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今年の運動会は5月20日(日)であった。
千里たち5年生は集団パフォーマンスでソーラン節を踊る。この踊り自体は小さい頃からみんな踊って知っているので、練習も簡単にしかしていない。
近年は高知県のよさこい祭で使用する鳴子を持って踊る「YOSAKOIソーラン」とかアップテンポの音楽で西洋ダンス的ふりつけの南中ソーランとかが随分有名になってしまったが、N小のソーラン節の振り付けは伝統的な民謡調のものだし、歌も地元の民謡を歌う人たちが集まって制作したレコードを使用している。4年前までは1970年代に制作したドーナツ盤のアナログレコードを使っていたが、3年前に地元の三味線の先生が中心になって、新しい録音を吹き込んでCDを制作したので、それ以降そのCDを使用している。
実際のパフォーマンスでは黒いハッピを着た太鼓係が前方に5人並び、それ以外の子がCDの音楽と太鼓に合わせて踊る。留実子はその太鼓係になっていた。実は紅一点なのだが、誰もそうは思っていない。多くの保護者たちも
「太鼓を叩いている男の子たち、5人とも格好良いね〜」
などと言っていた。
踊る子供たちは男子は青いハッピ、女子は赤いハッピを着たのだが
「千里はもちろんこっちだよね」
と玖美子に言われて、赤いハッピを着せられた。本人としても男の子のハッピは着たくないなと思っていたので、玖美子から渡された時は嬉しかった。
この集団パフォーマンスの他に、運動会では各組ごとに、応援のチアリーダーも選抜されている。千里は「去年もやってるから」と言われてチアになり、短いスカートを穿き、ボンボンを持ってパフォーマンスした。
「千里ちゃん、去年私がやったバク転を今年は千里ちゃんがしてよ」
と6年生の麻美子さんから言われている。
「私運動苦手ですよ〜。逆上がりもできないし」
と千里は言ったのだが
「こないだ剣道大会で地区準優勝した人が何を言っている?」
「こないだのソフトボールの試合ではノーヒットノーランをやったというし」
などと指摘されてたじたじとなる。
「バク転って筋力でするものではなくて、要領なんだよ。千里ちゃん身体が柔らかいしできると思うよ」
と言って、マットの上で模範演技も見せてくれて、丁寧にやり方を教えてくれた。
「欺されたと思って飛んでごらんよ」
「下はマットだから落ちても痛くない」
それで言われたような感じに後ろ向きに飛んでみる。
きれいに1回転して着地。
「できた!」
とみんなから声を掛けられる。
「嘘みたい!」
と千里自身が言った。
そういう訳で、今年千里はパフォーマンスのクライマックスでバク転の技を披露することになったのである。
当日、父は例によって(月曜早朝から仕事なので)「俺は今日疲れたら困るから寝てる」と言って自宅に残って母だけが出てきたので、千里は安心してチアの赤いスカートを穿いて応援のパフォーマンスをしていた。
「お兄ちゃん、なんでスカートなの?」
と3年生の玲羅は言うが
「チアはみんなスカート穿くんだよ」
と千里は言って開き直っていた。
今年も千里は徒競走(今年は5年生なので150m)は女子と一緒に走ることになった。ふだんから女子と一緒に体育をしているので、自然とそういう組になってしまった。しかし4人で走って4位なので、誰からも苦情は出ない。
「千里、わざと遅く走ってないか?」
と留実子から言われたが
「え?何のこと?」
としらばっくれておいた。
千里は午前中ラストの障害物競走でも女子のグループで走ったが、こちらは前を走っていた子がゴール寸前でスプーンに乗せていたピンポン球が風で飛んで行ってしまったので、千里は3位になった。それで賞状と記念品の鉛筆をもらう。鉛筆は《おジャ魔女どれみ#》のキャラクター商品だったが、男子は《仮面ライダー・クウガ》だったらしい。
(2001年の仮面ライダーはアギトである。おジャ魔女も「も〜っと!おジャ魔女」である。クウガ・#は2000年に放送されたものであり、要するに残り物を安く買ってきたのだろう)
午前の部の最後に応援合戦が行われる。例によって留実子は学生服を着て鉢巻きをして、太鼓係である。彼女の威勢のいい太鼓に合わせて、千里たちチアチームはパフォーマンスをする。
このパフォーマンスは安全のため「1.5段まで」という規制がされていたので、隣り合う2人が手をつなぎ、そこに別の子が登ってジャンプして降りるというところまでやった。千里はこのジャンプする係である(体重が軽いので)。千里は実は運動神経がいいので、これもきれいに決めた。
そして最後は前面でバク転をして、4年生の美波ちゃんに支えてもらう。
大きな拍手が行われる中、千里は美波ちゃんに言った。
「じゃ来年はこのバク転は美波ちゃんがしてね」
「え〜〜〜!?」
と彼女は言っていた。
お昼ごはんは、最初から留実子に一緒に食べようよと言っていたので、一緒に4人で食べた。
「すみませんね。ごちそうになって」
「ううん。千里が大して食べないから、ルミオ君がたくさん食べてくれるようにと思って、いっぱい作ってきたから」
と言って、母はニコニコしていたし、『彼』の食べっぷりに喜んでいた。
