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■少女たちの晩餐(7)

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前の学校・大阪W小の演奏が終わる。W小の演奏もソプラノソロをフィーチャーしていたが、ソロの子の調子が悪かったようだった。前の学校が微妙だっただけにこちらはリラックスして歌える。
 
N小の紹介ビデオが流れた後、係の人が
 
「舞台に上がってください」
と言った。
 
指揮台に楽譜を置いてくる役目は佐奈恵がした。部員たちがステージに入り、上手側にアルト、下手側、ピアノに近い位置にソプラノが並ぶ。アルトソロを歌う津久美、ソプラノソロを歌う千里はどちらもソプラノの最前列に立っている。2人ともソロパート以外ではソプラノ集団の中で歌う。
 
「みんな落ち着いてね」
と穂花がみんなに声を掛けた。
 
美那がピアノの所に座り、譜めくり役の香織が隣に座る。
 
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馬原先生が指揮台の所まで行く。審査員に向かって一礼、会場にも一礼してから児童のほうに向き直る。指揮棒を掲げる。美那とアイコンタクトをして、指揮棒が振られる。課題曲の『おさんぽぽいぽい』を歌う。
 
この曲は結局今日は練習していない。昨夜練習したのが最後だが、これまで何百回と歌っているのであまり不安は無かった。
 

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きれいに歌うことができて、自由曲に行く。篠笛を吹く映子がアルトの列から前に出てくる。
 
先生が指揮棒を掲げ、美那とアイコンタクトをして、指揮棒が振られる。ピアノ伴奏がスタートし、映子の篠笛の後、歌唱が始まる。アルトとソロの掛け合いで曲は進む。やがて津久美のアルトソロが入る。その間はアルト集団はほぼ休みで、ソプラノ集団との対話になる。続いて千里のソプラノソロになる。その間はソプラノ集団はぼ休みだが、千里のソロが最高音D6を2回出した後、ソプラノ集団もそれをエコーするかのようにD6を出す。
 
この時このD6をスミレ、小町と約束通り千里自身、更には津久美まで歌ったのでびっくりした。出るの??この音が出るなら津久美はG3-D6の2オクターブ半の音が出ることになる。
 
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ソロが終わると篠笛の短いフレーズの後、アルト集団とソプラノ集団の美しいハーモニー歌唱となり、曲は大団円となる。
 
物凄く美しい終わり方に、会場から拍手が来た。
 
みんな笑顔である。直前にバタバタとソロ担当が変わったにしては、とてもうまく歌えた。
 

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ステージを降りて会場内の自分たちの席に行く。希望はお母さんと松下先生が付き添い、病院に向かった。
 
「だけど津久美ちゃんD6が出たんだ?」
とみんなから言われる>
 
「なんか出そうな気がしたんですよ。それで出してみたら出たから自分でもびっくりしました」
と津久美。
 
「昨夜、私たちで津久美を取り押さえてハンマーで睾丸を叩きつぶしましたから」
などと同室の梨志が言っている。
「それはいいことだ」
と蓮菜。
 
「だからこれ以上、声変わりは進みませんよ。来年こそはソプラノソロ歌ってもらいましょう」
と香織。
「それは楽しみだ」
と美那。
 
「だって津久美の声変わりがこのまま進行して、アルト音域も出なくなったら、世界にとって損失ですし」
「確かに確かに」
 
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「無茶苦茶やってるな」
と穂花はどこまで冗談なのか分からないまま言った。
 
「だって袋を切って取りだして切断したら、その後止血できないもんね」
「潰しても出血する気がするが」
 
「でもここに男の人がいなくて良かった」
「男の人はこの手の話がダメみたいですね」
などと言っていたら、教頭先生が遠慮がちに
 
「さっきから、お股の付近に痛みを感じるんだけど」
などと言っている。
 
「それはいけません。即摘出して、女性教頭に変身しましょう」
「女房から離婚されるよ!」
 
「でもハンマーとか持ってたの?」
「預け荷物に入れますから大丈夫です」
 

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その後、熊本Z小、東京A小の歌唱が続いたが、どちらもソロを歌った子の調子がよくなかった。A小の子はソロの最高音の音(N小と同じD6)が出ずに一瞬無音になってしまった。
 
「調子悪いみたいね」
と馬原先生が言った。
 
しかしそれで出場校の演奏は終わり、審査時間となる。その間、スペシャル合唱団の練習と演奏が行われるが、その練習時間を使って自由演奏が行われる。
 
N小からは本当は、穂花・紗織・映子がスペシャル合唱団に参加する予定だった。しかし紗織の転校で代わりに美都が出てと言われていた。ところが、今朝穂花と映子と美都というまさにその3人が喉を痛めてしまったので、残る6年生3人、千里・蓮菜・佐奈恵がスペシャル合唱団には参加することにし、練習場所となるリハーサル室に向かった。
 
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スペシャル合唱団の練習時間におこなわれる自由演奏には、実はその千里たちが宇多田ヒカルの『travelling』を演奏しようというので、ポータブルキーボードとギターをわざわざ持って来ていた。蓮菜はよろしくと言ってそれを穂花に譲ったので、穂花は美那・映子・美都と4人でステージにあがり、演奏してきた。喉を痛めていてもこの程度の音域の曲は充分歌える。他に5年生も4人組で参加してきた。実は希望も頭数に入っていたらしいが、代わりに梨志がスカウトされた。
 
「私この曲歌ったことないよー」
「でも聞いたことはあるよね?」
「うん」
「だったら歌えるはず」
 

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千里たち3人はリハーサル室に集まる。各校から3人ずつ合計30人の歌唱者が集まっている。熊本Z小の人がどうも旧知らしい東京A小の人に話しかけていた。
 
