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ゲーム終了後、ロビーで司紗とソフィアが揚羽たちに声を掛けた。
「ほんと最後まで頑張ったね」
と司紗。
「ファウルが多くてごめんねー」
と途中で退場になった向こうのキャプテン後藤さん。
「欠席者とかで5人になっちゃったの?」
「いや元々5人しか居ないチームで」
「あらら」
「その1人が先週辞めて4人になっていた所を、ちょうど知り合いの原口さんと遭遇して、今フリーだと聞いたから、今日は助っ人に入ってもらった」
「あっちゃん、助っ人だったんだ!?」
明らかに揚羽がいちばん強かったのに、最後までキャプテンマークを付けなかったのはそのせいかと司紗は納得した。
「実は今4人だけど、その内2人は3月で卒業で就職内定していて退団するんで私と真田さんの2人だけになっちゃうんだよね」
と後藤さんは言っている。
「ね、ね、いっそのこと、うちに合流しませんか?」
と玉緒が提案した。
「でもそちら日本代表とかが入ってるチームでしょ?出番があるかな?」
「だからこういうオープン大会とかに出る要員が必要なんですよ」
「なるほどー!」
「うちに入れば、お給料とかは無いけど、バスケ協会の会費、ユニフォーム代、遠征の交通費・宿泊費・食費、スポーツ保険は全部チームから出るし、練習場所の体育館に置いてあるおやつや飲み物は食べ放題・飲み放題だよ。体育館は貸切りだし住宅街から離れているから24時間365日利用可能」
「それいいな」
「でも会費が毎月5万とか言わないよね?」
「会費は毎月1000円」
「まあ実質月1度くらい開いている女子会の費用」
「スポンサーとかいるの?」
「そうそう。年間500万くらい支援してくれている」
「すげー!」
「だったら入ってもいいかな」
と後藤さん・真田さんは顔を見合わせている。
「あっちゃんも入るよね?」
と司紗。
「え?え?」
と揚羽が言っている内に、後藤さんと真田さんが
「じゃそちらに入る」
と返事した。
それで司紗は
「じゃ、後藤さん、真田さん、あっちゃんは4月からうちのチームに合流ね」
と言い、揚羽は、なしくずしにローキューツに参加することになってしまったのであった!
「ところで《晩餐》というチーム名の意味は?」
「フランス語のvingt-cinq ans(ヴァンサンカン, 25歳)から」
「創立者が25歳の人3人だったから」
「その人たちは全員辞めて、私たち20歳世代だけが残っていた」
「なるほどー」
同じ2月12日、千葉市内の体育館で千葉県冬季クラブ大会で予選リーグが行われた。現時点で千葉県内の女子クラブチームが6つなので、3チームずつ2つのグループに分かれ、総当たりでリーグ戦をして、1・2位のチームが来月の決勝トーナメントに進出することになる。
こちらは千里や誠美など強烈すぎるメンバーが出場したので2試合とも大勝。グループA1位で予選リーグを通過した。
シェルカップに出たBチームのメンバーの大半はそのまま解散したのだが、浩子と玉緒・司紗・ソフィアの4人、それに揚羽と《晩餐》から加入することになった後藤真知と真田雪枝を加えて合計7人は、夕方、Aチームのメンバー(一部はバイトなどの都合で離脱)と千葉市内のファミレスで会った。
「揚羽、久しぶり〜」
と言って、千里が揚羽とハグする。揚羽は薫とも握手する。
「ハグと握手の違いは?」
と玉緒から質問が出る
「たぶん性別の違い」
と司紗が言うと、薫が苦笑いしている。
「ん?」
「そうだね。私は戸籍上男で、薫は戸籍上女だから」
と千里が言うと
「意味が分からん」
と言われた。
「そうか。2人対5人になったのか」
「2人残っていたら試合続行というルールは知らなかった」
