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■女の子たちの高校入学(7)

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お弁当を食べ終わった所で孝子・智代に誘われて、音楽練習室に行った。小さく分けられた部屋の中に電子ピアノが置かれている。こういう設備が充実しているのが、さすが私立だなと千里は思った。音楽コースの生徒もいるから、そのためというのもあるのだろう。
 
千里は「これちょっと弾いてごらんよ」と言われて教科書に載っている井上陽水の『少年時代』を示される。教科書に書かれているのはメロディーとギターコードのみである。
 
千里はそれを見ながら伴奏は適当に作りながら弾いていった。
 
「この曲知ってた?」
「何度か聴いたことはある」
「弾いたのは?」
「初めて」
 
「なんか、それが凄いよなあ」
 
「今、千里、最初のBの音を中指で弾き始めたでしょ?」
「あ、そうかな?」
 
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「それでいったん上に行く所は薬指・小指を使って、そこから戻って来たら人差指・親指を使って、Gの音を親指で弾いた」
 
「あ、そうなるかな」
と千里は実際に鍵盤の上に指を置きながら答える。
 
「ところがその先に、EF#GG・DDGとある所を、親指をGの上に置いたまま、人差し指と中指で弾いてる」
「あ、そうしてる」
 
「そこが指替えすべきなんだよ。Gの音を弾いた後で、そこを中指に替えたら、E・F#もDも親指と人差し指で弾けて楽」
 
「あ、ほんとだ!」
 
「自己流の人にはよくある癖だよね」
「そうそう。指替えが苦手な人が多い」
「私、ヴァイオリンの移弦も苦手なんだよねー。ついひとつの弦でどこまでも弾こうとする」
 
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孝子と智代が顔を見合わせている。
 
「千里ちゃん、ヴァイオリンも弾くんだ?」
「それも自己流〜。楽器も持ってないし」
 
「ちなみに他に自己流で弾ける楽器は?」
「えっと、鉄琴とか木琴とかアコーディオンとか。このあたりも楽器持ってない。あとは・・・あ、龍笛がある。龍笛は自分の持ってる」
 
「千里ちゃん、もしかして音楽の天才だったりして」
「うん。弦楽器、管楽器、鍵盤楽器とやれるというのはオールラウンドプレイヤーじゃん」
 
「まっさかぁ! 私リコーダーもハーモニカもまともに吹けないのに」
 
「ちょっと待て。龍笛を吹けるんだよね?」
「うん」
「それでリコーダーやハーモニカが吹けないというのは絶対有り得ない!」
 
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5時間目は性教育ですと言われて、視聴覚教室に1年生全員集められた。取り敢えず男女一緒に授業をやるようである。千里は鮎奈や蓮菜に引っ張って行かれて、結構前の方の席に座った。
 
保健室の山本先生が前に立ち、男女の性器の違い、身体付きの違いなどといった基本的な説明から、射精が起きる仕組み、月経が起きる仕組みなどを説明する。
 
妊娠のメカニズムも説明された上で、性交により受精が生じて赤ちゃんができるということを説明するが、反応を見ていると、性交のことを知らなかった子も結構いる雰囲気だった。何かショックを受けてるっぽい子もいる。千里は小学校の高学年の頃から、恋愛している女の子のグループに居たことから、その付近の知識だけは進んでいるが、そういうのに無縁だった子は意外に無知なのかも知れない。
 
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そして恐らくは今日の授業で最重要でもあるかも知れなかった避妊の話が出る。この高校は遠隔地から出て来て下宿している子や学校の寮に入っている子も多い。親元から離れてそもそも開放的になっている。それで今月下旬にはゴールデンウィークがある。
 
開放的な気分の中で安易な恋愛をし、きちんとした知識無しに避妊せずに性交したりしたら、妊娠の危険が高い。むろん性病感染のリスクもある。
 
「そういう訳で、性交する場合、必ず男の子にコンドームを付けさせましょう。男の子もできるだけ性交まですることは我慢して欲しいですが、どうしてもする時は絶対にコンドームを付けること。恥ずかしくてコンドームが買えないという人はセックスしてはいけません。セックスする場合、コンドームは男の子が買うのが男女交際のマナーですよ」
 