(千里の母は留実子は《ルミオ》という名前の男の子と思い込んでいる)
留実子の両親は共働きで日曜も仕事があるので来ていない。留実子はお昼はお店で買ってと言われて1000円もらっていたものの、千里が最初から誘っていたので何も買わずに千里たちの所に来た。もらった千円については留実子は「山分け」と言って、千里に500円渡そうとしたが、千里が「サッカーシューズ買うのの代金の一部にしなよ」と言ったので「じゃ、そうする」と言っていた。
昨年使っていたサッカーシューズは千里が留実子にプレゼントしたものであるが、それも1年間使ってかなり傷んできているのである。
午後1番に学年ごとのパフォーマンスが行われる。出し物はだいたい毎年固定である。6年生が鼓笛隊で出てきて『ヤングマン』と『ちょこっとLOVE』を演奏した。その後、5年生が出て、威勢良くソーラン節を踊る。留実子は午前の部の最後・応援パフォーマンスでも太鼓を叩いたが、ここでは黒いハッピに鉢巻きを巻いて太鼓を叩く。
「あの右側で太鼓叩いている男の子かっこいいね」
などと保護者たちから言われていたらしい。
留実子は2月のバレンタインの時は鞠古君にチョコを渡したのだが、留実子自身、他の女の子から5個もチョコをもらって困惑していたようである。
千里はもちろん赤いハッピを着て、女子の列の中でしっかり踊った。
(留実子は本当は女子の赤いハッピを着たくないので太鼓係に名乗りでたというのもあったようである)
運動会は男女の学年縦断リレーで終了する。
昨年は我妻先生の勘違いのおかげで男子のリレーに出た留実子だが今年は女子に出たので「花和、いつの間に女子に性転換した?」などと言われていた。実際の競技では留実子は200mの間に3位から1位まで上がる快走を見せ、青組の優勝に貢献したが
「女子の競技に男子を出すのはズルいのでは?」
などと保護者席からは言われていたようである。
男子の方は白組が優勝した。
運動会があった週、千里たちN小学校の5〜6年生は留萌市内の温水プール“ぷるも”にやってきた。
ここは今年7月にオープンする予定で建設が進められていたのだが、工事が遅れ、現在のオープン予定は9月2日である!もう夏が終わってしまってからのオープンという困ったことになってしまったのだが、プール本体は既にできあがっているということで、小中学生の授業に解放されることになったのである。
まずは更衣室で着換えるのだが、千里が蓮菜とおしゃべりしながら服を脱ごうとしていたら、一部の女子から
「千里、こちらに来たの?」
という声が掛かる。千里は何か言おうとしたのだが、先に蓮菜が言った。
「千里はこちらで問題無いと思うよ。千里、脱いでごらんよ」
「うん」
それで千里が服を脱ぐと、その下に既に女子用スクール水着を着ている。
「女子用スクール水着を持っていたのか!」
「おこづかいで買った」
「へー!」
正確には神社のバイトでもらった報酬で買っている。
「おっぱい少しあるね!」
「ってか、私より胸あるじゃん」
「お股に盛り上がりがない」
「そりゃ当然。千里にはちんちんなんて無いから」
「まあ完全ヌードも見たけどお股には何もついてなかったよ」
と穂花が言う。
「やはり女の子になる手術は済んでいたんだ!」
「それならこちらに来てもいいかもね」
といった声があがった。
それで千里はそのままシャワーを浴びてプールの方に行った。
北海道の5月下旬は「早春」という感じでまだけっこう寒いのだが、室内の温水プールは寒くもないし冷たくもないので、みんな楽しそうに泳いでいた。
千里は昨年の夏、桜井先生の個人レッスンを受けて取り敢えずクロールができる所までは来ているのだが、まだとっても遅い。
「千里、ソフトボール部やってるし、運動してたらもう少し腕も太くなって泳ぎも速くなるよ」
と他の子から言われていた。
1時間半ほど泳いでからあがる。
シャワーを通って女子更衣室に戻る。千里は蓮菜・穂花とおしゃべりしていたのだが、他の子たちは千里にさりげなく視線をやっていた。その視線に蓮菜は気付いているのだが、千里は無邪気で、全然気付いていないかのようである。
千里が水着を脱ぐ。
瞬間的に千里はフルヌードを女子の同級生たちに曝した。
しかしすぐにバスタオルで身体を拭くので、千里の身体はなかなか見えない。そして千里はパンティを穿いてしまうし、すぐにブラジャーも着ける。更にTシャツも着てしまうので、千里のヌードはもう見えなくなってしまう。
みんなが緊張感を解くのを蓮菜は感じた。
しかし千里は全く同級生たちの雰囲気に気付かないような感じでおしゃべりしながら、更に服を着ていった。
「一瞬見たけど、千里、微かにおっぱい膨らんでいた」
「確かにあれはジュニアブラつけてないと乳首が痛いと思う」
「お股にはやはり何も無かった」
「千里はやっぱり女の子の身体なんだね」
と同級生たちは後で噂していたのだが、千里はそんな会話がなされているとは知らない。
ともかくもこのようにして千里たちの温水プール初体験は平和的に終わったのである。
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少女たちの初めての体験(8)