広告:ここはグリーン・ウッド (第5巻) (白泉社文庫)
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■女の子たちの音楽生活(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-05-23
 
2006年夏。
 
千里はこの年N高校に進学するのに伴い、長年伸ばしていた髪を切り五分刈りにした。そしてそれに合わせて3年間恋人として交際していた貴司との関係を解消した。最後に1回だけ記念のセックスをした。
 
しかしふたりは6月、函館で行われたインターハイ予選で本大会への切符を賭けた激しい試合を戦ったことから、お互いの相手への思いを新たにする。そして七夕祭りが終わった夜、千里と貴司は3ヶ月ぶりのセックスをするとともに恋人関係を復活させることにしたのである。
 
「インターハイなんて、漫画か何かの世界の話と思ってたから、貴司がそこに行くと聞いて何か不思議な感じがするよ」
 
と千里は自分の携帯で貴司と話している時に言った。
 
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「N高校もインターハイ常連じゃん」
「女子の方はね。もっともこれで3年連続ダメだったけど」
「男子の方も千里がいれば行ける可能性があるよ。来年は一緒に行こうよ」
「一緒に行くためには、来年も今年と同じように違うブロックに割り当てられて、決勝リーグでS高とN高が当たるような組合せでないといけないけどね」
 
「クジ運だな。でも来年か再来年にはまたそういう組合せになる可能性は充分あるでしょ。まあ再来年は僕はもう居ないけど」
 
「特進組は部活は2年までなんだよ」
「あぁ」
「まあ全国大会の実績が凄い、男子野球部と女子バスケット部・女子ソフトテニス部だけは特例で夏の甲子園・インターハイまで活動していいんだけどね。但し勉強の成績が20番以内という条件で」
 
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「じゃ千里、女子バスケ部に移籍すればいい」
「それは無理だよー。医学的に男子だから」
「・・・・ねぇ千里、本当は既に性転換してないの?」
「してないよ」
「だって、付いてないじゃん」
 
貴司にはこれまで数回裸体を見せているし、2度のセックスもしている。
 
「隠しているんだよ」
「ほんとかなあ」
 
「でも再来年は貴司は卒業してるし、やはり来年一緒に行きたいね」
 
「うん。やはり来年の春の大会でも、S高とN高が決勝リーグで当たる組合せになることを祈るしかないね。僕にとっても千里にとっても最後のインターハイになるんだろうから」
 
「うん。それを祈ろう。貴司練習頑張ってね」
「朝から晩までやってるよ」
 
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夏休みに入る前の6月下旬から7月下旬の時期というのは、多くの中学高校では期末テストの時期なのだが、N高校は「2学期制」で1学期は4〜9月、2学期は10〜3月となっており、期末テストは9月上旬に行われる。
 
それでこの時期に体育祭が設定されていた。この高校の体育祭はいわゆる運動会の形式ではなく、むしろ球技大会に近い。3学年18クラス対抗でいくつかの競技が行われて、その総合成績で順位を決める。競技としては、男女バスケット・男女バレー・女子ソフトボール・男子サッカー・陸上リレー(男子1600m,女子800m)、水泳リレー(男子400m,女子200m)というのが設定されていた。多くの生徒はどれかひとつに出れば良いのだが、人数の都合で複数の競技に出る子も何人か出る。女子クラスや男女比の偏ったクラスでは同じ種目に複数チームを編成するケースもある。なお、部活でやっている種目には出ないルールである。
 
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「千里、背が高いしバレーやる?」
などと孝子から言われる。
 
「バレーはルール分かんない」
などと千里が言っていたら、留実子が
「千里は小学校の時、ソフトのピッチャーだった」
と言うので
 
「よし、ソフトボールのピッチャーやってもらおう」
と言われ、ソフトボールのチームに組み込まれることになった。
 
「え?でもソフトボールって女子だけじゃないの?」
「千里は女子だよね?」
「まさか男子に混じってサッカーとかしようって魂胆じゃ無いよね」
「女の子がサッカーのチームに入ってたら乱戦になった時に男子が困るよ」
ということで、当然のように女子としてカウントされた。
 