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と山本先生は強く主張した。
 
「ちょっと付け方を見ておきましょう。誰かここでペニスを出して付けてもらいたい子いる?」
 
などと先生は訊くが、さすがに男子はみな尻込みしている。
 
「じゃ、仕方無いから、これを代わりに使います」
と言って、先生は細い懐中電灯を出して来た。
 
「誰かこれに付けてみたい人。これは女子がいいかな」
などと先生が言っている。
 
みんな当てられたくないので顔を机にうずめたりしている。
 
ところが千里は一瞬、先生と目が合ってしまった。
 
「あ、そこの超ベリーショートの女の子」
などと指名(?)されてしまう。
 
千里は思わず左右を見回したが
「千里、ご指名っぽい」
と隣の席の蓮菜が言う。
 
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「あ、そこの横の天然パーマの子、カメラ係」
と言われて、蓮菜は「ん?」とやはり左右を見回している。鮎奈が
「蓮菜、ご指名〜」
と言うので、一緒に出て行く。
 
「じゃ、超ベリーショートの子が付ける係、天然パーマの子はカメラ係ね。付ける様子が部屋全部のモニターに映されるから」
 
それで千里は先生からコンドームを受け取ると
「どちらが表かな?」
などと言った上で、開封し取り出す。それを懐中電灯の上に置くと指で押すようにしてくるくるっとさせて装着した。その様子を蓮菜がカメラで撮す。
 
「何の説明もしなかったけど、できたね。使ったことある?」
「あ、はい。一度ですけど」
と千里は答える。
 
「彼、付けるの嫌がらなかった?」
「彼も初めてだったので付けるの面白がってました」
「あなたが付けてあげたの?」
「ええ、そうです」
 
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「千里、大胆すぎる告白だぞ」
と蓮菜が言う。
 
「え?あれ?」
と千里。
 
「私もやってあげたけど、とてもそんなことまでは人前で言えないや」
と蓮菜。
 
「あ、蓮菜もしたんだ?」
「ちょっとぉー! こんな所で言わないでよ」
と蓮菜は言ったが
 
「いや、今のは蓮菜がほとんど自分で言った」
と、近くの席に座っていた留実子が指摘した。
 
「あ、ちなみに私もちゃんと毎回つけさせてるよ。私はそんな親切じゃないから、自分で付けろと言うな」
と留実子は付け加える。
「1度くらい付けなくても大丈夫なんて言った時はぶん殴って付けさせた」
 
千里と蓮菜がみんなの前で男の子との体験があることを告白してしまった形になったので、自分も連帯して告白してくれたのだろう。こういうのが留実子の優しさだ。
 
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女の子たちの告白大会になった感があったが、山本先生は留実子の言葉を受ける形で
 
「ほんと、時々男の子の中には嫌がる子もいますけど、付けない以上セックスは駄目、というのを厳守してください。セックスは一時の快楽だけど、妊娠して子供産むことになったら、一生の問題です」
 
と先生は、再度妊娠防止のための避妊の大切さを強調した上で、避妊具が性病感染防止にも有効であることを説明した後、今度は男女交際そのものについて話を進めていった。
 
恋愛上のよくある悩み、よくある失敗や誤解などについて先生が説明する。千里は幾つか少し胸が痛むようなこともあったが、何だか平然として聞いていることができた。私、失恋したばかりなのになーと思う。むしろなぜこんなに心に余裕があるのか、その方が不思議だった。
 
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性教育は途中で男女別れることになる。男子は生物教室に移動してください、ということだったので千里は席を立とうとしたのだが
「こら、どこに行く?」
と蓮菜から停められる。
 
「え?男子は生物教室に行けというから」
「千里は女子生徒のはず」
と蓮菜。
「多分千里は、女子向けの授業内容の方が必須のはず」
と鮎奈。
 
「うーん・・・」
 
ということで結局その場に居座り、女子向けの性教育授業を受けることになる。
 
「私は向こう行った方がいいかなあ」
などと少し離れた席に居る留実子が言うが、
 
「るみちゃん、今日は女子制服を着てるから、こちらにいた方がいい。だいたいるみちゃん、おちんちんは無いし、生理あるでしょ?」
「うん。まだ女を放棄してないから」
「じゃ、こちらだよ」
と蓮菜が言う。
 
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「えっと、ボクおちんちんあるし、生理無いんだけど」
と千里は言ったが
「それは嘘だ」
と蓮菜。
「千里はおちんちんは無いし、生理があるはず。だいたいいつもナプキン持ってるし」
「それは持ってるけど」
「私、千里からナプキン借りたことある」
と留実子も言う。
 
