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■女の子たちの高校選択(3)

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食事後、後片付けをしながら時計を見る。21時少し前の所でだいたいのキリを付け、寒くないようにダウンのジャケットを着て玄関に行き、21時に敏数の家(留実子の家)に電話した。父は結構な音量でテレビをつけている。玄関と居間の間の襖は閉めているので、大きな声を出したりしない限りは聞こえないだろう。
 
「ん?千里はどこに電話するんだ?」
と父が言ったが、玲羅が
「恋人のところじゃない?」
などと言う。
「なんだ、彼女がいるのか」
などと父は言っている。
 
まあ、今から話す相手は(一応)女性だろうけどね!
 
「はい、花和です」
と言って電話に出たのは留実子である。
「こんばんは−。千里だけど、お姉さんと代わってもらえる?」
「今、親父と凄い剣幕でやりあってるんだけど」
「それを水入りにしたいから電話してって言われたんだよ」
「了解」
 
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それで少しして、敏数が出た。
 
「はろー。可愛い女子中学生の千里ちゃん、お悩み事は何かな?」
 

「うん。その考え方でいいと思うよ」
 
千里の話を聞いて、敏数は言った。
 
「定時制に行くにしてもバイトしながら勉強する。でも全日制に通いながらバイトで学資を稼ぐ手はあるよね」
と敏数。
 
「つまり平日の昼間働いて夜間学校に行くのか、平日の昼間学校に行って夜や土日に働くかの違いですよね?」
と千里。
 
「そうそう」
 
「ただ、夜間や土日限定で働いて、どのくらい学資が稼げるか、それが私には分からなくて。都会の事情とか全然知らないから」
 
「ね、千里ちゃん、それ男として働くつもり?女として働くつもり?」
 
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「できたら女として働きたいんですけどねー。単価安いかも知れないけど」
「男女の賃金格差がひどいからね。でも女の方が仕事はあるよ」
「そうですか?」
「千里ちゃんなら、充分女で通ると思う。バッくれて女として働いちゃえばいいのよ。バレないから。保証人が必要なら、私サインしてもいいよ」
「それは凄く助かります」
 
「声変わりが来たらやばいけど、それまでに女声の出し方の練習を頑張りなよ。私も少し指導してあげるから」
「あ、それは教えて欲しいと思ってました」
 
「あるいは声変わりが来る前に去勢しちゃうかだな。私は20万円で手術したんだけど、10万円でやってくれる所も知ってるよ。そのくらいのお金は都合付かない?」
「10万円ですか?」
 
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千里はびっくりした。その程度のお金で去勢できるなんて・・・・。ほんとにやっちゃいたいかも!?
 
「千里ちゃんの状況なら確実に奨学金は出るから、それとバイト代とで何とかなるかも知れないね。あんた少食だから食費もかからないだろうし。たださ、バイトしてたら勉強する時間無くなるよ」
「やはりそうですかね」
 
「勤労学生はだいたいどちらかになっちゃう。仕事をわりと適当にして学業に力を入れてる人と、学校には籍を置いてるだけで、仕事中心の人。両方ちゃんとできる人は、なかなか居ない。勤労学生やりながら東京方面の国立目指すのは事実上不可能だと思う」
 
と敏数は言う。こういう厳しいことを言ってくれる人はありがたい。
 
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「でもそれを何とかする以外、私、道が無いから」
 
「そうだなあ。凄く効率のいいバイトなら知ってるけど。そういうバイトなら週に2回くらい勤めるだけで学費充分稼げる」
 
「どんなのですか?」
「男として働くか、女として働くか、という問題でさ」
「はい」
 
「オカマとして働く気はない?」
「へ?」
「あんたみたいな子が、オカマバーとかで働いたら、凄い人気になって高給もらえるよ。ファンになったお客から色々プレゼントとかももらえるだろうしさ」
 
「オカマバーですか!?」
「それなら、千里ちゃん、声変わりが来ても平気だよ」
「それ18歳以上なのでは?」
「誤魔化せば平気」
 
「だいたい、そんな所に勤めてること知られたら、学校をクビになります!」
 
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「ああ、そうかも知れないね」
 

「あと1つ学資をそもそも免除してもらうという道もあるよ」
と敏数は言った。
 
「え?」
「特待生ってのは知らない?」
「あぁ!」
「一部の私立では特待生を取っている。これになることができたら、入学金とか授業料は要らない」
「でもそれ条件が厳しいのでは?」
 
「多くの学校は内申書で中3の2学期の成績が5教科オール5であることが必須」
「きゃー」
「あんたの中学、中間試験はいつ?」
「火曜日からです」
「取り敢えずそれで5教科満点取るつもりで行こう」
「ひぃー」
「でもそれで物凄く有利になるよ」
「確かに」
 
「旭川の私立で特待生があるのは、確かT高校、N高校、E女子高、L女子高あたり。あ、あんたL女子高に行けば? あそこバスケ強いから」
 
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「バスケより私、東京方面の大学に行きたいです」
「だったらE女子高の方かな。たしか校内の成績が20位以内くらいであったら特待生で居続けられるはず」
 
「E女子高はちょっと入りたいなと思ったことあるけど、どっちみち女子高は入れてくれません」
 
「入学までに性転換しますと言っておけばいいよ」
「性転換したいけど、手術代が無いです。それに親が同意してくれません」
 
「難儀ね〜。取り敢えず睾丸は取っちゃいなさいよ。さっきは10万円の所言ったけど、逆に30万円するけど、年齢誤魔化してもあまりうるさく言わない病院も知ってるよ」
「うーん・・・」
「睾丸を取ってたら、まだ性転換してなくても入れてくれるかもよ。あんたの外見なら」
「ほんとにこっそり取っちゃおうかな・・・・」
「その気になったらいつでも言って。紹介してあげるから」
 
