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■少女たちの伝承(2)

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ところがそこに救いの神が現れたのである。実行委員会の人が来て言った。
 
「すみません、プレゼント企画があるのですが、プレゼンターにこちらの学校の生徒さんから2人くらい出てもらえませんか?」
 
「でも私たち、次の次の出番なのですが」
「ええ。それでプレゼンターをしてくださる方はその衣装のまま出演して頂いくということで」
 
「何か衣装があるんですか?」
「サンタの衣装なのですが」
 
「します!」
と千里は手を挙げた。もうひとり4年生の佐原さんもすることになり、千里たちはサンタの衣装を渡された。
 
「あれ?これ下はスカートなんですね?」
「サンタガールですね」
「まあいっか」
 
合唱サークルのチュニック+スカートよりは何とかなる気がした。
 
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お元気会の集団演技が終わった後。ステージは一時中断してビンゴが行われる。それで当たった人に6人のサンタガールがプレゼントを渡すという趣向である。
 
旭川出身で集団アイドル・色鉛筆のメンバーである広中恵美が物凄く可愛いサンタガールの衣装を着ている。千里たち小学生・中学生の女子6人がまあまあ可愛いサンタガールの衣装である。
 
それで広中さんがビンゴの機械を回しては番号をひとつずつ発表していく。サンタガールの中で中学生の子2人がその番号を掲示する係をしており、残りの4人がプレゼンターということになった。
 
6個目の番号で早くもビンゴが出る。ひとりの子がそのお客さんの所にプレゼントの箱を持っていった。続けて当選が出る。別の子がプレゼントを持って行く。更に続けて2人ビンゴが出る。千里がその1人のところに持っていく。
 
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父だ!
 
取り敢えずプレゼントを渡すことにする。
 
「ビンゴおめでとうございます」
と言って、カードと交換にプレゼントを渡す。
 
「ありがとうって、千里!?」
「この後合唱サークルの出番だから」
「お前、なんて格好してんの?」
「サンタの衣装だけど」
「スカートじゃん」
「ちがうよ。これはチュニカといって、昔の修道士の衣装で裙が長いんだよ、サンタクロースって、元は聖ニコラウスといって、修道士さんだったから」
 
「ああ、そういや中世の修道士がそんな感じの衣装だったかな」
 
ということで千里はうまく(?)言い逃れたのであった。
 

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ビンゴ大会の後、合唱サークルの出番である。サンタガールの衣装のままステージに上る。阿部さんが電子ピアノの前に座り、海老名君がトランペットを持って立つ。馬原先生とのアイコンタクトで伴奏が始まり、歌が始まった。
 
『流氷に乗ったライオン』を演奏する。
 
潮に流されていく流氷。それに乗ってしまったライオンの不安そうな心情を歌って行く。観客はほとんどがこの歌を知らないと思うが、不安そうな顔で聴いている。しかし最後になって流氷が運良く島に流れ着き、何とかなりそうという喜びで終了すると、観客が一様にホッとした表情になるのが歌っていても嬉しかった。
 
続いて『きよしこの夜』を演奏する。
 
と思った所で突然体育館の電気が落ちた。
 
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真っ暗になりざわめきが起きる。
 
「皆さん、落ち着いて!」
と大きな声をあげたのは、自分が弾いていた電子ピアノの電源が唐突に落ちてびっくりしたであろう阿部さんであった。
 
彼女は東京でのコンクールの時もみんなを落ち着かせる役割を果たしている。トラブルに強い性格なんだろうなと千里は思った。
 

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「係の人から指示があるまで待ってましょう。爆発したりはしませんよ」
と阿部さんが会場に向かって言うと、客席からは笑い声もある。
 
それでみんな落ち着いてパニックは避けられた。この件で彼女は会場から後で感謝状までもらったようである!
 
5分近く経ってから主催者である市の課長さんが壇上にあがり、電気系統が落ちてしまったこと。すぐには故障箇所が分からないこと。空調も切れているので、今日はイベントを打ち切りたいことが説明される。
 
そういう訳で千里たちは演奏途中ではあったが、これで打ち切りということになった。
 
・・・と思ったのだが、ここで偶然客席にいた市長さんが立ち上がって言った。
 
「**君、このまま解散は寂しいから、クリスマスだし会場のみんなで、きよしこの夜を歌ってから解散しない?」
 
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すると阿部さんが言った。
 
「だったら練習用に持って来たポルタトーンで伴奏します」
 
「じゃよろしくー」
 
それで阿部さんがポルタトーンで『きよしこの夜』の前奏をドソミソーファレドと弾き、会場全体で『きよしこの夜』を歌ったのである。非常灯だけが点いて暗い会場の中で、合唱部員たちが手に持って鳴らす鈴も美しく響いた。
 
その後、係の人の案内に従い、後の方の席の人から順に退場した。トラブルがあったわりには、素敵なクリスマスイブだった。
 
なお、千里たちの後で演奏を予定していたのは、商工会の合唱団の人と、色鉛筆の広中恵美ちゃんだけだった。ただし広中恵美ちゃんは最初の方でも一度歌唱しており2度目のステージ(このイベントのトリ)がキャンセルになっただけである。1度目のステージは千里も聴いたがアイドルにしてはうまいなと思った。
 
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帰りは結局、岸本さんの車に父と同乗して帰ることになった。
 
