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■女の子たちの高校入学(8)

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6時間目の時間帯終了後、委員に任命された子は各々の拠点に集まることになる。図書委員に指名された京子は図書館に行ったし、千里は職員室の中、放送室の前に集まる。
 
「昼休み2人ずつ当番を決めて回しますので。多分経験者が多いと思うから機器の扱い方は分かるとは思いますが、一応説明しますね。ちょっと1年生入って」
と言われて1年生の放送委員6人が放送室の中に入る。全員女子である。
 
一通りの説明を受けた後で
 
「今マイクのスイッチは切ってあるけど、この原稿ひとりずつ読んでみて」
 
と言われて、読んでみた。ほんとに経験者ばかりのようで、みんな朗読の基本ができている。明瞭な発音、標準語のイントネーションで原稿を読む。千里が読んだ後で、ひとりの子から言われた。
 
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「あ、やはり女子ですよね?」
「えっと、何か?」
 
「いや、女子みたいに見えるけど、何で男子制服を着て、頭は丸刈りなんだろうと思ったので」
 
こんなことを言ったのは1年3組の麻里愛である。音楽コースに所属していて物凄くピアノとヴァイオリンが上手い子であった。
 
「あ、ボク、本当は男子なんですよ」
「その冗談、全然面白くないんだけど」
 

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翌日からは(0時間目は無いものの)通常の時間割で授業が始まる。が1時間目は本来英語(リーダー)の授業なのがホームルームであった(後でLHRの時間をリーダーに振り替えるらしい)。
 
この日、みんなに生徒手帳が配られた。ひとりずつ名前を呼ばれて、渡され、貼ってある写真、自分の名前や生年月日に誤りがないか確認するように言われる。
 
千里は後ろの方である。「花和」(留実子)、「前田」(鮎奈)、と呼ばれ、その次が千里である。「村山」と呼ばれて出て行き、手帳を受け取る。
 
写真は間違い無く自分の写真だ。入学手続きの後に撮ったので、まだ長い髪のままだ。高校3年間は短髪にしないといけないけど・・・でも、3年生の夏くらいになったら、受験勉強で忙しくて髪を切りに行けない振りして伸ばし始めようかな、などとも思ったりする。
 
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名前:村山千里 ふりがな:むらやまちさと、生年月日 平成3年3月3日。本籍地 北海道、と印刷されている。特に問題ないよなあ、と思った時、千里はあることに気付いて「うーん・・・」と悩む。
 
「千里、どんな顔して写ってる?」
と前の席の鮎奈が振り向いて訊く。
 
「あ、これ。何か有無を言わさず撮影されたよね。笑顔作る時間無かった」
「あ、私も! 私の見て。ひどい顔して写ってる」
などと鮎奈は言ったが
 
「わ、凄く長い髪!」
と言う。
 
「うん。腰近くまであったから」
「それトイレで困らなかった?」
「大丈夫。ちゃんと大型のヘアクリップ持ち歩いていたから、上の方に留めてから便器に座る」
「なるほどー。ここまで長いと大変だよね。髪洗うのも大変でしょ?」
「うん。結構時間が掛かってたかな」
 
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「でももったいないなあ。こんな髪を坊主頭にしちゃうなんて」
などと言ってから、鮎奈は、別のことに気付く。
 
「ね、千里、これ着ているの女子制服だよね?」
「え?」
 
千里はそのことには気付いてなかった。
 
「あれ?そういえばそんな気がする」
「千里、女子の方で撮影したんだ?」
 
「あ・・・・」
千里はやっと間違いに気付いた。
 
「あのとき、男子は別館の美術室、女子は本館の被服室って言われた気がしたんで、ボク、美術室の方に向かったんだけど、別館に入ろうとした所で先生に『こちらじゃないぞ。被服室に行け』と言われて、被服室に行って写真撮影した」
 
「被服室は女子の撮影場所だから、当然女子のブレザーを着せられたわけだ。でも変に思わなかった? ボタンの付き方が逆だし」
「あ、そういえばそうだよね。でもボク、左前の服は日常的に着てるからそのことには気付かなかった」
 
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「うーん。。。。」
と鮎奈は少し悩んでから
 
「ね、ね、千里。これ確信犯ってことは?」
と尋ねた。
 
その時担任が
「ん? そこ何か間違ってた?」
と千里たちに声を掛けた。
 
「あ、私の写真で着ている服がどうも女子制服みたいで」
と千里が言う。
 
「どれどれ」
と言って担任は近くに寄ってきたが、千里の写真を見て
 
「この髪の子に男子制服を着せようとは思わなかったろうな」
などという。
 
「あと、それから私の性別が女になっているんですけど」
と千里。
「ん? あ、ほんとだ」
と先生。
 
鮎奈もあらためて見て「へー」などと言っている。
 
「でも性別女で問題あるんだっけ?まあ男になりたいのかも知れないけど、戸籍上の性別と同じにしておいた方が面倒くさくないよ」
と先生。
 
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やはり先生は千里のことを男の子になりたい女の子と思っている感じだ。あんなに説明したのに〜!
 
