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■娘たちの仲介(7)

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さて、ローズクォーツがツアーで飛び回っていた時期、ケイ本人は新担当の氷川さんと話し合いながら、ローズ+リリーの2つのアルバム
 
『Month before Rose+Lily, A Young Maiden』
『Rose+Lily after 1 year, 私の可愛い人』
 
に関する作業を進めていた。ケイはだいたい大田区のマンションに籠もっていて、電話で氷川さんと話している。この2つのアルバムの伴奏は元々ケイが高校時代に打ち込みで作っているのだが、一部はケイが生ギターや生ヴァイオリンを弾いている。
 
「正直発売して欲しいと言われている時期までにあまり時間が無いから、これをあらためて生バンドで演奏するとなると、1つのアルバムに3ヶ月、2枚で半年以上掛かると思うんです。マリさんがかなりやる気を出してきているから、この2枚は、畳み掛けるように発売した方がいいと思うんですよね。そして生バンドの伴奏で音作りをするのは、今年のアルバムに集中した方がいいと思います」
と氷川さんは言う。
 
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「そうなんですよ。そちらの企画も進んでいるから。高校時代のアルバムに陽が当たるのはいいんですが、そちらではあまり手を取られたくないと思ったんです」
 
「するとこの2枚のアルバムは、ケイさんが既に作っている、ナチュラルなサウンドをそのまま活かした方がいいと思うんですよ。アヴリル・ラヴィーンっぽい音作りですよね」
 
と氷川さんは言い、ケイも
 
「その方が嬉しいです。ローズクォーツに伴奏してもらうと、ロックになっちゃうという問題もあるんですよ。アヴリル・ラヴィーン、私も好きです」
と言った。
 

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しかしマンションは快適であった。ただ不思議なのが食事などのお世話をしてくれる芙貴子さんである。声を掛けると来てくれるのだが、どこにいるのか存在感が希薄なのである。いわゆる“透明な人”かも知れないと冬子は思った。自分もわりとそういう“透明な人”と子供の頃思われていたが、それがきっと徹底しているのだろう。
 
冬子は作曲・編曲の作業をしながら唐突に京華が言っていた「自動オナニーマシン」とか「自動去勢機」というのが気になった。
 
部屋の中を見回すと、棚の上に"Automatic Masturbation Machine(F)"と書かれた赤い箱があるのに気付く。
 
それか!
 
その隣には同じく(M)と書かれた青い箱、(F+M)と書かれた黄色い箱があり、その更に横に"Automatic Castration Machine(M)"と書かれた黒い箱が並んでいた。
 
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それを棚の近くで眺めていたら
 
「そちらの機械、下ろしてみせましょうか?」
と声が掛かり、ギョッとする。
 
芙貴子である。
 
近づいて来た気配が全く無かった!
 
「いえ、単にちょっと箱の文字を読んでいただけなので」
 
「一見の価値がありますよ」
と言って、芙貴子は脚立を持って来て、それらの箱を下ろした。
 
「こちらが男性用自動オナニー機です」
と言って、青い箱を開けると中にはビニールに入った卵状のものが入っている。
 
「これテンガ・エッグに似てる」
「はい。テンガエッグに自動で動くユニットを取り付けたものです」
「なるほどー!」
「物凄くうまい刺激をするので、自分はEDだと思っている人でも結構射精に至ることが多いそうです。使って見られません?」
「いえ、テンガに入れられるものを持ってないので」
 
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「こちらが女性用です」
と言って赤い箱から取り出して見せるのは・・・
 
「ローター?」
「はい、ローター2個セットです。ケーブルが長いので片方は奥まで入れられますよ。脈拍計付きなのでこちらの興奮状態に合わせて刺激が自動調整されます。普通のローターで逝けない人でもこれなら逝ける確率が高いそうです。試してみられます?」
 
「いや、大丈夫です」
 
「そしてこちらがふたなり用」
と言って黄色い箱から取り出したものは・・・・
 
「テンガとローターが合体したものか」
「そういうことです。双方の震動具合をこちらのバランサーで調整できるので男性器メインの刺激、女性器メインの刺激もできます。ふたなりの人はクリちゃんが無いのでローターは1個でいいんです」
 
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「なるほどね〜」
 
「ちなみにふたなりでない普通の男性がこれを使ってローターをあそこに入れた場合、あそこはヴァギナほどは湿潤していないため取り出せなくなるのでご注意ください。これはあくまで本物のふたなりの人向けのものです」
 
「あはは」
 

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「そしてこちらが自動去勢機です」
と言って黒い箱の中身も見せてくれる。
 
「これは・・・」
「こちらに男性のペニス、ここに陰嚢を押し込み、外れないようベルトで身体に固定します。こちらのボタンとこちらのボタンを同時に押すことによって起動します。最初は性器に強い刺激が与えられとても気持ちいい快楽を感じるそうです。そして射精した次の瞬間切断されます」
 
