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■娘たちの仲介(4)

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そして午後からの決勝戦の相手は3年連続で江戸娘である。
 
2010年の大会決勝では江戸娘が勝った。2011年はローキューツが制した。そしてまた決勝戦で会った。
 
両チームは2009年の9月には各県の3-4位チームが戦う“裏関”の準決勝で当たったのが最初なのだが、そのあと共に関東のトップを争うチームに成長した。
 
「あれ?**さんが来てない?」
と千里は試合前に相手のベンチを見ていて言った。
 
「**さんは辞めたらしい」
と情報分析担当?の薫が言う。
 
「なんで?」
「どうも経済的な理由っぽい。江戸娘はスポンサーが居ないからこういう所に出てくる時は、選手や監督がみんな数万円の負担をしている。強いチームだから遠征も多くて、それで自己負担が凄まじいんだよね」
 
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「うーん・・・」
「どこかスポンサーが付けばあそこは物凄く強いチームになると思う」
「今でも凄く強いチームだけど」
 
「初期の頃はお寿司屋さんがスポンサーだったらしいけど、負担が大きくて音を上げて降りたらしいよ」
「ああ」
「今でも年間10万くらいは寄付してくれているって」
「それだと大会参加費程度だなあ」
「それだけでもありがたいと思う」
「でもあのチームの維持費は年間100万以上掛かるよ」
「実際千里もローキューツにそのくらい投資してるよね?」
「うん。体育館の賃料と差し入れ食糧を除いてね」
 
(房総百貨店体育館の賃料は年間250万円である。但し光熱費は別。また体育館の冷蔵庫や棚に置いているアイスや冷凍食品、デザート、飲み物やカップ麺、レトルトカレーにお米!などの類いは月間10万円分くらい消費されている)
 
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「そうそう。江戸娘は練習用の体育館の確保でも苦労しているみたいだよ。練習したくても空いてなくてできない日もあるって」
 
「もったいないなあ。強いチームなのに」
 

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相手のチーム事情には同情するが、むろん試合は真剣勝負である。
 
お互いの実力は分かっている。相手の選手の能力もお互いかなり知っている。
 
お互い最初から全開で行く。激しい戦いが繰り広げられる。観客が息を呑んで見守っている。女子の試合とは思えないようなスピードとパワーの試合である。
 
前半は43-40と向こうが3点リードで終わった。
 

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「秋葉さんが凄いね。千里に激しいマークしてる」
「千里の弱点をよく分かっているよ」
「あの人は最後までスタミナは落ちないだろうね」
「うん。千里に付く多くのマーカーがスタミナで千里に負けてしまう。でもあの人はスタミナも凄い」
 
「どうする?千里」
 
「まあ見ててよ」
と千里は言った。
 
それで後半出て行く。彼女はピタリと千里に付き、決して目をそらさない。千里は激しく動き回るが、彼女はしっかり付いてくる。急激な反転などにも惑わされない。
 
第3ピリオドが始まって3分ほど経った所で千里の複雑な動きに秋葉さんが付いてきたのだが
 
「あっ」
 
という声をあげる。危うく自分のチームの上野万智子と衝突しそうになったのである。すんでのところでお互いに回避して衝突は避けたが、その瞬間秋葉・上野ともに何もできない状態になる。
 
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そこで千里はボールを受け取ってスリーを放り込む。
 
秋葉さんがキッとこちらを睨んだが、千里はどこ吹く風である。
 

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その後も、しばしば千里はうまく誘導して“千里だけを見て他には一瞬たりとも視線を動かさない”秋葉さんが、チームメイトと衝突しそうになる場面を作り出す。
 
秋葉さんの怒りが爆発した。
 
「村山さん、見損なった!こんなの卑怯だ!」
と言って詰め寄る。
 
審判が飛んでくる。
 
テクニカルファウルを宣告し、あわせて、かなりきつい警告をした。
 
秋葉さんはテクニカルファウルを取られて更に頭に血が上ったところを監督から交代を命じられる。
 

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代わって、若い成瀬詩江が入り千里のマークに付くが、むろん簡単に振り切る。それでこのピリオドで大きくバランスが崩れて、点数は58-68と逆転して更に10点差を付けてしまった。
 
