[*
前頁][0
目次][#
次頁]
その制服については、支払いは受け取る時でよいということであったので、3月に入ってすぐに注文しに行った。このタイミングで頼むと、出来上がるのが中旬になり、入学金の返還分が入った後で払えるのである。
いくつかの洋服店が列挙されていて、どこででも作れるということだったが、美輪子が調べてくれた情報で、いちばん安く作れるお店を訪れた。まずは採寸してもらう。
「あなた背が高いわね」
と係の人から言われた。
ん?と考える。千里はこの当時身長169cmである(この後身長は伸びなかった)。男子としてはそんなに背が高いほうではない。千里は嫌な(?)予感がした。メジャーを当てられる所を観察していると・・・やはり。
「バスト75、ウェスト58、ヒップ88、肩幅42、袖丈56、身丈50、スカート丈70かな」
と係の人は言っていた。
千里は「うーん・・・」と思ったが、気付かなかったことにした!母は本当に気付かなかったように見えた。
3月の中旬。千里はバイト先の上司である細川さん(千里のボーイフレンド貴司の母)とこういう会話をした。
「筆記試験の成績が良かったんで入学金も免除になりました」
「良かったね」
「入学金のお金は用意した、と母は言っていたのですが、実際には払わずにいると電気とか電話とか停められそうな状況でその分のお金を取り敢えず回すつもりだったみたいだったから、入学金はこちらのバイトで貯めたお金で私が自分で出すつもりだったんですが、私も助かりました」
「だったら千里ちゃんさ、そのお金を定期にしちゃわない?」
「はい?」
「普通預金のままにしておくと、たぶんそれ2ヶ月もしない内に、あれに使いこれに使いで無くなっちゃう」
「そうかも!」
「だからそのお金は入学金を払うのに使ったんだと思うことにして、無いものと思うのよ」
「・・・・そして、本当にどうにもならない時のために取っておくんですね」
「そう」
「その手続き、私と一緒に銀行に行ってしてもらえませんか? 多分おとなの人を連れて来なさいと言われそう」
「OKOK」
「関係を聞かれたら、義理の母とでも言って下さると」
「うん、それでいいよ」
と細川さんは笑顔で言った。
「トモのおちんちんが立ったんだよ」
と留実子は嬉しそうに言った。2月の下旬頃だった。
「わあ、鞠古君、男性能力回復したんだ?」
と千里は友人の恋人の回復を喜ぶ。
鞠古君はおちんちんに腫瘍ができる病気で中1の時にその部分を切って前後をつなぎ合わせる大手術を受けたのだが、再発防止のため2年間にわたって女性ホルモンの投与を受けていた。しかし春に投与の中止をした後、様子を見ても再発の兆候は無いので、秋から男性ホルモンの投与に切り替えたのである。一時期女の子のように膨らんでいた胸も少しずつ縮んできているということも聞いていた。
「まだ本格的に堅くはならないけどね。大きくなるし、熱くなるし」
「・・・セックスしたの?」
「まだあの硬さではできない。でもフェラしてあげたよ」
「フェラって何?」
千里がどうも本当に知らないようだというので留実子は教えてあげる。
「おちんちんを舐めてあげるんだよ」
「えーーーー!?」
「凄く気持ちいいらしい。男の子の中にはセックスよりフェラの方が気持ちいいという子も多いみたい」
「うっそー! だって、おしっこ出てくる所なのに。それを舐めちゃうわけ?」
「凄く敏感な所でしょ。だから舐められると物凄く気持ちいいらしい。もうそのまま死んでもいいくらいに気持ちいいって」
「ひゃー」
「千里こそ、そういうテクは覚えておくべきだよ。ヴァギナにおちんちんを受け入れてあげられないのなら、代わりにフェラをしてあげるというのは、凄く大きな恋愛上の手段だよ」
「どうやって舐めるの?」
「おちんちんの先っぽの柔らかい所を舐めてあげる。棹の部分は舐められてもそんなに気持ち良くないみたい。ただ、じらすために、わざとそちらを舐めたりもする」
「うむむむ」
「舐める時の要領はね、ソフトクリームを舐めるようにと言うんだよね」
「ソフトクリームか・・・・」
「千里、ソフトクリームで少し練習しておきなよ」
「うーん・・・・」
千里はあまりショックなことを知ってしまったので、やや思考が停止ぎみであった。
「そうしてると、女子に見えるね」
とN高校の男子バスケ部キャプテンの黒岩さんは言った。3月上旬、千里はN高校を訪問して、バスケ部の部長に挨拶した。
「いや、私はてっきり女子と思ってたから男子と知ってがっかり」
と女子バスケ部キャプテンの蒔枝さんは言う。秋に訪問した時に千里を誘ってくれた2年の久井奈さんもいて、同様の表情である。
「入学までには髪を切りますので」
「うんうん。それでいいよ。声も女の子みたい」
「声変わりがまだなんです」
「まあ、そろそろ来るだろうね。じゃちょっと撃ってみてよ」
と言ってボールをパスされるので、それを受け取り千里はゴールを狙って全身をバネにしたきれいなフォームでボールを押し出す。
