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■娘たちのマスカレード(8)

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14時ぎりぎりになって望信と理歌が到着する。それで結婚式が始まる。
 
結婚式はロビーの一角を使い、人前式で行われた。
 
司会を買って出た“石原”が
「それではこれより結婚式を“お開き”ます」
と言って、開式(?)を宣言し、まずは三三九度をおこなう。
 
ホテルの“スタッフの女性”が、貴司の杯にお酒を注ぐ。それで貴司がお酒を飲もうとしたら、その前にお酒が消えてしまう。
 
へ?
 
と貴司は思ったものの、取り敢えず三度に分けて杯を傾け、自分が飲んだかのごとく装い、杯を戻した。“スタッフの女性”は阿倍子に杯を渡し、お酒を注ぐ。これを阿倍子が三度に分けて飲み干す。そして最後にもう一度貴司に杯は渡され、お酒が注れたが、また貴司が飲む前にお酒は消えてしまった。貴司は三度に分けて杯を傾けただけで、そのまま杯を戻した。
 
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「指輪の交換です」
と“石原”が言い、“スタッフの女性”が結婚指輪の乗った台を2人の前に置く。
 
それで最初に貴司が小さい方の指輪を阿倍子の左手薬指に填めてあげた。これはチタン製の金色の指輪である。その後、阿倍子が同じく金色の大きい方の指輪を貴司の左手薬指に填めてくれたのだが、貴司はギョッとした。
 
チタンの重さではないのである。
 
この重さは金(きん)だ!(金の比重は19.3でチタンは4.5。つまり約4倍違う)それにこのデザインは記憶がある。それは貴司が昨年千里に贈るためにティファニーで作った指輪と同じデザインなのである。つまり・・・これは多分千里が自分のために作った指輪だ。
 
なぜこれがここにある?そしてなぜ入れ替わったんだ?と思うが動揺してはいけないと思い、平然とそれを填めてもらった。
 
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「これで“結婚は終了”です。おめでとうございます」
と“石原”は言い、閉式を宣言した。
 
貴司は「結婚は終了」と言われた気がしたが「結婚式は終了」の聞き間違いだろうと思った。
 
続けて披露宴、というよりお食事会に進む。ホテルの小部屋に行き、8人の出席者がテーブルに就く。ここでも“石原”が、司会をしてくれた。出席者が1人ずつ祝辞を述べるが、ここで最初に祝辞を述べた望信が
 
「貴司、緋那さん、結婚おめでとう」
とやっちゃったのは、“石原”にも計算外で、思わず笑いたくなったのをぐっとこらえた。
 

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食事会が終わった後、貴司が
「皆さん、ありがとうございました。それではこれから婚姻届けを出してきます」
と言ったのだが、“石原”は言った。
 
「細川君、マニラから戻ってすぐの結婚式で疲れたでしょう。奥さんとゆっくり休むといいよ。婚姻届けは僕が出してこよう」
 
「そうですか?」
実は貴司自身も結構疲れた気がしたので、提出は彼に頼むことにした。
 
それで貴司から婚姻届・阿倍子の戸籍謄本・転居届を預かり、“船越”・“高倉”と一緒にホテルを出た。
 
千里がスペインから転送されてやってきたのは、彼らが出た直後で入れ替わりになった。《きーちゃん》は千里が彼らを見たら『あんたたち何やってる?』と言いそうなので、ヒヤヒヤしていたが、うまくタイミングが合った。
 
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『疲れたぁ。もう身代わりがバレないかとヒヤヒヤだった』
と“船越”が言う。
 
『船越と高倉の顔を知っているのは貴司だけで、貴司はマジでクタクタだった。気付くわけねーよ』
と“石原”。
 
『後はそれを提出したら終わりか』
『これは今日は出さない』
『なんで?』
 
『もしかして永久に出さないとか?』
『そこまでやると千里に叱られそうな気がするんだよ。だから明日の7:04以降に提出する』
 
『7:04?』
 
『今回のプロジェクトは実は千里の親友のある人物(*1)と俺とで計画したんだけど、その人物によると明日の7:04-22:07の間がボイドといって、物事が不首尾に終わりやすい時間帯らしい。だからその時間帯に提出すれば、この結婚は壊れやすい』
 
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『へー』
『その人物が調べてくれたことによると最悪の時刻は7:24』
『ほほお』
『その前後でもいい。だから俺は明日7:22くらいに豊中市役所に行って時間外受付でこの書類を提出する』
『なるほどー』
 
