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■娘たちの卒業(6)

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「それで、これ。誕生日おめでとう」
と言って貴司は宝石店の袋を千里に渡した。
 
「えっと・・・・・」
「開けてみてよ」
「うん」
 
それで開けてみると、ゴールデンパールのネックレスである。珠はかなり太い。12mmくらいある。アコヤ貝ではなく白蝶貝だろうが、それでも多分10万円くらいすると見た。
 
「こんな高いものもらっていいの?」
「いや・・・その・・・つなぎというか」
 
ふーん。。。
 
要するに貴司としては今すぐ阿倍子と離婚する訳にはいかないものの、自分とも別れたくないということなのだろう。千里は今はその気持ちだけで充分だと思った。
 
「なるほどね〜。じゃもらっちゃうよ」
「うん」
 
「ありがとう」
と言って、千里は素早く貴司にキスをした。
 
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貴司は名古屋から走って来て疲れているし、千里は信子の件を処理して疲れているしで、食が進む。牛丼をふたりともお代わりした後、7時過ぎると他のお店も開き始めるので、和食の店に移り、朝御飯にカツとじ丼・天とじ丼を食べながら話した。貴司はそれにおそばも取っていた。
 
ふたりがおしゃべりすると例によって話はバスケットの話題ばかりである。バスケットの話をする時、貴司は本当に幸せそうで、その顔を見ていると千里も幸せな気分になった。
 
8時頃、そろそろ出国手続きした方がいいねということになり、お店を出て、セキュリティの所で貴司を見送った。むろん別れ際にキスをした。
 
その後、千里はインプレッサを運転して葛西に戻ったが、貴司がここまで運転してきたレンタカーは《こうちゃん》に名古屋に返しに行ってもらった。もっとも彼は
「せっかく遠出するのに、ナンパ禁止なんて・・・」
とぶつぶつ言っていた。
 
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千里は《こうちゃん》って全国に大量に子供がいるのでは?という気がしてきた。
 
「ねぇねぇ千里。メスの龍のナンパ禁止ってことは、人間の女はナンパしてもいい?」
「ふーん。そんなに美鳳さんを怒らせたいんだ?」
「あわわ。自粛する、自粛する」
 
やはり《こうちゃん》にも美鳳さんは怖いようである。
 

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2014年3月5日(水)、ローズクォーツの『Rose Quarts Plays』シリーズのアルバム『Rose Quarts Plays Sakura』が発売されたが、別れや新しい道などといったものを示唆する曲が多いので、レコード会社に
 
「このアルバムはケイちゃんがローズクォーツを卒業する記念のアルバムですか?」
 
という問い合わせが多数入った。なお、マリの方は約2年前、2012年12月にローズクォーツの活動からは離脱することを発表している。その時の離脱理由が
 
「ローズクォーツの作業がマリに負荷になっているので」
ということだったが、世間では
「負荷というのならケイの方がよほど大きい」
とみんな言っていた。
 
それでケイの離脱は時間の問題と思われていたのだが、この問題についてUTPは来月1日に記者会見を行うとだけ述べた。多くの人はそれがケイの離脱の公式表明になるのだろうと考えた。
 
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3月8日にリダンダンシー・リダンジョッシーは帰国したが、ここでデビューCDに収録する曲として、前から用意していた『Sky Music』『Hesper』という曲に加えて信子が新たに書いた『Inner difficulty, Outer tenderness』という曲のPVまで撮影してきた。この新曲は実は今回の旅の直前に唐突にいったん男性体に戻った時のことを書いたものである。
 
%%レコード担当の森尾さんは『Sky Music』は確定タイトル曲として、もう1曲は『Hesper』にするか『Inner difficulty, Outer tenderness』にするか悩み、千里と冬子に尋ねてみた。するとふたりとも
 
「『Hesper』と『Inner difficulty, Outer tenderness』の2曲がよい」
 
と言ったので『Sky Music』は保留にして、その2曲を両A面にして発売することにした。
 
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その日、千里はスペインでの練習を終えた後、貴司が出かけた後の市川ラボに入り、食器の片付けや洗濯物をした後、千葉市に転送してもらって、巫女服を着て、玉依姫神社の掃除をしていた。千里は女神様に言ったようにだいたい週に1度くらい来ることにし、先週も掃除に来た。静かなだけに掃除しているだけで、清々しい気分になる。
 