「いや。千里は既にバスケの大会でその問題を指摘されている」
「それで秋の大会からはちゃんと女子として出るんでしょ?**ちゃんから聞いたよ」
 
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と噂は既に暴走している。
 

2年6組と3年6組は女子が少ないのでソフトボールのチームを編成していない。それで残る16クラスでトーナメントをした。
 
最初当たったのは3年5組である。1年5組の先攻であったが、相手チームのピッチャーは凄く身体が大きい。進学組なので2年生で部活を終了しているが1〜2年の時は女子バレー部に居た人らしい。80kgくらいありそうな巨体から結構な剛速球を投げてくるので、1年5組は1回は三者三振だった。
 
1回裏。千里がマウンドに立つ。ああ、この感覚久しぶりだな、と千里は懐かしいような思いだった。ウィンドミルでボールを投げると、ボールはきれいに内角低めに梨乃が構えるミットに収まる。バッターが「えー!?」という顔をしている。
 
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うん!ちゃんと思っている所にボールが行く!
 
1球外角に緩い球を投げて空振りさせた後、再び内角低めの速球で三球三振。この後、千里も相手選手を三者三振に取った。
 
「千里もやってたけど、あのぐるぐる腕を回して投げるの格好いいね」
という声がベンチで出ていた。
 
「ウィンドミルって言うんだよ」
と留実子が解説する。
 
「ウィン?」
「Windmill. 風車だね」
「へー。名前も格好いい」
「あれ5〜6回腕を回したら、もっとスピード出るの?」
「2回以上回すのは禁止」
「そもそも単に疲れるだけだと思う」
 
「でも千里、さすが元ピッチャー。私がミット構えてる所にジャスト来る」
と梨乃が言う。
 
「内角ぎりぎりを要求してたね」
とセカンドに入っているので、そのあたりが見えている鮎奈が言う。
 
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「私、デッドボール出したことないから」
と千里もコントロールに関しては自信を持って答える。
 
「小学校の時にしてたの?」
「うん」
 
何人か考え込んでいる子がいる。
 
「念のため確認しておきたいんだけど」
と桐子が言う。
 
「千里、小学校の時に男子ソフト部だったの? 女子ソフト部だったの?」
「え? うちの小学校男子のソフト部なんて無かったよ」
 
「つまり女子ソフト部だったのか!」
 

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試合はどちらもランナーが出ないまま最終回5回まで行く。1アウトの後、4番に入っている留実子が強振した当たりはピッチャーのミットに当たって軌道が変わり、ショートの深い所に転がる。ショートが追いついて投げるのと留実子の足とが同時くらいだったが、審判はセーフと判定。初めてのランナーが出た。
 
5番京子はバントの構えである。
 
初球結構打ちやすい球が来る。バットに当てるが、球が浮いてしまった。内野フライでアウトかと思ったのだが、そのボールを取りに来た三塁手が落としてしまう。慌てて拾って投げようとしたら、暴投してしまった。
 
アウトと思ってベース近くに居た京子が慌てて走る。ランナーの留実子も全力疾走する。ボールは外野を転々とし、右翼手が頑張って走って追いついてバックするものの1アウト13塁になってしまった。
 
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千里は今のプレイは微妙だと思った。審判がインフィールドフライを宣告していればそのまま2アウト1塁になっていたが、審判は宣告しなかった。その場合相手は上手くプレイすると確実に併殺を取れた。
 
しかしインフィールドフライは審判の宣告があって初めて成立するプレイだ。そもそも今の打球は「フライ」と言えるかどうか微妙な気もした。
 
結果的にはこちらの有利な展開になったが、これも時の運だ。ただ今日審判をしている子(対戦してないチームの選手なのでソフトの素人の可能性がある)がインフィールドフライを知らない!という可能性もあるなと思った。
 