「そちら**さん調子悪かったみたいですね」
「実は**はリハーサル室に向かう途中転んで」
「え?」
「本人大丈夫だと言ってたし、リハの時はちゃんと最高音出てたんですけど本番では出なくて」
「あの付近の声を出す機構は精密機械だもん」
「それでやはり転んだ時の影響かも知れないというので、出番が終わってから病院に向かったんですよ」
「実はうちも**がやはり転んでしまってそれで声が出なかったんですよ」
「病院行きました?」
「会場で休んでるんですが」
「それ絶対病院に行った方がいい」
とA小の人が言ったが、蓮菜が
「私も賛成」
と言った。
「実はうちもアルトソロ歌う子がリハーサル室に向かう途中転んで、頭打ったんで、ソロは別の子に交替したんですよ」
 
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「交替できる子がいるのが凄い!」
と熊本Z小・東京A小の両方から感心される。
 
一般にソロを歌う子というのはその合唱団の中でもいちばん上手い子である。その子に何かあった時に代われる子はふつう居ない。4番バッターに代打が出せるのか?という問題である。
 
「それでうちの子も出番が終わった後、すぐ病院に連れて行きましたよ」
「うちも病院に連れて行くべきかなあ」
とZ小の人が言っているので
 
「絶対そうすべき」
とN小・A小の両方から言われる。
 
「でも飛行機の便が・・・」
「頭に怪我した状態で飛行機に乗ったら上空は気圧低いから頭の血管が切れて最悪死にますよ」
 
「きゃー」
「ちょっと先生に言って来よう」
それで1人が部屋を出て行った。
 
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そんなことをしていたら、大阪W小の人まで
「なんでそんなにみんな滑ってるんです?」
と言い出す。
「まさかそちらも?」
「病院に連れて行くよう言ってくる」
と言って、その人も出て行った。
 
「廊下にワックスでも塗ってあったとか?」
「いや雨の日で廊下濡れてたから、滑りやすい所が出来ていたのだと思う」
 
この件は実は後で問題になり、廊下の掃除について再徹底させる指示が出たらしい。
 
また熊本Z小の頭を打った子は1人別途新幹線で帰郷した。この件は本当に危ないので、馬原先生から主宰者のスタッフ経由でもZ小側に伝え、お医者さんに確認して「1ヶ月くらいは飛行機に乗ってはダメ」ということになったらしかった(新幹線代を主宰者が出してくれた:N小の希望の分も!)。
 
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今年スペシャル合唱団で歌ったのは『怪獣のバラード』である。楽しい曲だし、合唱団にいると、歌ったことのある子も多かったので練習はスムーズに進んだ。
 
それで30分くらい練習した所でステージに出て行き歌ったが、即席の合唱団で歌うというのは、本当に面白く、千里たちは小学校最後にいい体験ができたと思った。
 

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審査結果が発表される。
 
「金賞・郡山市立G小学校」
 
凄い歓声が起きている。千里たちは優勝校に惜しみない拍手を贈った。代表が2人壇に昇り、賞状とトロフィー(文部科学大臣杯)が渡される。それを高く掲げて、またたくさん拍手をもらつたる
 
「いいなあ」
「また来年頑張ろう」
「希望ちゃん、スミレちゃん、津久美ちゃん頑張ってね」
「はい」
と3人は答えた。
 
「銀賞・留萌市立N小学校」
 
「やった!」
とみんな喜ぶ。穂花が辞退するので、先生の指名で、ピアニストの美那が出て行き賞状を受け取った。また会場から多数の拍手をもらう。
 
「銅賞・東京都私立S小学校」
「同じく銅賞・倉敷市立C小学校」
 
ということで、今回はソロ奏者の直前転倒という事態に対応できなかった、東京A小・熊本Z小・大阪W小は賞が取れず、同様の事態に見舞われたものの対処できたN小は銀賞を獲得したのであった。
 
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「2000年銅賞、2001年と2002年は銀賞、できすぎですね」
と馬原先生は言った。
 
「まあこれは忘れて来年もまたセロから頑張りましょう」
と教頭は言った。馬原先生も頷いた。
 
2年連続の銀賞というのを意識しすぎたら絶対自滅する。次は金賞を、と思いたくなる所だが、それも考えるとプレッシャーになる。
 
でも希望やスミレ・津久美あたりが成長してくれると、来年も全国大会に出て来て上位を狙える可能性はある。
 

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表彰式の後、金賞・銀賞・銅賞の4校の記念撮影があったが、N小は今夜も一泊するので、他の学校に撮影順を譲った。金賞の郡山G小も「新幹線に余裕があるから」と譲ったので、撮影は遠い所から順に、倉敷C小→郡山G小→留萌N小→東京S小、という順序で進んだ。
 
N小は18時すぎにホテルに戻った。喉を痛めない空調の使い方について旅行会社のベテラン添乗員さんから解説があった。その後、夕食を取ったが、銀賞を取っただけにみんな興奮していた。騒ぎすぎて馬原先生に叱られた。
 
病院に行っていた希望・希望の母、松下先生は21時近くになって戻って来たが、MRIまで取られたらしい。異常は無いが念のため飛行機はしばらく避けた方がいいということになり、明日新幹線で帰ることになる。22時近くになり主宰者から連絡があり、病状について確認された。それで別途新幹線で帰ると言うと、その分の旅費を本人と付き添いの分、出すので金額をあとでいいから出してくれということであった。
 
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後から情報を集めてみると今回参加した10校の内6校までも転んで病院を受診した人があったらしい。しかしその内4人もソロ歌唱者だったのは当たりすぎだ!
 

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少女たちの晩餐(7)

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