「ゲームを始める時には5人居なかったら没収試合なんだけど、いったん5人で始めた後は2人以上いる限り続行可能」
「あ!最初は5人必要なんですか!」
「まあでも無茶だよね。対抗できる訳が無い」
「でも私2人対5人の試合知ってる」
と千里は言った。
「どういう試合?」
「高梁王子が一昨年の春、留学先から一時帰国してE女子高のバスケ部の子と顔合わせしたんだよね。ほぼ2年前だね」
「うん」
「その時、王子と彼女の親友・平野弓恵の2人vsE女子高のレギュラー5人とで2:5の試合をした」
「へー。高梁さんなら、それでも結構何とかなったかも」
「結果は高梁・平野ペアがダブルスコアでレギュラー5人組に勝った」
「うっそー!?」
「いや、高梁王子なら、そのくらいやるかも」
とソフィアが言う。
「まあ強すぎるよね」
「1人ではパスが出せないから、やはり最低2人なんだよね。平野さんも結構強いし、2年前のE女子高レギュラー相手なら、やむを得ないだろうね。その試合の敗戦のショックから雨地月夢(あまちるな)は覚醒したと言っていた」
「わぁ・・・」
「だから後藤さん、真田さんも覚醒しなよ」
と千里は言う。
「なんかやる気が湧いてきた」
と真田さん。
「待って。今微妙に誤魔化された気がする。覚醒したのは5人の方じゃないですか」
と後藤さんは言った。
「まあ揚羽ちゃんが覚醒するかもね」
と麻依子が笑いながら言った。
2012年2月15日。
日本バスケット協会は、ロンドン五輪に出場する国を最終的に決める世界最終予選に出場する女子日本代表の候補者20名を発表した。
昨年のアジア選手権の代表候補が中心になっている。
PG 羽良口英子(1982) 武藤博美(1983) 富美山史織(1981)
SG 三木エレン(1975) 花園亜津子(1989) 村山千里(1991)
SF 広川妙子(1984) 佐藤玲央美(1990) 早船和子(1982) 佐伯伶美(1986) 千石一美(1986)
PF 横山温美(1983) 高梁王子(1992) 月野英美(1986) 吉野美夢(1984) 宮本睦美(1981)
C 馬田恵子(1985) 黒江咲子(1981) 中丸華香(1990) 石川美樹(1986)
ヘッドコーチはドイツ人のジーモン・ハイネン(74)と発表された。
千里はこのヘッドコーチの人選に物凄い不安を感じた。
そもそも名前を聞いたことが無い!
それにドイツはバスケットがあまり強い国ではない(この当時の世界ランキングで男子18位、女子はランク外)。更に74歳という年齢にもかなりの不安を感じる。大丈夫か?試合の途中で心臓発作とか起こしてくれるなよ?
女子の最初の合宿は3月14日から行われるということであった。
《しーちゃん》が女装して!ケイの代理を務めているローズクォーツのツアーは続いていた。
2.3(金)那覇 5(日)福岡 8(水)広島 9(木)金沢 11(土)名古屋 12(日)大阪 15(水)札幌 16(木)仙台 18(土)東京 19(日)横浜
客の入りが悪いのはもう諦めるしかないと《しーちゃん》も開き直りの気分になってくる。それにしても何か移動がハードすぎないか?などとも思う。
最初の東京→那覇→福岡は飛行機で移動であるが、その後広島へは高速バスでの移動と聞き驚く。金沢へは新幹線+サンダーバードを使っているが、名古屋へはまた高速バス(「時間的にJRと大差無い」と須藤は言っていた)、大阪へは近鉄電車、札幌へは(神戸から!)飛行機を使っているものの、札幌から仙台へは急行はまなすと新幹線の乗継ぎになっている。
大阪で公演があったのにわざわざ神戸に移動してから北海道に飛んだのは安いスカイマークを使うためである。
青森・新青森間は特急・津軽2号の自由席に乗った。ケチの須藤さんにしてはたった1区間によく特急を使うなと思ったら、タカによるとこの区間の自由席は無料で乗れるらしい!