ボールは山なりの軌跡を描き、バックボードにもリングにも当たらずにそのままネットに吸い込まれた。
「美しいフォームだ」
と黒岩さん。
「この子、このフォーム自体をお手本にしたいくらいだよね」
と宇田コーチも言う。
「30本撃ってみて」
「はい」
ということでその後、30本、場所を黒岩さんの指示に従って移動しながら3ポイントシュートを撃つ。30本撃った内26本入った。
「すげー」
「この子のバスケ部の先輩の子と話していたんだけど、この子が試合で外したのを見たことがないというんだよね。実戦になると成功率が上がるタイプみたいなんだよ」
「たくさん外してますけど、たまたま彼が見ていなかったんだと思います」
「でもこれは貴重な戦力になりそう」
「ただ体力が無いよね」
「はい。だから後半はあまり走り回らずにディフェンスにも参加せず相手コートに居てひたすらシュートを撃つだけで」
「なるほど。そこが少し課題か。じゃ取り敢えず毎日早朝ジョギング5kmだな」
「ひゃー」
「あ、入学までは2kmでもいいよ」
「それで頑張ります」
「筋肉痛が残らないように水泳とかするのもいい」
「わあ」
「・・・・君泳げる?」
「泳いだことないです」
「小学校や中学校の水泳の授業は?」
「いつも見学してました」
「うーん・・・・。取り敢えず水中歩行でもいいよ」
この年のN高校の入学式は4月11日(火)の午後である。それでその日の午前中に、留実子のお兄さん(お姉さん?)敏数さんに髪を切ってもらうことにした。敏数さんはこの春に美容師専門学校を卒業。無事国家試験にも合格して、4月から札幌市内の美容院に勤めている(実際には研修と称して3月から勤めている)。
しかし火曜日は美容室がお休みなので、旭川まで来て髪を切ってくれるのである。留実子もN高校に入学するので、妹の入学式に参列するのも兼ねてということであった。
それで11日に髪を切ってしまうということで、その直前の9日(日)に貴司と「最後のデート」をすることになった。貴司の高校は10日(月)から新学期が始まるので、10日にはデートできないのである。
待ち合わせ場所に来た千里を見て、貴司は思わず
「可愛い!」
と言ってしまった。
千里はピンクのキャミソールの上に青いジーンズのジャケットを着ており、下も裾が大きく広がるジーンズのスカートである。髪は左右に分けてツインテールにしており、ミニーマウスの赤いカチューシャを付けている。なお防寒のため、キャミの下にカットソーを着込んでいる。靴下も膝まであるロングサイズだ。そして靴はパンプスである。
「活動的な少女という感じだね」
「うん」
笑顔で頷いて、取り敢えず町を散歩する。
「パンプスなんて履いてるの初めて見た」
「私も初めて履いた!」
「足痛くない?」
「慣れたら平気だと思う」
「転ばなかった?」
「転んだ!」
「やはり・・・」
「しかしS高男子バスケ部は、田代が札幌に行くのはいいとして鞠古は来てくれると思っていたから、旭川に出られたのはちょっと辛かった」
「ふたりとも行った先でレギュラー取れるといいけどね」
「大変かもね。でも強い奴らに揉まれた方がもっと強くなれる」
「貴司はS高で良かったの?」
「まあ、僕は勉強嫌いだから」
「それは問題だけどなあ」
「千里が練習嫌いなのと似たようなものかな」
「あはは」
「でも千里、筋肉付けたくないから練習サボってたろ?」
「まあね。でも毎日2km走ってる」
「5kmくらい走るべきだと思う」
「入学までが2kmでその後は5kmと言われた」
「うんうん。それで頑張って筋肉付けよう」
「やだなあ」
「女子アスリートを目指せばいいんだよ」
「そうだけどねー」
「だけどこの年まで声変わりが来ないというのは珍しいよね」
「うん。お母ちゃんが病院に掛かってみる?と言ったけど、男性ホルモンとか絶対に処方されたくないから逃げてた」
「それとも女性ホルモンとか摂ってるわけ?」
「まさか。そんなの摂ってたら、おっぱい大きくなってるよ」
「ああ。千里、胸無いからな」
「もう少しバスト欲しいけどなあ」
千里は何度か「おっぱいの大きな」姿を貴司に見せているが、それはフェイクだというのも教えてある。それで貴司は千里の胸が実際には全く無いと思い込んでいる。
「千里オナニーとかすんの?」
「そうだなあ。Hなこと想像したりして気持ち良くなることはあるよ」
「気持ち良くなって、あれをいじる訳?」
「たまに。指で押さえて少し悪戯しちゃう」
貴司は少し悩んだ。
「指で押さえられるんだっけ? 掴むんじゃなくて」
「え?男の子じゃあるまいし、あれは掴めないよぉ。指ではさむのが限界」
「千里、もしかしてあれ取っちゃってないよね?」
「クリちゃんは取ったりしないよ」
「チンコは無いんだっけ?」
「そんなのある訳ないじゃん」
「性転換手術しちゃったの?」
「私、男になるつもりはないから性転換手術なんて受けないよ」
「うーん・・・・・」
貴司はマジで悩んでいた。