広告:エキストラ-桜沢ゆう-ebook
[携帯Top] [文字サイズ]

■少女たちの伝承(5)

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8 
前頁次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

(C)Eriko Kawaguchi 2020-10-30
 
美帆里さんの結婚式が終わった後、四日市市内で父と合流するつもりだったのだが、母は友人控室で着替えている最中に遠駒藤子さんから声を掛けられた。
 
「奥沼さん、申し訳無いんだけど、良かったらおたくのお嬢さんを今晩一晩貸してくれないかしら?」
 
「娘って、この子ですか?」
と母の着替えに付いてきている玲羅を見て言う。
 
「いえ、お姉さんの千里ちゃんを借りたいんですけど。ちょっと会わせたい人がいて」
「ああ。千里ね。いいですよ」
 
それで控室を出てからロビーで待っていた千里に声を掛ける。千里も了承するので、千里は母たちと別れて、遠駒さんに付いていくことになった。
 
「じゃ明日の朝9時にナガシマスパーランドの入口まで送り届けますね」
「すみませーん」
 
↓ ↑ Bottom Top

それで千里は遠駒さんの車・年代物のサニーに乗って20分くらい走り、神社のような所にやってきた。“神社のような所”と思ったのは、形は神社のように鳥居もあるのだが、神社とは雰囲気が違っていたからである。
 
「ここは何でしょう?神社みたいな形しているけど」
と千里が言うと
「あんた、やはり私が思ってた通りの子だ。その違いが分かるって」
と彼女は言った。
 
「あの鳥居は結界を切っているだけで、ここは別に神社ではないのよ。一応宗教法人にはなっているけどね」
「へー」
 
彼女は千里を連れて中の神殿のように見える建物に入っていく。そこに80代かなという感じの女性がいた。
 
「お帰り、藤子ちゃん。って、その子は?」
とその女性が驚いたような顔をして言う。
 
↓ ↑ Bottom Top

「この子、凄いでしょ?」
「何者かと思ったよ」
 
「あのぉ、すみません。何でしょうか」
と千里は戸惑うように尋ねた。
 
「あ、ごめんね。こちらはここの主で私の母、遠駒貴子。こちらは私の姪の友人の娘さんで村山千里ちゃん」
と藤子さんは双方を紹介した。
 
「初めまして、村山千里と申します」
「初めまして、遠駒貴子です」
 
「あのぉ」
「はい」
「お母さんって、御主人のお母さんですよね」
「よく分かるね!」
「だって2人に共通するものが無いから、親子には見えないから」
 
「あんたほんとに凄い子だ」
「凄すぎて心配になるくらいですよね」
「あなた、“閉じ方”分かる?」
「あ、そうか。ずっと前に注意されたことあった」
と言って千里が“閉じる”と藤子さんも貴子さんも
「凄い」
と言って驚いている。
 
↓ ↑ Bottom Top

「あなた、普段はその状態にしておいた方がいいよ」
「この閉じ方を教えてくれた人からもそう言われました」
「必要な時だけ開ければいいね」
「はい」
 
「あなた御飯食べた?」
「まだです」
「じゃ、御飯食べて、お風呂入ってから、ちょっとある物を見てくれない?」
と藤子さんは言った。
「この子に“あれ”を読ませてみたいと思ったんですよ」
「ああ、それは試してみたい」
と貴子さんも言った。
 

↓ ↑ Bottom Top

それで藤子さんに連れられてロビーのような所に行く。他に何人かの男女が食事をしていたが、千里は藤子さんと一緒に夕食をごちそうになった。美味しい御飯だったが、お肉を使用していない。しょうじ料理とかってやつだっけ?などと思う。
 
その後、お風呂を頂く。お風呂は男女に分かれていたが、もちろん千里は女湯に入った。中には他に中年の女性が3人くらい居た。でも今夜は堂々と女湯に入れて助かる!と千里は思った。今夜も両親たちと泊まるとまたお風呂で悩むところだった。
 
お風呂からあがってロビーで無料サーバーのお茶を汲み、飲みながら少し休んでいたら藤子さんが来てこちらへと言う。最初に入った神殿のような建物の所に行く。貴子さんが一冊の和綴じの本を出してきて千里に見せた。
 
↓ ↑ Bottom Top

「これ読める?」
 
千里はその本を見て、何これ〜〜!?と思った。ひとつひとつの文字としては読めるものが多いのだが(何かの記号のようなものも多い)、およそ日本語や中国語には見えない。でも千里は読めるような気がした。
 