「ひぇー!」
 
その話を男性が聞いたら思わずあそこを手で押さえそうだ。
 
「快楽の頂点で切断するのが良いのだそうです」
 
「マジ?」
「麻酔も注射されるから、切断の瞬間以降は痛くないそうです」
「切断してから麻酔するの?」
「そうしないと最高の快楽を感じられないので」
「射精して麻酔してから切断という訳には?」
「タイムラグがあると躊躇してしまうんですよ」
「あぁ・・・」
「男なら思いきって切っちゃいましょう」
 
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「この機械を使いたいと思う人は既に男ではない気がするけど。切断後の傷口は?」
「自動的に縫合されて、大陰唇・小陰唇が形成されます。その際に陰嚢の皮膚が使用されます。30分後には女の子のような股間が獲得できます」
「へー!」
 
「クリトリスやヴァギナが欲しい人は別途お医者さんに手術してもらうということで」
「ヴァギナは無くてもクリトリスは欲しい気がする」
「そうおっしゃる方が多いですね。今後の課題だそうです」
 
「あれ?でもこれ片手では操作できないようになってる?」
「はい。覚悟を決めて両手で同時に押さないと動きません。試してみられます?」
「いや、私もう男性器は取っちゃったから」
 
「それは残念でした」
と芙貴子は本当に残念そうに言った!
 
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16日朝、この日はローズクォーツは札幌から仙台へJRで移動していると聞いたのだが、冬子は自分がまとめたデータを氷川さんに渡したいと思った。アルバム制作の日程はかなり厳しいので、あまり遅らせたくない。そこで誰か音楽業界に疎そうな友人に仲介を頼もうと思った。
 
楠本京華は最初に考えたが、彼女は、おそらく裏工作が大好きな丸花社長か誰かの指示で、冬子に便宜を図ってくれているだけだと思っていた。自分の代役の歌手というのも、恐らくどこかで顔や声質の似た子を見つけてリザーブしてくれていたものだろう。自分に休養を与えてくれているだけでも助かっているのに、こちらの仕事の補助までしてもらうのは申し訳無い。
 
(冬子は昨年夏に岐阜から苗場に瞬間移動した問題はもう忘れている。忙しくて精神的に疲れていたし、あまりにもあり得ないことだったので、夢か何かと混線しているのだろうと納得してしまっている)
 
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それで冬子はクロスロードの友人に頼もうと考えた。
 
しかし誰に頼むか?
 
まず小夜子を否定する。彼女はローズ+リリーのファンになっているようだ。18日東京公演のチケットも買ったなどと言っていた。自分が今仙台にいることになっていることを知っているだろう。
 
和実を否定する。あの子は霊感が強すぎる。絶対何か異常な事態が起きていることに気付く。
 
淳は忙しそうである。あきらも美容室があるから東京には出てこられない。となると、桃香か千里あたりが使えそうな気がする。桃香は洋楽にしか興味が無い。ローズクォーツの動きなんて知る訳が無い。ただ桃香の問題点は必ずしも口が堅くないことだ。16日午前中に自分と東京で会ったことを他人に言いかねない。
 
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それで冬子は千里に電話した。
 
あの子は口が堅そうだし、音楽にはあまり興味無いようだし、霊感とかも若干はあるようだが、そう鋭い訳ではないように見える。
 
幸いにも千里は用事があって都内に出てきているということだった。
 
「今どこに居るの?」
「ここは江戸川区なんだよ。冬は?」
「私は大田区なんだよね」
「だったら、新橋駅あたりで会わない?東京駅でもいいけど広すぎるし」
「新橋なら好都合。実は私が渡したデータを持って青山ヒルズに持って行って欲しいんだよ」
「ああ、だったら新橋から銀座線に乗ればいいね」
 
千里って千葉に住んでいるのに東京の交通に強いみたいだなと冬子は思った。東京の地下鉄は無秩序に伸びているので、交通網のトポロジーは都内に住んでいる人間でもサッとは思いつかない。
 
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ともかくも、それで冬子は京浜東北線で新橋に出て、銀座線の改札口の所まで行った。するとそこに地下鉄側で既に千里が来て待っていた。冬子は改札越しにハードディスクの入ったバッグと交通費・手間賃に2000円を千里に渡した。
 
「このくらいの交通費はいいのに。じゃ届けてくるね。ヒカワさんだったね?」
「うん。よろしく」
 
それで千里は地下鉄の方に戻って行った。
 
冬子はまた大田区のマンションに戻ろうと、京浜東北線乗り場の方に向かおうとしていた。そこで何とバッタリとその氷川さんに遭遇してしまう。
 
「おはようございます」
と氷川さんは笑顔で挨拶する。
 
「おはようございます」
と冬子は挨拶しながら、ここに居ることを何て言い訳しようと焦った。
 
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しかし氷川さんは
「インフルエンザが流行ってますから、あまりこういう人混みには来ない方がいいですよ」
とだけ言い
「では、また」
と言って、銀座線改札の方に行ってしまった。この件に付いて冬子は後から何か訊かれないかと不安だったのだが、彼女は何も訊かなかった。
 
それで冬子は氷川さんって人は絶対的に信頼できる人だと思った。
 

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なお、音源の入ったデータは千里が★★レコードの受付で氷川さんを呼び出してもらおうとしていた所に当の本人が到着し、受付の所で渡して帰ったらしい。
 
むろん千里も冬子と都内で会ったことは誰にも言わなかったようである。それで冬子は千里を仲介役に選んで正解だったようだと思ったのであった。
 

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さて新橋駅から京浜東北線に乗り、蒲田駅で降りた冬子は改札を出てマンションに戻ろうとした。ところが改札を出た所で政子と遭遇してしまう。
 
今日は何て日なんだ!?
 
