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(C)Eriko Kawaguchi 2018-11-02
2013年6月20日(木).
龍虎たちQS小学校6年生の一行は1泊2日の日程で修学旅行に出かけた。大型バス3台で、1クラス1台使用する。この時点での各クラスの人数は1組33人、2組34人、3組34人であるが、1組に“なかよし学級”の男子2名、3組に“そよかぜ学級”の女子1名を組み込んでいる。それで各バスに乗るのはこういう構成である。
1号車(39)1組33人、なかよし2人、増田♀、永井♂、佐和♂、水沼♂
2号車(38)2組34人、広橋♂、校医♂、教頭♂、坂本♀
3号車(38)3組34人、そよかぜ1人、竹川♂、牟田♀、西方♀
永井は“なかよし”担任、佐和は特学の支援教員、牟田は“そよかぜ”担任である。それ以外に付き添っているのは、体育の水沼先生、家庭科の坂本先生、音楽の西方先生である。
使用するバスは4×10の正座席41席・補助席9席の(運転手とバスガイド以外に)最大50人乗れるタイプの大型バスである。龍虎たちの乗る1号車の場合、1列目の左に増田先生、右に水沼先生、2列目はなかよしの子と永井・佐和、3〜10列(合計33席)にちょうど33人の生徒が乗る。1組の生徒は席を決めた2人のクラス委員の見地では!男子20人・女子13人なので、このように男女を並べた。
MMMMMMMM
MMMMMMMM
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FFFFFFMM
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各男女の中で酔いやすい人は前の方に、平気な人は後ろの方に座ってもらうことにして、実際の配置は決めている。なお相性の悪い人は隣にしないようにクラス委員の判断で調整している。
そういう訳で、1ヶ所だけどうしても男女が隣り合う所ができる。クラス委員の2人は彩佳を呼んで尋ねた。
「南川さん、田代君と並べてもいい?」
「OKOK。全然問題無い。私たち許嫁(いいなづけ)も同然だし」
「・・・えっと、旅先では性行為は控えてね」
「それは大丈夫。龍はちんちん無いから」
「ああ、やっぱり無いの?」
「先週も裸にして再確認したけど、皮膚の中に埋もれてるから無いも同然」
「・・・南川さん、妊娠しないように気をつけてね」
それで座席配置を確定させ、座席表を増田先生に提出すると、増田先生は言った。
「1号車は他の組より1人多いから大丈夫かな?と思ったけど、ちゃんと男子は男子、女子は女子とだけ隣り合うようにできたね」
クラス委員の2人は一瞬顔を見合わせたが、“いいことにした”。
そういう訳で6月20日の朝、龍虎たちは学校に荷物を持って集合し、校長先生のお話を聞いてから、全員バスに乗り、出発した。
座席表は事前に配られていたのだが、彩佳と龍虎が並んで座ることは誰も気にしていない。彩佳も席決めの時点で言われていたので気にしていない。龍虎は何も考えていないので気にしない!
バスガイドは1号車を任せられるだけあってベテランの人で話術が巧みで、みんなを笑わせてくれた。最初から
「皆様、右手をごらん下さい。それが右手でございます」
と言って、笑いを取る(小学生はこの程度で笑ってくれる。ちなみにおばちゃんたちもこの程度で笑ってくれる)。
行程中はガイドさんの解説が入る所もあったが、多くの時間、歌を歌って過ごした。マイクをずっと回していくが、事前に最近の流行歌やキャンプソングなどの歌詞を印刷したものを配っているので、その中から歌う人もあったし、自分の好きな歌手の歌を歌う人もあった。並んでいるふたりでデュエットする人たちもあった。
龍虎は1回目に回ってきた時は、教科書にも載っていた曲『花の季節』(*1)を歌いみんなから「かっこいいー!」と言われた。
「でも龍ちゃん、龍ちゃんにはもっと可愛い曲が似合う」
などと言われたので、2度目に回ってきた時は『踊るポンポコリン』を歌った。
しかし
「ちがーう!そういう可愛さではない!」
と言われた。
もっとも性的に未熟な龍虎に色気を求めるのは無理というものである。
(*1)この曲は『悲しき天使』の名前で知っている人も多い。メリー・ホプキンズの "Those were the days" の邦題であるが、元々は1920年代にヒットしたロシア歌謡で、原曲のタイトルは『長い道』(Дорогой длинною ダロガイ・ドリンナユ)。ほぼ直訳の歌詞のものをローズ+リリーがカバーしている。『花の季節』は芙龍明子作詞。
Дорогой длинною(長い道)
作詞:Константин Николаевич Подревский (1889-1930)
作曲:Борис Иванович Фомин (1900-1948)
訳詞:マリ&ケイ
Ехали на тройке с бубенцами,
鈴付きの馬車(トロイカ)が走ってゆく、
А вдали мелькали огоньки...