「われわれの全ては生まれつつある。全ての源となるものもこの世界のあらゆる物事も常に生まれつつある」
 
「おぉ!!」
と貴子さんが声を挙げている。
 
「だったらこちらは読める?」
 
千里は“読む”。
 
「風は西より吹きて、東の海の彼方に行く。富士の峰にかかる風、なお光をその内にたたえん」
 
「そこはまだ未解読の部分でしたね」
と藤子さん。
 
「うん。読み方に悩んでいた。確かに今の読み方が正しい気がする。この子は光辞に愛されている。光辞が自らこの子に自分の“読まれ方”を伝えている感じだ」
 
↓ ↑ Bottom Top

「ああ、そうですよね。読んでいるというより再生している感じ」
と貴子も言う。
 
「ちょっと待って」
と言って、貴子さんは押し入れのような所からラジカセを出してきた。新しいカセットテープの封を切り、ラジカセにセットする。
 
「申し訳無いが、今のところもう一度最初から読んでもらえない?」
「いいですよ」
 
それで千里はその本をずっと読んだのである。30分ほど読んだ所でさすがに千里も疲れてきたなと思った頃、藤子さんが停めた。
 
「長時間の作業は疲れますし、精度も落ちると思います。今日はここまでにしましょう」
「そうだね。でもこの子に光辞を最初から全文読ませたい。そなたどこに住んでいる?」
 
「北海道の留萌(るもい)というところです」
「北海道かぁ!」
と貴子さんは残念そうである。
 
↓ ↑ Bottom Top

「藤子さんの姪御さんの結婚式があったので、偶然四日市に来たんですよ」
 
貴子さんはしばらく考えるようにしていたが言った。
 
「だったら、こういうことはできない?定期的に私がそちらにこれの写本を送るから、それを読んでもらって、カセットテープに録音して送ってもらえないだろうか」
 
「うちカセットテープとかないんですが」
と千里が言ったら隣に突然小春が出現する。
 
「済みません。紹介もされずに姿を現して。私がカセットテープと録音できる機器は用意して録音させますので」
と小春は言った。
 
「あなたのことは見えていたよ」
と貴子さんは笑顔で言った。藤子さんの方は突然小春が現れてギョッとしたようだった。
 
↓ ↑ Bottom Top

「じゃお願い出来る?可愛いキツネさん」
「はい。いいよね?千里」
「うん」
「充分な御礼はしますので」
「分かりました」
 
「そうだ。あなたに名前をあげていい?」
「名前を?」
 
「駿馬というのはどうだろう」
「しゅんめ?」
千里は言葉の意味が分からず問い返す。
 
「すばやい馬という意味ですね」
と小春が言う。
 
「そうそう」
と言って貴子さんは毛筆で上等の半紙に“駿馬”と書き、遠駒恵雨と御自分の号も署名した。美しい字である。
 
「あなたを見ていたら、力強く走る馬をイメージした」
「私の父は、私が千里(せんり)を駆ける馬のようになるといいなと言って、千里(ちさと)とつけたらしいです」
 
「おお、それはピッタリだった」
 
↓ ↑ Bottom Top

そういう訳で駿馬の名前は実は富嶽教団の遠駒貴子(号は恵雨)さんから頂いたものなのである。
 

結局、遠駒さんから毎週、富嶽光辞の“写し”を10帖程度送ってもらい、千里が朗読しては小春がカセットテープ(最も保存性が良いと思われる60分テープ)に録音し、郵送することにした。
 
実はコピーで試してみたが、コピーでは千里は読めなかったので、藤子さんの娘(=遠駒来光と恵雨の孫/美帆里の従妹)の真里さんが原典を書写し、それを千里に送ってくれることになった。貴子さんは「多分魂のある者にしか写すことはできないのだと思う」と言っていた。その送られて来た“写し”は千里が持っていてくれと言われたので千里はこれをP神社の倉庫に保管していた。
 
↓ ↑ Bottom Top

その(一般には未公開の部分も含めて)全部で約1300帖にもなる“原典の写し”(実質オリジナルの分霊に近い)は現在でもP神社に置かれている。小春は
「きっと貴子さんは自分が死んだ後で資料が散逸するのを防ぐために予備を作っておきたいんだよ」と言っていた。ただし文字ではなく絵のみで構成されている帖は書写が困難なので、その部分を読むために千里は中学時代1度ここを再訪している。その帖については結局千里自身がその絵を模写して持ち帰り、それもP神社に一緒に保管した。この模写でも千里は読めた(現地で原典を見て読んだのと誤差レベルの違いしか無かった)。
 
小春は経年的な劣化を避けるため、千里の朗読(再生?)はICレコーダに録音してUSBメモリーにコピーして送りましょうかと言ったのだが、USBメモリとか分からん!と言われたので、最初に言われたようにカセットテープにした。ただし小春は同時にICレコーダでも録音し、DVDに焼いて保管している。
 
