであがってしまうだろうと思った。だから自分が普通に入浴してからあがれば、その時点で既に父は部屋に戻ってしまっているだろうから入口付近で父と遭遇する危険は無い。だからそちらは考えなくてよい。母や玲羅と浴室内で遭遇せず、また脱衣室でも遭遇しないようにすることが大事だ。
 
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千里はそんなことを考えながら、母たちの場所を認識しながら、そこから離れた洗い場で髪を洗い、身体を洗った。あの付近もていねいに洗っておく。しかし長い距離を移動してきたので、身体を洗っていると疲れも一緒に洗い流されていく気がする。やはりお風呂っていいなと思う。
 
母たちは湯船につかっていたのだが、玲羅が何種類もある湯船に全部入ってみようとしているようだ。今浴槽に入るのは危険だなと思い、千里は再度身体を洗っていた。
 
母が玲羅を注意し、あがって脱衣場に移動する。それで千里は浴槽に入り、お湯の中で身体の筋肉がこわばっているところを揉みほぐした。
 

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ゆっくりと浸かっている間に母と玲羅は服を着る。玲羅は自販機でジュースを買ってもらい、それを飲んでいるようだ。母はその間に少し涼んでいるもよう。時間がかかるので、千里は別の浴槽に移動し、そちらでまたのんびりと浸かった。
 
母たちが脱衣場を出る。
 
千里は浴槽からあがり、脱衣場に移動した。ロッカーを開け、身体をバスタオルで拭く。そして服を着始めた時のことであった。
 
玲羅がまた脱衣場の中に走り込んで来たのである。何か忘れ物でもしたのだろうか。しかし玲羅は自分たちが使っていたロッカーのある付近ではなく、方向を間違ったのか、千里の居る方向に走ってくる。
 
まずい!
 
千里は腰を落として何かを探しているかのような格好をした。
 
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玲羅は千里のすぐ後を走り抜けていき、着衣のまま浴室に入る。
 
そしてすぐ浴室の中から走り出てくるが、手にアヒルさん!を持っていた。
 
なるほどー。それを忘れたのか。
 
しかし玲羅はそのまま今度は反対側を通って脱衣場の外に走り出して行った。
 
全くびっくりさせるよ!
 
と千里は思った。
 

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母たちがエレベータの前まで行った所で千里は女湯の脱衣場を出た。そしてエレベータの所に行くが、ゴンドラがなかなか来なかったようで、母たちはまだ居た。
 
「あれ?お兄ちゃん」
「あんた今上がったんだ?」
「うん。疲れが溜まってて、うっかり眠りそうになった」
「溺れるよ!」
「お父ちゃんは?」
「もうだいぶ前にあがったよ。お父ちゃん早いんだもん」
「あの人はカラスの行水だからね〜」
と母は言っていた。
 
ともかくもこの夜は千里は平和に入浴することができたのであった。
 
「でもあんた本当に男湯に入ったの?」
と母が訊いた。
「そうだけど」
「ふーん」
 
3人が部屋に戻ると父はビールを飲んでいた。
 
「あれ?お前たち一緒だったの?」
「うん。エレベータの前で一緒になった」
「ああ、エレベータの前でか。一瞬千里まで女湯に入ったかと思った」
 
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「まさか」
と母は言った。
 

翌日(1/26 Sat)はホテルで早めの昼食にきしめんを食べたあと、近鉄で四日市市に移動した。
 
結婚式は13:00, 披露宴は14:00-16:00の予定である。新婦の美帆里さんは、中学・高校で母と同級生だったが、高校在学中に父親が名古屋に転勤になった。それで彼女は高校在学中は親戚の家に居候させてもらっていて、卒業後名古屋に移動した。中学なら公立の学校であれば転入生を簡単に受け入れてくれるが、高校生は大変である。転入試験は結構レベルが高い。私立に通わせるには経済的に厳しかったので、卒業まで居残りを決めたのである。
 
名古屋近郊の自動車部品の会社に就職し、働きながら通信制の大学を卒業。その後、法律事務所の事務員になり、司法書士の資格も取得したらしい。母は「あの子は努力家」と言っていた。しかし仕事が忙しくて、恋愛などしている暇が無く、34歳での初婚ということになったようだ。でも彼女は結婚後もそのまま法律事務所の仕事を続けるらしい。
 
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「だけど明日が友引なのに、なんで今日結婚式なのよ?カレンダー見て私日付を間違えたかと悩んじゃった」
 
「だって友引の日は予約がいっぱいで取れなかったんだもん」
「都会は大変だなあ」
 
1月27日は日曜の友引なので、式場などは予約がいっぱいである。確かに今日26日(先勝)の方が式場はすいていたろう。
 

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披露宴に出席するのは母だけなので、千里と玲羅はロビーで適当に本でも読んでいてと言われ、ここに来る前に本屋さんに寄って、玲羅は出たばかりの『Dr.リンにきいてみて!』5巻を買ってもらい読んでいた。千里は鼓笛隊の練習してると言った。
 
「ロビーで笛吹いたら迷惑では?」
「音は出さないよ。指使いだけで練習する」
「なるほどね」
 
父はパチンコしているということだった。父は普段はそういうのはしないのだが(金曜日に帰港したら月曜日早朝出港するまで家でひたすら寝ていることが多い)、せっかく都会に出たので、都会のパチンコ屋に行ってみたかったのだろう。
 
