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■女の子たちの高校選択(6)

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「すまん。5分考えさせてくれ」
と宇田先生が言う。
 
「はい」
 
それで貴司が自分の財布からお金を出してチキンの追加を注文してくる。ついでに飲み物も3人分頼んで、それぞれの前に置いた。
 
「あ、ありがとう」
と宇田先生は言ったっきり、ずっと目を瞑って考えている。
 
先生は5分考えさせてくれと言ったが、10分以上考えてから、口を開いた。
 
「それでも僕は村山君を勧誘したい」
 

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「一般にスポーツでは男子と女子は体力や運動能力で大きな差がある。だから馬術など一部のスポーツを除いて、男子と女子は純然と分けて競技が行われている」
 
「むしろうちの地区で、しばしば男女混合の試合があるのが珍しいですよね」
と貴司。
「あれは、人が少ないから男女別では女子のチームが成立しない所が多すぎるというので混成チームを認めて、そうなったらしいね。過疎の産物」
と千里。
 
宇田先生は頷いている。
 
「バスケットでもフォワードなんかは体力・運動能力の差が大きい。男子と女子で試合をやらせると、ゴール下の乱戦で女子はまず男子にかなわない」
と先生。
 
「S中の花和なんかは例外だよな」
と貴司。
「うん。るみちゃんは身長が175cm体重68kgあるから、男子選手でも吹き飛ばしてダンクシュート決める」
 
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「ああ、なんか背の高い選手がいたね!」
 
「あの子、握力が75kgあるし、垂直跳び60cmだし」
と千里。
 
「それはプロスポーツ選手並みじゃん!」
と先生。
 
「物凄い筋力トレーニングやってるみたいだね」
「着替えの時とか彼女の身体見るけど、凄い筋肉質ですよ。男の子並み」
 
「・・・・・村山君、女子と一緒に着替えるんだっけ?」
「ええ、そうですけど」
 
「うーん・・・」
と言ってまた先生は悩んでいる。
 
「この子、しばしば女湯にも入ってますよ」
と貴司がバラしてしまう。
「えーーー!?」
 
「花和は、なんか漁船で網引いてたよね?」
「うん。夏休みに職場体験の名目で船に乗って網引いてたら、充分戦力になっていたとかで、マジで漁師にならない?と言われたらしいです」
 
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「凄いな」
と先生は言ったが
 
「あ、いやそれは置いといて」
と言って本題に戻る。
 

「バスケットの中でも、シューターというポジションだけは体格差があまり問われない。だから日本の女子バスケットチームが欧米のチームと戦う時もゴール下で勝てないから、主として3ポイントで得点を取っている」
 
「ええ。中継見ていて、なんか詰まらないですけどね。ゴール下の乱戦が無いから」
 
「だから村山君が男子チームの一員として出ても、多分シューターとしてなら活躍できると思うんだよ」
と先生。
 
「なんなら一度試してみましょうか?」
と貴司が提案した。
 

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それでその場で貴司がS中バスケ部キャプテンの田代君とS高バスケ部キャプテンにも電話し、明日にでも、千里を男子チームに入れたS中男子バスケ部と、貴司も入っているS高男子バスケ部の試合をやってみるという話がまとまる。
 
また今日はまだ話が確定していないということで、千里の父と会うのは延期することにしたが、取り敢えず母にだけでも話をしておこうということになり、千里が自宅から母を呼び出した。
 
場所は貴司の希望で中華料理店に移動した。
 
母は、宇田先生と話して、N高校の特待生の話があるというのに驚く。
 
「でも特待生って、成績が相当良くないといけないのでは」
「成績による特待生というのもあるのですが、村山さんを考えているのは、スポーツによる特待生で、うちのバスケット部はその枠を男女2名ずつ持っているんですよ」
と宇田先生は説明する。
 
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貴司が補足した。
「バスケの特待生は今男子は2名決まっているものの、女子は1人だけ決まってもう1人が未定で探していたらしいんですよ」
 
千里が言う。
 
「でも先生、私N高校に行きたいです。学籍上の性別は男子でも女子でも構いません。というか、多分性転換手術を終えてないと、女子生徒として処理するのは難しいのではないでしょうか?」
と千里は言う。
 
「うん。そうかも知れない」
と先生も悩みながら言う。
 
母は混乱していた。宇田先生も細川さんも、千里本人まで千里のことを男だと思っている???なぜ今更そんな話が出てくるんだ??
 