↓ ↑ Bottom Top

この作業は千里が中学3年生の時まで約4年間続くことになる。中学に進学して以降は、小春から後事を頼まれていた彼女の後輩の小町が録音作業をしてくれた。
 

↓ ↑ Bottom Top

その夜、千里は9時まで貴子さんたちと話をしてから、施設内の宿舎に泊まった。翌朝は朝御飯を頂いてから、また1時間ほど貴子さんたちと作業をした(うち光辞の朗読は30分くらい)。その後ナガシマスパーランドまで送ってもらい、藤子さんとは別れた。
 
「何の用事だったの?」
と母から訊かれる。
 
「お婆さんに本を読んでくれと言われた。私の読み方が凄く聴きやすいんだって。だからそれをテープレコーダーに吹き込んで送ることにした」
「へー。あんたの読み方が相性いいということなのかね」
 
「ああ、そんなこと言われたよ。だから御礼もするって。今日の分って頂いちゃった」
 
と言って千里は封筒を母に見せたが、母はギョッとした。父に気付かれないように千里に戻す。
 
↓ ↑ Bottom Top

「だったら、頂いたお金であんた竹刀の新しいの買うといいよ。だいぶ傷んでたでしょ?」
「うん。実はこないだの大会でも注意された」
「それで残りは貯金しておきなさい」
「うん。そうする」
 

↓ ↑ Bottom Top

ナガシマ・スパーランドに入場する。
 
千里は玲羅に付き添っててと言われたが、玲羅はひたすら絶叫マシーンに乗りたがるので、千里はしばしば、降りた後、しばらく重力の方向に悩んだりした。
 
玲羅は最初大人気のスチールドラゴン2000に行く。このコースターは身長140-185cmという制限がある。
「玲羅は身長足りないのでは?」
と言っていたのだが、係の人も少し悩んで
「測ってみよう」
と言って身長計の所に立たせると140.1cm と言われ、ギリギリ合格した。玲羅は喜んでいたが、千里は巨大なコースターを見上げて絶望的な気分になった。
 
それから数分間の記憶は飛んでいる!
 

↓ ↑ Bottom Top

そして実はナガシマスパーランドのマシーンの中でスチールドラゴン2000が最も身長制限が厳しかったのである。他のアトラクションは全部OKだったので、千里は何度も何度も死ぬことになる。
 
千里は小春に「私の身体の中に入り込んで、失神しておしっこもらしたりしないようにしてくれない?」と頼み、小春も呆れていたものの、中に入ってくれた。
「私だって怖いんだからね」
と小春は文句を言っていた。
 
スチールドラゴン2000の次は“木製コースター”ホワイトサイクロン(身長130-)に乗ったが、これはスピードや重力の恐怖に加えて「このコースター壊れないか?」という別の恐怖もあって、途中やはり記憶が途切れている。
 
その後、ダブルジャンボバイキングに行くが、降りた後5分ほど立ち上がれなかった。スペースショットはまた記憶が途切れている。
 
↓ ↑ Bottom Top


この時点(2002.1)に確実に存在したアトラクション↓
 
ウルトラツイスター (1989.8.1-)
コークスクリュー(1978.7.2-)
ジェットコースター (1966.3.19-)
シャトルループ (1980.3.1-)
シュート・ザ・シュート(1995.7.20-)
スチールドラゴン2000 (2000.8.1-2003.8.23/2006.9.3-)
スペースショット ( 1997.4.27-)
大観覧車オーロラ (1992.8.1-)
ダブルジャンボバイキング (1985.3.30-)
バイキング (1980.3.1-)
フリーフォール (1995.7.20-)
ホワイトサイクロン (1994.3-2018.1.28)
ルーピングスター (1982.3.7-)
 
当時無かった主なアトラクション↓
アクロバット(2015.7.18-)、嵐(2017.3.10-)、オムニマックス(?-2001.2.28)、ジャイアントフリスビー(2004.7.9-)、スターフライヤー(2012.3.17-)、テレコンバット(2006.3.18-)、トップスピン(2006.5.2-)、白鯨(2019.3.28-)、ナガシマ釣りスピリッツ〜伝説の白鯨を追え〜(2018.12.19-)、パラトルーパー(2006.3.18-)、牧場deバンバン(2019.4.19-)、ポケモンアドベンチャーキャンプ(2012.7.21-2017.9.24)、ボブカート(2004.3.18-)、C.ロックンロール(2006.3.18-)
 
↓ ↑ Bottom Top

開業時期不明↓
ウェーブスウィンガー、お化け屋敷、コーヒーカップ、ジャンボバイキング、ジェットスキー、、スイングアラウンド、、スペースシャトル、ダブルワイルドマウス、ふしぎの森と迷宮やしき、フライングカーペット、フリスビー、A.ロックンロール(-2011.9.19)
 

↓ ↑ Bottom Top

↓ ↑ Bottom Top

前頁次頁目次

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8 
少女たちの伝承(5)

広告:國崎出雲の事情 4 (少年サンデーコミックス)