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■女の子たちの友情と努力(4)

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話が少し落ち着いてきたかなという感じの所で、ラーメンを茹でて持って行く。母は野菜サラダを入れた小鉢を5つお盆に載せて持っていく。
 
「**さんもどうぞ」
と言って勧める。
 
「わ、済みません」
 
玲羅も奥の部屋から出てくる。
 
「玲羅、箸を配って」
「了解〜。あ、これお兄ちゃんが作ったチャーシュー?」
「そうそう。30分で作っちゃう簡単レシピ」
「あれ教えてもらったようにやってみたけど、うまく行かない。30分で作れるのはお兄ちゃんだけだよ」
 
などと言っていたら、父に相談していた若い人が
 
「あれ?機関長、息子さん居たんですね?」
などと訊く。
 
「ああ、今旭川の高校に通っているんだよ」
「あ、それで見てなかったのか。てっきりお嬢さんばかりと思ってました。今日はお姉さんの方はお出かけですか?」
 
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玲羅が笑いをこらえている。父は何と答えていいか困ってぶすっとしていた。
 

連休が終わると、高校の授業も本来のパターンになってくる。特進組は0時間目(7:10-8:00)から7時間目(15:10-16:00)まで、みっちり鍛えられる。土曜日も0時間目から4時間目まで午前中の授業がある。更に千里は本来情報処理コース向けのLinuxの授業と、音楽コース向けの器楽演奏の授業を受けることにしたので、火曜と木曜は8時間目(16:10-17:00)まで授業があることになった。
 
また千里は、黒岩さんから言われた体力作りのため、毎朝5km走っていた。近くの公園まで走って行き、そこのジョギングコース1.5kmを3周してから、帰り道は歩きながら整理運動をしていた。しかし千里は走るのが遅いので、帰ってからのシャワーまで含めて、この朝練に朝4時から5時半くらいまでの時間を使っていた。(6時には家を出ないと0時間目に間に合わない。しかも千里はジョギングから戻った後、自分のお弁当を作る)
 
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「千里さ、夜は12時すぎまで勉強してるじゃん。それで朝4時起きだから4時間も寝てないのでは?」
と美輪子叔母が心配したが
 
「ナポレオンなんて3時間の睡眠でやってたらしいよ」
などと千里は答える。
 
「でもナポレオンって、その睡眠不足のせいで、男性的な能力が弱くなったんじゃないかという説もあるよ」
「ああ、私は男じゃないから大丈夫」
 
「・・・・千里、女の子は生理不順になるよ」
「うーん。そちらは問題かな」
 
「お弁当は私が作るようにしようか?」
「ううん。お母ちゃんから女の子はお弁当くらい自分で作らなきゃと言われているし」
 
「あんたのお母ちゃんって、結構あんたを女の子扱いしてるよね?」
「うん。でも、素材は前夜の内に下調理していて、最終仕上げだけだから5分で作れるんだよ」
 
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「確かに凄い手際良いなと思って見てる。でも私のお弁当まで作ってもらっているし。私は昼食代が浮いて助かってるけどね」
 
「お弁当は1個作るのも2個作るのも手間は変わらないから」
「確かにそうかも知れないな」
 
「私、お買い物する時間まで取れないから、おばちゃん、それだけお願い」
「了解、了解」
 

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ところで学校には勉強や部活などに使うもの以外を持ってくるのは禁止なのだが、雑誌などを持ち込む子はよくいる。それで昼休みなどにみんなで一緒に見たり、回し読みしたりする。
 
「へー。今月号のシックスティーンは旭川の街角で写真撮ったんだ」
「誰か知ってる子、写ってないかな」
 
などと、一部の女子が騒いでいた時、その騒ぎがピタリと停まる。
 
「どうしたの?」
と近くに居た京子が訊いた。
 
「ね、この子、見たことある気がしない?」
「どれどれ」
と言って覗き込んだ京子が
「あ、千里だ!」
と言う。
 
「あ、やはり、これ千里?」
 
「ちょっと本人、いらっしゃーい」
と言うので、千里も寄っていく。
 
「ほら、生徒手帳の写真見せなよ」
と京子が言うので開いて見せる。みんな見比べている。
 
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「おお!同一人物だ」
と喜んだような声。
 
「これいつ撮ったの?」
「入学式の2日前。ボク入学式の午前中に髪を切ったから、長髪で写った最後の姿」
 
「隣に写っているのは彼氏?」
「うん。この日で別れたんだけどね」
「へー。もったいない。何か格好良い雰囲気の彼氏なのに」
「ボクが髪切っちゃうから、その姿は見せたくなかったから」
「ふーん」
 
