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(C) Eriko Kawaguchi 2021-12-10
10月16日の昼休み、N小学校に北海道のローカルテレビ局、SUHの取材班がやってきた。合唱サークルが2年連続、全国合唱コンクールで銀賞を取ったので取材に来たのである。インタビューの台本!が予め提示され、記者の質問への答えを部長の穂花が馬原先生と一緒に考えて暗記し、本番に臨んだ。
全員給食も食べずに音楽室に集まり、コーラスサークルの制服を着て整列。部長の穂花、副部長の映子が、今年と去年の銀賞の賞状を見せる。
美那がピアノを弾き、香織が譜めくり役、映子が篠笛を吹き、ソプラノソロは穂花、アルトソロは希望という本来の担当で『キツネの恋の物語』を演奏した。その上で馬原先生と穂花へのインタビューをした。
撮影は15分くらい掛けてやったのだが、その日のローカルニュースで流れた時は30秒にまとめられていた。でも部員の顔は一応全員映っていた。
千里の母は焦ったものの、夫が(漁に出ていて)いない日で良かった、と思った。
津久美はローカル線に乗っていた。この車両のトイレはなぜか座席の間にあった。そのトイレの前に男の人が2人立って何か話をしていた。邪魔なので
「すみません。そこ使いたいんで」
と言ってどいてもらう。
和式トイレなので、ズボンを下げてしゃがんでする。あれ〜。なんで私白いブリーフとか穿いてるの?? それを膝のあたりまで押しやっておしっこしようとしたら、ちんちんが12-13cmサイズまで大きくなってる。うっそー!?なんで私のちんちん、こんなに大きくなってるの!?と思いながら、取り敢えずそのちんちんの“先”からおしっこをした。凄く変な気分だった。
でもこのトイレ、ドアとかもないから、私がブリーフとか穿いてるの人に見られてしまったかも。更にはちんちんなんて付いてるのまで人に見られてしまったかも、と思うと恥ずかしくなり、これでは来月からセーラー服着て登校できないよぉと思った。
そこで目が覚めた。
おそるおそるお股の所を手で触ってみて安心する。
しかし凄い悪夢と思う。
自分の心の中にやはり色々不安があるんだろうなとも思った。最後にブリーフなんて穿いたのはもう2年くらい前かなあ。少なくとも4年生になってからは1度も穿いたことない。最初はおこづかいでショーツ買ってたけど、その内、お母さんが買ってくれるようになったし、もうブリーフは買わなくなった。
初めてスカートで学校に出て行ったのは4年生の7月だったけど、クラスメイトは誰も何も言わなかったから拍子抜けした。それどころか女子の友だちが
「トイレ一緒行こう」
と言って一緒に女子トイレに連れていってくれたから、凄く心強かった。
その日の朝御飯の席で、津久美は母に訊いてみた。
「ねぇ、私さ、中学校はセーラー服で通ったらダメかなあ」
「そうねぇ」
と母は悩んでいるよう。
長兄の陽太(ひなた:高1)は
「お前が学生服とか着られる訳が無い。堂々とセーラー服で登校すれば誰も何も言わないよ」
と言った。
しかし次兄の進武(すすむ:中1)は言う。
「ツクが学生服を着るのは無理がありすぎる。でも学校って規則を凄く重んじる。戸籍が男である以上、教育委員会は男として就学通知を出すけど、小学校から中学校に提出される書類が女になってたら、中学は女として処理してくれると思う。何よりも本人見たら女にしか見えないし。だから、小学校に頼んで、ツクの学籍簿上の性別を女に変更してもらえばいいよ」
「そんなことできる?」
「今の6年生に戸籍上は男だけど、学籍簿上は女の児童がいると聞いた」
それは村山さんのことかも、と津久美は思った。あの人、女の子にしか見えないもん。そして睾丸を除去済みなのは多分確実。でなきゃあんな高い声が出るわけない。
「だったら一度学校に行って担任の先生に相談してみようか」
「うん」
