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「ケイはローズクォーツの方からは抜けたんだっけ?」
「ううん。しばらくは両方の兼任になると思う」
「ローズクォーツもライブツアーとか全然やってないね。やはりケイちゃんが忙しいから?」
と美緒。
「ライブハウスを回るツアーとかはやってるんだけどね」
と冬子。
「それはツアーの内に入らないな。ただの営業」
と千里が言っている。
「でも今度ホールツアーやるし」
「いつ?」
「えっと・・・2月3日から19日まで全国10ヶ所」
「随分押し迫っているね。それいつ発表するの?」
と和実が訊いた。
「えっと・・・・11月くらいに発表して、チケットも12月には発売したんだけど」
と冬子が困ったように言うと
「うっそー!?」
「全然聞いてない」
というみんなの声。
「それチケットはどこで売ってるんですか?」
「普通に、ぴあで売っていると思うけど」
みんな顔を見合わせている。
「もしかして発売後瞬殺だったから、広報とかもされてないとか?」
「ファンクラブで全部売り切れて一般発売までできなかったとか?」
「ローズクォーツにはファンクラブとか無いんだよね」
「なぜ〜〜〜!?」
それでお風呂から上がった後で、いつもパソコンを持ち歩いている千里がネットで調べてみたものの《ローズクォーツ ライブ》とかで検索しても何もヒットしない。
一応ぴあで検索したら、全10公演のチケットがまだ売られていることが分かった。
「ローズクォーツのライブが12月に発売して、未だに売られているというのは絶対おかしい」
「どういう広報してるの?」
「さあ。ローズクォーツの件は全部須藤さんに投げてて、私はタッチしてないから。ローズクォーツは須藤さんが管理して、ローズ+リリーは私が管理するということで、棲み分けすることにしたんだよ。お互い口出しもしない」
と冬子は言っている。
「ローズクォーツのライブツアーなんて、TVスポットも見たことがない」
とあきらが言う。
「あきらはテレビはかなり見ている確率高いよね?」
「そうそう。うちの美容室は待合室でテレビつけてるから、結構それがスタッフ全員にも聞こえている。ローズクォーツのツアーのCMが流れていたら、絶対、私気付いたと思う」
「もしかして何も宣伝してないとか?」
「あはは。須藤さんなら、あり得る。あの人ケチだから、TVCMの料金払うの、もったいないと思ったかも」
「だって売上げが凄まじいから、CM料金1〜2億程度払ったって簡単に元が取れるでしょ?」
「いや、あまり元が取れないかも。ホールとは言っても小さい所ばかりだし」
と言って、冬子は須藤さんから渡されていたツアーのリストを見せた。
2.03(日)那覇 甘蔗会館
2.05(日)福岡 藤崎ホール
2.08(水)広島 広島文化会館
2.09(木)金沢 金沢セブンホール
2.11(土)名古屋 ドルフィン会館
2.12(日)大阪 梅田パレス
2.15(水)札幌 札幌ファミリーホール
2.16(木)仙台 にれのきホール
2.18(土)東京 恵比寿ホール
2.19(日)横浜 横浜電撃ハウス
「これどこも数百人規模のホールだと思う」
と小夜子が言った。
「ローズクォーツなら1万人の会場を埋めるでしょう?」
「どうかなあ。ライブハウスには随分出演したけど、お客さんは20-30人ということが多かったよ」
と冬子が言うと
「それも全く宣伝してないということは?」
「それは心当たりがある」
「どんな有名アーティストでも宣伝無しで突然来演したら、お客さんはその場に偶然来ていた人だけだし」
「だいたい、ファンクラブが無いというのがあり得ん」
「うん。ローズクォーツならファンクラブだけで簡単に億単位の収入が得られる」
「しかしこれだと冬子は2月いっぱいは全国飛び回る感じか」
「でも大学の期末試験直前だから、空いている日程ではすぐ東京に戻らないといけない」
「なぜそんな時期にツアーを計画した?」
「他に音源製作も入るし」
「何か計画に無理がない?」
「2月4日とかはAYAの新曲レコーディングにマリと2人で参加するし」
「そのレコーディングってどこでするの?」
「やはり東京」
「ちょっと待って。3日に那覇公演、5日に博多公演なのに、4日に東京でレコーディングなの?」
「でも高校生の頃はキャンペーンで1日で札幌と福岡で歌ったことあったし」
「無茶な!」
とみんなが言っていると千里が苦笑している。
「千里どうした?」
「いや。ケイは自家用のF15 Eagleを持っていて、それで全国駆け回っているという噂が前からある。イーグルなら札幌から福岡まで30分で移動できる」
などと千里は言っているが、
「その速度で飛ぶと燃料がもたない」
と桃香が指摘するが、千里は
「だったら小松で中継して」
などと言っている。
「それでも無理って気がするなあ」
と桃香。
札幌と福岡の直線距離は1400kmなので、単純に計算するとM2.5=2680km/hのF15では1400/2580x60=33分で到達できる計算になる(ジェット気流が100km/hの場合)。
しかしF15はAB(アフターバーナー)を吹かして最高速で飛んだ場合、1秒につき12.41kgの燃料を消費する。F15の機内タンクが7836L, ミサイルを外して予備タンク2309Lを3つ装備しても合計で 7836 + 2309 x 3 = 14763L = 11810kg(ケロシン=灯油の比重は0.8)となり、 11810 / 12.41 = 951s. つまり951秒=15分50秒で12トンの燃料を使い切ってしまう計算になる。この時間に到達できる距離は(南西方向では) 2580 x 0.2639 = 680km.