するとそこに大きなワゴン車が来る。何だろうと思って見ると、テレビのロケ隊のようである。谷崎潤子がマイクを持っている。
 
「おはようございまーす、『関東不思議探訪』でーす、って見知った顔だわ」
と彼女は言っている。
 
「おはようございます、潤子ちゃん。私はただの巫女・仮名Aですから、よろしく」
と千里も笑顔である。
 
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「おお、それでは大作曲家の仮名Aさん、今日はバイトですか?」
「ええ。ここを管理している神社でバイトをしているんですよ」
「そうだったんだ!でもここって、以前は幽霊でも出そうなボロ家が建っていましたよね?それが神社に建て替わっていると聞いて、やってきたんですが」
 
「はい。3月1日にオープンしたんですよ」
「できたてのホヤホヤだ!ここの神社は何に利くんですか?」
 
「ここに祭られているのは、弦楽器の神様なんですよ。だからギターとか、三味線とか、ヴァイオリンとか、琵琶とか、ウードとか、チターとか、弦楽器を習っている人は来るといいですよ」
 
「へー。でもここお賽銭箱が無いですね」
「ああ。ほんとだ。早急に作るように言いますね」
 
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(これは「テレビで放送するの?」と千里から聞いて驚いたL神社の辛島さんがすぐに指示を出してくれて2日後には設置され、ギリギリ放送に間に合い、小銭が散乱する事態は避けられた)
 
「弦楽器だけですか?打楽器もですか?」
 
唐突に打楽器に行く発想が面白いと千里は思った。チラっと祠で頬杖を突いているふうの《姫様》を見る。ふわー!と伸びをする。OKのようである。
 
「打楽器も応援してやると、神様はおっしゃってますよ」
「ではうちのバンドのドラマーの彼女居ない歴30年の男性にも来るように言いましょう」
 
「ああ。恋愛にも効きますよ。姫神様だから」
「おお、恋愛にも効くそうですよ」
と彼女はカメラに向かって言った。
 
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3月15-16日の土日、横浜市内と都内で蓬莱男爵が参加するイベントがあり、千里は例の軽トラ・トレーラーを常総ラボから持ち出して、彼らの荷物のトランスポートに協力した。その都内でイベントをしていた時、見知ったレコード会社の人が寄ってきて
 
「このバンド、醍醐さんの関わりですか?」
と訊いてきた。
 
「雨宮が管理しているんですよ。もし興味をお持ちになられましたら、ぜひ雨宮と話して下さい。連絡させますから」
と言い、即雨宮先生にメールしたら
「すぐ電話する」
ということで、即電話が掛かってきて、レコード会社の人もびっくりしていたようであった。
 
およそ雨宮先生とすぐに連絡が取れるなどということは、めったにないことである。
 
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2014年3月20日(木).
 
明日21日(金)が春分の日で祝日で、21-23日が三連休になるので、この年の全国の小学校卒業式は20日(木)に行う所と24日(月)に行う所があったようである。
 
天月西湖(あまぎせいこ。後の今井葉月)が通学する桶川市のVB小学校では20日に卒業式があり、西湖は5年生としてひとつ上の学年を送り出す立場だったが、鼓笛隊を編成して『旅立ちの日に』と『ほたるの光』を演奏した。
 
それで全員、楽器ごとに色分けされた上着(金管楽器は緑、打楽器は黒など)に白いボトムを着ているのだが、女子は白いスカート、男子は白いズボンである。
 
そして西湖はファイフを演奏しながら、
『なんでボクこういう格好することになっちゃったんだっけ?』
と考えていたものの分からなかった。
 
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ファイフの担当は12名なのだが、全員青い上着に白いスカートを穿いていた。
 
西湖はファイフの担当であった。
 
従って、西湖はスカートを穿いていた(三段論法)。
 

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西湖は最初ピアノを希望したのだが
「ピアノは女子にやってもらいたいから」
と委員長に言われて、それは山形さんが弾くことになった。
 
「だったらトランペット吹こうかな」
と言ったら
「ごめんね。トランペットは男子で構成したいから」
と先生から言われる。
 
男子ならボクはだめなの〜?と思ったのだが
 
「天月さん、横笛吹けない?」
と先生から訊かれたので
「フルートなら吹きますけど」
と言った。
 
西湖は父の劇団で笛を吹く妖精の役(真っ白なドレスを着て銀色のティアラも付けた)をしたことがあるので、練習してフルートを吹けるようになっている。その時、祖父(柳原蛍蝶)が「これ僕が若い頃使っていた安物だけど」といって銀色の金属製の結構重たいフルートをくれたので、その後も西湖が所持して時々練習している。祖父はドイツ製だと言っていた。ハミング?とかいう感じの銘が入っている。祖父の若い頃なら50-60年ほど前?のものなのだろうが、古い割には錆びもきておらずしっかりしている感じだ。ただ祖父はブラスバンドとかで吹くなら一度オーバーホールしてもらった方がいいと言っていた。
 
