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■女の子たちの高校選択(8)

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「あれ?もう終わったの?」
と蓮菜から訊かれる。
 
「中に男の技師さんが居て、書類の性別が間違っていたから、廊下で待っててと言われた」
と千里。
 
「ああ、確かに間違っているよね」
と蓮菜。
 
それで蓮菜が「2番に入って下さい」と言って呼ばれ、中に入っていく。そして10分ほどしたところで、千里も「2番に入って下さい」と呼ばれた。
 
中に入ると、蓮菜が服を着ている最中だった。お互いに手を振り、千里は服を脱ぐ。蓮菜は先に服を着てしまったが、千里が脱ぐのを待っている雰囲気。
 
「どうしたの?」
「観察」
「まあ、蓮菜ならいいけど」
 
などと言いながら千里は服を脱いだ。
 
「こないだから千里の言動がおかしかったけど、少し安心した」
と言って、蓮菜は千里の乳房を触った。
 
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千里は何のことだろう?と思った。
 
「じゃ、私は先にレントゲンの方に行ってるね」
「うん」
 

女性の技士が対応してくれて、千里の胸に電極を付けていく。技師は千里が女の子であることに疑いを持っていない雰囲気であった。
 
心電図が終わってレントゲンの方に行くが、蓮菜は居ない。もう中に入っているのかな?と思って待っていると、すぐに名前を呼ばれた。中に入ると、蓮菜がこれから服を着ようとしているところだった。千里は彼女の胸に目が吸い付けられてしまった。
 
「どうかした?」
と蓮菜が訊く。
「ううん。蓮菜、おっぱい大きくていいなと思って」
と千里は答える。
 
「きっと千里もこれからもっと大きくなるよ」
と蓮菜は優しく言った。
 
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「うん」
 
そう言って千里は微笑んだ。
 

レントゲンのあと20分ほどしてから、医師の診察を受けた。千里は例によって医師から
 
「生理は規則的に来てますか?」
 
「ええ。結構不安定だったのですが、ここしばらくは規則的です」
と答える。
「ああ。安定してきているなら問題無いかな」
などと医師は言っていた。
 
診察の後、30分ほどして健康診断書をもらったが、村山千里・平成3年3月3日生・女と診断書には印刷されていた。蓮菜がその診断書を覗き込んで、笑っていた。
 

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その日千里が家に帰ると、妹の玲羅が泣いている。母は何だか難しい顔をしている。
 
「どうしたの?」
と玲羅に訊いてみた。
 
「うん。私の卓球のラケット、うっかりそこに置いてたら、お父さんが通る時に踏んで割れちゃったの」
 
玲羅は中学で卓球部に入っている。
 
「あれ?お父さん、もう帰ってるの?」
「うん。天候がよくないとかで早く帰って来たんだよ」
と母が言う。ふだんならだいたい金曜日の夕方か土曜日の朝に帰還する。千里はセーラー服で帰宅しなくてよかったと思った。
 
「玲羅のラケット踏んで割ってから、そんな所に置いておく方が悪い、とか言って、飲みに出ちゃった」
と母。
 
「もしかして壊れたラケットの代わりを買うお金が無い?」
と千里は訊く。
 
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「うん」
と母。
 
「お父さんは、どうせ部活なんて金が掛かるから、これを機会に退部しろって言うのよ」
と玲羅。
 
「それいくらするんだっけ?」
「ラケットとラバーで25000円くらい」
「それ、私が出すよ」
と千里は言った。
 
「でもお父ちゃんには内緒にしてよ。先輩の古いのを譲ってもらったとか何とか言っておいて」
「うん」
 
千里がバイト代を貯金していることは父には内緒である。
 
それで千里は母と玲羅と一緒に母の車でいったんバイト先の神社に行って、通帳とカードを取ってくる。それから銀行に行ってお金を下ろしてから一度神社に戻り通帳を置いて、その後、町のスポーツ用品店に行き、新しいラケットとラバーを買った。
 
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「お姉ちゃん、ありがとう。ほんとに感謝する」
「くれぐれもお父ちゃんには内緒でね」
 

11月の下旬、特待生を含めて推薦入学を希望する生徒を集めた学校説明会が行われた。N高校の推薦入学を希望しているのは、女子では蓮菜・留実子に千里、男子でも2人いた。恵香は一般入試を受けるので、今回は参加しない。
 
女子3人は蓮菜の母の車で、男子2人もそのひとりの父の車で旭川に向かった。服装は「制服」と言われたので、千里はちゃっかりセーラー服を着ている。留実子はふだんは上はセーラー服でも下はズボンを穿いていることが多いのだが、この日は蓮菜に言われてスカートにしている。
 
千里と留実子はN高校に着いてから、南体育館(朱雀)2階にある体育教官室に行って宇田先生に挨拶した。
 
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「ああ、村山君は今日は女子制服なんだね」
「はい。女子枠ですし」
「花和君も女子制服なんだね。しかもスカートだし」
「はい。ちょっと自粛しました」
 