つまり札幌−福岡間の半分弱しか到達できない。
千里の小松中継案だが、札幌−小松は860km, 小松−福岡は630kmなので小松に辿り着けない。
空中給油機を使うとどうだろうか?
航空自衛隊が所有する空中給油機KC-767は1分間に600gallon=2270Lの給油をすることができる。メインタンクに3.5分、予備タンクに1個あたり1分。給油アームの接続に1分ずつ掛かったとして全給油に掛かる時間は10.5分。待ち合わせて位置を調整するのに3分程度掛かったとして給油に必要な時間は14-15分。この間は750km/hで飛行するので、その間の移動距離は188kmになる。その間に消費する燃料は多分2000kg程度。
すると経路の真ん中で空中給油した場合
(11810-2000)/12.41 + 11810/12.41 = 1742s
2580 x 1742 / 3600 = 1248km
これに給油中の移動距離188kmを加えると 1436km となり、ギリギリ到達できることになる。この場合の所要時間は 1742s + 15min = 44分である。要するに千里が言っていた30分に空中給油時間15分を加えた程度になっている。安全を見て2回空中給油しても1時間で札幌から福岡まで行ける。
なお、この飛行に必要な燃料代はKC-767の分を除いても140万円である。
もっともその前に30分もM2.5で飛んだらケイが先に死亡しそうである!
一方ビジネスジェットを使ったらどうであろうか?
Gulfstream G550 の場合、燃費が 1355L/h (=0.3kg/s)で、燃料タンクは 23416L あるので航続時間は17.3時間になる(G550の航続距離は6750nm=12500kmと記載されているので、多分人を乗せたら燃料を満タンにできないのかも)。G550の速度はM 0.8=860km/h(高度1万mの場合)なので札幌→福岡はジェット気流の速度を100km/hとして1400 / 760 = 1.842h = 1:51 で飛ぶことができる。この場合の消費燃料は2500Lで23.5万円。
またホンダジェットの場合は燃費は3.3km/kgと書かれているので1400kmを飛ぶのに必要な燃料は424kgでわずか5万円で済む。飛行速度はM0.72=780km/hなので、所要時間は 1400/680 = 2:04 である。
なお、航空会社の新千歳→福岡便は2012年1月の時刻表で見ると、JAL B737-800, B767-300 で 2:40, ANA B777-300 で 2:35 の設定になっている。逆向きの福岡→新千歳(ジェット気流と同じ向き)はJAL, ANA ともに 2:10 と設定されているので、両者の時間差から逆算すると、ジェット気流の速度は90km/h程度と見積もられているものと思われる。
F15の話に、冬子は一瞬嫌そうな顔をして言った。
「オフレコにして欲しいけど、F15に乗せられたことある。二度と乗りたくないと思った」
「それ亜音速?超音速?」
「亜音速と言ってたけど絶対あれ嘘だと思う。超音速だったと思う」
「あれって普通の服着て乗ると失神するんでしょ?」
「そうそう。血液が加速度に耐えられないから。体内で血液が偏らないように圧迫する、特殊な搭乗用スーツを着る必要がある」
「なんか壮絶だなあ」
「ケイが単座のF15を操縦したという噂も聞いたけど」
と千里。
「それはさすがに不可能!」
と冬子は言った。
冬子はローズクォーツの全国ツアーに出発するため、2月2日、戸山のマンションを出て羽田に向かおうとした。ところが駅の入口の所に楠本京華がいる。
「おはようございます」
「おはようございます」
「ある人からの指示で動いています。今回のスケジュールはきつすぎます。ケイさんはずっと東京に居た方がいいです。身代わりをローズクォーツのツアーには行かせますよ」