『銀河鉄道999』の中で作者の松本零士はこのようなことを言っている。
機械には2種類ある。ひとつは多少壊れても何とか動き続ける機械。もうひとつは、どこか壊れたらすぐ動かなくなる機械。昔は前者が多かったが最近は後者が増えた。
コンピュータシステムや航空機・自動車などの機械工学の世界ではこれはフェイルセーフ・フェイルソフトという概念である。
航空機や自動車はどこか壊れたからといって突然全体が機能しなくなったら困る。
天皇陛下が乗る御料車はエンジンを2系統積んでいて、万一片方にトラブルがあっても他系統で動き続けることができる。
1986年10月26日のタイ航空機爆発事件ではエアバス (A300 B4-601) の機内(高知上空)で、山口組の組員がトイレ内で手榴弾を誤って破裂させ、その衝撃で3系統に分けられたコントロールシステムの内の2つが断線。一時は操縦不能に陥って最後はエンジンが2つとも停止した。しかしこのタイプのエアバスは、万一エンジンが全停止したら小型のヘリトンボのようなプロペラが飛び出してくるようになっていた。それでこの小型ヘリトンボが作り出す浮力のおかげで、機体は大阪空港への緊急着陸に成功した。死者ゼロである。エアバスの安全性を大きく世界にアピールすることにもなった事件である。
基本的にはどこか壊れても性能を落とさずに動き続けるシステムはフェイルセーフ、多少機能や処理速度は落ちるものの何とか動き続けるシステムはフェイルソフトと呼ばれる。上記のジェット機内蔵ヘリトンボはフェイルソフトである。
一般にフェイルセーフを実現するには処理を二重化しておく。近年の大型のコンピュータシステムの記憶措置は基本的にはRAID化されていてデータが二重に記録されるので万一片方壊れても他方からデータを読み出すことができる。
インターネット自体、元々の発端(ARPANET)はソ連のアメリカ本土攻撃に備えた分散多重化システムである(*11)
監査法人のトーマツは会社の会計システムを全く異なる2つの開発者集団に作らせ、両者の処理結果を照合しながら動作する巨大デュアルシステムを1992年頃までに既に提案している。
(*11)初期の開発に関わった技術者たちは否定するが、資金を提供したのはARPA(DARPA) - アメリカ国防高等研究計画局である。ソ連は1957年に世界初の人工衛星スプートニク1号の飛行に成功。アメリカはソ連の衛星軌道からの攻撃の危険に曝されることになった(スプートニク・ショック)。ARPANETの初期構想は1960年頃に提唱されている。多数のノードを結ぶためにパケット通信という画期的な方法が考案された。初期の頃はタイムシェアリングによる通信などという恐ろしい方法が想定されていた(ノードが増えるほど速度は絶望的に低下していく:ノードが7つなら21分割だが10倍の70なら2415分割になり速度は115分の1に落ちることになる)。
この手の二重化にはデュアルとデュプレックスという考え方がある。
Dual : 2つのシステムを常に動かして照合しながら動作する
Duplex: システムが2つあり、片方にトラブルがあったら他方を起動する
筆者はコンサートの予約システムに15年ほど関わったが、一度ホストが発売時刻10分前にダウンし、急遽配線をつなぎ替えて、開発用のマシンで先行予約(約1時間で枠分Sold Out)を乗り切ったことがあった。テストシステムが事実上のデュプレックスとして動作した例である。
「ゆみちゃん、おっぱいかなり育ってない?」
「なんか最近急成長してるみたーい」
と優美絵は答える。
「ブラもこれ本格的なブラだよね?」
「うん。日曜日(10/20)旭川のデパートで買ったぁ。A55」
「おぉ!Aカップまで行ったんだー」
優美絵は修学旅行直後の7/20に初めてブラジャーを買った時は3Sというジュニアブラの中でも恐らく最小サイズのものを着けていた。しかし8月にSに変え、とうとう先日の日曜日にA55になったらしい。
