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■女の子たちの音楽生活(7)

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1時間目が終わった後の休み時間、鮎奈からも言われる。
 
「千里がちゃんと朝から女子制服を普通に着てるって珍しい、と思ったんだよね」
「髪もちゃんと女の子の髪だし」
「うーん。不覚だ」
 
「その格好で誰も文句言わないから、千里はいつもそういう格好していればいいんだよ」
「そうだなあ」
 
「彼の試合が気になってたんでしょ?」
と蓮菜から指摘される。
 
「うん」
「何の試合?」
「インターハイ、バスケット。そろそろ終わった頃のはずなんだけど」
「へー」
 
その時、千里の携帯に着信がある。校内でバイブにしているので着メロは鳴らない。携帯を開いて、千里は大きく息を付いた。
 
「だめだった?」
「うん。泣き顔マークのメール」
「残念だったね」
 
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千里は「お疲れ様。また頑張ろう」とメール返信した。
 

貴司とは昼休みに直接電話で話した。相手は昨年ベスト4になっているチームだったらしい。
 
「全く歯が立たなかった」
と貴司は言った。
 
「インターハイのレベルの高さを肌で感じたよ。千里見学だけででも来れば良かったのにな」
「お金無いよー」
 
「千里ってしばしばお金が無いということが様々な障害になっているよな。千里の才能持っていて、お金があったら、もっと色々できるのに」
 
「お金あったら、最初に女の子になる手術受けたい」
「そこに疑惑があるんだけどねー」
 
「疑惑?」
「手術なんて受ける必要のない身体ではないかという疑惑ね」
 
「貴司と別れる時はちゃんと見せるよ」
「いや、別れる時は見せないで欲しい」
「そうだね。その方がいいかな」
 
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翌日の金曜日、補習が終わった後帰ろうとしていたら、呼び出しがあって職員室に行く。すると、宇田先生と教頭先生から
 
「ちょっと話そう」
と言われて面談室に入った。
 
「実は秋の大会に向けて、メンバー表を協会に提出したんだけど、君が6月の試合で留萌S高校の選手とコート上でキスした問題を再度言われてね」
 
「あれは大変申し訳ありませんでした」
と千里は再度謝る。
 
「あの選手とは恋人関係だったよね?」
と宇田先生が言う。
 
「春にいったん別れたんです。ですからあの時点では元恋人でした。でもその後、仲が復活しました」
と千里は正直に言う。
 
「それでね、一応男子の試合に女子が出るのは構わないということにはしているのだけど、ああいう行為をされては困るというのでね」
 
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「はい」
「元々その内規は人数が少なくて女子チームを編成できない学校の女子選手を救済するためのルールなので、こちらの学校には女子チームがあるのだから、女子選手はちゃんと女子チームの方に出て欲しいと言ってきたんだよ」
 
「あのぉ、私男なんですけど」
「それを向こうが信じてくれないんだよ。対戦したチームいくつかから聴取したみたいだけど、身体が接触した時にバストがあったとか、触った感じが女子に触った感触だったとか、声も女の声だったとか、そういう証言が沢山出て来て」
 
まあ自分をホールディングしてファウルを取られた選手がまともにバストを掴んで『ぎゃっ!?』という声をあげたことあったよな、と千里は思った。こちらが『ぎゃっ』と言いたい気分だったのだが。
 
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「私、脂肪の付き方が女の子みたいな付き方してるんです。声はまだ声変わり前ですし、バストは気のせいだと思いますが」
 
「高校生になって声変わりしてないというのは珍しいからね」
「ええ。でも時々あるみたいですよ」
 
「まあ、それで男子だというのであれば確かに男子であるという証明を出して欲しいと協会側が言うんだよ」
 
「何を出せばいいんでしょう?」
「戸籍抄本を提出させましょうか?と言ったら、ではそれでお願いします、ということなので、手間掛けるけど、市役所で取ってきてくれないかな。君の戸籍は留萌にあるんだっけ?」
 
「はい。住民票は旭川に移しましたが、戸籍は留萌のままです」
「じゃ、それの謄本じゃなくて抄本でいいから、取ってきてくれない」
「はい。急ぎますよね?」
「うん。週明けできるだけ早い時期に提出したいので」
「では母に電話して頼んでみます」
 
