広告:オトコの娘コミックアンソロジー- ~強制編~ (ミリオンコミックス75)
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■娘たちの仲介(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-05-04
 
愛菜は両親に連れられて、その私立の小学校を訪れた。
 
「こんにちは。私はそちらのお母さんのファンだったんですよ。若い頃コンサートにもたくさん行きましたよ」
と言って、50歳くらいの若い理事長さんは笑顔で言った。
 
ああ、この人、うちの母ちゃんと同世代っぽいなと峰子は思った。
 
話し合いは、愛菜と両親、理事長・校長・教頭と養護教諭、それに新一年生を担任予定のベテランの女教師の8人で進められた。
 
「そういう訳でこの子は確かに戸籍上は男の子ではありますけど、心は完全な女の子なんです。服装も今日着ているようにスカートを穿いて、赤系統の服を好みますし、髪も短く切るのは嫌といって、このように長くしています。話し方なども女の子の話し方なんですよ」
と峰子は説明する。
 
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「念のため、愛菜ちゃんの心理テストをしてもいいですか?」
と養護教諭が言う。
 
「はい。愛菜ちょっと色々質問されるの。いい?」
「うん」
 
それで2人が別室に行った。
 

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「それでは戸籍上の名前も愛菜ちゃんに変更申請中なんですね?」
 
「はい。裁判所に行って、裁判官の方と色々お話しましたが、幼稚園の間2年間その名前を使っていて、本人がこれだけ女の子らしければ問題無いでしょうと言われました。正式の決定はたぶん2月中くらいにもらえると思っています」
 
また両親は愛菜の睾丸は外国の病院で除去してあること、ペニスは除去していないものの、お股の形は女の子にしか見えないと思うと言い、その付近の写真を見せた。
 
「これ本当にちんちん付いてるんですか?」
「付いています。それを切るのは大手術になるのでもう少し年齢があがってからの方がいいと言われたんです」
「なるほどですね」
 
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「こちらが女の子水着を着せた写真です」
と言って、その写真も見せる。
 
「女の子にしか見えないね」
「これは思っていた以上に問題が少ない気がするね」
 
などと向こうの先生たちは言った。
 

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やがて養護教諭に連れられて愛菜も戻って来る。
 
「心理テストの結果ですけど、ごく普通の女の子ですね」
と養護教諭は言い、テストのスコアなども見せる。
 
「過去に何度かMTFの子の心理テスト結果を見たことがありますが、概して女らしさが強すぎる人が多いんですが、この子の場合は、強すぎることもなく普通の女の子の平均に近いです」
 
「本人が女の子であることを確信しているという感じかな」
「そうなんです。心に余裕があるんですよ」
 

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この小学校の入試はとっくに終わっていたのだが、峰子の父があちこちにコネを持っており、ある議員さんでGIDに理解のある人の仲介でこの学校を紹介してもらったのである。
 
この学校は実は1年前に当時4年生に在学していた戸籍上女の子である児童を本人と家族の希望により男児として扱うことにして、女子制服から男子制服に変えて通学するようになった。このことは学校名なども伏せて報道されていた。それで学校側に、こちらは逆に戸籍上は男の子で心が女の子というケースなのだがと言って接触した所、一度会いたいということになって、この日の面談となったのであった。
 
話し合いは愛菜同席の中で1時間ほど、更に愛菜本人は外して更に2時間ほど続けられ、愛菜はこの小学校に4月から女児として通学することができることになった。その場で入学許可証を発行してもらえた。
 
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「では入学時期が迫っているので、すぐに制服を作って下さい」
「分かりました。この後、その洋服屋さんに連れて行きます」
 
なお改名が今回もし裁判所から認められなかったとしても、通称使用で愛菜の名前が使えることになった。
 
「良かったね。これであんた4月から小学生の女の子だよ」
「嬉しい!」
と愛菜はとても喜んでいた。
 

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自宅からこの学校までは距離があるので、自家用車通学ということになるが、両親ともひじょうに多忙なので、誰か通学のお世話をしてくれる人が必要になる。誰か口の堅い、信頼できる人がいないか何人かの知人に聞いていたら、旧知のレコード会社の人(この人は愛菜の性別は知らない)が、運転のうまい女性がいると言って田中淑子さんという人を紹介してくれた。
 
