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■娘たちの卒業(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-11-24
 
2014年2月28日(金).
 
学校が終わってから青葉は自宅には戻らず高校の最寄り駅から列車に乗って、千葉に出てきた。
 
越中中川15:28-15:31高岡15:37(はくたか19)17:52越後湯沢18:04(Maxとき340)19:20東京19:33-20:13千葉
 
その日は彪志のアパートに泊まり、翌3月1日(土)の午前中に2人で一緒に昨年11月から建てていた神社の場所に行った。先週完成して彪志が代行して引き渡しを受けてくれたのだが、この日はL神社の宮司さんが来て開社式をしてくれるのである。彪志はミラの鍵を千里から1本預かっているので、2人でミラを駐めている立体駐車場まで行き、それに乗ってその土地まで行った。
 
ご神体代わりにするのに、仙台のデパート(政子の父が店長をしている店)で買った14代柿右衛門(先代)の皿(最晩年の作品)を納めてから、普通の人には開けられないように木を組み合わせる。すると青葉の後ろに居候していた女神様が祠の中に、すーっと入って行った。
 
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『うむ。ここは心地よい。気に入ったぞ』
『よかったですね』
という会話は彪志には聞こえない。
 
やがて宮司さんが来たが、神社の中にちゃんと神様が既に入っているので驚く。
 
「これ、神様、入っているじゃないですか!」
と宮司さんが言う。
 
ああ、この宮司さんはちゃんと分かる人だと青葉は思う。
 
「ええ。入ってます」
「どなたが入れたんですか?」
「ついさっき、本人が勝手に入っていきました」
 
「何か凄く神格が高い気がするんですが」
「それで素人が勝手に扱うべきではないと思ってL神社さんにお願いしたんですよ」
 
「名義は分かりますか?」
「『玉依姫神社』にしてくれと本人が言っています」
「分かりました」
 
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それで宮司さんは矢立を出して、青葉が用意していた空白の額に『玉依姫神社』という銘を筆と墨で書いた。これも青葉が特殊な木の組み方で祠の正面上部に固定してしまうと、宮司さんが感心していた。そして宮司さんは祝詞をあげて帰って行った。
 
『私もこれで三帰の家ができたなあ』
などと姫神様は言っている。
 
『さんき??』
 
『なんだ、三帰を知らんのか?漢文の授業で習わなかったか?』
『帰る家が3つあるということですか?』
 
『元神社のあった所の泉、この祠、そして青葉のそばだ』
『あははははは』
 
どうも女神様は青葉の後ろにもそのまま居座るつもりのようである。
 

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その日は女神様のお勧めで市内の商店街に行き昼食を取ったら福引き券をもらった。それで福引きをすると、洋菓子のセットをもらったので、再度神社の所にいき、2個奉納すると、奉納したお菓子がスッと消えるので彪志が目をゴシゴシしていた。
 
その日は彪志のアパートで過ごしたが、翌3月2日は桃香のアパートを訪れる。桃香も千里も居たので、神社を開いてきたことを報告する。
 
「何か荷物が多い」
と青葉は言った。
 
「こないだまで千里の友だちの女の子が同居してたんだよ。先日新しいアパートを見つけて引っ越して行ったのだが、どうも忘れていったものが、かなりあるようだ」
と桃香。
 
「うん。今週は忙しいみたいだから、来週にも取りに来るように言っている」
と千里。
 
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「友だちって、ちー姉の恋人?」
「まさか。私が女の子に興味あるわけない。高校時代の友人だよ」
「へー」
 

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4人で一緒に過ごし、夕方青葉が高岡に帰るのを東京駅で見送った。実際には彪志は越後湯沢まで同行する。
 
青葉の連絡
東京20:12-21:20越後湯沢21:30-23:38高岡
彪志の帰路
越後湯沢21:39-23:08東京23:17-23:56千葉
 
それで千里と桃香はこの日は一緒に千葉のアパートに戻った。桃香が誘ってくるが、しっかり撃退しておく。
 
「ケチ。減るもんでもないのに」
「と、言っていたと真利奈ちゃんに言おうか」
「やめて〜」
と言いながら、どうも季里子との関係は千里にはバレてないようだなと桃香は思う。(実際には桃香の友人ほぼ全てにバレている。高崎に行った美緒まで知っている)
 

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暢子の荷物を少しまとめてから4畳半の部屋に寝ていたら、深夜、鹿島信子から電話があった。
 
「どうしたの?」
 
「電話ではどう説明したらいいのやら。夜分本当に申し訳ないのですが、こちらに来て頂く訳にはいかないでしょうか?」
と言っているが、電話を通して焦燥が伝わってくる。
 
「すぐ行く」
 
緊急事態のようなので《こうちゃん》に乗せてもらって信子のマンションに行こうとしたら、反応が無い??
 