遠くに灯りが見える...
Эх, когда бы мне теперь за вами,
ああ。その後に付いてってたら、
Душу бы развеять от тоски!
憂いは消えてたのに!
Дорогой длинною, погодой лунною,
長い道を、月明かりの中、
Да с песней той, что вдаль летит звеня,
遙か遠くで舞う歌と、
И с той старинною, да с семиструнною,
古い想い出、七弦ギター(セミストルンナユ)が、
Что по ночам так мучила меня.
苦しめ続けたあの夜。
1時間ほどの行程で群馬県富岡市の富岡製糸場に到着する。ここで製糸場のガイドさんに連れられて1時間ほど見学する。運転手とバスガイドさんはその間お休みである。
ここは1872年に建設された、日本初の本格的な製糸工場である。規模としても当時世界一の大きさの製糸工場で、品質の良い生糸の輸出に大いに貢献した。
フランスの技術を導入して建設されているが、フランスの技師たちは日本の多湿な風土に合わせて揚返という工程を追加したり、そこで働く日本人女性の背丈に合わせて機械の高さを低くするなどの調整をおこなっている。
働いていたのは士族の娘たちが多く、当時最先端の技術者として誇りを持って働いていたし、日曜日は休みで労働時間は1日8時間などといった良好な労働環境であった(昔は年に2度の藪入り以外無休が普通)。そしてここの“工女”(と呼ばれた)たちが1-3年程度働くと退職して、各地に作られるようになった製糸工場で後進の指導にあたったのである。
製糸工場というと『女工哀史』に見るような過酷な環境で働いた農家の娘たちを連想する人も多いが、富岡はとても恵まれた環境にあった工場であった。(もっとも女工哀史に描かれている女性たちは実家に居れば工場の作業どころではないもっと過酷な人生を強いられていた)
この工場は最初は官営であったが、後に三井財閥、そして片倉工業に受け継がれている。戦時中の空襲の被害も受けずに、明治時代の遺構を今に伝えている。
説明コースが終わってバスに戻る前にトイレに行っておこうという話になる。龍虎は仲の良い、彩佳・桐絵・宏恵と4人で回っていたのだが(本来班単位で歩くはずが、既に定められた“班”は無視されている)、一緒にトイレの方に歩いて行き、男女に分かれているところで、龍虎だけ男子トイレに行こうとする。
「待った」
と言われて彩佳に身柄を確保される!
「龍、トイレは私たちと一緒に行くと言ってたでしょ?」
「え?でもトイレの前まで一緒に来たよ」
「でも1人だけ男子トイレに入って、その中で襲われたらいけないよ」
「男子のクラスメイトもいるから大丈夫だよ」
「そもそも龍は男子トイレには入れない気がするし」
「うーん・・・」
「試しにそちらに行ってごらんよ」
それで龍虎が男子トイレの入口まで行こうとしたら、女子トイレの前に立っていた女性スタッフさんが走って行って龍虎を停める。
「君、そちらは男子トイレだよ。女子トイレはこちらだよ」
「あ、はい。すみません。間違いました」
それで龍虎は女性スタッフに連行されるかのようにしてこちらに戻ってきた。
「龍ちゃん、何やってるの」
「間違ったらダメじゃん」
と彩佳たちに言われる。女性スタッフが龍虎の身柄を彩佳たちに引き渡す!
