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■女の子たちの音楽生活(8)

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夏休み中なので、午前中補習を受けてから午後は神社に行く。
 
昇殿しての祈祷の客が途絶えたので、御守授与所の方に顔を出して御守りやお札を求める参拝客の対応をしつつ、境内を眺めていたら、思わぬ顔を見る。
 
先日野球場で見かけた、虎を連れた少女だった。彼女は千里の姿を認めるとまっすぐこちらにやってきた。
 
「やっと見つけた」
と彼女は言った。
 
「御用、承ります」
と千里は営業スマイルで応じる。
 
「巫女してるって言ってたから市内の神社をかなり回ったよ。あんたにはこの子が効かないみたいだけど、ちょっとこの子をここの境内で暴れさせてやろうかね」
と彼女は言う。
 
千里の斜め後ろで《こうちゃん》が
『任せてください。でも不味そうな虎だなあ』
 
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などと言っている。食べちゃうの〜?
 
しかし千里は『待って』と言った。
 
そして次の瞬間、神社の神殿の向こう側から光が飛んでくると、少女の連れている虎にぶつかる。少女が『何!?』と心の声で叫ぶのを、ふつうこの手の声を聞くことのない千里さえも聞いた。そしてその時ハッキリと虎の姿までも見えた。その時授与所に居た5人の巫女の内3人までもがその声を聞き、虎の姿も見ていた。
 
そして虎は物凄い悲鳴をあげて・・・・
 
小さくなってしまった。
 
「チビ!」
と言って少女がその虎を拾い上げる。
 
それはまるで張り子の虎の人形のように小さくなってしまっていた。
 
「ねえ、君名前を教えてよ。私は千里」
「私は天津子。チビが小さくなっちゃったよぉ」
 
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「天津子ちゃん。ここの神社のお使いは猿なんだよ」
「それが?」
「十二支の寅(虎)は五行では陽木。申(猿)は陽金。金剋木。虎にとってはこの神社は天敵だね。消滅させられなかったことを感謝すべきだと思う。その子、丈夫そうだから1年も経てば元のサイズに戻るよ」
「戻ると思う?」
 
「うん。でもちょっと教育しなおすべきだなあ。ついでに天津子ちゃん自身も修行し直しなよ」
 
「・・・あんた誰?」
「ふふ。この子が霊媒体質だから、ちょっと借りちゃった。私はいつも出羽にいるから。私を訪ねて来るのはいつでも歓迎だけど、その虎は無事で済まないだろうね、教育しなおしてなかったら」
 
そこまで千里の身体を借りて天津子に告げると、美鳳は『じゃね』と言って、去って行った。
 
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千里は我に返ると
「ね?今私変じゃなかった?」
と隣に居る同僚の巫女に尋ねる。
 
「ああ、なんか凄く変だった」
と彼女は言った。
 

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その日千里は神社から家には直接帰らず、市内のスタジオに向かった。美輪子が入っている市民オーケストラの練習に参加するためである。ふだんは神社に置いたままにしている、煤竹の龍笛を持っていった。
 
「初めまして。村山千里と申します。奥沼美輪子の姪です」
と言ってオーケストラのメンバーに挨拶する。
 
「可愛い!」
なんて声が上がる。今日はN高の女子制服を着て、髪は神社に居た時と同じロングヘアのウィッグである。
 
「凄い髪が長い」
「巫女さんをしているので」
「それで龍笛が吹けるんだ!」
 
早速まずは合わせてみる。この交響詩は約10分間の演奏で、千里の龍笛の他にムックリ(口琴)とトンコリ(竪琴の一種)、ソプラノ歌手の、古代の巫女が祈りを捧げるかのような歌も入っている。雪と氷に覆われた冬の蝦夷地にアイヌの叫びが響くかのような透明な曲である。
 
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「うまく行った、うまく行った」
「龍笛、なんだか格好良い!」
「迫力あるね〜」
 
「これだいぶ練習した?」
「夏休みですけどずっと補習があっていて時間が無いので、1日に4ページずつ練習してました。昨日やっと通して練習した所なんです」
 
「へー。それでここまで吹けるというのは優秀優秀」
「この子、けっこう初見に強いんですよねー」
「ああ。また何か頼みたいな」
 
「演奏できる楽器は?」
「ヴァイオリンは長くやってますけど、いまだに移弦が下手です」
「まあヴァイオリン弾きはたくさんいるしな」
「あとはピアノくらいです」
「ピアノはあまりオーケストラには入らないな」
「フルートは吹くの?」
「吹いたことないです。ファイフはこの春から少し練習してるんですが」
 