『ところでこのワイシャツ早く脱ぎたいんだけど』
『俺も。これ凄く気持ち悪い』
『ああ、脱いでお焚きあげするか』
 
3人は京都市内の某所まで行き、そこで着ていたワイシャツ・礼服を、今日の結婚式の引出物と一緒に燃やしてしまった。
 

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(*1)実は佐藤玲央美である。玲央美は千里が貴司の結婚でかなり焦燥しているのを見て繋がりのある《すーちゃん》にこの計画を持ちかけた。そして詳細は玲央美と《こうちゃん》の2人で練り上げた。玲央美は高校3年の時以来《こうちゃん》とも度々会っており、玲央美も彼を信頼して計画を進めた。
 
つまり実はこの事件の黒幕(むしろ主犯?)は玲央美だったのである。
 
仮面劇参加者:すーちゃん、きーちゃん、いんちゃん、びゃくちゃん、てんちゃん、こうちゃん、せいちゃん、げんちゃん。
 
かくして、貴司の会社の人は誰も“貴司と阿倍子の結婚”を知らなかったのであった。
 

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理歌は食事会が終わったところでトイレに行って来て、父を待ってホテルを出ようとしていたのだが、そこに千里がやってきたので、1階のカフェに誘い、そこで少し話した。そして自分たちは千里こそ貴司の本当の妻だと思っているということを言うと、千里は涙を流していた。
 
千里と別れてから2階のロビーで日経新聞を読みながら待っていた父と合流する。
 
「どこ行ってたの?」
「千里姉さんと会ってた」
「千里ちゃん、来てたの!?」
 
「そうだ。お父ちゃん、その引き出物貸して」
「うん?」
 
理歌はそれを受け取ると、自分が持っていたものと一緒に、ホテルのゴミ箱に捨ててしまった。
 
望信が驚いたが、
 
「出席するのは私、千里姉さんに頼まれたから妥協したけど、これを持ち帰ることまではできないから」
と理歌は父に言った。
 
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「結局、貴司と千里ちゃんの関係はどうなってるの?」
と望信は理歌に訊く。
 
「千里姉さんは現在でも兄貴の奥さんだよ。だから千里姉さんがfirst wife, 阿倍子さんは事実上のsecond wife」
「うーん・・・・」
 

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そんなことを言っていたら、貴司が何かを探すようにして歩いて来て、こちらを見るとホッとした顔で寄ってきた。
 
「お父ちゃん、理歌、頼みがある」
「どうしたの?」
「この指輪を持ち帰ってくれないか?」
と言ってハンカチに包んだ指輪を見せる。
 
「それは?」
「これは千里が僕に贈ってくれた結婚指輪だと思う」
「兄貴が持ってたの?」
「なぜこれがここにあるのか分からない。実は指輪交換の時に、台に乗っていたのがこの指輪で」
 
「え!?」
「阿倍子が用意してくれていた指輪は探してみたけど見つからない。新婚旅行から戻った後で再度探す」
 
理歌は考えていた。
 
「さっきの結婚式で、兄貴はその指輪を填めたの?」
「うん。阿倍子は違いに気付かなかったようだけど」
「これ18金だよね?」
と理歌は指輪に触りながら言う。
 
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「そう。填められた時に重さで違いが分かった。阿倍子が用意していた指輪はチタン製で軽いんだよ。金色の酸化皮膜が付いているけど」
 
「阿倍子さんは気付かなかったんだ?」
「あの子は鈍いから。どちらも金色だし」
 
(実は阿倍子が手に持ったのはチタン製で貴司が填めたのは金だった。すり替えは填める瞬間に行われた)
 
理歌は更に考えた。そして言った。
 
「結婚式で千里姉さんが贈った指輪を兄貴が着けたということは、さっきの結婚式で兄貴が結婚したのは千里姉さんだね」
 
「え〜〜〜!?」
 
「兄貴、結婚したばかりなのに指輪填めてなかったら変に思われるよ。これでも取り敢えず付けてればいい」
と言って理歌は指輪を貴司に戻した。
 
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理歌たちは悩んでいるふうの貴司を放置し、父と一緒にホテルを出た。
 
「さあ、今日泊まるホテルに移動しよう」
「ん?今日帰るんじゃなかったんだっけ?」
「北海道日帰りは辛すぎるからね。千里姉さんがNホテルに部屋を取っておいてくれたんだよ」
「へー!」
「帰るのは日曜日。大阪2泊ね」
「ああ、それはいいかも知れない」
 