冬子は“ある人物”という言葉から、○○プロの丸花社長を想像した。あの人の裏工作には過去に散々驚かされている。
「・・・・頼んじゃおうかな」
それで京華はどこかに電話していた。
「彼女が羽田空港に向かいましたから」
「分かりました」
「ケイちゃんはこちらで休んでいるといいですよ」
と言って、京華は冬子を大田区内のマンションに案内した。
「もし作曲をなさるなら、一応キーボードやCubaseなど、制作活動に必要なものは揃っていると思います。足りない楽器があったら調達してきます。ストラトヴァリウス1丁とか言われたら困りますが」
「エレクトーンがあるみたいだから、それでだいたい間に合うと思います」
「良かった。確かグレードをお持ちでしたね?」
「ええ。6級を。ここは誰のマンションですか?」
「ある作曲家の隠れ家なんですが、今本人は九州の方にいるので、自由に使っていいですよ」
「だったらお借りします。少しまとめたいものがあったんですよ」
「それは良かった。秘密を守れる人なら恋人を連れ込んでもいいですし」
「いえ、誰にも言いませんよ」
「男性用・女性用・ふたなり用の自動オナニーマシンもありますし」
「いえ結構です」
自動オナニーマシンってどういうものなのか、少し興味は感じた。しかしふたなり用って誰が使うんだ!?
「もし去勢したければ自動去勢機もありますが」
「必要無いです!」
何それ〜〜?と思う。高校時代に言われたら興味持ったかも?
「買い出しや食事などはこちらの芙貴子にお申し付け下さい」
「分かりました。芙貴子さん、よろしくお願いします」
27-28歳くらいかな?という感じの落ち着いた雰囲気の女性が笑顔で会釈した。
そういう訳で2月3日のローズクォーツ那覇公演には、京華が手配した冬子の身代わり(しーちゃん)が行き、冬子の代わりに歌った。
《しーちゃん》はとても歌がうまく過去にも多数の歌手の影武者をした経験がある。しかし大観衆の前で歌うのは久しぶりだなあと思い、那覇に赴いた。先日のキャンペーンの時は商店街とか駅前とかばかりだったから大した客はいなかったけど、今度はホールだからきっと満員の客を前に歌うことになるだろう。《しーちゃん》は少し緊張していた。
ところが行ってみると500人収容のホールに観客が50人しかいないので
「うっそー!?」
と思わず声をあげた。
2012年2月4-5日(土日)。
栃木県宇都宮市の宇都宮市体育館と、西方町の西方町総合文化体育館で、関東クラブバスケットボール選手権が開催された。この大会の男子の上位5チーム、女子上位6チームは来月大分県で行われる全日本クラブバスケットボール選手権に出場することができる。
この大会は選手16名、スタッフ4名登録できるので、ローキューツはこのような登録にした。
監督:西原、コーチ:谷地、アシスタントコーチ:菜香子、マネージャー:玉緒
選手:4.浩子ひろこ(PG) 5.麻依子(PF) 8.千里(SG) 15.聡美(SF) 16.凪子(PG) 17.薫(SF) 18.瀬奈(SF) 20.司紗(SF) 22.岬(PF) 23.国香(SF) 24.元代(PF) 25.翠花(PF) 32.夢香(PF) 33.誠美(C) 34.夏美(SF) 35.桃子(C)
現時点でのローキューツの登録者全員がベンチに座ることができた。実際にはあと1人、茜も在籍しているのだが、ほとんど顔を出していない。気が向いたら練習に参加するかもということで籍をそのままにしているが、最近仕事が忙しいようである(オールジャパンには来て観客席から声援を送っていた)。
この他にOGの沙也加は「ローキューツ応援団長」を自称しており、同じくOGの直花および彼女らの友人を含めて合計6名の“ローキューツ・チア部”を結成している。彼女たちも来てくれるということだったので、交通費・宿泊費をチームで負担している。