「でも千里はその切った自分の髪でウィッグを作ったんだよ」
と京子がバラしちゃう。
 
「え?」
「ほら、これ。こないだ一緒に撮ったプリクラ」
 
と言って京子は先日、蓮菜・鮎奈と一緒に撮ったプリクラをみんなに見せる。
 
「おお! 可愛い!」
「長い髪だ」
「あれ? 女子制服着てない?」
「うん。千里は女子制服も持っているんだよ」
 
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「だったら、千里、このウィッグ付けて、女子制服着て、学校に出ておいでよ」
「そうそう。その方が千里は問題が少ない」
 

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千里が木曜の8時間目に受けることにした器楽の授業は、各自演奏できる楽器を練習して、各学期に1度、みんなの前で演奏しようという趣旨である。ソロ演奏でもいいし、何人か組んでの演奏でも良い。
 
千里は(留萌の神社で吹いていた)自分の龍笛と、美輪子叔母から借りたヴァイオリンを持って行った。
 
この時間は各自音楽室なり、音楽練習室で適当に練習していれば良いのだが、音楽の先生が、みんなの所を回って、聴いてくれたり簡単なアドバイスなどをしてくれる。
 
千里の龍笛を聴いた先生は
「凄く美しい演奏をするね。何だか天女が舞っているかのように聞こえたよ」
と褒めてくれた。
 
「村山さん、ファイフかフルートは吹ける?」
「やったことないです」
「フルートは高いから気軽には買えないけど、ファイフは2000円くらいだから買って練習してみない? 龍笛がこれだけ吹けたらきっとファイフも吹けるし、ファイフが吹けたら、フルートも始めるとすぐ吹けるようになるよ」
 
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「わあ、2000円くらいなら、やってみてもいいかな」
 
先生は最初は千里を苗字で「村山さん」と呼んでいたものの、乗ってくると、他の女子生徒と同様に名前で「千里ちゃん」と呼ぶようになった。
 
龍笛の後、ヴァイオリンも聴いてもらう。
 
「完璧に自己流だ!」
と言って先生が笑っている。
 
「ヴァイオリン教室とかには通ってないの?」
「行ったことないです。母が持ってたヴァイオリンを適当に弾いてただけなので」
「でも自己流にしては音程が正確! 千里ちゃん凄く耳が良いんだね」
「でも私、絶対音感無いんですよー。調弦も調子笛無いとできないです」
「私も調子笛とかチューナーとか無いとできないよ!」
 
「私もヴァイオリンは専門じゃないんだけどね。少しは教えてあげられるかな」
 
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と言って、先生は千里に演奏させて、その途中で左手に触ったりしながら、千里の演奏の悪い癖を治してくれた。
 
「千里ちゃん、少し移弦の練習もしてみようか」
「私、その移弦が苦手なんです! 隣の弦に行く時に、どこ押さえたらどの高さの音が出るか、一瞬分からなくなるんですよ」
 
「うん。そうみたい。千里ちゃんって音の高さを指の位置、三味線で言えば勘所(かんどころ)で覚えてるんじゃなくて、純粋に音の感覚で選んで押さえてる。絶対音感が無いというのは思い込み。実は自分でも気付かない所でちゃんと絶対音感は動作してる」
 
「そうですか!?」
 
「だって千里ちゃん、無伴奏で演奏しても音の高さが全然ずれないもん。移弦が苦手というのは単純な練習不足だと思う。苦手意識持たずに敢えて挑戦して克服しよう」
「はい」
 
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「千里ちゃん、バスケの3ポイントが上手いし、ソフトボールのピッチャーも昔してたと言ってたね」
「はい」
「バスケで遠くからゴールを狙う感覚、ピッチャーでボールをキャッチャーミットに投げる感覚、それとヴァイオリンで正しい音の場所を見つける感覚、これが恐らく脳の同じところを使っているんだよ」
 
「ああ、そうかも!」
「だから、きっとヴァイオリンの練習はバスケの感覚を磨くのにも良い」
「面白い説ですね! でも頑張ります」
「うんうん」
 

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その週は新入生の内科検診が行われた。胸部間接X線撮影と、内科医による診察を受ける。1時間目が1組、2時間目が2組、と1クラスずつ健診が行われる。千里たちの5組は、その順だと5時間目になるのだが、お昼を食べてあまり時間の経たない状態ではやりにくいということで、昼休み時間帯に健診を受けて、その後で昼休みという変則時間になった。
 
それで4時間目が終わってから、最初男子、その後女子ということで1階に降りて行く。保健室の先生が来て
「それでは5組男子、1階に降りて、玄関の所に停まっているレントゲン車の所に並んで下さい」
 