「千里はむしろ性別女の生徒手帳持っていた方が問題少ない気がするよ」
と鮎奈が言う。
 
「問題なければそれでいいな」
と言って、担任は教壇の所に戻ってしまった。
 
うむむ。いいんだっけ?
 
しかし・・・・
 
私、この高校では男子として3年間我慢して過ごさなきゃと思ってたのに、はなっから、女子としてしか扱われてないよ!? こんなんなら髪切らなくても良かった!??
 

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翌週から新入生のクラブ活動が始まる。
 
千里はこれまでも事前に数回バスケ部には顔を出していたのだが、今日はあらためて入部手続きを取る。入部説明会には男女新入生が20人ほど集まっていた。説明会会場の物理教室で、左側に男子、右側に女子の受付を置いて、そこに並んで記名する。千里はむろん左側の男子の所に並んだ。
 
が・・・・
 
「あ、君、女子の方の登録はそっちのテーブルだよ」
などと言われてしまう。
 
「あ、いえ。私男子なんですけど」
「女子なのに男子のチームに入りたいの? そういうの困るんだよね。身体の接触とか日常茶飯事にあるからさ」
 
男子制服着て、丸刈りなのに、なんで私、女子と思われるの〜!?
 
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「いえ、ほんとに医学上男子なんですけど」
 
などと言っていたら、部長の黒岩さんが気付いて寄ってきて
 
「渋谷、この子、どう見ても女の子に見えるけど、本当に男子なんだよ」
と言ってくれたので
 
「えーー!?」
と言われて、それでやっと男子の入部希望者リストに記帳させてもらえた。氏名・身長・希望ポジション(SG)・クラス・生年月日と、(中学でバスケット部だったので持っている)バスケット協会の登録番号を記入する。
 
「それから、この子はシュート能力が素晴らしいんで、入部試験不要だから」
と黒岩さん。
「了解〜」
 
留実子も女子バスケ部の方に記帳を終えていた。
 

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その日は新入生の入部希望者に対して、入部試験が行われた。
 
フリースローとレイアップシュートを5本ずつ撃った後、握力、30mダッシュ、反復横跳び、垂直跳び、などを計られた上で、その成績、それから最後に持久走3000mのタイムを計られた。
 
留実子はフリースローを5本中4本決め、レイアップシュートは全部決めてから(1本はレイアップじゃなくてダンクになっていた)握力で右手80kg、左手60kgを出した所で
 
「君、凄い!このあとの試験は免除」
と言われて楽々合格した。(留実子は本当は試験を受ける必要は無かったのだがちょっと出てみると言って参加した)
 
留実子以外にも数人途中で免除になった子がいた。逆に途中で「残念ですが」
と言われている子もいた。千里は自分も入部試験を受けていたら、途中でお帰り頂くパターンだよなと思う。
 
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「そうだ。この子のシュートが凄いという話なんで、それ見せてください」
と一部から声が掛かる。
 
「うん、村山、やってみよう」
と黒岩さんから言われて、まずはフリースローを5本撃つ。
 
全部入った。
 
「フォームがきれいだね」
 
「次3ポイント」
とキャプテンの黒岩さんが言って、千里はゴールから遥か離れた指定の場所からシュートを撃つ。
 
黒岩さんの指示に従いあちこち移動しながら撃ったが、今日は5本撃った内の5本とも入った。
 
「あと10本くらい撃ってみて」
と渋谷さんが言うので更に撃つ。
 
10本中、1本だけ手許が狂って外れたものの、9本入った。
 
「正確すぎる」
 
「この子、ロングパスも凄いよ」
と宇田先生が言うので、ゴール下から相手制限区域付近までの超ロングパスを10本投げてみた。
 
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立っているプレイヤーの所にピタリと飛んでくる。受け取る側が走り回っている場合も、そのプレイヤーの自然な動線の上に飛んできて、無理なくキャッチできる。
 