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6番桐子もバントの構えをする。1球目内角にボールが来るが桐子に当たりそうな球で慌ててバッターボックスを外して避けた。ピッチャーがぺこりとして謝り2球目を投げるがワンバウンドである。
 
それを見て次の出番の鮎奈が千里に
「どう思う?」
と訊いた。
 
「元々あのピッチャー、スピードはあるけど荒れ球なんだよね。それがバントの構えをされると、どうもますます荒れるみたい」
「なるほどねー」
 
結局桐子はフォアボールを選んで1塁に行く。1アウト満塁である。
 
7番鮎奈が出て行くが、最初からバントの構えである。内野はスクイズを警戒して前進守備になる。そして第一球を投げる。と同時に鮎奈は普通のバッティングの体勢に変更した。
 
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バスターである。ボールはど真ん中に来ている。思いっきり振り抜く。
 
ボールは快音を立てて飛び、前進守備のショートの頭上を越えてセンター前に転がった。留実子が余裕でホームインする。1年5組は貴重な1点を取った。
 

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その後はピッチャーも気持ちをうまく切り替えたようで、8番バッターも、9番の千里も三振して、ゲームは5回裏になる。
 
千里が対戦する4番バッターはピッチャーも務める元バレー部員である。左バッターボックスに入る。この子は右投げ左打ちである。
 
内角低めに1球決めてストライクを取った後、外角の球を3回ファウルされる。5球目。梨乃は内角低めに構えている。千里が投げる。ボールは一見真ん中高めに来たかに見えた。バッターが思いっきり振る。しかしボールはストンと落ちながらインコース側に寄り、ちゃんと梨乃が構えていた位置に納まった。三振。ワンナウト。
 
この試合で初めて投げたカーブであった。実は久しぶりだったのでカーブがちゃんと決まるかどうか自信が無かったのでここまで使わなかったのである。
 
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続く5番打者をやはりストレートとカーブの組合せでセカンドゴロに打ち取って、最後のバッターと対峙する。
 
丁寧に内角に2球速球を決めてバッターを追い込む。3球目外角に外す。が、バッターは強引にその球を手を伸ばすようにして打った。ボールが高く上がる。打球はそれほど勢いは無いがレフトとセンターの中間位置くらいに飛ぶ。センターの留実子とレフトの京子が走る。
 
2人とも全力疾走してボールを捕ろうとすると衝突して怪我する危険がある。それで留実子が京子に「オーライ!」と声を掛ける。京子が足を停める。しかし留実子は結構ギリギリで追いついて片手でキャッチした。
 
スリーアウト。
試合終了。
 
1年5組は準々決勝に駒を進めた。
 
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「対戦チームから、そちら男子が混ざってませんか?と言われた」
と京子が言う。
 
「ボクのこと?」
と千里が言うが
「まさか」
という声。
 
「ボクのことだよね」
と留実子。留実子は春頃は親しい友人の前でだけ《ボク》と言っていたのだがこの頃になると、いつも《ボク》を使っていた。
 
「うん。でも先日バスケの試合でも疑われて医学的な検査を受けて女子というのが確定してますと言っといたから」
と京子は答える。
 
「ボク、小学校の時の町対抗ソフトでも性別疑われたよ」
と留実子が言うが
「あれは本当はボクが疑われたんだけどね」
と千里は言う。
 
しかし
「千里が性別を疑われる訳が無い」
とみんなから言われた。
 
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「もっとも男子の試合に出ようとしたのなら、女では?と疑われたろうけどね」
「それ、こないだのインターハイ予選でも疑われたとか」
「それで検査されて、女と確定したんだっけ?」
 
ということで、また勝手な噂が広まっているようである。
 
なお、この体育祭のソフトボールでは1年5組は準々決勝は4対0で勝ったものの、準決勝でスポーツの得意な子が集まっている2年1組に1対0で敗れてBEST4に終わった。総合成績では女子バスケが準優勝、男子サッカーもBEST4だったので総合3位になり、賞状をもらった。
 

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