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■女の子たちの音楽生活(3)

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夜になってから晋治から電話が掛かってきた。
 
「メールありがとう。もしかして試合見ててくれた?」
「そうだね。N高の試合の次だったから、ついでだよ」
「いや、自分の出番は無いだろうなと思ってたからびっくりした。地区予選でも1度も出場機会はなかったんだよ」
「投げられて良かったね。ホームランまで打ったし」
「あれはまぐれ」
 
「でもエースさん、大丈夫だった?」
「それが骨折していた」
「えーーー!?」
「この夏はもう投げられない」
「きゃー、どうすんの?」
「監督から、取り敢えず次の試合は僕が先発してくれと言われた」
「でもチャンスじゃん」
「うん。頑張って甲子園を目指すよ」
 
「それ晋治らしくない」
「え?」
「甲子園の優勝旗を旭川に持ち帰る、くらい言おうよ」
「そうだね。そのくらいのつもりで頑張ろう」
「うん。頑張ってね」
 
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5分ほどで会話を終えて電話を切ったが、叔母から言われる。
 
「葬送行進曲が流れるから何かと思ったよ」
「彼からのメール着信はオフコースの『さよなら』だよ」
 
「それって、千里、彼のことをまだ好きなんじゃないの? だからわざとそういう曲を聴くようにして自分の心にストッパーを掛けてるんじゃないの?」
 
「そんなことないと思うなあ。もう別れて3年半経つし。私には貴司がいるし」
 
と千里は言ったものの、心が少しだけ温かくなるような思いもあった。
 

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T高校はこの後、結局晋治と11番のピッチャーが1試合交替で、時には継投で投げて北北海道大会で優勝。甲子園への出場を決めた。決勝戦でも晋治が先発し、二塁打を打って決勝点を叩き出す活躍を見せた。T高校はこれまで何度か甲子園に行っているが、今回は4年ぶりの出場。晋治にとっては最初の(そして最後の)甲子園になる。
 
一方千里たちのN高校は準決勝で(T高校とは別の高校に)敗れた。両者が当たっていたら千里としては少し悩むところだったので少しホッとした気分でもあった。
 

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学校は夏休みに入ったが、千里たち特進組はお盆前後を除けば夏休み中もずっと補習が行われるので、特に留萌には帰らず、ずっと旭川で学校に出て行っていた。ただ、夏休みの補習は午前中で終わるので(多くの子は午後からは塾に行く)、千里は午後からはQ神社に行き、巫女のバイトをしていた。夏の間は北海道は観光客も増えて神社も結構忙しいので、龍笛の上手い千里が毎日出てきてくれるのは助かる、と巫女長の斎藤さんも言っていた。
 
その日千里が昇殿祈祷で笛を吹いて降りてきたら、斎藤さんが「ちょっとちょっと」
と呼ぶ。
 
「千里ちゃんに特に占いをして欲しいというお客さんが来てるんだけど」
「諸富さんじゃなくてですか?」
 
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千里は留萌の神社では、主として中高生の占い相談もしていたのだが、こちらの神社では占いは50代の神職・諸富さんが高名な気学家に若い頃弟子入りして学んだこともあり、ほぼ一手に引き受けている。ただ、千里が占いをすることを知っている人もあって、過去にも数回特に指名されたことがあった。
 
「うん。気学ではなく易で占って欲しいというんだよね。それと留萌に奥さんの実家があって千里ちゃんが向こうで百発百中で占いをしていたというのを聞いてたみたいなんだよ」
「さすがに百発百中じゃないです!」
 
「できる?」
「内容は聞いておられますか?」
「中国の企業に生産委託をしてもいいかどうかの判断だって」
「もしかして大きな取引ですか?」
「どうも数十億レベルっぽい」
 