それで直接電話で話してみたら彼女が峰子の昔のマネージャー(当時の名前は佐藤淑子)であることに気付き、双方仰天した。
 
彼女は現在は主婦で子供の手も離れつつあり、やってもよいということだったので、取り敢えず1度会うことにした。
 
峰子が芸能活動をしていたのは2000年から2005年まであるが、佐藤さんはその最初のマネージャーであった。とても優しいマネージャーさんで辛いことがあっても、彼女のお陰で何とか頑張ることができた。
 
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しかし彼女は1年ほどで「結婚するので」と言って辞めていった。彼女とはその後の交流なども途絶えていたのだが、その佐藤さんの名前を聞いた時、峰子は「淑子さんなら信頼できる」と思ったのである。
 
彼女は翌日早速来てくれたが、自宅前にNSXが乗り付けられるのでびっくりする!
 
「どこか駐められる?」
「うん。ガレージ開けるね」
 
彼女はマネージャーなどの仕事からは離れているものの、実は作詞者をしていて、主婦をしながら年間3万kmは走って旅先で詩を考えているらしい。国内A級ライセンスも持っていて、サーキットで走っていると言っていた。
 
「すごーい!だったら安心して任せられる」
と峰子は感激して言った。
 
やや“グレード”の高い小学校なので、一応通学には峰子の父が所有しているベンツSクラス(*1)を使いたいのだがと言ったら
「面倒くさそうな学校ね〜。でも旦那がSクラス持ってて、よく私も使ってるから全然問題無い」
ということであった。
 
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「NSX持ってて、旦那さんがSクラスって、お金持ち?」
「Sクラスって中古車も多いんだよ。旦那が買ったのは20万」
「20万円〜〜〜!?」
「色々改造してるけどね。改造費がたぶんその20倍掛かってる。カードの明細を絶対に私に見せない」
「あはは」
「ちなみに私のNSXも中古。250万で買った」
「へー!」
 
(*1)メルセデス・ベンツの主な車種ランキングはS>E>C>B>A。元々はS(Special), E(Executive), C(Compact)の3種類で、後にエントリーモデルのA(最初に乗るメルセデスということでアルファベットの先頭)が出来て、AとCの中間にBが設定された。
 
2014年以降はこれらの“前に”GL:SUV(Gelaendewagen) CL:クーペ(Coupe Leicht) SL:ロードスター(Sport Leicht) といったものが付く。例えば CLA というのはクーペのAクラス(先頭にCがあってもCクラスではない)。このルールの結果一部のクラス名が変更になった。 GL->GLS ML->GLE GLK->GLC SLK->SLC.
 
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ベンツSクラスは高級車の最高峰であるとして“ベンチマーク”と呼ばれる。
 
元々は運転手付きの車(Chauffeur Driven Car)と考えられていたが、現在は別ブランドの超高級車マイバッハが出来てしまったため、Sクラスはむしろ自分で運転する車(Owner Driven Car)の最高峰と考える人が増えてきた。
 

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「でも11年ぶりかな」
「もうそんなになるかな。ついこないだのことみたいなのに」
とお互い言う。
 
「旦那さん、無茶苦茶忙しいでしょ?」
と彼女から訊かれた。
 
「あまりにも忙しくて最近会話が無いんだよ。突然愛人が出来たから離婚しようとか言われたらどうしよう?と思ったりすることもある」
 
と峰子は正直な所を告白する。淑子は峰子と夫の微妙な“事情”も知っているようだ。
 
「峰子ちゃん結局手術したんだっけ?」
 
峰子は首を振る。
 
淑子は厳しい顔のまま言った。
 
「たぶん彼は浮気する暇も無いよ」
「そういう気はする」
 

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ふたりはお茶を飲む。淑子が持って来てくれたケーキを摘まむ。
 