それで漫画を読んでいるそばで千里が笛の練習をしていたら、60歳くらいの女性が通り掛かる。
 
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「あら、あなた笛を吹くの?」
「はい。鼓笛隊でこのファイフを吹くんですけど、来月下旬の卒業生を送る会までに3曲覚えないといけないので大変です」
 
「ああ、鼓笛隊か。3曲って何と何?」
「サイジョウ・ヤソとかいう人の『ヤングマン』と、『ほたるの光』と、Kinki Kidsの『情熱』です」
 
「西条八十(やそ)じゃなくて西城秀樹かな」
「あ、そんな名前だったかな」
「情熱どのくらい吹く?音出していいから吹いてみて」
「あ、はい」
 

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それで千里は『情熱』のメロディーを吹いてみせた。
 
女性は千里の笛を聴いて難しい顔をした。ああ、私まだ下手くそだよなぁと思いながら吹いていたのだが、吹き終わると女性は言った。
 
「あなた、披露宴でこれ吹いてくれない?」
「え?私下手なのに」
「いや、天才だと思った」
「それはないと思いますけど」
「でも吹くのはいい?」
「はい。私の演奏でよければ」
「あなた、名前は?」
「村山千里です。村山津気子、旧姓では奥沼津気子の子供です」
 
ここで“息子”とは言いたくないが、“娘”と名乗る自信がないので子供という曖昧な言葉を使っている。
 
「ああ。ツキちゃんの娘さんか。あなたとは後でまたゆっくり話したいなあ」
 
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“娘”という言葉に隣にいる玲羅がピクッとしたものの、千里が“娘”とか“お嬢さん”と呼ばれるのは、聞き慣れている!のでスルーしてくれた。
 
「お時間があれば」
と千里は答える。
 

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「どこに住んでいるんだっけ?留萌?旭川?」
「留萌です」
「そうか。じゃまた後で声を掛けるね」
「はい」
「取り敢えず来て」
というので千里は玲羅に
「ちょっと行ってくるね」
と声を掛けると、その女性に付いていった。
 
「そうそう。私は遠駒藤子」
「遠駒さんですか。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 
それで遠駒さんに連れられて披露宴会場に入る。遠駒さんが司会者に囁いている。司会者が頷いている。遠駒さんが千里のそばによる。
 
「今歌っている人たちの次の次に入ってもらえる?」
「はい」
 
「でもあなたまるで男の子みたいな格好」
「旅行なので」
「もう少し可愛い衣装着せてあげるよ。まだ10分くらいあるから、ちょっとこちらにおいで」
と言われて、千里は新婦親族控室と書かれた所に連れて行かれた。母を知っているようだったし、新婦の・・・伯母さんか何かかな?と千里は思った。
 
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「色々子供たちに役目を果たしてもらわないといけなかったりするから、子供用の衣装もたくさん用意しておいたのよね。あなた、これが似合いそう」
 
と言われて青いドレスを渡された。千里はすぐ今着ているフリース・シャツ・ズボンを脱ぎ、そのドレスを頭からかぶる。背中のファスナーを遠駒さんに上げてもらったが、背中ファスナーの服は、祖父・十四春の葬儀の時以来だな、と千里は思った。男物の服ではあり得ない仕様だから、こういう服を着ると“女である喜び”を感じる。
 

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それで披露宴会場にとんぼ返りする。
 
前の人の歌がまだ途中だ。モーニング娘。の『ハッピーサマーウェディング』を歌っている。例によって「証券会社に勤める杉本さん」を「自動車会社に勤める山口さん」と新郎の仕事と名前に変更して歌っていた。
 
そしてそれが終わった所で
「新婦のご友人・奥沼津気子さんのお嬢さん・千里ちゃんの横笛演奏で曲はキンキキッズの『情熱』です」
と紹介される。
 
母がギョッとした顔でこちらを見ているのを見る。
 
あはは。こういうシチュエーション、なんか頻繁に起きている気がするけど。
 
それで千里がファイフで『情熱』を吹くと会場がシーンとしている。やはりあまり上手くないからかなあ、などと考えながらそれでも一所懸命千里は笛を吹いた。
 
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そして吹き終わると物凄い拍手である。千里はびっくりしたが、笛を持つ左手と右手をドレスの前で合わせて深くお辞儀をする。そして遠駒さんと一緒に退出した。
 
「凄い拍手もらってびっくりしちゃった」
「だって本当にうまかったもん」
「そうですか?」
 
ともかくも再度控室に行き、ドレスを脱いで着てきた服に着替えた。御礼と言われてケーキをもらったので、玲羅と分けて食べた。
 

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やがて披露宴が終わってから母が出て来たが
 
「心臓が停まるかと思った」
などと言っている。
 
「笛の練習してたら、遠駒さんが通りかかって。笛を音を出して吹いてみてというから吹いてみたら、ぜひ披露宴で吹いてと言われちゃって。でも凄い拍手もらって、びっくりしちゃった」
 
「いや、上手かったと思うよ」
と母は言った。
 
ドレスを着ていた件、「奥沼さんのお嬢さん」と紹介された件は、どうもスルーするようだ。まあ、いつものことだしね!
 
 
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少女たちの伝承(4)

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