広告:ここはグリーン・ウッド (第2巻) (白泉社文庫)
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■少女たちの初めての体験(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-09-15
 
「ねぇ、ボウリングに行かない?」
と言ってきたのは、留実子であった。
 
千里の家も貧乏だが、留実子の家は千里の家より輪を掛けて貧乏である。その留実子がおよそこういう話を持ってくるのは極めて珍しい。
 
「何があったの?」
と千里は訊いた。
 
「福引きで当たったんだよ」
「なるほどー!」
 
「貸靴付き、2ゲーム、ゲーム後の食事付き。本来なら3000円くらいの招待券。ペア2枚でこれは大人2人なんだけど、大人1人につき小学生は無料で遊べるんだよ。但し貸靴代は別」
 
「あれ?でもお兄さんとるみちゃんで行くのでは?」
「兄貴は高校受験目前だから勉強してるという話」
「なるほどー!」
「だから兄貴の代わりに千里行かない?」
「お兄さんの代わりなら私、男装しないといけない?」
「むしろボクが男装して、そっちが女装ならいいと思う」
「それいいね!」
 
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それで千里の母と留実子の母が電話で話した上で、その日千里は留実子一家の車(年代物のセルボモード)に乗り、ボウリング場のある旭川に出たのである。千里の母は「ガソリン代」といって、千里から留実子の母に3000円渡させた。留実子の母は「もらいすぎ!」と言っていたが、ありがたくもらっておいたようである。
 
それ以外に千里はお小遣いに2000円もらったが「余ったら返して」と言われている。
 
当日は、例によって朝早く、父がまだ寝ているのをいいことにして可愛いスカートを穿いて出た。ちなみに留実子の母は千里のことを女の子と思い込んでいる(*1).
 

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(*1)留実子の母は千里を女の子と思っているので「男の子の友だちしかできたことがなかったのに、やっと女の子の友だちができた」と思っており、千里の母は留実子を男の子と思っているので「男の子の友だちができたのは久しぶり」と思っている。
 
子供の頃の千里の友人男子といえば、フィリピンに強制退去になった勲男くらいである。
 

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この時期は深川留萌自動車道は秩父別(ちっぷべつ)ICまでの11.6kmだけができているのだが、留実子の父が運転するセルボモードは高速には乗らずにひたすら下道を走って行く。それは「高速代がもったいない」という問題に加えて、この年代物の車(1991年型)はエンジンの機能が衰えていて、フルアクセル踏んでも85km/h程度しか出ない(本当に85km/h出すとエンジンが変な音を立てる)から高速に乗っても意味無いのである。
 
それでも朝9時に留萌を出て10時半頃には旭川のボウリング場に到着した。ここはショッピングモールの中にあるボウリング場である。
 
千里と留実子の靴を借り、ボールを選ぶ。
 
「これどうやって選べばいいの?」
「だいたい自分の体重の10分の1を選ぶといいんだよ。体重をキロで言う場合は0.22を掛けるといい」
と留実子の父が言っている。
 
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「留実子は体重40kgくらいだから0.22を掛けると8.8、つまり9ポンドを選べばいいと思う。千里ちゃんは体重は?」
「30kgくらいです」
「だったら0.22を掛けて6.6。6ポンドか7ポンドだな」
 
(3lb= 1.36kg/ 4lb= 1.81kg/ 5lb= 2.27kg/ 6lb= 2.72kg/ 7lb= 3.18kg/ 8lb= 3.63kg/ 9lb= 4.08kg/ 10lb= 4.54kg/ 11lb= 4.99kg/ 12lb= 5.44kg/ 13lb= 5.90kg/ 14lb= 6.35kg/ 15lb= 6.80kg)
 
それで千里は最初7ポンドを持ってみたが「重ーい」と感じて、6ポンドにした。それで試投してみるのだが、千里は「指がきっつーい」と思う。きちんと指が入らないので、つまむような感じになり、まともに投げられない。2本試投したのがどちらもガーターになった。留実子の方は父の勧めで9ポンドのボールで試投したが、1投目で7本倒し、2投目で残りの3本も倒した。
 
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「さっすが、るみちゃん!」
「千里は腕力がないから、置くように投げるといいよ」
と留実子はアドバイスした。
 

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ともかくもゲームを始める。4人で1レーン使用し、留実子→千里→母→父の順に回していく。
 
留実子はだいたい7〜9本倒し、時々スペアも出す。5フレーム目と10フレーム目ではストライクを出し、合計129点であった。
 
一方千里はほとんどがガーターである。かろうじて3回だけ1〜2本のピンが倒れ、合計5点であった!
 