「これ美味しい!」
「ここいいのよね〜」
 
「そちらは円満?」
と峰子は訊いた・。
 
「土日には車を何やらいじっているか、あるいは私と子供乗せてどこかにお出かけしてるかだから、たぶん浮気の時間が無い」
「ああ、男の人はそれがいいのかもね〜」
 
「でも結婚前の苗字が佐藤で、結婚相手が田中で、なんて平凡な苗字と言われる」
「ほんとだ!」
「私名前もありふれているしさ。だいたい私と会った人が30分後には名前を忘れてしまう」
「うーん・・・」
「だから凄く適当に名前呼ばれる。鈴木恵子さんでしたっけ?とか、加藤優子さんでしたっけ?とか」
 
「あはは。お子さんは何人?」
「3人。マネージャー辞めて結婚してすぐに産んだ子が4月から5年生なのよ」
と淑子。
「大きくなったね!」
 
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「何かどちらの親にも似ずに音楽の才能があって。3歳の時からピアノは習わせていたんだけど、幼稚園の時に唐突にヴァイオリン習いたいと言い出して。それでピアノと2つも大丈夫と言ったんだけど頑張ると言って、教室に通ってる。どうもピアノよりヴァイオリンの方が才能あるみたい」
 
「へー!」
 
「だから最近は私も家に居る時はずっとあの子の練習パートナーしてる」
「ああ。ヴァイオリンはピアノ伴奏者が必要だもんね!」
 
峰子は何気なくその質問をした。
 
「あれ?女の子だっけ?男の子だっけ?」
「うーん。。。どっちなんだろう?」
「へ!?」
 

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1月23-24日にクロスロードのメンバーで伊豆の温泉に行ったのだが、この時、初参加となった美緒と紙屋は、最初政子と冬子のことを認識していなかった。
 
小夜子が
「『天使の休息』聞いたけど、アニメのテーマ曲というのは新機軸だね」
と冬子に言った。
 
「いやテーマ曲はAYAが歌って、私たちはエンディングだけどね」
「へー。逆でも良かったと思うのに」
「いや、ああいう元気な曲はAYAの方が似合っているよ。私たちはハーモニーで聞かせるタイプで」
などと冬子が答える。
 
その時、美緒は話が見えていなかったので訊いた。
「カラオケか何かで歌ったの?」
 
それで桃香が言った。
「いや、この人たちは歌手のローズ+リリー」
 
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「え〜〜〜〜〜!?」
と美緒も紙屋も驚く。
 
「なぜそんな有名所がこういう場に?」
と美緒。
 
「岩手県の避難所で偶然遭遇して」
と淳。
 
「全員別々のグループのボランティアだったのが、たまたま同じ避難所でかちあった」
と桃香。
 
(桃香と千里は炊き出し、青葉は心のケア、淳と和実は支援物資の搬入、あきらはヘアカット&洗髪、ケイは歌の慰問である)
 
「パス度の高いMTFばかりだったんで、また会いましょうよという話になって」
とあきら。
 
「それで定期的に集まっているんだよ」
と千里。
 
「サインが欲しい〜!」
と美緒が言うが
「そういうのはこの会合では無しで」
と和実。
 
「分かった」
と美緒。
 
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「で、結局ローズ+リリーって活動再開したんですか?」
 
「今は音源製作だけをやっているんですよ。契約的に色々面倒な問題があったのがクリアされたんで、これまで制作だけして発売してなかった音源を今年はいくつか公開する予定」
 
「おお、それは楽しみ!」
 
「ローズ+リリーのライブはやらないの?」
と紙屋が尋ねる。
 
「そうだなあ。2〜3年経ったらしてもいいかなあ」
と政子が言うので
 
「ああ、やはり大学卒業後?」
と美緒は訊いたのだが
 
「まあマリちゃんは1年くらい前は100年後とか言ってたね」
と冬子が言う。
 
「えへへ」
 
「1年で98年間短縮したのか」
「だったら、もうこの春くらいには再開?」
「どうしようかなぁ」
などと政子は言っている。
 
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どうもあと1押しすれば落ちそうだと、この場にいたみんなが思った。
 

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