この学校はスポーツが盛んなので4つの体育館を持っている。それぞれ東西南北にあるので、青龍・朱雀・白虎・玄武の別称も持っている。朱雀は事実上バスケ部の専用である(体育の時間のバスケットでも使用する)。青龍がメインの体育館で授業でも主に使用する。白虎は小さめの体育館でサブとして使用する。しばしば男子は青龍で、女子は白虎で体育の授業をするらしい。玄武は武道用で剣道・柔道の授業・部活で使用する。
 

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2人は体育教官室を出て、1階に降り、体育館の端を通って説明会の行われる本館の視聴覚教室の方へ行こうとした。体育館ではバスケ部だろうか。4人の女子が練習をしていた。その時、パスミスのボールが転がって千里たちの方に転がってきた。千里はボールを拾う。
 
「ありがとう。こちらに投げてくれる?」
と体操服を着た女子が言う。それで千里は彼女の方に向けてボールを投げた。
 
ボールはピタリと彼女の手の中に収まった。
 
え?という感じでボールを見ている。
 
「ねぇ、君たち、N高を受けるの?」
と彼女は千里たちの所に駆け寄ってきて言った。
 
「はい。推薦入学です」
と千里は言った。
 
「バスケ部に入ってよ。私、岬久井奈(みさき・くいな)」
「入るつもりです。私たち宇田先生にスカウトされたんです。私は村山千里、こちらは花和留実子です」
「おお。期待してるよ!」
「よろしくお願いします」
 
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と言って、千里と留実子は久井奈と握手をした。
 
「るみこちゃんだっけ? 握力凄い」
「ああ、この子、スチール缶を握りつぶしますから」
「凄っ! 空手部じゃなくて、うちに来てね」
「ええ。入りますよ。あ、こちらの子は3ポイントの名手です」
「へー! ちょっと撃ってみてよ」
 
それで千里はセーラー服のまま、軽くストレッチした上でボールを持つと、3ポイントラインの外側を移動しながら10本撃った。
 
全部入った。
 
「凄いよー。ちさとちゃん、ベンチ入り確定」
という声が出る。
 
宇田先生が教官室を出て2階通路から、その様子を眺め頷いていた。
 

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「千里、久井奈先輩は千里が女子バスケ部に入ると思ってるよ」
と廊下を歩きながら留実子が言った。
 
「あれ?そう思われたかな? だって私、男子なのに」
「あのなぁ」
 
留実子は時々千里が本気なのかジョークなのか、あるいは無邪気なのかあるいは無邪気を装っているのか判断がつかなくなることがある。
 

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「え?鞠古君、勧誘されたの?」
 
12月の上旬、千里たちはその話に驚いた。
 
「うん。旭川B高校から。びっくりした。こないだの北北海道大会のプレイを見てたというんだよ」
 
旭川B高校は進学校ではないがスポーツは結構強い。
 
「それで行くの?」
「うん。俺、今、毎月1回学校休んで札幌に出て##病院の&&先生の検診を受けてるんだけど、&&先生は週に1回、旭川の$$病院でも診察をするんだよ。それで旭川に居れば、そのタイミングで診てもらえるから、1日休まなくても午後早引きするだけで済むんだよね」
 
「それは費用的にも随分助かるんじゃない?」
「そうそう」
 
「でも大会があってから接触までけっこう時間が掛かったんだね」
「うん。俺の名前を確認するのに時間が掛かったらしい」
 
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「でもB高校って男子校じゃないの?」
「そうだけど」
「鞠古、男子校に入れるんだっけ?」
「俺、男だけど」
 
「チンコ切ったんじゃなかった?」
「ちょっと短くなっただけだよ。充分な長さがあるよ」
「女性ホルモンも打ってるんだよな?」
「バストけっこうあるじゃん」
「6月で女性ホルモンは終了したよ。だから胸は縮む予定」
 
鞠古君は中1の時に、おちんちんに腫瘍が出来て手術でその部分を切り、その前後をつなぎ合わせる手術を受けている。また再発防止のため女性ホルモンの投与を受けていた。その影響で鞠古君の胸は女の子のように膨らんでいる。
 
「だけどB高校と聞いて、札幌かと思った」
「札幌B高校には田代が行くんだよな?」
「ああ行くよ。バスケ部はまあ入部試験に合格できたらだけどね」
 
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やりとりを聞いていて、千里は、田代君が自分の進学予定の学校のバスケ部関係者に接触して、鞠古君を旭川B高校に勧誘してもらったのではという気がした。
 

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「るみちゃん、良かったじゃん。鞠古君も旭川に行くみたいだし」
と千里はその晩、留実子に電話して言った。
 
「どうも誰か余計な世話をやいた人がいるみたい」
「まあ、そのあたりはお互い様だね」
 
「あ、そうそう。千里さ。うちの兄貴が、千里が髪を切るなら自分に切らせてくれと言ってた」
 
「ああ。それはお願いしようかな」
と千里は答えた。留実子の兄(姉)の敏数は現在、札幌の美容師専門学校に通っていて、今度の3月で卒業予定である。
 
「でも、るみちゃん、《兄貴》じゃなくて《姉貴》とか呼んであげなよ」
「そうだなあ。花嫁さんにでもなったら呼んでやってもいいかな」
 
 
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