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それで千里は母に電話して戸籍抄本が必要になったということを言う。すると母はその日の内に職場を抜け出して市役所に行って抄本を取ってくれた。
 
「千里、土日にちょっとこちらに顔を出しなさい。それで渡すから」
と母が言うので
 
「うん。分かった」
と千里も素直に答えた。
 
それで今週末、神社の方はお休みさせてくださいと斎藤さんに連絡し、金曜日夕方のJRで留萌に帰省した。ゴールデンウィーク以来、3ヶ月ぶりの留萌である。一応自粛して、髪は丸刈り頭のまま、服は中性的な服装にした。
 
留萌駅まで母が車で迎えに着てくれていた。多分父に見せる前に自分の格好をチェックするためもあるかな、と千里は思った。
 
「スカートじゃないのね?」
「自粛した」
「お化粧はしてないし」
「お化粧品なんて持ってないよ〜」
 
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正確にはリップクリームと化粧水だけは蓮菜たちに勧められて買っていつも持っている。
 
「でもやはり女の子にしか見えない」
と母は言う。
 
「でもこれ以上、何をどうすればいいと? 頭は丸刈りだし、ズボン穿いてるし」
「そうだなあ。性転換手術しておちんちん付けて男になるとかは?」
「手術代出してくれたら考えてもいい」
「うち督促状がどんどん増えて行っている状態だからなあ」
 
と母は首を振りながら言った。
 

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家に帰ると玲羅ひとりである。
 
「おかえりー」
「ただいまー」
 
などと言葉を交わすが、玲羅は寝転がって漫画を読んでいる。この子もあまり勉強しているところ見ないなと千里は思う。
 
「お父さんは?」
 
「やはり今の時代、パソコンくらいできないと何も仕事が無いってんでパソコン教室に行ってる」
と母。
 
「そういう訓練を受けるという所まで来ただけでも少しは進歩かな」
と千里。
 
「電卓も嫌いって人だからねぇ。電卓で計算すると答えが正しく出ないとか言って」
「電卓って、慣れてないとボタンが2度押しになったり、逆に押されていなかったりするんだよ。でも、そろばんを実務で使っている貴重な生き残りかも」
 
「船員さんのお給料とかも、そろばんで計算してたからねぇ」
 
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「こないだ、お父ちゃんからウィンドウズとヤフーってどう違うんだ?と訊かれて、私どう答えていいか悩んだよ」
と玲羅が言う。
 
「そんな質問が出てくるというのは、お父ちゃんの頭の中、混乱の極致っぽいね」
 

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「ねえ、お姉ちゃん」
と玲羅は千里に呼び掛けた。ドキっとする。
 
前々から自分のことを姉と呼んでくれないかとは言っていたが、ホントにそう呼んでくれたのはこの時が初めてだった。母もピクッとしたが黙殺している感じだ。
 
「お姉ちゃんの元彼だよね。甲子園に出場する旭川T高校のエース」
「本当のエースは別に居るんだけど、北北海道大会の1回戦で怪我しちゃったんだよ。それで2人の控えピッチャーで交替で投げて何とか勝ち上がった。その本来のエースは今年の夏はもう投げられないんで、甲子園では彼が背番号1を付けるらしい」
 
「甲子園で背番号1を背負って投げるって凄いね」
「うん。身が引き締まると言ってた。明日が初戦だけど今日は無理せず早く寝るって」
「ああ、まだ連絡は取り合ってるんだ?」
「お互いに携帯には登録してるけど、別に何でもないよ。お互い恋人居るし」
「ふーん」
 
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「ちょっと、あんた恋人いるの?」
と母が突っ込んできた。
 
「いるけど」
「それって、女の子?」
「まさか。男の子だよ」
 
うーん。。。と母は悩んでいるっぽい。
 
「ってか細川君だよ」
と千里は説明する。
 
「あんたたち別れたんじゃなかったの?」
「春に別れたんだけど、復活しちゃった」
「まあ、彼なら良い子だからいいか」
と母も少し安心したような感じである。
 
「細川君の方はインターハイのバスケに出場して初戦は突破したんだけど2回戦で凄い強豪に当たってあえなく敗退」
 
「あ、そうか!駅前にS高校インターハイ出場って垂れ幕が掛かってた」
「昨日留萌に戻ってきたよ」
 
「・・・あんたたち会うの?」
「うん。明日デートする約束してる」
 
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「でも男の子同士でデートしてたら目立たない?」
「大丈夫だよ。デートする時はちゃんと女の子の格好で行くから」
「ちょっとぉ!」
 