第4ピリオド。秋葉夕子が戻ってくる。千里は彼女に言った。
 
「秋葉さんも私に同じようなこと、やってごらんよ」
「よし」
 
それで江戸娘の攻撃の時、千里は秋葉だけを見て、彼女に密着マークをする。秋葉が走り回る。それに千里はピタリと付いてくる。
 
そして秋葉はたくみに誘導して、千里と麻依子を衝突させようとした。
 
千里はヒョイと後ろに1歩下がると、高速に麻依子の後ろを通過して、次の瞬間、また秋葉さんの直前に出てしまった。
 
「うっそー!?私しか見てないのに」
と彼女は叫んでいる。
 
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ゲームは大塚アリスが得点をあげて、ローキューツの攻撃に移る。コートを移動しながら、千里は彼女に言った。
 
「自分の首を絞めるようなことを言うけど、私は秋葉さんだけをじっと見ていてもコート全体に響いている音を聴いているんだよ。それで誰がどこにいるか把握している。それで衝突せずに移動できるんだよ」
 
「そうか!目を集中していても、耳は空いているんだ!」
「秋葉さんにもできるよ」
「よし」
 
彼女はそれでも何度か味方と衝突しそうになったが、最後のローキューツの攻撃の時、千里の誘導で目黒奈美絵とぶつかりそうになった所を、サッと走行軸をずらして衝突を回避、0.5秒ほどのブランクで再び千里の直前に復帰した。
 
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ぶつかりそうになった目黒さんの方が「きゃっ」と声をあげたが、秋葉さんは全く危うさは無かったのである。
 
「できたじゃん」
と千里が言う。
 
「こういう感覚の使い方ができるというのが自分で信じられない。でも自分でやってみて分かった。これってスクリーンプレイの応用にすぎないじゃん」
 
「そうなんだよ。相手チームの選手を勝手にスクリーナにしちゃうだけ」
 
「でもいいの?今日はもう点差が挽回できないけど、次の試合からは、これで村山さんを封じるよ」
 
「そうだね。全日本クラブ選手権でもし当たったらそれでやってよ。でも私はこのチーム、3月で退団するから」
 
「うっそー!?なんで?」
「どっちみち、今年の前半、8月まではオリンピックの予選と本番で時間が無い。その後は大学の卒業準備と結婚準備で時間が無い。だから今年いっぱいはフリーかな。所属チームが無いと色々面倒だから、籍だけはローキューツに置いておくけど、実質退団。来年の3月まで私は大会には出ない」
 
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「・・・来年の4月からはWリーグ?」
「私の実力では無理」
「冗談はよし子さん(死語)。村山さんを欲しがるチームはたくさんある」
「そんなことないと思うけどなあ」
 
そんな会話をしている内にゲームは終了してしまった。
 

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「90対73で千葉ローキューツの勝ち」
と主審が告げる。
 
「ありがとうございました!」
と挨拶して、双方握手したりハグしたりした。千里は秋葉さんとしっかりハグし
 
「あんたらいつまで抱き合ってる?」
と神田リリムに呆れられた。
 
こうして千葉ローキューツは関東クラブ選手権で優勝して、全日本クラブ選手権に進出したのである。
 
全日本クラブ選手権に派遣されるのは下記6チームである。
 
1.ローキューツ(千葉) 2.江戸娘(東京) 3.須賀イライン(神奈川) 4.ビッグベース(埼玉) 5.ワインレディ(山梨) 6.サンロード・スタンダーズ(茨城)
 
大会の得点女王とリバウンド女王が誠美、スリーポイント女王は千里、アシスト女王は江戸娘の秋葉さんが取った。前に出て賞状を受け取った時、千里と秋葉さんは、また笑顔でハグした。
 
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2月5日、千里たちが優勝の打ち上げをしていた頃、福岡ではローズクォーツの福岡公演が行われていた。実際にこのライブで歌ったのは、ケイではなく、その代役を務めた《しーちゃん》である。
 
この日の観客は800人の定員の所に200人入っていて、沖縄の50/500よりは少しマシだった。実はこの200人の内120人ほどが「那覇は人が少なくて泣けたよぉ」と《しーちゃん》が久保早紀(後の丸山アイ)に泣きついたので、急遽早紀が動員を掛けて行かせた観客であった。
 
