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■娘たちの卒業(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-11-23
 
2013年12月FIBA(国際バスケットボール連盟)は、混迷の続く日本バスケットボール協会に対して、一向に解消されない「2リーグ並立状態」の解決、先進国とは思えない成績低迷状態の男子日本代表の強化、そしてこれらの根本的な原因と思われたバスケット協会の「ガバナンスの無さ」を改革するよう強く求めた。
 
これは2016年9月にBリーグが無事開幕するまでの「日本バスケット再生」の長い道のりの始まりであり、また2004年のリーグ分裂以来の日本バスケット界“失われた10年”の「終わりの始まり」でもあった。
 

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千里は4月からもスペインでプレイすることになったことから、条件や規約などの面で強化部長の土山さんと話し合っておきたいと思い電話してみたのだが
 
「ごめーん。僕は辞任したんだよ」
ということだった。それで新しい強化部長に連絡しておくからということだったのだが・・・・・一向に連絡が無かった!
 
実は協会からの送金が1月以降、多すぎる(為替レートの計算ミス?)ので、それも確認してもらおうと思ったのだが、連絡がつかない。協会の経理の人にも直接連絡したが、経理では上から言われた通りの金額を送っているだけと言い、強化部に確認するという話だった。
 
しかしやはり連絡が無い! それで再度土山さんに連絡すると
 
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「なんか最近協会はどうなっているのかさっぱり分からないんだよね。足りないのなら村山君困るだろうけど、多いのならもうそれでもらっておきなさいよ。どうせ誰もコントロールしてないから」
と土山さんも言う。それで千里も
 
「分かりました。そうします」
と言っておいた。
 
しかし結果的には、現在日本バスケ協会の役員で、千里がスペインに派遣されて来ていることを知る人が居ないようであった!?
 

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その日龍虎がいつものヴァイオリン教室に行くと、先生から
「卒業試験、合格してたよ」
と言われる。
 
「高等科、卒業おめでとう」
「ありがとうございます」
 
龍虎はピアノは3歳の時から習っていたのだが、幼稚園から小学1年生に至る長期入院の間、ほぼ中断していた。それを退院後再開するが、その時、ピアノ以外にヴァイオリンも習いたいと言い、実質2年生の時からヴァイオリン教室に通い始めた。習ってみるとどんどん上達するので「前期初等科」の試験は受ける必要無いと言われ、2年生で初等科、3年生で前期中等科、4年生で中等科、5年生で前期高等科の卒業試験を受け、6年生では高等科レベルのレッスンを受けていた。そして11月に高等科の卒業課題曲を録音して提出。合格してこれで基本的な課程は全部卒業したことになる。
 
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(ヤマハのエレクトーンのグレードは試験官の前で生演奏するが、スズキのヴァイオリン・メソードは録音による審査である)
 
「中学生になっても続ける?」
「そうですね。勉強も忙しくなるだろうけどヴァイオリンはピアノ以上に好きだから頑張ります」
「うん。じゃ、来年は才能教育課程、頑張ろうね」
 
しかし龍虎は才能教育課程を卒業することはできなくなるのだが、それは半年少し後の話である。
 

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龍虎や彩佳たちは12月中旬に中学校の制服の採寸と注文をし、1月中旬に受け取ったのだが、経済的な事情で注文を遅らせていた宏恵は、結局新しい制服は頼まずにお姉さんがこの3年間着ていた制服のお下がりを着ることにした。
 
「リボンだけ頼むことにしたんだよ」
「ああ。学年ごとに色が違うからね」
 
龍虎たちが進学するQR中学では、制服のデザインは10年くらい前から変わっていないものの、リボンの色は学年ごとに違い、宏恵の姉の学年(現3年生)は赤、現2年生は黄色、現1年生は白、今度の新入生は緑ということになっている。昨年の3年生は青だったらしい。
 
「でもヒロもお姉さんも標準的な体型で良かったね」
「うん。お姉ちゃんも背が低いからウェストのアジャスターを縮めるだけで着れた」
「なるほど、なるほど」
 
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宏恵は身長153cmくらいだが、3つ上のお姉さんも157cmくらいなので、服の流用はほとんど問題無い。実際問題として私服はかなり共用している。お互いに貸し借りしている内にどれがどちらの服だったか、本人たちも分からなくなっている。
 
「まあお兄さんとの共用は無理だろうね」
「私や姉貴が着ている服を兄貴が着るのは無理。でも兄貴の服は結構借用している」
「なるほどー!」
 
「その服、可愛い〜!貸して、とか言って借りていく」
「そのま私物化する?」
「洗濯物を整理するのは私や姉貴だからね〜」
「ふむふむ」
 

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そういう訳で宏恵も制服を調達できたので、桐絵が「記念写真撮ろうよ」と言い、彩佳・龍虎と3人で宏恵の家まで押し掛けて行った。
 
彩佳と桐絵も自分たちの制服を着て、お姉さんの制服を着た宏恵、更に学生服を着た龍虎と4人並んだところをセルフタイマーで撮影した。ちなみに今日龍虎は学生服の下にはブラウスを着ている。
 
「龍も女子制服を買っていれば4人女子制服で並んで撮れたのに」
「まあ仕方ないよ」
などと龍虎が惜しむような言い方をしているので
「龍、今からでも頼めば入学式には間に合うよ」
と唆す。
 
「うーん・・・」
と龍虎はまだ悩んでいるようである。やはり女子制服が着たいのだろう。
 
「でもヒロの制服、お姉さんが3年着た割にはあまり傷んでないね」
「うん。姉貴は2着持ってて、交互に着ていたから」
「2着?」
「洗い替えに2着持っていたんだよ」
「なるほどー!」
 