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西湖がフルートができると答えると
「だったらファイフも吹けるよね?よろしく」
と言われた。
 
笛は直接口を付けるから、悪いけど自分で用意してと言われたが、ファイフなら確か従姉のクラちゃんが持ってたなと思い、電話してみたら
 
「せいちゃんが使うならいいよー」
と言うのでもらってくる。練習してみたらすぐ吹けた。
 
「ああ。これフルートより易しい」
と思った。
 

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そして1月に入ってから何度か練習したが、どちらも知っている曲なので、すぐ覚えた。それで卒業式当日、
「ファイフの人はこの制服でーす」
と言って渡されたのがライトブルーの上着と白いスカートだった。
 
西湖は他のファイフ担当の子たちと一緒に理科室に行き、何も考えずに渡された服に着換える。この時周囲はみんな女子だったのだが、西湖はそれも何も考えていない。ひとりの子が
「あれ?天月さん、ここに来たのね?」
と言ったが、
「え?何か?」
と訊くと
「天月さんなら構わない気がする」
と別の子が言って、その後は誰にも何も言われないので、何だろう?と思った。そしてみんなと一緒に理科室を出て体育館前の廊下に集合した時に初めて男子のクラスメイトから言われた。
 
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「ああ、やはり天月さんはスカート穿いたのね」
「え?」
 
それで言われて初めて自分がスカートを穿いていることに気付いたのだが、今更誰かに訊くこともできず、結局スカートのまま行進したのである。
 

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この日卒業式が終わった後、体育館が冷えていたこともあり、西湖はトイレに行きたいと思った。ところが鼓笛隊の衣裳のまま男子トイレに入って行くと、中に居た子たちがギョッとした顔をして
 
「スカート穿いている奴は男子トイレ進入禁止」
と言われて追い出されてしまった。
 
「どうしたの?」
と同級生の天童さんに訊かれる。
 
「男子トイレに進入禁止と言われちゃった」
「ああ。天月さんなら女子トイレでもいいと思うよ。私が付き添ってあげるから」
「うん」
 
それで西湖が彼女と一緒に女子トイレに入ると、行列ができているのだが、並んでいる子たちが一瞬西湖を見たものの、誰も何も言わなかった。
 
それで西湖は天童さんや、その前に並んでいた石田さんなどとおしゃべりしながら列が進むのを待ち、やがて個室が空いた所で中に入り、穿いている中性的なビキニブリーフ(前開き無し)を下げ、スカートが便座にかからないようにして腰掛けて使用した。西湖は父の劇団で頻繁に女の子役をさせられているので、スカートを穿いてトイレを使うこと自体には慣れている。
 
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手洗いでまた待つ時に石田さんから言われた。
 
「天月さんってやはり女子トイレ慣れしてるね」
「そうだっけ?」
「だって恥ずかしがったりしてないし」
「トイレで恥ずかしがるんだっけ?」
と、よく分かっていない西湖は訊く。
 
「やはり普段、学校の外では女子トイレ使っているんでしょう?」
などと言う子もいる。
 
うーん。確かに男子トイレから追い出されて女子トイレを使うことはあるよなあ、とは思う。特にスカート穿いてる日は拒否される率が高い、などと考えている。
 
「私、丸広デパートの女子トイレで天月さんと会ったことある」
「私、先月大宮で天月さんがスカート穿いてるの見たことある」
などという証言が周囲の子からあがる。
 
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うーん・・・先月の大宮はお母ちゃんにうまく乗せられたんだよなあ、などとも思う。まあスカート穿くの嫌いではないけど。何か開放感があるし。
 
「学校にもスカート穿いてくればいいのに」
「天月さんのスカート姿見てみたい」
「可愛かったよ」
などという声もあった。そう言われると迷っちゃう!
 
そういう訳で
 
「天月さんなら、これからも普段でも女子トイレ使っていいと思うよ」
と石田さんが笑顔で言った。後ろに並んでいる天童さんや、周囲の他の子も頷いていた。
 
えっと・・・ボクどうしよう?
 

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娘たちの卒業(6)

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