政子はケンタッキーの袋を持っていた。
 
「あれ?冬、秋田かどこかに行ってたんじゃないの?」
「急用があっていったん東京まで来たんだよ。この後仙台に行く」
「あ、だったら私も一緒に仙台に行く。ゲリラライブしようよ」
「でも夕方からローズクォーツのライブがあるんだけど」
「その前までやればいいよ。どっちみちリハーサルとか無いんでしょ?」
 
須藤さんはリハーサルが嫌いなのである。
 
「じゃそれでもいいかな。でもマーサは何しに蒲田に来たの?」
「ケンタッキー買いに出て迷っちゃった。でも駅を出た所にケンタッキーがあったからラッキー☆と思って買ってきた」
 
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「マーサ、どこに居たんだっけ?」
「冬のマンションに居たよ」
 
なぜケンタッキーを買うだけでこんな所に来る?戸山のマンションからなら、大江戸線で2駅乗って新宿西口で降りれば、新宿駅南口の所にお店がある。冬子はどうすれば戸山近辺の駅からここまで流れて来られたのか考えたが分からなかった。
 
政子の行動を理論的に考えること自体が無意味な気もする!
 

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それで冬子たちは蒲田から京浜東北線で東京駅に移動。大手町駅まで歩き、東西線で早稲田まで行ってマンションに戻り、楽器を取ってから再度東京駅に行って新幹線で仙台に向かった。チキンは8ピースパックが2つだったのだが、福島に到着する前に全て無くなった。冬子も2本もらった。
 
仙台では、政子が牛タンを食べたいというので、お店に入って牛タン定食を食べる。それから町に出て、ゲリラライブをした。
 
11:56東京発の新幹線に乗り、13:37に仙台に着き、牛タンを食べてから14:30頃から16:30頃まで仙台市内の3ヶ所でゲリラライブを敢行した。それで政子にはそろそろライブ会場に入らないといけないからと言い、仙台駅で切符を買って政子に渡し、見送る。ちゃんとマンションまで辿り着けるか、若干の不安はあるが、まあ何とかなるだろうと思う。
 
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その後、市内でラブホテル!に入って仮眠した後、ライブが終わるくらいの時間を見計らって、仙台駅に行く。そして新幹線の切符を買って改札を通ろうとしたら、バッタリと長野支香に遭遇した。
 
今日はなんてたくさん知り合いに会う日なんだ!
 

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「ライブ終わったの?」
「先ほど終わりました」
「東京に帰るんだっけ?」
「はい」
 
ライブ終了後、他のメンバーは今夜の夜行バスで東京に戻ることになっていたのだが、冬子は17日早朝のラジオ生番組に出演することになっていたので、ライブが終わったらすぐにひとり別行動にして最終新幹線で東京に戻ることにしていたのである。だからこの新幹線に乗って問題無い。ただもしかしたら同じ新幹線に自分の代役さんも乗っているかもという気はした。
 
「じゃ少し話そうよ」
と支香が言う。
 
正直、冬子は春風アルトさんに対する義理もあるので、上島雷太先生の愛人とあまり話したくはなかった。
 
スキャンダル写真の上島先生のキス相手をマスコミは特定しきれなかったようだが、冬子は支香だと知っていた。他に知っているのは恐らくアルトさんや雨宮先生くらいでは?と冬子は思った。
 
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しかしここで断るのも波風立てるしと思い、冬子は結局グリーン車の並びの席に座った。
 
(《しーちゃん》は実は同じ列車の普通指定席に乗っていたので、両者はかち合わなかった)
 

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支香は、上島先生とは別れたこと、そして響原部長の所に自分の事務所社長と一緒に謝罪に行き、半年間の芸能活動自粛を約束したことを語った。なお今回の直接的な損害額(約2000万円)は既に上島先生が支払ったらしい。
 
「こちらへはお仕事ですか?」
と冬子は最初、無難な話から始めた。
 
「ううん。母ちゃんがしばらく入院しないといけないから、その手続きに来た」
「お母さん、ご病気ですか?」
「まあ、あちこちガタが来てるからね〜。そもそもはやはり姉貴が死んだ時にショックで倒れてさ。母ちゃんは、姉貴を凄く可愛がっていて、私は相性があまりよくなくて放置され気味で」
 
「そういう姉妹って結構ききます」
 
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娘たちの仲介(7)

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