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「いや確かに2着用意する子はいる」
「3年前はお父ちゃんも景気が良かったんだけど」
と宏恵は言う。
 
「最近、不景気だもんね〜」
「政府の発表では戦後最大の景気拡大期らしいけど」
「それきっとどこか外国の話だよ」
 
「でも佐苗ちゃんは、卒業する先輩2人から制服もらえることになったらしいよ。だから新たには作らないんだって」
 
「2人から?」
 
「ただ、1人は佐苗ちゃんより身体が小さい、もう1人はかなり大きい」
「微妙だ」
「大きい方はひょっとしたらウェストがずり落ちるかもと」
「大きいのは補正できるのでは?」
「大きい方でカットした布を小さい方に流用してそちらも補正するとか?」
「それは提案してみる価値があるな」
 
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「でも中学の卒業式っていつだっけ?」
「今年は3月14日。だから佐苗ちゃんにしても、私にしてもそのあと譲ってもらった服で3月24日の小学校卒業式に出られるんだよ」
「うまい具合にできている」
 
「ん?」
と桐絵が声をあげた。
 
「どうしたの?」
 
「小学校の卒業式で、私たちは中学の制服を着る訳だけど、龍は何を着るのさ?」
「え?ボクも中学の制服かな」
「女子制服?」
「そんなの無いから男子制服だよぉ」
 
「そんな服を着たら増田先生が仰天すると思う」
 
「先生にはボクの性別を理解してもらうことにして」
「いや、龍が自分は男ですと言っても、先生は信じないと思う」
「冗談を言っているとしか思われないよね」
 
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「それに龍は裸にしても女の子にしか見えないしね」
「そうそう。おちんちんは無いし、おっぱいはあるし」
「性別検査を受けたら間違い無く女子と判定される」
 
「うーん・・・」
 
「やはり龍は女子制服を作るべき」
「そうそう。そして中学も女子制服で通おう」
 
「うーん・・・・・」
と龍虎はひたすら悩んでいた。
 

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2014年1月23日(木).
 
この日の40 minutesの練習で渚紗と“千里”は再戦した。
 
マッチングでは千里の全勝。スリー対決でも千里は全部入れた。
 
渚紗は完敗であったものの、物凄く満足そうな顔をしていた。
 
「このくらいはしてもらわないと私の目標にはできないな」
と渚紗は言った。
 
「でも陣容も固まりつつあるみたいだし、クラブ協会に登録する?」
と夕子が言った。
 
「あ、それもいいね。でも会費が掛かるよね」
と麻依子。
 
「登録料、大会の参加料とかは私が出すよ」
と千里が言う。
 
「遠征の交通費とかは?」
「出してもいいよ」
と千里は苦笑しながら言う
 
「よし登録しよう!」
 

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2014年1月26日(日).
 
この日放送の『特命刑事ダニャン』で、新たな展開が提示された。
 
これまで単発的に様々な怪人が町を荒らしていたのだが、ダニャンがひとりの怪人を追い詰めて“処分”しようとした所に、その怪人をかばう男が現れたのである。その男は“ハラグーロ”幹部の《タンニ》と名乗った。
 
そしてこの回ではダニャンは怪人を取り逃がし、《タンニ》にやられて入院するハメになった、という所でこの日の放送は終わっていた。
 
その幹部《タンニ》を演じていたのが、昨年春にワンティスの名義書換問題ですっかり悪人扱いされた、元★★レコードの太荷馬武だったので、“おとな”の視聴者が仰天した。
 
その《タンニ》を演じる太荷の演技が、いかにも凶悪であり、またアクションも素晴らしかったので
「こいつ、おもしれー!」
と言う人たちが多く発生する。
 
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「いやこの人マジで演技力あるよ」
と好評価する人たちもあった。
 
彼はセリフの言い方も本職の役者並みにうまかったし、元々柔道が得意だったこともあり、本職のアクションスターたちに見劣りしないアクションを演じて、特命刑事や彼らの協力者を圧倒した。
 
この《タンニ》登場回は2月下旬まで4回に及び、最後は特命技術課が開発した新兵器“メイギーカ・キカエン”(明技化・機火炎)により倒されてしまう。
 
しかしこの展開に今度は《タンニ》の助命嘆願がテレビ局に多数押し寄せて制作チームは困惑する。
 
それで春からの新番組『潜行刑事デンドロ』で《スーパー・ハラグーロ》の半機械化された大幹部《スーパー・タンニ》として、再登場することが告知され、《タンニ》のフィギュアまで発売される騒ぎになった。
 
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ちなみに、太荷馬武本人は、1月頭から愛知県のCD制作会社に復職して、最初内勤の仕事をしていたのだが、テレビでの《タンニ》人気を背景に4月から営業部長に返り咲いた(それまで1年間、副社長が営業部長を兼務していた)。
 
そして
「私は悪役ですから」
「名義書き換えちゃうぞ」
などと開き直って発言したりしながら、明るく営業の仕事をするようになり、お陰でここにCD制作を頼むセミプロアーティストや、学校などが増えて、会社の営業成績に大きく貢献することになったのである。
 
なお、彼のテレビ出演は会社が休みである土日限定ということになっている。
 
「まあいわゆるひとつの週末ヒロインです」
「ヒロインって、タンニさん女の子なんですか?」
「あ、間違った。男だからヒーロー、アンチヒーローですね」
 
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おまけで、これまでお父ちゃんには会いたくないと言っていた娘さんが、会いに来てくれて、太荷が涙を流して「迷惑掛けて御免な」と娘さんに謝るシーンまであった。
 

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