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疲れてるだろうからお風呂入りなさいと言われたので千里は着替えを持ってお風呂場に行った。この家は台所に直接浴室がつながっている。脱衣場などは無いので、風呂場のドアのそばに着替えとバスタオルを置いた。
 
中に入り、お湯の温度を確認してから身体を洗い、頭を洗う。
 
長い髪を維持していた時は髪を洗うのは大変だった。だいたいそれだけで10分くらい掛かっていた。しかし五分刈り頭はシンプルだ。一応気持ちの問題でシャンプー・コンディショナーと掛けているが、コンディショナーを使用する対象が存在しないような気もしていた。
 
ゆっくりと湯船に浸かる。
 
そういえば最近ちょっと忙しすぎるような気がするなあ。なんでだろう?などと考える。でも考えている内にいつのまにか変な妄想の世界に入っているのに気付いて微笑んだ。
 
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さてあがるかな、と思い、湯船からあがってバスタオルで身体を拭き、頭を拭いていた時のことであった。
 
荒っぽく玄関のドアが開く。
「ただいま」
と父の声がする。あ、やばいなと千里は思った。着替えは風呂場の外、台所の端にある。それを取るにはいったん風呂場から台所に出なければならない。自分のヌードを特に父には見られたくない。
 
「ああ、汗掻いた。ちょっと顔を洗おう」
などと父は言っている。え?え?え?
 
「あ、お父さん、ちょっと待って」
と母の声。
 
洗面台は風呂場の《中》にある。やっばーと思い、湯船の中に戻ろうかと思った時、それより早く風呂場のドアが開けられてしまった。
 
「あ」
「あ」
 
千里は髪をバスタオルで拭いている最中で、頭はバスタオルで隠れているものの身体は完全に無防備な状態である。
 
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「すまん」
と言って父は慌てて風呂場のドアを閉めた。
 
「玲羅のお友だちか誰か? なんかおっぱいの大きな女の子だった。後で謝っててくれ。俺は**さん所にホタテの養殖の件で話に行ってくる」
 
などと言って父は慌ただしく出かけて行った。
 
居間で母と妹が会話するのが聞こえた。
 
「ね、おっぱいの大きな女の子だって」
と母。
「お母ちゃん、お姉ちゃんの身体のことで悩んだって仕方無いよ。どうせ何年か先には完全な女の子になっちゃうんだから、気にやむだけ無駄」
と妹。
 
「そうだねぇ」
と言って母は溜息をついたようである。
 
「でも、あの子、いつのまにおっぱい大きくしちゃったの?」
 
えーん。何か出て行きづらいよー。私、あがりたいのに。
 
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日曜日の夕方のJRで旭川に戻り、月曜日学校に行って宇田先生に戸籍抄本を提出する。
 
「うーん。確かに長男って書いてあるなあ」
と宇田先生は千里の戸籍を眺めながら言った。
 
「男ですけど」
「それが実は大嘘なんじゃないかって、最近思い始めてたんだけど、やはり男なのか」
「済みません」
 
「うちの女子バスケ部は今年もインターハイに行けなかったからさ。3年連続代表から遠ざかっている。それで今年の特待生枠で1人しか女子を入れてないのをOGから突っ込まれてね。その代わり男子に君を含めて3人入れたおかげで男子の方は道大会BEST4まで行ったんだけど。やはりうちは女子チームの伝統が凄いから」
 
N高校は元々が女子高だったこともあり、生徒数も女子が多いし、バスケット・ソフトテニス・スキーで女子チームが何度も全国大会で活躍している。男子では近年野球部が強くなり1度甲子園に行ったのが唯一の例である。
 
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「うるさ方も多いんでしょうね」
「まあ、それだけ期待されているってことだけどね。ウィンターカップでは男女ダブル出場ができたらいいな」
「はい、頑張ります」
 

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