と言う。それで男子が席を立ち、ぞろぞろと降りて行こうとしたので千里も一緒に行こうとしたら
 
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「村山何やってんの?」
「女子は後」
などと数人の男子から言われる。
 
「千里、そろそろ自分は女だという自覚を持とう」
と前の席の鮎奈に言われて肩を押さえられて椅子に座る。
 

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男子が健診を受けている間は、自習なのだが、まじめに勉強している子は少数で大半がおしゃべりである。まだゴールデンウィーク中のネタが尽きてないので、旅行に行って来た子はその話題や、映画の話題、ライブに行ってきた子がいて、その話題まで出ていた。
 
やがて男子たちが戻って来て、保健室の先生も来て
「はい、次は女子の番です」
と言う。
 
それで千里も鮎奈たちと一緒に1階へと降りて行った。
 
男女の間はインターバルが必要なので、今日の健診は1組(女子クラス)→2組女子→2組男子→3組男子→3組女子→4組女子→4組男子→5組男子→5組女子→6組女子→6組男子、という形で組毎に男女の順序が逆転する方式で進められている。
 
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結局おしゃべりしながらレントゲン車に並ぶ。
 
「中に入ったら上半身裸になってもらいます。それからエレキバン、絆創膏、などは外してください。髪が胸付近まである子は撮影の時、頭の方に上げておいてください。クリップ持ってない人は貸します」
 
と白衣の女性が説明する。
 
「ああ、女子は裸にならないといけないんだ?」
などと千里が言うので、鮎奈が
「千里、中学の時はまさか男子の方で受けたの?」
と訊く。
「うん」
と千里。
 
「男子はシャツを着ていていいらしいよ。だから千里も実は女の子であることを誤魔化せたんじゃない?」
と留実子が言う。
 
「なるほどー」
 
「ブラジャーのホックとか、キャミソールのビーズとかが写るから、女子はそれを脱がざるを得ないんだよね」
と後ろに並んでいる梨乃が言う。
 
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「ということはノーブラでババシャツ着てる子は脱がなくてよかったりして?」
「誰かそういう子いる?」
 
「私、男物のシャツ着てこようかと思ったんだけどなー」
などと留実子が言っているが
 
「るみちゃん、女を捨てるのはまだ早い」
と留実子の性癖を知らない子から声が出ていた。
 

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中に入って服を脱いでいると、先程の白衣の女性が
 
「妊娠中の人、妊娠の可能性のある人は、中に入った所に立ててある黄色い札を手に持って掲げてください。それを持っている人は撮影はせずに「はい、OKです」と普通に撮影したような声を掛けます」
 
と言った。女子高生だから、そういうのを恥ずかしがって申告せずにX線に曝される危険を避けようということなのだろう。
 
「千里、4月にHしたんでしょ? 妊娠の可能性は大丈夫?」
などと他の子から聞かれる。
 
「ちゃんと避妊したから大丈夫だよ。生理もその後来てるし」
と千里が平気な顔で答えると
 
「ん?」
と顔を見合わせる子たちがいる。鮎奈はもうこの手の千里の言葉には慣れてしまったので笑っているし、留実子などは黙殺している。
 
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下は制服のスカート(千里はズボン)を穿いているのだが、みんな上は全部脱いでしまう。千里がキャミとブラを取ると、やはり視線が集まる。しかし千里自身は平然としている。
 
「千里・・・・」
「ん?」
「胸あるじゃん」
「うん。男みたいな胸かと思ったのに」
「これ女の子の胸だ。確かに小さいけど」
 
「いや、これは胸の無い女子に『男みたいな胸だね』とからかう程度の胸だよ」
「ああ、そうそう」
 
といった声があがる。
すると留実子が
「千里は小学6年生並みの胸なんだよ」
と言った。
 
「確かに、そんなものだ」
と納得の声。
 
「乳輪もけっこう発達してるもんね」
「うん。千里が女の子であることは確かだ」
 
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「ちょっとその胸、サイズ測らせてよ」
などという声も出る。
 
メジャーを持っていた子が出して、千里の胸に当てる。
「アンダー73、トップ78・・・いや79かな」
「差が5-6cmといったら何カップ」
「AAAくらい?」
「そんなブラ売ってないから、AAカップでいいと思う」
「あるいはジュニアブラ着けるか」
「なんでこんなに胸が発達してるの?」
 
「そうだなあ。毎日牛乳飲んでるし、朝は納豆御飯食べてるし。イソフラボンが効くんだよ」
「納豆でこんなに胸大きくなるんだっけ?」
「うちの弟に食べさせて実験してみようかな」
 
 
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女の子たちの友情と努力(4)

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