広告:ここはグリーン・ウッド (第6巻) (白泉社文庫)
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■女の子たちの友情と努力(8)

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翌日火曜日は叔母さんも付き合ってくれて、学校から帰ってすぐ市内の温水プールに行き、ほんとに基本的な練習をした。叔母さんはビキニの水着をつけている。
 
「美輪子おばさん、プロポーションが凄いです」
「いや、ウェストのくびれは千里の方が凄い」
「でも私、胸は誤魔化してるから、ビキニにはなれないんですよねー」
「まあ学校の体育の時間にビキニ着ていったら叱られるね」
 
まずは水に慣れようというので水中歩行を30分くらいした。その後、プールの端に掴まってバタ足の練習、ビート板を使ってバタ足で進む練習、とする。この時、息継ぎの仕方についても教えてもらった。
 
水曜日はプールには行かずに、自宅の畳の上で、クロールの手足の動きと息継ぎのタイミングを練習する。
 
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「こういうのはいきなり水に入ってやっても、悪い形で覚えてしまうんだよ。まずはちゃんと正しい形を覚えて、イメージトレーニングすることが大切なんだ。畳の上の水練を馬鹿にしちゃいけないよ」
 
「多分あの諺は意味を取り違えられてるんですよ。弘法筆を選ばずなんかも、多分『弘法は良い筆を迷わずに取る』という意味だと思う。実際、良い筆と安物の筆では書ける字が段違いです」
 
「あ、私もその意見に賛成。100円の筆ではとてもまともな字にならないし、ママチャリではツール・ド・フランスを走れないよ」
 

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木曜日にまたプールに行き、昨日徹底的に畳の上で練習したイメージで水の中に入って泳いでみる。水の抵抗が凄まじいので大変だったが、千里は肺活量はあるので、スローモーション的にではあるが、取り敢えずクロールの形は作動する。スピードは遅いものの、とにかく前へ進む。
 
「千里、頭をしっかり水につける。頭を水面から上げたら身体が曲がって、浮力が得られない。頭は身体とまっすぐに」
 
「息継ぎの時に頭が斜めに回転している。真横に回転させなきゃダメ。水を飲むくらいは怖がらない。ここのプールの水飲んだくらいでお腹壊すほどヤワじゃないでしょ?」
 
手の動きを練習しようと、足でビート板を挟んで腕だけで泳ぐのも練習してみたが、これは腕の力が無さ過ぎるので沈んでしまう。
 
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「これはもう少し腕の力を付けないと駄目だなあ。千里、毎日お風呂に入る前に腕立て臥せを30回やろう」
 
「私、それ3回くらいしかできない」
「じゃ、今日は3回、明日は4回、明後日は5回」
「それで1ヶ月後に30回ですか?」
「そうそう。2回、4回、8回、じゃないからいいでしょ?」
「冪乗は無茶です!」
 

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木曜日の段階では、10mくらいしか泳げなかったのが、金曜日には15mくらい、土曜日に(神社のバイトから帰ってから)は20mと距離を伸ばした。そして日曜日の午前中に行った時、初めてプールの端から端まで到達した。
 
「よし、これを頑張って練習しよう」
 
というのでこの日はひたすらプールの端から端まで泳ぐというのを練習したのであった。もっともこの日は叔母さんに時間を計ってもらったら25m泳ぐのに170秒も掛かっている。しかし時間は掛かっても、きちんと息継ぎができているので、3回に1回くらいはちゃんと端から端まで泳ぎ切ることができた。
 
1時間半ほど泳いで、そろそろあがろうか、などと言っていた時、プールに入って来た女性と目が合う。
 
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「わーい! 友子せんぱーい!」
と言って手を振る。それは中学の女子バスケット部の先輩でシューティング・ガードの友子だった。千里と友子はよくダブルシューターとして荒稼ぎしていたのである。
 
「千里〜!? 髪切ったの?」
「だって、校則があるから」
「中学の時は校則があっても長い髪のままだったのに」
「えへへ」
 
「それ、かなり短く切ったよね」
と言われるので水泳帽を取ってみせる。
 
「ひゃー!凄いインパクトのある髪型だなあ」
「旭川ではそんなでもないけど、留萌に戻るとかなり振り返って見られる」
 
「女子でそこまで短いのはロッカーかプロレスラーか。でもおっぱいあるね」
「パッドですよー」
「千里は女性ホルモンの注射を打ってもらうべきだなあ」
 
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「あれ? 友子先輩、旭川M高校でしたよね?」
「そうだよ。千里はどこだったっけ?」
 