日数が無かったのでさすがの早紀にもそのくらいが動員できる限界だった。
 
「早紀、他の日程は〜?」
「九州の外まではさすがに無理」
 
早紀が実質的な支配権を持つ企業グループは熊本県内に本拠地があり、九州一円にはけっこう関連企業があるのだが、本州方面にはあまり進出していない。
 
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「観客が少ないのは寂しいよぉ」
「もうローズクォーツは潰すかね?」
「そうなると須藤さんがケイたちに干渉してくるんでしょ?」
「仕方ないなあ。ちょっと別の方法を考えるから今回は我慢して」
「ぐすんぐすん」
 

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《しーちゃん》は早紀の眷属の中では最高のパワーを持っているが少し泣き虫なのが玉に瑕である。
 
ちなみに彼女(?)は実は男の子である。4000歳は過ぎていて神様領域に達しているのに「男」ではなく「男の子」と言いたくなるのは“彼女”が幼い雰囲気を漂わせているからである。そして、あまり泣き虫なのでしばしば他の男の眷属から「お前チンコ無いだろ?」などとからかわれて怒る。元々は女装の趣味は無かった(と本人は言っている)のだが、早紀の命令でしばしば女装している内に、最近はハマりつつあるようだ。
 
160cmくらいの美少女に擬態していることも多い。セーラー服を着るのも好きなようだ。他の女の眷属からは「可愛い」「私のお嫁さんになって欲しい」「いっそこのまま女の子になっちゃいなよ」などと言われて、まんざらでもないようである。
 
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「擬態じゃなくて自分自身を本当の女の子に変えることもできるんでしょう?」
と《ふーちゃん》は訊いてみたことがある。
 
「自分でも他人でも性別変更はできるよ。但し1度だけね」
と《しーちゃん》は答えた。
 
「ああ。何度でも変えられるなら、とっくに女の子になってるよね?」
「そんな気はしないでもない」
 
「分かった。永久に女の子に擬態してればいいんだ」
「それはそうなりつつある気もする」
 
「女の子に擬態してたら、男の人と寝ることもできるんでしょう?」
「それはできるよ。女の子に擬態してたら、あそこも女の子になってるから。中身が女じゃないから妊娠はしないと思うけどね(自信は無いけど)」
「じゃ、今ちんちん無いの?」
「ノーコメント」
 
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「四不は充分女の子らしいと思うけどなあ」
「自分では一応男の子の意識なんだよね」
「なんか早紀と同じようなこと言ってる」
「早紀は自分のことは女の子だと思っている気がする」
「そうだっけ?」
 

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「でもなんでローズ+リリーに肩入れするの?」
と京華は東京にまた出てきた早紀に尋ねた。
 
「だって、ケイちゃんが売れたらボクみたいな子もデビューしやすくなるじゃん」
と早紀は答える。
 
「それはあるね」
「それにローズ+リリーの世界観にはボクはけっこう惹かれているんだよ」
「そう?早紀はフォークがやりたいのかと思ってた」
 
「・・・ローズ+リリーはフォークだけど」
「嘘!?」
 
実は、この時期発売準備中であった『Month before Rose+Lily, A Young Maiden』が発売されるまで、ローズ+リリーはポップス系のアイドル歌謡と思っている人が多かったのである。そのアルバムをロック系の音に作り変えず、ケイが高校時代に作った音の雰囲気を活かして、フォーク調のまま発売することを強く主張したのはローズ+リリーの新担当・氷川真友子であった。
 
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「ところで早紀はいつになったら私を抱いてくれるの?」
と京華は言ってみた。
 
「ボク女の子だから、女の子の京華を抱いたりできないよ」
と早紀は平然とした顔で言う。
 
「都合のいい時だけ女の子を主張する」
「そもそも女子高生をセックスに誘わないでよ」
 
「たくさん経験があって妊娠もしたことのある子は女子高生扱いではないな。だいたい本当に“女子”高生なのかも怪しい」
「生徒手帳では女子になってるよ。生理もあるよ」
 
「それにレスビアンも好きな癖に」
「そんなことないよ。ボクは男の子とする方が好きだし」
と早紀はとぼけて答える。
 
「早紀はレスビアンでありかつゲイなんだよね?」
「おちんちん無いからゲイはできないよ」
「嘘ついたら、閻魔様にちんちん抜かれるぞ」
 
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娘たちの仲介(4)

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