「お父ちゃん、何が当たったの?」
「お前が渡してくれたのにお前は知らんのか?」
「私たちは箱を渡しただけだし」
 
父はまだ箱を開けてなかったのでその場で開ける。
 
「流します、パーランドとかいう所の招待券だ」
と父は言う(父は助手席、千里は後部座席に乗っている)。
 
千里はなんだろう?と考えた。しかし運転しながらチラッと父が手に持つ券を見た岸本さんが
 
「村山さん、それ、長島スパーランドだよ」
と言った。
 
「ああ。そこで切るのか。何です?スパーって温泉ですかね?」
「温泉もあるけど遊園地がメインなんですよ」
「へー。札幌かどこか?」
「いや名古屋ですよ」
「そんな遠くまでは行けない!岸本さんいりません?」
「いや、奥さんに渡したらいいですよ。お嬢さんたちと一緒に行ってくればいいし」
「でも名古屋までもいく交通費が無いですよ」
 
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(岸本さんはこちらを千里・玲羅の女の子2人と思っているが“お嬢さんたち”ということばで武矢は玲羅のことを言われてると思っている)
 

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そんなことを言っていたのだが、帰宅してからよく見ると、ちゃんと往復の交通費まで出ると書かれている。家族や恋人で4人まで行けるようだ。
 
「じゃ私と子供たち2人で行って来ようかしら」
と母は言う。
 
「子供たちは学校があるだろう?」
「土日に行ってくるよ。日程は1月15日から3月8日までならいつでもいいというから、坂田さんの結婚式に合わせて行ってくる」
 
「ああ、言ってたな。坂田さんの結婚式って名古屋の近くだったっけ?」
「名古屋から四日市までは電車で1時間も掛からないよ」
「そんなに近いのか。でもここから名古屋まで行くのに3日くらい掛かるだろ?」
 
それいつの時代の話だ!?
 
「新千歳から小牧まで飛行機があるよ」
 
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(千歳空港から隣接する新千歳空港に民間便が移管されたのは1988年。名古屋空港(小牧空港)から中部国際空港への移管は2005年なのでこの時期は新千歳−小牧の時代。2001年5月の時刻表で1日13往復あったことが確認できる)
 
「じゃ土日で行って来れるのか?」
「だからお父ちゃんも行けるよ」
「そんなんで疲れて仕事に支障がでたら困るから俺は行かん」
「じゃ私たちだけで行ってくるね」
 

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千里の父は12/25(火)に出港し、28日(金)に帰港した。29日から1月6日まで約1週間お休みで、次は1月7日(月)の出港である。
 
父はまた昨年のように温泉に行こうなどと言い出さないかヒヤヒヤだったのだが、今年は漁協でお正月の団体旅行が企画されていて、父はそれで層雲峡まで行ってくるということだった。父は母に「お前も来ないか?」と言ったものの、母は今度三重まで行くからと言って断った。父は私や玲羅も誘ったが、私は
 
「1月に剣道の大会があるから練習してる」
と言い、玲羅は
「お母ちゃんが行かないなら、私も行かない」
と言って、どちらも断った。それで父はひとりで参加した。
 
父たちは12/31にバスで出発し、1月1日は丸一日層雲峡に滞在して、1月2日に戻って来るということであった。それで結果的に千里たちはのんびりとしたお正月が過ごせた!
 
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「亭主元気で留守がいい、とはよく言ったもんだわ」
などと母は言っていた。
 
父が留守なので、母は千里と玲羅の2人に和服(当然2人とも女物!)を着せて近くのP神社まで初詣に言った。すると例によって小春が忙しそうにしていて
 
「千里〜!手が足りない。手伝ってよぉ」
と言っていたので、いったん家に帰った後、またひとりで神社に行き、巫女服を着てお手伝いをした。ほんとに手が足りない感じだったので、蓮菜と恵香も呼び出して手伝ってもらった。
 

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1月2日にも剣道部の初稽古に出たのだが、1月6日は級位認定会で市民体育館(クリスマスの時にイベントをした所)の剣道場まで行った。千里は夏に3級を取っていたのだが、その時あなたはもうひとつ上で行けると言われた。しかし次の級に進むには最低4ヶ月必要なので、4ヶ月経つのを待っていたのである。
 
審査料の2000円は神社でバイトしてもらったお金から出しておいた。
 
千里は基本動作、他の受験者との打ち合いもして合格を告げられた。これで千里は剣道2級を取得した。
 
「ところで今度の大会だけどさ」
と一緒に2級を取得した玖美子は言った。
 
「団体戦にも千里出てよ」
 
「え?私は戸籍上男子だから、女子の団体戦に出るのはまずいのでは?」
と千里は言うが
「女子の個人戦には出ている人が今更何を言ってる?」
と言われる。
 
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「いや、多津恵ちゃんがやめちゃったからメンツが足りないのよ」
「でも・・・」
 
「そもそも女子選手としての登録カードもらったでしょ?」
「これ?」
と言って、剣道協会から送られてきた会員証を見せる。
 
村山千里・平成3年3月3日生・留萌市立N小学校・女
 
と書かれている。
 
「女子として登録されているんだから堂々と女子として出ればいい」
と玖美子はいうが、千里はどうしても後ろめたいので渋っている。すると玖美子は少し考えていたが言った。
 
「だったら、千里、大将やって」
「大将〜〜!?そんなの無理」
 
「個人戦で地区大会3位になった人が何を言っている。それにさ、大将の所まで来る間に、たいてい勝負はもう決しているんだよ」
 
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「あ、そうか」
「だから一番強い人は先鋒に置くことが多い」
「なるほどー」
「私が先鋒やるから、千里は大将で」
「分かった」
 

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