「N高校です。先輩は、バスケ部には入らなかったんですか? こないだの大会で見なかった気がして」
 
「入ってるけど、こないだの大会は風邪引いて休んだんだよ」
「あらら。M高校は今回はベスト8だったけど、友子先輩入ってたら道大会行けたんじゃないですか?」
「それ言われた!」
 
「でもこないだの大会でM高校の橘花さんって人と知り合って、今度練習試合やりましょうよ、という話になってるんですよ。顧問を通して日程とかは詰める予定ですけど」
 
「橘花ちゃんは凄いよ。貪欲なポイントゲッター」
「試合見てましたけど、ひとりで30点以上取りましたね」
 
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「私たちみたいなシューターは、安全な場所から高確率でゴールにボールを放り込むけど、ゴール下の乱戦からのシュートは身体がお互いぶつかり合いながらだから確率が低い。それで外しても即リバウンド自分で取って放り込むから、貪欲に得点していく」
 
などと友子は言ってから、ふと考える。
 
「ね、ね、千里、今N高校の女子バスケ部?」
「男子バスケ部ですよ」
「練習試合するのは?」
「M高校女子バスケ部と、N高校女子バスケ部」
 
「で・・・千里は何に出るの?」
「もちろんN高校女子バスケ部で」
「ほほぉ」
と言ってから、友子は
 
「敵に不足はないよ。シューター対決だね」
と言った。
 
「はい!」
 

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水泳の授業はその週の火曜日、6月6日から始まった。
 
「千里〜、着替えに行くぞ〜」
と言って、鮎奈・京子に連行されるかのように、プール付属の女子更衣室に連れ込まれる。
 
体育の時間はいつも千里は女子更衣室で着替えているのだが、今日はあらためて、みんなの好奇心を含む視線を感じる。
 
「千里、まさか見学します、なんて言わないよね」
「泳ぐよ」
と言って、千里は(男子)制服のブレザーとズボンを脱ぎ、その下に着ているブラウスを脱ぎ、キャミソールを脱ぐ。
 
「水着、着て来てたんだ?」
「えへへ」
 
「それトイレに行く時困らなかった?」
「今日はトイレに行く度に全部脱いでたよ」
「ああ、それが女子水着の問題点だよねー」
「男子は楽そうだけどね」
 
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「でも千里、おっぱいかなりある」
「パッドを入れてみましたー」
「そんなの入れてて泳いでたら外れない?」
「粘着式だから大丈夫だよ」
 
「いや、実は千里はパッド無しでも結構胸がある」
と先日レントゲン検診の時に千里の実胸を見ている子たちから声があがる。
 
「お股に膨らみが無い」
「ボクのショーツに膨らみが無いのは、体育の時にいつもみんな見てるじゃん」
「確かにそうだけどね」
「水着は、肌に密着するから、誤魔化しにくそうなのに」
 

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普段、体育は4組・5組合同で、女子と男子に別れてやっているのだが、今日の水泳の授業は、男女合同である。
 
同じクラスの男子から
「村山、やはり女だったのか」
などと水着姿を見て言われたが、蓮菜が
 
「何を今更」
と言っている。ちなみに留実子も
 
「花和、ほんとに女だったのか」
と言われていたが、本人は
「女、辞めたいんだけどねー」
と言って
「なるほどー」
 
と男子たちから言われていた。留実子のバストはかなり大きいので、見とれている男子もいたが、なぜか蓮菜から「じろじろ見るな」と言われて蹴りを食らっていた。
 

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最初にグループ分けします、と言われて、泳げない人、25m程度泳げる人、ターンができる人、と分類された。先生も4人入っている。男女比では泳げない子は圧倒的に女子が多く、ターンができる子は男子が多い。真ん中のグループは男女数がわりと近かった。
 
千里は25m泳げるのはまだ3回に1回くらいだしと思い、泳げない人の所に行ったが、最初に実際何m泳げるか測られたところ、端まで到達したので
 
「ちゃんと泳げるじゃん」
と言われて、すぐ25m程度泳げる人の所に移動された。
 
プールは温水プールで8コースあり、短水路の競技大会にも使用できるサイズ規格になっている。このコースの内、1コースを泳げない人、2〜4コースを25m程度泳げる人、5〜8コースをターンが出来る人のグループで使った。泳げない人は、ひたすらバタ足の練習と、クロールの形の練習である。千里は先週美輪子叔母と一緒にやった内容だなと思って眺めていた。
 
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25m程度泳げる子のグループでは、その日は各々泳がせてみてアドバイスをもらった。千里について先生は
 