「ちゃんと動きを予測してそこに投げてるね」
「受け手の動きを予測した上にボールの滞空時間まで考えている」
「えっと。何も考えてません。ただの感覚です」
「一種のアナログコンピュータだな」
 
「この子は元々ソフトボールのピッチャーだったんだよ。だから実はソフトボールのボールでも、外野からホームベースにストライクで投げる力を持っている」
と宇田先生が言うと
 
「なるほどそれで!」
という声が掛かった。
 
「野球部に取られなくてよかった」
などという声まである。
 
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「これは凄い戦力になりますね」
「春の大会からベンチ入り決定ですね」
と3年生たちから言われる。
 
しかし渋谷さんが心配そうに言った。
 
「でも、君、ほんとに男子なんだっけ?」
「はい。男子ですけど」
と千里がソプラノボイスで答えると
 
「声変わり来てないの?」
と聞き返される。
「ええ。私、遅れてるみたいです」
と千里は答える。
 
何だか不安そうに黒岩さんの方を見たりしていたが、宇田先生がひとこと
 
「女子が男子の方に出るのは違反じゃないから、咎められないよ」
と言うと、なんだか、みんな納得していた!
 
「あ、それから部活で着替える時は、村山君は女子更衣室を使ってね。聞いた話によると、村山君、下着姿は女の子にしか見えないらしいから」
と女子バスケ部の部長・蒔枝さんから言われた。
 
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「下着姿も何もこうやって普通に見てるだけでも女子にしか見えないよな?」
と渋谷さんは言っていた。
 

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バスケ部に初めて行った翌日、火曜日。千里が部活を終えて19時頃帰宅し、晩御飯の準備をしていたら、お客さんが来た。
 
「はーい、千里ちゃん」
「敏さん!」
と言って千里も笑顔になる。留実子の兄(姉)の敏数である。中に入れて取り敢えずお茶を出す。
 
「あ、そうそう。私、就職した美容室では敏美・女で登録したから」
「へー! あ、じゃ敏美さんって呼べばいいですか?」
「うんうん。よろしくー」
 
「じゃ、敏美さん、女のお客さんの和服の着付けとかもするの?」
と美輪子が訊く。
 
「あ、やってますよー」
「敏美さんなら、問題無いかもね」
 
「それで、これお土産」
と言って、敏美が出したのはウィッグである。かなり長い髪だ。
 
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「これ・・・もしかして?」
「うん。こないだ切った千里ちゃんの髪で作ったウィッグだよ。サイズもちゃんと千里ちゃんの頭のサイズに合わせている」
 
「わぁ・・・」
 
「つけてみて」
と言われるので装着する。無理なく留め金が留められる。
 
「おお」
と美輪子が嬉しそうな声をあげた。
 
「長髪美少女・千里の復活だね」
 
「代金は出世払いにしておくから」
「ありがとうございます!」
 
「人毛だから、自分の髪の毛と同様にシャンプー・トリートメントして。メンテきちんとしてたら、かなりもつはず。身体とつながってなくて乾燥しやすいからミストで水分補給も忘れないで」
「はい」
 

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「そのウィッグ付けて、女子制服着て、学校に行くといいよ」
と敏美さん。
 
「学校に行ったら叱られます!」
と千里は言うが
 
「千里、生徒手帳を敏美さんに見せてあげなよ」
などと美輪子から言われる。
 
「えー!?」
とは言ったものの、渋々(男子)制服の内ポケットから生徒手帳を出して最後のページを開いてみせる。
 
「ん?」
と敏美さんは声を上げる。
 
「長い髪に、女子制服を着てる。それにだいたい性別女って書いてあるじゃん」
 
「それで支障ないだろとか言われて修正してもらえないんです」
 
「いや、この記述が正しくて、丸刈り頭と男子制服の方が間違っている」
と敏美さん。
 
「この写真に合わせて、千里は長い髪で女子制服で通学すべきですよね」
などと美輪子まで言う。
 
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「むしろ、そうしないと本人確認でトラブるのでは?」
と敏美さん。
 
「千里ちゃん、ついでにお股の形もこの記述に合わせて修正しちゃいなよ」
「修正したいです!」
 
「ね、千里。もし去勢したいなら、手術代出してあげるよ。出世払いで」
と美輪子が言う。
 
「それなんですけど。母と約束しちゃったんです。20歳になるまでは去勢しないって」
と千里は言う。それは留萌から旭川に出てくる日、汽車の中で母と約束したことである。
 
「そんなの黙ってれば分からないわよ」
と敏美。
 
「うーん・・・心が揺れます」
 
 
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女の子たちの高校入学(8)

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