「持ってるということは生理があるんだよね」
と蓮菜。
 
「へー、やはりねえ」
などと鮎奈が言った。
 
「だけど千里も蓮菜も留実子もみんなの前で大告白しちゃったね」
「恵香あたりから、留萌組は乱れてると思われるって苦情が来るかも」
「私は男の子から言い寄られたりすると面倒だから、恋人いるんだと思われるのは全然問題無い」
と蓮菜が言う。
「確信犯だったりして?」
「そういう訳じゃないけどね」
 
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そういえば蓮菜は勉強に集中したいから恋愛を考えなくていい女子高に行きたいと言っていたな、と千里は思った。
 

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女子向けの性教育の授業は、あらためて性交や妊娠に関する話があった後で、生理前症候群・生理痛、月経不順などの話、また女性特有の病気の話なども説明がされた。
 
生理中の過ごし方の話から、突如ナプキンは羽ありか羽なしか、という話が盛り上がる。
 
「私、羽ありでないと、ずれるー」
「私、羽ありは苦手〜。いつも羽なし」
 
などと両方の意見が出て、けっこう拮抗する。
 
「私は羽ありだな。鮎奈は?」
と蓮菜が尋ねる。
 
「私は羽なし使ってるけど、お母さんがいつもそれを買って来ていたからというだけでもあるな」
と鮎奈。
 
「千里は?」
「あ、ボクはだいたい羽あり使うけど」
と千里。
 
「・・・・」
鮎奈と京子が顔を見合わせている。
 
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「どうしたの?」
「いや、何でも無い」
 
「さっきのナプキンの話は冗談じゃなかったのか」
と鮎奈が言った。
 
隣の席の蓮菜も少し離れた席の留実子も忍び笑いをしていた。
 

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性教育の授業のあと、このままこの教室で身体測定をします、と言われる。時間割的には6時間目の時間帯に突入している。
 
一応(保健室にあるような)クロススクリーンを立てて、その向こうで服を脱いで身長・体重・胸囲を計られる。
 
「ボク向こうの教室に行った方がいいかな?」
と千里は言ったが
 
「先生が千里は女子として登録されていると言ってたから、きっとこっち」
と蓮菜は言う。
 
前の方の席に座っている子から順に1人ずつ前に出て行き、生徒番号と名前を言ってから、女性の先生に測定してもらう。
 
やがて千里の前の列がはける。(留実子は先に済ませている)蓮菜が「さ、行こう行こう」と言って千里の手を取り、鮎奈と一緒に列に並ぶ。
 
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クロススクリーンの向こう側に行った所で靴と服を脱ぐ。千里もブレザー、ブラウス、ズボンを脱いでキャミ・ブラとショーツだけの姿になる。この姿は午前中に体育の時の着替えでも女子のクラスメイトたちに曝している。それでも鮎奈が千里の身体に少し触りつつ何だか頷いている。
 
蓮菜が測定された後、千里も測定される。まずは身長計に載る。
 
「身長167.8cm」
 
先月洋服屋さんで制服を作る時に計られた時は169cmと言われた。測定誤差かなと千里は思った。次に体重計に載る。
 
「体重50.2kg」
と言ってから先生は「この身長でこの体重は痩せすぎだなあ」などと言う。
 
「すみませーん」
「無理なダイエットとかしてない?」
「してないですー」
 
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「ああ、でも千里って少食だもんね」
と自分の番は済ませて服を着ている最中の蓮菜が言った。
 
「モスバーガーでハンバーガー半分残したりするもん」
「マクドナルドなら食べきれるけど、モスはボリュームあるもん」
 
「スポーツ少女とは思えないよね」
「あら、あなたスポーツするの?」
「えっと。バスケットを」
「運動するんなら、やはりお肉とかもっと食べなきゃ」
 
それで胸囲も測られる。男子の場合は乳首の所で計られるが女子はいわゆるアンダーバスト位置で計る。ブラも着けたままで問題無い。
 
「胸囲73か。ブラはいくらの着けてる?」
「えっと。A70です」
「ああ、君、おっぱい小さいもんね〜。でもこれならA75の方がいいと思うよ」
 
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「千里、おっぱい大きくするためにも、もっと食べよう」
と蓮菜が言った。
 

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女の子たちの高校入学(7)

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