「フォームはいいんだけど、パワーが足りない感じ。足腰と腕力と鍛えたらきっとスピードが上がる」
 
と言った。次回の授業ではターンの練習をするということだった。
 

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授業が終わってから、シャワーを浴びて女子更衣室に戻る。またまた視線を感じるが、千里がラップタオルを出すと「なーんだ」という雰囲気。
 
「千里、そのタオル無しで着替えない?」
「地球の平和を守るため、このタオル使わせて下せぇ」
 
ここでは他の女子もあまり無茶はしない感じだった。堂々と裸になって着替えている子もいるが(留実子など)、千里と同様にラップタオルを使う子も結構いた(孝子など)。
 
「ねえ、るみちゃん」
と蓮菜が留実子に尋ねる。
 
「ん?」
「鞠古君は今年は水泳するのかな?」
 
留実子の彼氏、鞠古君は中学の時は体育の水泳の授業は見学していた。彼は病気の治療のため女性ホルモンを投与されていたので、女の子のように胸が膨らんでおり、とても男子水着にはなれなかったはずである。
 
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「ああ。今年は参加すると言ってた」
「へー。水泳パンツ?」
「それは無理。バストがあるから」
「じゃ、女子水着?」
 
「というか、男子水着でも、上半身まで覆うタイプがあるんだよ。その方が腰の所だけの水着より水の抵抗が少ないらしくて、男子水泳選手でワンピース型を着る選手もいるよ」
「そうなんだ!」
 
(男子選手のワンピース型水着使用は2010年に禁止された)
 
「その水着姿見た?」
 
留実子は微笑んで
「見たよ」
と言う。
 
「どうだった?」
「上半身だけ見たら、女子の水着姿にしか見えない」
「やはり」
 
「でもお股の所を見ると、男であることが一目瞭然」
 
「なるほどねぇ!」
と言ってから蓮菜は
 
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「千里の場合は、お股の所を見ると、女であることが一目瞭然だよね」
と付け加えた。
 

プールでの水泳の授業が終わってから、何人かでトイレに行こうとしたのだがプールの所のトイレは工事中になっていた。
 
「あ、そうか。今年はここのトイレを改修するんだ」
 
この学校のトイレは7〜8年を周期に少しずつ改修されて新しくなっている。
 
「本館に戻って食堂のそばのトイレに行けばいいよ」
というので数人でぞろぞろとそちらに行く。千里も空いている個室に入った。ドアをロックして、便器のふたを上げる。
 
もう水着は脱いで、ふつうのブラとショーツを身につけている。ズボンを下げ、ショーツを下げて便器に座る。ちょっと疲れたかなと思って、ふっと息を付く。おしっこをして、ペーパーで拭く。
 
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そして流して立ち上がろうとした時だった。女子数人の話し声がして、いきなり個室のドアが開いた。
 
「え?」
と千里はびっくりするが、向こうもびっくりして慌ててドアを閉める。
 
千里は立ち上がり、ショーツを上げ、ズボンを上げ、便器のふたを降ろしてから個室の外に出る。
 
「ごめーん」
と謝っているのは、4組の鳴美である。同じ特進組なので土曜日は一緒に授業を受けているし、先日作ったバンドのメンバーでもある。
 
「ボクもごめん。きちんとロックしてなかったのかなあ」
と千里は言ったのだが、隣にいた同じ4組の花野子が
 
「そこのドアのロック、何だか緩いんだよ。私もこないだロックしていたはずなのに、いきなり開けられて焦った」
などと言う。そこに隣の個室に入っていた蓮菜と鮎奈に京子も出てくる。彼女らも
 
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「そうそう。その個室のロックおかしいよね」
「というかドア自体も緩い」
と言う。
 
「そういえば、こないだもそんな話してたね。あのあと、誰も先生に言ってなかったかな?」
「言っておかなくちゃね」
 
などと話をしたのだが、鳴美がこんなことを言う。
 
「でも、私、今、千里のあそこ、見ちゃった」
 
「何、何、千里のおちんちん目撃しちゃったの?」
と鮎奈。
 
「違う。お股には何もなかった。むしろ割れ目ちゃんがあったように見えた」
と鳴美は言う。
 
花野子・鮎奈・蓮菜・京子が顔を見合わせる。
 
「千里、やはり既に性転換手術しちゃってるのね?」
と鮎奈。
「やはりもう女の子の形になってるから、あの水着姿なのね?」
と京子。
 
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「えーっと、そんなことないと思うけどなあ」
と千里は答えたが、
 
「私たちにまで隠さなくてもいいじゃん!」
と鮎奈は言った。
 
そしていつもの女子の情報網を通じて「千里は既に女の子の身体になっているらしい」という噂が翌日までに1年生の全女子に広まっていた。
 
 
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女の子たちの友情と努力(8)

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