「ね。やはり男子トイレには入れないでしょ?」
「ボクどうしたらいいんだろう?」
と龍虎は困ったような顔をしている。
「だから私たちと一緒に女子トイレに入ればいいんだよ」
「え〜?それはまずいよぉ」
「大丈夫、大丈夫、問題無い」
と言って彩佳は桐絵とふたりで龍虎を連行するかのようにして女子トイレに連れ込んだ。
他の女子たちが龍虎に視線をやるが、誰も咎めない。それで結局龍虎は彩佳たちと一緒に女子トイレ名物の行列に並び、空いた所で個室に入って、用を達した。出した後はもちろんちゃんと拭く。龍虎の場合、“構造上の問題で”する時に周囲を濡らしてしまうので、拭くことが必要である。
そういう訳で龍虎は、予想通り!修学旅行の間はずっと女子トイレを使うことになってしまったのである。
富岡製糸場が終わったのが11時頃で、そこからバスで20分ほど移動して高崎のだるま制作工房で門田達磨製作所という所を訪れる。ここでベテランの職人さんという感じの人が、だるまを作る工程を説明してくれた。
だるまの生地を作るには2種類の方法がある。この工房ではその両方の方法でだるまを生産している。
伝統的な製法ではだるまの木型に濡らした厚紙を手作業で貼り付けていき、強化するために細い短冊のような紙も貼り付けていく。2〜3日天日で乾かしてから、生地を切断して木型から外す。切断した所は膠(にかわ)で貼り付ける。この方法は手間が掛かるので、伝統的なだるまを欲しがる人のために少量だけ生産している。
量産品は真空成形法で作られる。新聞紙や玉子の運搬用パックなどを水に溶かしこみ、高濃度の液を作る。そこにだるまの形に中空の型を沈め、外周から真空吸引して中心部の気圧を下げ、紙の層を型の内側に形成する。引き上げて取り出し、天日で数日乾燥させる。
この後、下地を塗り、赤い色を塗り、その後顔の部分に白い塗料を塗り、顔を描く。下地と赤い色は、伝統的には刷毛で塗るが、量産品の場合は塗料の入った水槽に沈めて一気に塗ってしまう。しかし顔の部分の白塗り→顔描き、は手作業である。
特に顔を描く作業はベテランの職人さんたちによってひとつひとつ描かれていくので、完全に同じ顔のだるまは決して生まれない。
龍虎たちが見学した所は製造だけしている工房で、ここで作った製品はイオンモールなどで販売されているということだった。
見学が終わったのが12時頃で、それからそのイオンに移動して昼食である。各自好きなものを食べていいということだったので、龍虎・彩佳・桐絵・宏恵の4人はハンバーガーセットを食べた。男子たちは高崎ラーメンとかを食べていたようであるが、
「なんかボリュームあるね〜」
「ちょっと入らない」
などと彩佳たちは言っていた。
食事の後はデザート?に上州名物焼きまんじゅうを買って一緒に食べた。女子はおやつは別腹である。龍虎も女子同様おやつは別腹のようである。
13:00出発ということでまだ時間があったので、さっきの工房で作っただるまを売っているお店に行き、5cmサイズの小さなだるまを買った。
「こんな小さいのでも、ちゃんと起き上がるんだね」
と言って龍虎は何度も倒しては起き上がるのを楽しんでいる。
「この底に付いてるのが、下地塗る前に貼り付けていたやつだよね。何て言ったっけ?」
「ヘタ?」
「似てるけど違う気がする」
「ハタとか?」
「いや“ヘ”で始まった気がする」
「ヘマ?」
「それは全く違う」
「思い出した。ヘッタだよ」
「ああ、それそれ」
「最初に言ったのがいちばん惜しかった」
出発前にトイレに行く。龍虎は当然彩佳たちと一緒に女子トイレに入るが、むろん誰にも咎められない。出発前に来ているのでQS小の子が多いのだが、龍虎たちがおしゃべりしながら行列に並んでいたら
「ねぇ、誰かナプキン持ってない?」
という声がある。
「龍、プレゼントしてあげたら?」
と桐絵が言う。
「うん」
と言って龍虎は生理用品入れからナプキンを1個取ると、桐絵に
「投げ入れてくれない?ボクには無理」
と言って渡す。
「OKOK」
それで運動の得意な桐絵がポイとなげて個室の中に放り込んであげた。
「サンキュー」
という声が個室の中からした。
中に居たのは2組の有香ちゃんである。
「今恵んでくれたの誰?」
と有香。
「龍だよ」
と彩佳。
「へー!龍ちゃんもナプキン持っているんだ?龍ちゃんありがとね」
「あ、うん」
と龍虎は少し恥ずかしがっている?
「そりゃちゃんと生理は来ているからね」
と彩佳が言うと
「龍ちゃん、生理があるんだ!」
と周囲の女子が驚いていた。