それで《りくちゃん》に乗せてもらって新小岩駅近くの信子のマンションに急行した。中に入れてもらうと、信子は顔が青ざめている。千里は最初彼女がレイプでもされたかと思ったので、彼女をしっかりハグした。
 
「どうしたの?」
と優しく尋ねる。
 
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「どうしよう?千里さん。私、男に戻っちゃった」
「え〜〜〜〜!?」
 
それで信子がパンティを脱いで見せる。しっかり男性器が付いている。
 
「今までタックとかで誤魔化してたんじゃないよね?」
「私、実は男の人と1度セックスもしたんです。ですから女の子の身体になっていたのは間違い無いです。それに病院の先生の診察も受けたし」
 
「だよね!」
 
と言ってから千里は腕を組んで考えた。
 

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コクッと信子が眠ってしまう。
 
《とうちゃん》に頼んで眠らせたのである。
 
『こうちゃん、出ておいで』
と千里は厳しい顔で言った。
 
《こうちゃん》はバツが悪そうな顔で出てきた。
 
『どういうことか説明しなさい』
 
それで彼が説明するには、信子を女の子に変えたことが美鳳さんにバレて叱られたのだそうである。それでやむを得ず男に戻したという。
 
『勝手に性別を変えるのは混乱の元と叱られた』
『だからって、今戻すのは収拾がつかないほど混乱するじゃん』
『だったらそれ美鳳さんに言って』
 
そこで千里は《くうちゃん》に頼んで出羽に行き、美鳳と談判した。美鳳が激怒するのも構わず、千里は信子のために一歩も引かず、激しい議論をした。
 
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ところがそこに《大神様》が介入した。千里を借りて自分の空間の中に入れる。美鳳には聞こえない状態で千里は《大神様》と話した。
 
千里はその話した内容は覚えていないのだが《大神様》は美鳳に言った。
 
「美鳳。話が付いた。私が許可するから、あの子を女の子に戻してあげなさい。その時、取り外した陰茎と陰嚢を私にちょうだい」
 
「大神様がおっしゃるのであればそうします」
 
それで美鳳は東京の方向を見た。
 
「女の子に戻しました」
 
「ありがとうございます!」
と千里は嬉しそうに言った。
 
そして美鳳が信子から取り外した陰茎・陰嚢を《大神様》に渡すと
「ちょうど20歳くらいの男の子のが欲しかったのよ」
と《大神様》は言った。
 
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「ああ、それであの子のを取っちゃおうという訳でしたか」
と美鳳は納得したようであった。
 

千里はその男性器を見た瞬間、さっき《大神様》とふたりだけで話した内容を一部思い出した。
 
そうか。これを留萌の神社の宮司さんの息子と孫に移植したのかと気がついた。
 
その移植が行われたのは実際には14年も前の2000年10月なのだが、神様には時間の超越は問題無いのだろう。信子の陰茎は事故で男性器を失った翻田和弥(当時17歳)に移植され、睾丸はその父(宮司の息子)の翻田民弥(当時46歳)に移植された。そして民弥の睾丸が和弥に移植されている。
 
こういう複雑なことをしたのは、和弥はこれから結婚して子供を作らなければならないので、赤の他人の睾丸を入れる訳にはいかないからである。
 
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ちなみに宮司の翻田常弥には千里の父・武矢の睾丸が入っており、武矢に入っているのは千里の本来の睾丸である。千里の母の癌治療を契機にこの複雑なドミノ移植が2000年9-10月に実行された。それで千里は小学4年生の秋に男子廃業したにも関わらず、いつでも新鮮な精液を採取することができることを思い出す。
 
そうか。桃香と一緒に作った冷凍精液を持ち出さなくても、あの精液を使えば、もしかしたら京平の身体を作ることができるかも知れないと千里は思った。
 
その場合、京平は遺伝子的には千里と阿倍子の間の子供として産まれてくる!?
 