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敏数との話で問題は解決しなかったものの、千里は少しだけ、物凄く細い道が開けたかも知れないという気持ちになれた。それでその晩は数日ぶりにぐっすり寝ることができた。
 
そして千里はその晩、夢を見ていた。
 
セーラー服を着て、E女子高の試験を受けていた。ここは鞠古君のお姉さん・花江さんが通っていた高校である。旭川市内で1・2を争う進学校である。試験は結構いい感じで解けた。
 
そしたら
「あなたは成績が優秀だから特待生にします。授業料は要りませんよ」
と言われた。
 
「嬉しいです。よろしくお願いします」
と答える。すると
「入学前に健康診断を受けてください」
と言われた。
 

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それで病院に行くと、お医者さんが「上半身脱いでください」というので、セーラー服の上、ブラウス、キャミを脱ぎ、ブラを外す。お医者さんは聴診器を当てていたが
 
「心音とかは問題無いですね。でも君、胸の発達が遅いね。生理はちゃんと来てる?」
と訊かれるので
「ええ。一応規則的には来てます」
と答える。
 
「ちょっと婦人科検診をしよう。スカートはそのままでいいですから、ショーツだけ脱いで、そこの内診台に乗って」
と言われる。
 
きゃー!これに乗るの?
 
と思ったが素直にショーツを脱ぎ、そこに乗る。看護婦さんがカーテンを閉めてくれた。乗ると身体が沈んで腰が上がる。わっ!と思う。持ち上げられると足が開く! いゃーん。
 
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医師は千里の性器をいじっていた。
 
「君、変な物が付いてるね」
「ちょっと邪魔ですけどね」
「これはいけないね。こういうものが付いてると女性ホルモンがきちんと働かないんだよ。おっぱいが最低Aカップあることが女子高入学の条件だから。いっそこれ取っちゃおうか?」
「あ、はい。お願いします」
 
カーテンは開かれてしまった。そして内診台に乗せられたまま、手術用の無影灯であの付近を照らされる。
「麻酔打つから痛くないよ」
と言われる。
 
「この辺、感触ある?」
「いいえ」
「じゃ、手術を始めよう。これ生理が出てくる時も邪魔でしょ?こういう邪魔なものは取っちゃうね」
 
と医師は言い、陰嚢をメスで切開する。そして中にある卵形の物体を外に引き出すと、身体と繋がっている部分をハサミでチョキンと切り離した。更にもう1個の卵形の物体を取り出して切り離す。
 
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「こんなのが付いてると男性ホルモンの濃度が高くなって、ドーピングとか疑われることもあるからね。特にスポーツする子は早めに取っちゃった方がいいんだよ」
と医師は言っている。
 
医師は更にそこから細いメスを体内に侵入させていく。
 
「このまるで男の子のおちんちんみたいに見えるやつ、根元からきれいに切らないとね。表面に出ているところだけ切っても体内に根っこが残っていて、それがセックス中に勃起して相手の男性を困惑させることがあるんだよ」
 
へー。それは確かに邪魔だろうな。
 
医師はその根元を切り離した物体をそのまま身体から分離した。残った皮膚を折りたたんで縫い合わせると、割れ目ちゃんみたいになった。
 
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「よし。根元から切ったから大丈夫だよ。男の子とのセックスが随分やりやすくなるはずだから。あとこんなのが付いてたら、お風呂に入った時に男と間違われて通報されるからね。ふつう、幼稚園くらいの内に切っておいたほうがいいんだけど」
 
幼稚園の内に切っておきたかったよう、と思う。
 
「これで入学する頃までには、もっとバストが発達するから、女子高生生活をするのにも支障が無くなるね」
 
わあ、良かったぁ!と千里は思った。無影灯の光がまぶしかった。
 

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まぶしいなと思ったら、それは月の満ち欠けのように欠け始めた。
 
まるで日食みたい・・・
 
と思ったら、千里はどこか地球の外から、日食の起きている地帯を眺めていた。日食の皆既帯が地表を走る。良く見ると、北海道の自分が住んでいる留萌の少し南東付近から始まり、深川市・十勝岳・帯広市付近を通って、太平洋側に抜ける。
 
日食の中ではまるで夜になったかのよう暗くなり、鳥が騒いでいる。千里はそれを今度は地上で眺めていた。
 
1時間ほどの日食が終わり、ダイヤモンドリングが一瞬光り、明るさが戻る。そして再び明るくなった太陽は、まるでバスケットのボールのように見えた。千里はそれをつかむと、ゴールに放り込んだ。
 
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審判がスリーポイントゴールの笛を吹いたので目覚めた。
 
目覚めた時、まだその笛の音が耳に残っていた。
 

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千里は今夢の中に現れた軌跡の場所に行ってみたい気がした。
 
日曜日の神社のバイトは午後からである。それで朝8時の留萌本線に飛び乗り9時頃深川に着いた。深川を11時の汽車に乗ると12時に留萌に戻れて神社のバイトには間に合う。その2時間で「何か」を見つけたかった。
 
千里はこの日、中学の女子制服を着ていた。自分が見つけたい「何か」に対峙する時に「正装」でなければならない気がしたからである。千里は本当は学生服が正装かも知れないが、自分自身の気持ちとしては、このセーラー服の方が、むしろ自分の本来の服という意識がある。
 
駅を出てから、少しだけ迷ったが
「こっちかな」
と感じて、駅前からまっすぐ国道の方へ歩いて行く。10分ほど歩くと目の前に石狩川がある。千里はその雄大な流れを、じっと見ていた。
 
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