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「きゃー。だったら私、水垢離します」
「うん」
 

斎藤さんが、占いを受諾することと巫女が水垢離をする間待っていて欲しいというのを伝えに表の方へ行く。千里はバスタオルと着替え用の下着を持って神社の裏手の、関係者以外立入禁止の場所に行き、裸になり、そこに流れている小川に入って水垢離を始めた。
 
中学の時、巫女さんのバイトを始めた頃は、水垢離とか滝行なんて、やだよーと思っていた千里であるが、慣れてしまうと苦痛ではない。むしろ自分の感覚が透明になっていく感じが快感である。
 
だいたい良い感覚になってきたなというところで終了する。小川から上がろうとしていた時、神社の戸が開く。
 
「千里ちゃん、そろそろ準備できた? あ、ごめん」
と言って斎藤さんは後ろを向く。
 
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「あ、済みません。夏だから水垢離用の服を着なくてもいいかなと思って裸でしてました。今終わった所です。そちらに向かいます」
と千里。
 
「うんうん、よろしく」
 
千里は身体をバスタオルで吹き、洗濯済みの下着を身につける。そしてその上に巫女衣装を身につけ、斎藤さんと一緒に応接室に向かった。
 

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「お待たせしました。ご相談事、詳しく教えて頂けますか?」
 
と千里は言った。占いの客は55-56歳くらいの活力あふれる男性である。恐らくはその腕ひとつで自分の会社を20年か30年掛けて大きくしてきたのであろう。話し方もとても熱い。カリスマ性のある経営者だなと千里は思った。
 
この人の会社では5年ほど前から部品のいくつかを中国の企業から買っていたらしい。しかしいっそのこと、向こうで全部生産しませんか?というのを相手から打診されているという。
 
「それでは易卦を立ててみます」
 
と言い、筮竹を操り、十八変筮で卦を出した。
 
「離為火(りいか)の五上爻変です。凶です」
 
「やはり」
 
「これは上卦と下卦に同じ八卦《火》が出ています。こういう純卦というのはひじょうに良くない状況。そして悩みの深い状況を表します。悩むので迷うのですが、迷った末に、お金や地位につられて悪い選択をしてしまいます。この之卦(しか)は沢火革。思い切った改革が必要です」
 
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千里は算木を2セット使って、本卦の火卦と之卦の革卦を並べる。
 
「君子は豹変し、大人は虎変す。しがらみに囚われず、必要な改革をしなければなりません」
 
クライアントは大きく頷いていた。
 
「そこと提携しない場合、今ある工場を建て直さなければならないんです。道内のある地方都市から、こちらに工場を移転させませんか?と誘致を受けているのですが、どうでしょう?」
 
今度は略筮で卦を出す。
 
「水火既済の二爻変。大吉ですね。之卦が水天需で大川を渡るに利あり」
 
「あ!大川ですか? 実はその場所が石狩川の川沿いなんですよ」
 
「ぴったりですね」
と言って千里は微笑む。卜占系の占いではしばしば「象意」というより「まんま」
のものが出ることがある。
 
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その後もクライアントはいくつかの質問をし、その度に千里は略筮で卦を立てて質問に答えていった。セッションは1時間ほど続いた。
 
クライアントが「本当に参考になりました。ゆっくり考えて決断します」と言って帰って行った。見料は10万円ももらった。
 
「千里ちゃん、凄い金額頂いちゃったから、これ2割バックするよ」
「わあ、そんなに頂いていいんですか! 新しいバッシュ買っちゃおうかなあ」
 
千里が今使っているバスケットシューズは中1の時に占いの御礼に細川さんが買ってくれたものである。かなり痛んできているものの穴の空いたところを糸で縫ったりして千里は使用していた。
 
斎藤さんはそういう千里を微笑ましく見守っていたが、ふと思い出したように言う。
 
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「そうだ。さっき、水垢離してる千里ちゃんの裸見ちゃったけど」
「はい?」
「千里ちゃん、おっぱいあるのね」
「そうですね。女子高生として恥ずかしくないギリギリ程度のサイズですけど」
 