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激しい議論をした美鳳とはあらためて握手をし、仲直りの杯を交わした上で、大神様にはよくよく御礼を言った。そして《くうちゃん》に頼んで、新小岩のマンションに戻してもらった。なお《こうちゃん》は混乱を引き起こした罰として『1週間メシ抜き・1ヶ月メスの龍のナンパ禁止』を美鳳から通告された。
 
時刻は4時である。成田に向かった方がいいが、信子は激しいショックを受けたろうから、もう少し寝せておいた方がいいと考えた。
 
それで千里は眠っている信子を《こうちゃん》に命じてインプの後部座席に乗せ、着換えやパスポート、愛用のベースなども《たいちゃん》に手伝ってもらって車に載せる。そしてアルコール濃度が基準値以下になっていることを確認した上で、千里自身が運転して成田空港に向かった。
 
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検問所の手前で信子を起こす。
 
「信子ちゃん、寝ていたからそのまま車に乗せて成田まで来たよ。撮影に行っておいで」
と優しく言う。
 
「わ、ありがとうございます。でも私・・・」
 
「あそこ触ってごらんよ」
 
信子が驚いている。
 
「おちんちんとタマタマ無くなってる!嬉しい!」
「良かったね」
 
「割れ目ちゃんとクリちゃんとおしっこ出てくる所とヴァギナもある」
「無いと困るよね」
「おっぱいもある〜。助かったぁ」
「きっと悪い夢でも見たんだよ」
 
信子は物凄く嬉しそうにしていたが、突然不安そうな顔になって言う。
 
「また・・・・男に戻ったりしませんよね?」
「もう大丈夫だよ。上の方と話が付いてるから」
と千里は優しく言った。
 
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こうして鹿島信子は神様にも認められて正式に?女の子になったのである。
 

リダンダンシー・リダンジョッシーの一行はグアムで精力的に写真集とPVの撮影をおこなった。信子は様々な女子水着を着せられて写真を撮られていたが、だいたい女子水着を着ること自体、ほぼ初体験なので、乙女のように、はにかんでいて、その初々しさが魅力的な写真集に仕上がった。
 
彼女の写真集はこの年の写真集売上げNo.1になった。
 
「半陰陽で去年までは男の子だったらしい」
という噂で興味を持った人がおそるおそる買って
 
「骨格はやや男っぽいけど、可愛い女の子じゃん」
と言って口コミで広め、また事務所側が積極的に
 
「元男ではあっても半陰陽だから生理はあるらしいよ」
「手術とか一切してないらしいから、どうも元々ほぼ女の子の身体だったらしい」
「その証拠に、小学校の修学旅行に参加していない」
 
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といった出所不明の噂をネットに放流した。この噂に刺激されたのか、信子が高校の女子制服を着て他の女子の友人(顔はモザイクが掛かっている)と並んでいる写真が数パターン流出し
 
「へー。高校には女子制服で通っていたのか」
といった噂まで広がる。
 
更にセクマイのコミュニティでもかなりの反響があったのが、部数が伸びた要因だったようである。
 
なお、翌年はアクアの写真集が特大No.1になるので、2年続けて男の娘(?)の写真集がバカ売れしたことになる。
 
なお、信子は半陰陽(?)なので厳密には男の娘ではない。アクアは本人が「自分はふつうの男の子」と主張するので、厳密にはやはり男の娘ではない??
 

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3月3日(月)の朝6時頃、信子を成田空港第1ターミナル前でおろした後、千葉に戻ろうと思ったら、着信の記録が入っていることに千里は気付いた。
 
貴司からである。昨夜から何度も入っていたのに全く気付かなかったようである。最後に電話の入ったのが朝5時なので電話してみた。
 
「おはよう」
「おはよう」
 
「千里今どこ?」
「えっと、成田空港の第1ターミナル」
「それは物凄く都合が良い。実は僕も成田に来ているんだよ」
「そうなの!?」
 
「千葉のアパートに寄ったんだけど、留守だったみたいで」
「じゃ車を駐車場に入れてくる」
 

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それで第2ターミナルで貴司と会った。24時間営業の吉野家に入り話す。
 
「いや、大連(だいれん/ダーリェン)出張があってさ」
「へー!」
 
「昨日は名古屋で打合せがあって、それが夜10時に終わって」
「そんな遅くまで名古屋で仕事して、今日は大連なんだ?」
「まあ仕事だから仕方ない。それで名古屋から大連に飛ぶのは12:05の便しかなくて、大連到着は13:55なんだよね」
「うん」
「関空に戻ると、関空発大連行きは10:20発で11:55に大連に着く。ところが成田の朝一番は成田を9:30に出て大連に11:50につく」
「ほぼ同着なんだ!」
 
「それで名古屋のニチレンでレンタカーを借りて、夜通しこちらに走ってきたんだよ」
「お疲れ様!でも大丈夫?」
「富士宮で1時間くらい仮眠した」
「ああ。仮眠しないとやばいよ」
 
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