なるほど。無料で特急に乗れるから、特急に乗せてくれたのか!と須藤さんの発想がだいぶ分かった気がした。
なお、高速バスを多用していて機材を持ち歩けないので、楽器やPAは全て現地調達である。須藤は各々の地区で安く(あるいは無料で!)楽器を借りられる所を熟知しており、それについてはもう感心していた。
もっとも“ケイ”は大学の試験直前で、可能な限り東京に戻ることになっていたので、《しーちゃん》はかなり楽をすることができた。
■ツアールート(◎全員 #タカたち ★ケイの建前 ☆しーちゃんの実際)
◎羽田 2/2 6:25(SKY511)9:25 那覇 (2/3 Live)
#那覇 2/4 10:45(SKY502)12:20 福岡 (2/5 Live)
★那覇 2/4 8:00(ANA120)10:10羽田(東京滞在)羽田2/5 11:30(ANA251)13:25福岡
☆那覇 2/4 9:40(ANA482)11:15福岡
ケイは東京と往復して来たことになっているが《しーちゃん》は直行している。
#博多駅BC 2/6 7:30(広福ライナー)11:25広島BC (2/8 Live)
★博多 2/5 22:20-22:41小倉(泊)北九州 2/6 5:30-7:00羽田/東京 2/8 12:30-16:38広島
☆博多 2/5 22:20-22:41小倉(3泊)小倉 2/8 15:47-16:36広島
スペースワールドに行ったりしてのんびりと“休み”を楽しんだ。
◎広島 2/9 6:00-7:25新大阪7:45-10:25金沢 (2/9 Live)
#金沢駅東口 2/10 6:30(北鉄バス)10:28 名鉄BC(名駅) (2/11 Live)
★金沢駅東口 2/9 22:00(JR.ドリーム金沢号)2/10 6:13東京駅/東京 2/11 15:10-16:51広島
☆(金沢2泊)金沢 2/11 13:45(しらさぎ10)16:48名古屋
冬の兼六園を見たり、金沢カレーの食べ歩きなどを楽しんでいる。
◎近鉄名古屋 2/12 5:30-6:42伊勢中川7:03-8:45大阪上本町 (2/12 Live)
#(大阪2泊)神戸 2/14 7:35(SKY171)9:25 新千歳 (2/15 Live)
★新大阪 2/12 22:30-23:20名古屋(泊) 2/13 6:20-8:13東京/羽田 2/15 14:00(ANA67)15:30新千歳
☆(大阪3泊)関空 13:40(ANA1715)15:30新千歳
お好み焼き・たこ焼き・イカ焼き・明石焼きと食べて「ボク食べ過ぎ?」と少し悩んだ。海遊館にも行って来た。そろそろ暇をもてあまし始める。
◎札幌 2/15 22:00- 2/16 5:40青森5:46-5:51新青森6:10-7:47仙台 (2/16 Live)
#仙台駅東口 23:50(ドリームササニシキ) 2/17 5:11 東京駅 (2/18 Live)
★仙台 2/17 21:48-23:44東京(後述)
☆仙台 2/17 21:48-23:44東京(後述)
ローズクォーツと一緒に宿泊したのは、2/2-3の那覇、2/8の広島、2/11の名古屋、2/15のはまなす車内であるが、宿は全部ツインで1泊4000円くらいの格安ホテルであった!(部屋割はタカ・サト/マキ・ヤス/須藤・ケイ)
《しーちゃん》は須藤さんとずっと一緒にいるとさすがに代役がバレそうだったし、心が男の子なので女性と同室になることには心理的抵抗があったので
「曲の構想を練っています」
と言って夕食後出かけ、早紀(丸山アイ)から預かっているクレカを勝手に使って別のホテルに泊まっていた!。
はまなすについては自由席で、空いている席が少なく須藤とは離れた場所に座ったので助かった。タカが何度も来て、お弁当だけでなく、おやつやビールまでくれるので、マメな人だなと思った。
その夜の座席は隣が結構セクシーな雰囲気の女子大生っぽい子であったが、4000歳にもなれば今更女子大生の色香に迷うこともないので普通に熟睡していた。
でも朝目が覚めたら彼女が《しーちゃん》の膝に頭を乗せていたので、さすがにギョッとした!一瞬“立った”感覚もあったが、残念なことに立つ物が存在しなかったので実際には何も起きなかった。
ちなみに《しーちゃん》は女の子になりたい気持ちは(多分)無いのでトイレは立ってすることが多い。女の子に擬態している時はちんちんが無いが(*1)、WhizというSTP(女性用立ちション補助具)を使っているので困らない。Whizはトラベルメイトなどと同様“おちんちん”に“パック”して、あたかもおちんちんからしているように偽装可能だが、《しーちゃん》は別に男の子になりたい訳でも無いので、“おちんちん”は携帯せずに、Whizのみを下着のポケットに入れて持ち歩いている。
(*1)ちんちん付きの女体にもなれるのだが、女の身体でちんちんが付いているのは《しーちゃん》の美意識になじまないらしい。