「やっぱり私運動苦手〜」
と千里は言っていたのだが、留実子は、千里が右手の指を左手でさすっているのに気付く。
 
「千里、指どうしたの?」
「なんかボールの穴に指を入れると痛くて」
「痛い?」
「だって穴が狭いんだもん」
 
「千里それは小さすぎるボールを使っている」
「え〜?でも大きいのは重たいよ」
「千里、ボールが重たいのはあまり問題無い。それは要領で何とかなる。それより、ちゃんと指が無理なく入るボールを選ばなきゃ。それに千里は右手より左手の方が強いんじゃない?」
 
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「あ、そうかも」
 
それで留実子は子供用のボールの並んでいる所に千里を連れて行き、千里の左手の指が無理なく入るボールを選んでくれた。結局8ポンドにした。
 

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「これ重たいよぉ」
「平気平気。それを持ったままマラソンしろというわけではないし。ほんの数メートル運んで投げればいいんだよ。投げる時に腕で投げるんじゃなくて身体全体で押し出すようにするんだ。ボクの投げる所を見ててごらん」
 
と言って、留実子は千里に「横から見てて」と言って模範投球をしてみせてくれた。留実子の投げたボールはスクライクになる。
 
「すっごーい!」
「今の感じで千里もやってごらんよ」
「うん」
 
それで千里は8ポンドのボールを左手で持ち、さっきの留実子がしたイメージを思い浮かべながら、身体全体で押し出すようにしてボールをレーンに投じた。
 
するとボールはゆっくりとした速度で、しかしだいたいまっすぐ転がって行ったものの、ピンの少し前で落ちてガーターになった。
 
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「だめだ〜!」
と千里は言うが、留実子は
 
「今のは千里、ピンを見てなかったでしょ? 最後までピンをしっかり見ておくんだよ。目を離したらだめ。ちゃんと見ていれば自然とそちらに行くよ」
 
「へー!」
 

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それで千里は2投目は、留実子に言われたようにボールを手から放す瞬間までしっかりピンの並んでいる所を見ていた。
 
するとボールはまっすぐ転がって行き、ど真ん中に当たる。
 
「わっ」
と千里は驚いて声をあげる。
 
「おっ、ストライクかな?」
と留実子の父が声を出したものの、千里のボールは真ん中の8本を倒して、両端の2本が残った。
 
「おっしーい!」
 
「今のは仕方ない。ボールに勢いが無いから、全部倒しきれないんだな」
と留実子は言う。
 
「でもさっきは10回あわせて5本だったもん」
と千里。
 
「うん。だから今の感覚でやってみよう」
 
それで2ゲーム目を始めるが、千里は毎回6〜8本くらい倒していく。
 
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「千里ちゃんのボールはホントにまっすぐ転がっていくね」
と留実子の父がいう。
 
「うん。この子は凄くコントロールがいい」
と留実子もいう。
 
「これでもう少し腕力があればストライクの連続だろうけどなあ」
と留実子の父は惜しそうに言った。
 

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そして千里は最後の10フレーム目では1投目7本倒し、2投目で3本倒した。
 
「これで81点かな。さっきの10倍だ」
と千里が言っていたら
 
「千里、今のはスペアだからもう1回投げられる」
と留実子が言う。
 
「え?そうなの?」
とボウリングのルールが全く分かっていない千里が驚いて言う。
 
それで千里はもう1投した。すると10本全部倒れた。
 
「凄い!最後の最後でストライク!」
「すごーい!これもしかしてもう1投できる?」
「いや、そこで終わり」
「残念!」
 
「でもこれで91点じゃん」
「なんか凄くいい点数?」
「初めてやったにしては充分いい点数だと思うよ」
 
「千里ちゃん、私より点数がいい」
と言っている留実子の母は79点だった。
 
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ちなみに留実子は141点、留実子の父は184点であった。
 