そういう訳で2人は地下鉄で移動していった。
 

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保子はこの日このホテルに泊まる予定だったのだが、式の前に倒れたりして不安なので、そのまま帰ることになった。それで貴司と阿倍子で保子を新大阪駅まで送って行き、ふたりはその後またRホテルに戻った。
 
そしてふたりは一緒にホテル内の部屋に入った。
 
「お母ちゃんが強引に進めてしまってごめんね。私は本当は当面の間貴司さんの婚約者という立場でもよかったんだけど。もう少し体調がよくなったらお仕事見つけて、貴司さんのマンションも出ようと思っていたんだけど」
と阿倍子は言った。
 
貴司は阿倍子の言葉を聞いていて、この子、どこかでひっそり死ぬつもりだったのではという気がした。
 
「いや、こちらこそ全然会いに行けなくてごめん。それでさ、君の体調も結構回復してきているみたいだし、入籍もしちゃったし、妊娠作戦始めない?」
と貴司は言った。
 
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彼女には何か「するべきこと」を与える必要があると貴司は思った。
 
「私あまり自信無いかも」
と彼女は不安そうに言う。
 
「取り敢えず人工授精で何度かやってみようよ。それでやはり難しそうだったら体外受精で頑張ってみよう」
 
貴司としてはセックスするつもりがない。それに多分できないだろうという気もした。
 
「僕は世間一般よりは収入が多いから費用の心配はあまりしなくていいよ」
「でも私、前の夫と体外受精でもなかなか妊娠しなかった」
「だから言ったろ?こういうのって相性があるから、僕となら妊娠するかも知れないよ」
 
貴司としては阿倍子はわりとどうでもよいのだが!?彼女に子供を産んでもらえないと困る。
 
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「そうだよね!」
 
「それで2年くらいやってみて赤ちゃんできなかったら、すっぱり諦めて、2人だけの生活を楽しまない?」
 
その場合は誰か別の女に妊娠してもらえばいいし、などと内心は思っている。
 
「それでいいの?」
「構わないよ。縁があって結婚することになっちゃったし。まあ3〜4年、一緒に暮らしてみるのもいいんじゃない?それで仲良くできそうだったら、ずっと一緒に居てもいいだろうし、ダメそうだったら別れればいいし」
 
貴司がそういうことを言うと、阿倍子は泣き出した。
 

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「どうしたの?」
と驚いて言う。
 
「ありがとう、貴司さん。それなら私随分楽な気持ちでやっていけるかも」
 
貴司としては敢えて3〜4年という数値を出すことで、将来の離婚の布石を打ったつもりだったのだが、阿倍子はかえって感動してしまったようで、困ったなと思った。
 
なおその夜は「初夜だからサービスするね」と言って、阿倍子は貴司の性器を随分いじってくれたのだが、それはピクリともしなかった。
 
「もしかしてED?」
「ごめーん。僕のは女性に触られても全く反応しないんだよ」
「まさかゲイなの?」
「さすがにそれはない」
「貴司さん、時々ブラジャーつけてる気がして」
 
ギクッとする。
 
「ブラジャーは着けてると身体が引き締まる感じなんで、見逃して」
「うん。そのくらいはいいよ」
「ちんちんも、人が見てないところで自分でいじればちゃんと立って射精するよ」
「女性恐怖症?」
「うーん。何なんだろう。でもたくさんいじってもらって気持ち良かったよ。君のもしてあげるよ」
「え?」
「触られるの嫌?」
 
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「・・・・前の夫はそんなことしてくれなかった。自分が出したら終わりだった」
「まあ、そういう男は多いよね」
 
貴司がしてあげると、阿倍子は物凄く気持ち良くなっているようだった。それで阿倍子は「この人と結婚してよかった」と思った。
 

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なお《こうちゃん》は貴司の性器操作のことをすっかり忘れていたのだが、(そもそも彼は千里同様最初は頑張るものの、すぐ飽きる人である)結婚式の時に気付き、初夜ができないように消失させようとした。しかし《たいちゃん》に停められた。
 
「男性器が無かったら騒ぎになるけどEDだと思い込ませておけばセックスを求めようとしなくなる」
「なるほどー」
 
それで貴司の性器はこの夜だけは存在したのである。翌日からは無くなったので例の輸入物で偽装した上で貴司は阿倍子だけ気持ち良くさせてあげ「自分はいいから」と言った。阿倍子は、立たないからあまり触られたくないのかな、と思って自分だけ快楽を貪った。
 
 
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娘たちのマスカレード(8)

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