「あれ?今気付いたけど、細川君、もしかして村山君のボーイフレンド?」
「はい、そうです」
 
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「私は細川君のガールフレンドのひとりです」
「そこでまた《のひとり》と言わなくてもいいのに」
 
「浮気男は機会あるたびに責めておかなくちゃ。もっとも私が声変わりが来るまで、恋人にしておいてくれるという約束なんですけどね」
「ほほぉ」
「だから、もう多分残り半年くらいか。1年は無いだろうなあ」
と千里は言う。
 
「なんかそういう言われ方をすると罪悪感を感じるんだけど」
 
しかし宇田先生は、千里がボーイフレンドまで作っているということで、千里が本当に《女の子》なんだということを理解してくれた雰囲気であった。
 

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中間テストが終わった木曜日の放課後。
 
S中に貴司を含めたS高男子バスケ部の部員が8人やってきた。S中側は最初男子チームに千里だけを入れる形を考えていたのだが、田代君が「ポイントガードは森田を使った方がいい」と言ったので、千里と雪子が女子チームから編入する形でチーム編成した。
 
「森田を起点に、村山と菱田のダブルシューターに振り分ける、女子チームの黄金パターンを使うぞ」
と田代君が言う。
 
「OK」
 
それで試合を始める。
 
田代君が言った通り、雪子がボールをフロントコートに運んでいき、そこから千里と菱田君のどちらか空いている方にパスして、受け取った方がそのまま遠くから3ポイントを狙うパターンを多用する。
 
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雪子は小柄なので、S高男子のディフェンスが寄ってきてボールを奪おうとする。それを鞠古君がうまくガードしてやるような形で進めた。
 
ダブルシューターのパターンは分かっていてもなかなか防御できない。また遠くから撃つのを警戒しすぎると、田代君がゴール下まで攻め入って得点する。
 
S高側も、貴司や佐々木君たちがどんどん得点するし、田臥君も3ポイントをどんどん決める。
 
どちらのチームもラン&ガンに近いタイプなので、とにかく点の取り合いになっていた。
 
一度は千里が撃とうとしていた所に貴司が猛然とダッシュしてきた。千里はそれを平然と黙殺して撃つ。きれいに決まる。
 
「千里にはプレッシャーが掛からない」
と貴司が休憩時間に言った。
 
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「だって物理的に接触したらバスケットカウント・ワンスローだから貴司が私にぶつかる訳が無い。ちなみに私は身体ぶつけられてもちゃんと入れる自信あるよ」
と千里。
 
「それが分かっていても、普通はシュートが乱れるもんなんだけどな」
「貴司が良いプレイヤーだと信じているからだよ」
などと言っていたら
 
「そこ試合中のラブトーク禁止」
と鞠古君から言われるが、宇田先生は何だか頷いていた。
 
「ついでに試合中のキスも禁止な」
「さすがにそんなことはしないよ!」
 

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試合は結局72対63でS高校の勝利ではあったが、宇田先生は
 
「いい試合を見せてもらった」
と言っていた。
 
「あらためて連絡するから」
と言ってその日は帰っていった。
 
数日後、千里を特待生として推薦入学で取りたいという話がN高校からS中学に来ているということで、千里は担任から言われた。
 
「成績の照会が来ているから、成績表を出すから」
「はい、お願いします」
 
千里は成績も上位で定着しているし、遅刻・欠席もほとんどないし(1年生の始めに1週間休んだのくらい。鞠古君のお見舞いに札幌まで行ったのは公休扱いになっている)、クラブ活動や委員会活動もバスケ部と放送委員で頑張っているということでかなり良い内申書になっているようであった。
 
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「え? るみちゃんも勧誘されたの?」
 
翌日留実子から話を聞いて千里はびっくりした。
 
「うん。宇田先生から『君凄い体格だね』と言われて」
 
「だったらこないだの練習試合にも出れば良かったのかなあ」
と言ったが、隣で田代君が
 
「いや、花和は女子の方で出ればいいから、わざわざ男子との試合を見る必要がない」
などと言う。
 
「確かに!」
「こないだの旭川での練習試合で花和のプレイは見ているんじゃない?」
「あ、それもあるよね」
 
「だけど、るみちゃんも勧誘するんなら、特待生枠、るみちゃんで使わなくてもいいのかな」
 
「ああ。私は特待生になれるほど成績が無いから無理」
とあっさり留実子が言う。
 
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「ああ、言えてる、言えてる」
と隣で田代君。
 
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