1組女子13人(千里・留実子を含む)でAカップを着けているのはこの時点で、4人しかいない。他の子は全員ジュニアブラである。千里もその1人(優美絵と同じA55)で、10/6の日曜日に旭川の西武デパートで買っている。優美絵も同じ所かも知れない。
「ゆみちゃん、最近足も速くなってきてるよね」
「こないだ桜井先生に測ってもらったら100m 40秒だった」
「前は1分と言ってたっけ?」
「うん。4月に測った時は61秒だった」
「おっぱいの発達とともに筋肉も発達してきてるんだよ」
「おっぱい大きくなったから、それを支えるのに筋肉も発達してるんだったりして」
「そーかもー。でも胸が入らなくて、だいぶ服を買い直した」
「これだけ成長すればねー」
「ツクりん、胸触らせて」
と津久美は体育の着替えの時に同級生の春菜に言われた。
「いいよ」
それで春菜はキャミソールの上から津久美の胸に触る。
「やはりこれ乳首が大きくなってる」
「あ、そんな気がしてた」
「これおっぱいが膨らんで来る兆候だよ」
「やはりそうかなぁ」
「そろそろブラジャー着けた方がいいかもよ」
「でもまだ全然膨らみ無いのに」
「乳首を保護するだけのジュニアブラがあるんだよ。一度お母さんと一緒にランジェリー売場に行って、売場のお姉さんに訊いてみるといいよ」
「そうだなあ」
2002年10月26-27日、留萌P神社では秋祭りが行われた。勇壮な夏祭りには観光客も少し来るが(大半はR神社やQ神社の夏祭りを見たついで)、静かな秋祭りには氏子以外にはほとんど人は来ない。夏祭りが陽なら秋祭りは陰である。
留萌のお祭りというと呑涛(あんどん)祭といって、青森の“ねぶた”に似た呑涛(あんどん)を使う祭りが有名だが、P神社の秋祭りで使用する姫奉燈(ひめほうとう)は、むしろ弘前の“ねぷた”に似ている。扇形の奉燈に、武者と姫様と子供(性別不明)が描かれている。年配の氏子さんによると「義経と浄瑠璃姫にその娘の薄墨姫」というのだが、かなり怪しい気がする。
この姫奉燈を導くのは4人の巫女で、今年は中学生の純代と広海、旭川から来てくれた守恵(蓮菜の従姉)、それに千里が務める。
「うっそー!?私が先導役なんですか!?」
と言って純代が焦っている。
「私まだ2年目なのに」
「先導役は実は2年目の子がやらされることが多い」
「つまり来年は千里だったりして」
「嘘!?」
(小春がわざわざ大神様の前で千里の名前を出したのは、何とか千里の寿命を延ばしてあげてくださいよというアピール。でも大神様は動じない。大神様は千里は来年の春で死ぬから秋祭りの先導役は広海で、死んだ千里の後任には誰か新しい子をと考えている)
4人の巫女は姫奉燈のまわりを歩けばよく、奉燈自体は赤い着物を着た男性の氏子さんたちが曳く。これは現在は単に赤い着物だが、昔は女物の着物を着ていたかもという話である。神職の衣裳もまるで女性神職の衣裳のようである。
夕方になると拝殿と神殿に蝋燭が灯る。この蝋燭は秋祭りを1994年に復興した時は蝋燭の代わりに電球を使ったのだが、今年からLEDランプに変更した。同時に実は姫奉燈の灯りもLEDに変更した。
1994年の段階では、蝋燭は火事になる危険があるとして電球にしたのだが、電球も結構熱くなる。蛍光灯にしようかという意見もあったが、いっそLEDにしようということになった。これはこれからは多分LEDの時代になるたろうというのと、電球型蛍光灯は、北海道のような寒い地域では明るくなるまでにかなりの時間がかかるという問題もあった。
拝殿では18時から21時まで、30分に1度合計7回、巫女さん4人の舞が奉納される。これを2日やるから14回舞うことになる。この練習は9月頃から時間の取れる時にやっていた。千里はこの舞を自分では舞ってなくても何度も見ているのですぐできた。広海さんは結構苦労していた。
21時の最後の舞があった後、神職が特殊な祝詞を奏上して、秋祭りは1日の日程を終える。