「それに、おちんちん無いように見えた」
「あ、それは巫女さんする時は取り外してますから」
 
「取り外せるの〜〜!?」
 

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貴司たちのS高校男子バスケ部は大阪で8月2日からインターハイに参加する。それで8月1日に大阪に向けて移動するのだが、その日の朝、旭川空港で会いたいと貴司から連絡があったので、千里はその日の補習を休んで朝から空港に向かった。
 
やがて貴司をはじめとするS高校男子バスケ部のメンバーがやってくる。知っている顔ばかりなので千里は会釈をした。
 
「村山?」
「女子制服を着てる」
「スカート穿いてる」
「なんか髪もふつうの女の子の髪だ」
「五分刈りじゃない」
 
「だって私女子高生ですから」
「女子高生が男子チームに出場してはいけないなあ」
「秋の大会ではちゃんと女子チームの方に出場しろよ」
「柴田(久子)や中谷(数子)も村山が女子で出てくれば対戦できるのにって言ってたぞ」
「そうですね。そのあたりは課題ということで」
 
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と千里は微笑んで応じる。
 
「今日は誰かの見送りかお迎え?」
などと佐々木君に訊かれた時、貴司が出てきて千里にヴァイオリンケースを差し出した。
 
「千里、このヴァイオリン、やる」
「え?」
 
「僕もこれ6年くらい弾いてないからさ。楽器が可哀想だから。千里なら弾いてくれるだろうし」
「でも・・・」
「これは僕たちの関係とは別。そのうち僕たちが別れても、この楽器はずっと千里が持っていていいから」
 
「分かった、もらう」
「うん」
「貴司がんばってね」
「もちろん」
 
それで千里は貴司と握手した。
 
「細川、キスしてもいいぞ」
「試合中でなければだけどな」
などという声が上がる。
 
「あ、これS高校のみなさんに」
と言って千里はS高バスケ部の主将の山根さんにチーズケーキの箱を渡した。
 
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「おお。ありがたくもらうぞ」
「みなさん頑張ってください」
 
「来年はぜひ一緒に行こう」
「はい」
 

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お昼過ぎ、千里が(ズボンを穿き五分刈り頭で)いったん学校に戻ってくると
「あれ?今日休みじゃなかったの?」
と鮎奈に言われる。
 
「休んだよ。でも今日はバンドの練習の日だからと思って出て来た」
と千里。
 
本当は練習も休むつもりだったのだが、貴司からヴァイオリンをもらってしまったので、ちょっと弾いておきたいなと思って出てきたのである。
 
「ああ。風邪とかじゃなかったのね?」
「うん。ちょっとお友だちの見送りで空港に行ってた」
「ふーん」
と言ったまま、鮎奈は千里を見詰めている。
 
「どうかした?」
「いや、千里今日は上半身はふつうの女子制服だなと思って」
「え?」
と言って千里は自分が着ている服を確認する。
 
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「あ、しまった。ブラウス交換するの忘れた」
 
「もしかして千里、そのお友だちのお見送りにはふつうの女子制服で行った?」
「うん」
「下もスカートで」
「うん」
「髪はどうしたの?」
「あ、えっと鮎奈たちにもらったショートウィッグ」
 
「それで、学校に出てくる前に、スカートをズボンに換えてウィッグを外したんだ?」
「うん。その時、ブラウスもいつもの白いブラウスに交換するつもりが忘れてた」
 
「だけどさあ、女子の制服はそのペールブルーのブラウスなんだから、今着ている服が校則通りであって、いつも着ている白いブラウスは本当は校則違反になるんだけど」
 
「えっと女子はそうかも知れないけど、男子はワイシャツにベストだから」
「ワイシャツ着てないじゃん。ブラウスじゃん」
「う・・・」
 
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「千里はそろそろ潔く女子生徒として生活するようにした方がいいけどなあ」
と京子も言った。
 

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