靴を返却してからレストランコーナーに行くが、その前に千里も留実子もトイレに行っておくことにする。
 
トイレの前まで来てからお互いにチラッと見る。
「千里どっち?」
「自粛すべきかなあ・・・」
などと千里が言うので留実子が
 
「じゃ試しに入ってごらんよ」
と言う。それで千里はおそるおそる男子トイレに入ったのだが中にいた20歳くらいのお兄さんが驚いたような顔をして
 
「君、こっち違う!女子トイレは向こう!」
と言うので
「ごめんなさい!間違いました」
と言って、千里は慌てて外に出た。
 
「ほらね」
と留実子は言っている。
 
「るみちゃんは女子トイレに入ってみないの?」
「女の子が男子トイレに入ったら追い出されるだけだけど、男の子が女子トイレに入ったら、痴漢で捕まるからね」
と言って留実子は笑っている。
 
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「だからお互い、平和的な方に入ろうよ」
と留実子。
「そうだね」
と千里も言い、留実子は結局男子トイレ、千里は女子トイレに入る。男子トイレの方では留実子は特に何も言われなかったようである。千里も何も言われないので、そのままトイレの前にできている列に並んだ。
 

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食事が終わった後で、留実子が
 
「ちょっと本屋さん見てくる」
と言うのでお母さんが
「3時までには戻りなさいよ」
と言って、自分の腕時計を留実子に預けた。
「車の場所は分かる?」
「うん。大丈夫」
 
「すみません。私もちょっと行ってきたいお店があるので。3時までには車の所に戻ります」
と言って、千里も離脱した。
 

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千里が入って行ったのは、ドラッグストアである。
 
「何か言われないかなあ」
と千里が不安そうに言うと
「女の子が生理用品コーナーに居ても何も変には思われない」
と小春が言う。
 
「だよね?私女の子に見えるよね?」
「実際女の子同然だしね。ちんちんもタマタマも無いし、卵巣はあるし」
「私、子宮とか膣もあるの?」
「内緒」
「うーん・・・」
 
実は今回千里が留実子の誘いに乗った最大の理由が留萌以外の場所でナプキンを買いたかったからなのであった。市内のドラッグストアやスーパーで選んでいたら、それを友人などに見られたとき、不審に思われかねない。
 

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ふたりで生理用品コーナーに来る。
 
「なんかたくさんあるけど」
と千里は戸惑いながら言う。
 
「この付近がパンティライナー、この付近がナプキン、そのあたりはタンポン」
と小春は説明する。
 
「パンティライナーはこないだから小春がくれてたものだね?」
「そうそう。9月に渡してたのがロリエ、10月になってから渡してたのがソフィ。今度はまた別の使ってみる?」
「そうだね。最初は色々なの使ってみた方がいいよね」
「じゃこのウィスパーというの使ってみようかな」
「まあその3つが三大メーカーかな」
「へー」
 
それでウィスパーのパンティライナーで小春が勧めてくれたわりとソフトな肌触りのものを買い物籠に入れる。
 
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「そちらのタンポンってのはどうするの?」
「それは今の段階では必要無いと思う。膣の中に入れて使うものだよ」
「入れちゃうの?」
「千里がもし将来スポーツ選手とかになったら必要だと思う。ナプキンだと激しい運動をした時にずれたりするから」
「でも入れちゃっていいわけ?」
「別におちんちんを入れる訳では無いから問題ないでしょ」
「でも膣の入口には処女膜ってのがあるとこないだ蓮菜が言ってたよ。入れたら破れないの?」
「処女膜という言葉は誤解を招くんだけど、別に全部ふさがっている訳では無い」
「そうなんだ!」
「全部ふさがっていたら生理の血が出て来られない」
「あ、そうか!」
「ちゃんと入れられる所はあるから、そこから入れればいい」
「なるほどー」
 
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しかし千里は考えた。
 
「でも私、膣あるんだっけ?」
「内緒」
「無かったらタンポンは使えないよね?」
「千里の場合は無くても使える気がする」
「意味が分からない!」
「でも当面はナプキンでいいよ」
 
と言って小春は千里をナプキンの並んでいる付近の前に連れて行く。
 

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