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「龍笛がここまで吹けるならフルートは楽勝だと思う」
「うちのオーケストラ、フルート吹きが2人しか居なくて、どちらか休んだりした時は辛いもんなあ」
 
「ねぇ、良かったら、私が中学生の頃使ってたフルート、あげようか?それで練習してみない? 白銅製の安物だけど」
 
「わあ、それは嬉しいです」
「じゃ今度持って来てあげるよ」
「ありがとうございます」
 
そういう訳で千里はフルートをもらう話になったのであった。
 
でもこれって、この後もしばしばこのオーケストラに参加することになるのかしら!??
 

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その週の土曜日の夕方、神社の仕事が終わって、着替えて帰ろうとしていた時、携帯に着信がある。登録されていない番号だったので名前は名乗らずに「はい」とだけ返事した。
 
「村山さん? 私先日お世話になった∞∞プロの谷津です」
「ああ。先日はこちらこそお世話になりました」
 
「7日にね、村山さんが言ってたように上越新幹線沿線に行ってみたのよ」
「わあ。何か見つかりました?」
 
「うん。高崎でね。すっごく良い子たちを見つけた」
「へー!」
 
「凄くセンスのいいバンドが2つ、コラボして共演してたんだよ。それでその2つのバンドまるごとスカウトしちゃった」
「いい人たち見つかって良かったですね」
 
「Lucky Tripper というバンドと Red Blossom というバンド。特に Red Blossom のリーダーの女の子がスター性があるのよ。話してたら、ドリームボーイズのバックダンサーやってるんだって」
 
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「へー!」
 
千里の脳裏に以前自分がテレビの番組に出た時に司会をしていたドリームボーイズのリーダー、蔵田さんの顔が浮かんだ。
 
「でもバックダンサーなんて、もったいない。デビューしちゃおうよ、と今、口説いている所だけど、けっこう前向きっぽい。元々芸能活動したいからバックダンサーとかもしてたんだろうけどね」
「そうでしょうね」
 
「ユニット名はふたつのバンド名を合体させて、Lucky Blossom でどうだ?なんて話もしてるんだけどね」
 
「うまく行くといいですね」
「デビューに漕ぎ着けたら、君たち5人をファーストライブに招待するよ。旭川からの交通費込みで」
 
「わあ、ありがとうございます。でも良かったら11人招待してもらえたら嬉しいです。あの時は5人しか居なかったけど、実は私たち11人なんです」
「いいよ。じゃその時は連絡するね」
「はい!」
 
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その翌日、13日(日)が美輪子たちの市民オーケストラの公演日であった。
 
千里は予め、いつも貴司と郵便で交換している日記のミニレターにこの公演の切符と6000円分の旅行券を同封し、もし時間の都合がついたら来てと書いておいた。
 
演目は前半は馴染みの深いクラシック曲を演奏した。ヴィヴァルディの『四季』
から『春』、ビゼーの『真珠採り』より『耳に残るは君の歌声』、モーツァルト『魔笛』より『鳥刺しパパゲーノ』、ベートーヴェン『悲愴』第2楽章といったところを各々ダイジェストで演奏する。千里は舞台袖で聴いていたのだが、これなら自分でも眠らなくて済むなと思っていた。
 
後半先頭で千里が龍笛を吹く『カムイコタン』である。拍手の中、ステージ中央に進み客席、指揮者、コンマスに挨拶する。今日は美輪子が用意してくれた目が覚めるような青いドレスである。むろん長い髪を垂らしている。チラっと観客席を見る。後方右手に確かに貴司の姿を認めた。わーい、来てくれたんだ!よし頑張るぞ、と気合いが入る。
 
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指揮者の合図で吹き始めた。
 
笛の歌口に強い息を吹き込む。龍笛は優しく吹くのでは鳴らない。物凄く強い息を吹き込む必要がある。その吹き込んだ息と、笛の内部で生じた波動が混ざって《龍の鳴くような音》になる。千里は身体全体が笛と共鳴するかのように吹いていた。
 
来るかな?と思って吹きながら意識の一部を天空に飛ばす。
 
ああ、来てる。小さな龍が2体、天空に現れていた。
 
その龍たちとお話するかのように千里は笛を吹いていた。
 
曲がクライマックスまで進んだとき、その龍の1体が悪戯をして雷を落とす。突然響き渡る雷鳴に観客が驚く。悲鳴をあげた客も居た。あはは、これが晴天のヘキヘキとかいうやつだっけ? などと思いながら千里は龍笛を吹いていた。
 
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やがて終曲。笛を口から離し、客席に向かってお辞儀をする。割れるような拍手。コンマスさんが立ち上がって握手を求めたので握手し、指揮者にもお辞儀をして、千里は下がった。
 

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月が変わって9月最初の水曜日。先日話があった雅楽の合奏団の最初の練習をするというので、千里は市内A神社に行った。
 
そこに千里は意外な顔を見る。
「天津子ちゃんだったっけ?」
「千里さんでしたね?」
「ふーん。敬語も使えるんだ?」
「そうですね。あなたには私かなわないみたいだし」
 
「でも巫女さんだったの?」
「巫女さんにしてもらったんです。親戚で神社の神職さんしている人に頼んで。千里さんが修行した方がいいと言うから」
「中学生だっけ?」
 
「小学6年生。本当は中学生以上らしいんですけどね。ついでに親元から離れて、そこの神職さんちに下宿」
「なんで!?」
 
「うち、神様やってるんですよ。教会長の孫がこんなこと言っちゃいけないけど、ちょっと変なんですよね。あれまともな神様じゃない気がする。それで前々から思ってたんです。むしろ正統派の所で学びたいって」
 
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「へー。まあいいんじゃない。虎も元気そうだし」
 
千里にはその虎は見えないのだが、天津子の後ろに隠れてこそこそしているのを感じ取れる。
 
「この子も再教育します。自分自身を鍛え直すのと一緒にね」
「何か目標があるみたい」
「2年前。千里さんと会う直前に会った子が凄い子で」
「その子が目標?」
「違います。その内、叩きのめしてやります。負けるもんか。千里さんには完敗だったけど、あの子に負けたのは悔しい」
 
「ふふふ。まあ、頑張ってね」
「しかも、あいつ女の格好はしてるけど、実はオカマだったんですよねー。そんな奴に負けたのが更に悔しくて」
「へー。女装者だったんだ?」
「私、女装や男装してても、ちゃんと本当の性別は見抜けますよ。いっそ日本中のオカマを撲滅してやりたい気分」
 
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まあ、何て過激な!
 
「ふーん。だったら私が男装してても分かっちゃう?」
「そりゃ分かりますよ。千里さんみたいに女らしい人が男装してたら、一発で分かると思いますよ。チャクラが凄くきれいな左回転だもん。それにその長い髪を男性用ウィッグとかで隠したりしても、本来の髪の長さが分かります。オーラで髪とウィッグは区別付きますから」
 
ほほぉ。
 
(注.2年前の遭遇で青葉が千里の性別に気付いたのは玲羅が「お兄ちゃん」と呼んだからである。また2年前の事件の時、天津子は千里を見ていない)
 
「で、何演奏するの?」
「これ」
と言って天津子はバッグというよりずだ袋という感じの袋から美しいビロードの笛袋を取り出し、その中から龍笛を出す。
 
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「高そう・・・」
「返し竹の龍笛。これ作れる人は日本国内に数人しか居ないらしいです。実はお母ちゃんの従妹で19歳で亡くなった人の遺品なんですよ。だから値段は知らないんです」
 
「どのくらい吹くの?」
 
それで天津子はその龍笛を吹いてみせた。
 
「上手いじゃん」
「千里さんも龍笛? 吹いてみてくださいます?」
 
それで千里が自分の龍笛を吹く。
 
近くで雑談していた人たちが話を辞めてこちらを見るのを感じる。しかし千里はそれを単に景色を見るように感じ取り、心はただ龍笛のみに集中していた。
 
天津子が
「負けた〜。笛でもかなわない!」
と言う。
 
「練習すればいいよ」
と千里は微笑んで答えた。
 
 
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女の子たちの音楽生活(8)

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