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宿舎となるホテルに引き上げる。
今回の参加者は《男子チーム》15人、《女子チーム》7人と、男性保護者3人、女性保護者1人、伊藤先生の合計27人である。で・・・・4人部屋が7つ取られていて、男子4つと女子2つ(女性保護者を含む)に男性保護者・伊藤先生の部屋でいいでしょう、などと言われたのだが。
「先生、女子チームの中に男子が2人居るんですけど」
「あ、しまった」
と、こちらは完璧に伊藤先生のミスである。
慌てて計算し直す。男子生徒は鞠古君と千里も入れて17人、それに保護者・伊藤先生で男性は21人、女子生徒・女性保護者は6人になる。
女子生徒・女性保護者に2部屋割り当てるのはいいとして、残る4人部屋5つでは21人の男性は収容できない。念のためホテルに空いてる部屋はないかと照会したが、この大会のために札幌市内のホテルはここも含めて全て満杯である。
「どこか4人部屋に5人詰め込むか?」
「ベッド4つで、どうやって5人寝るんです?」
「エキストラベッドは無理なんですか?」
「元々エコノミーツインの部屋にエキストラベッドを2つ入れてクァトルにしてるから、見てもらうと分かるが、部屋の面積が既にベッドで埋まっている。これ以上のベッド追加は無理」
「先生、村山を女子部屋に入れましょう」
「ああ。そもそも村山は男子と一緒には泊められないですよ」
「村山を見てください。ブラ線が見えてるじゃないですか」
「なんか胸もあるし」
「村山はたぶん上も下も女下着つけてますよ」
「いや、そもそも女ではないかという疑惑が」
などという声が男子の方からあがっていた所で
久子が
「まあ、夏の合宿で千里は私たちと一緒にお風呂入ったしね」
と言うと
「えーーー!?」
という声があがった。
ということで、女子たちの承認を得て、千里は女子部屋に入れられることになった。
久子から「この部屋割が平和的です」
と言われた方式で、久子・友子・数子・伊都で1部屋、留実子・久子の母、千里で1部屋ということにした。
「ああ、ボクもその方が気楽」
と留実子が言う。
「うん。るみちゃんは逆に他の女子と同部屋にできないかもと思った」
と久子。
「今日の対戦相手に男子2人女子5人ですと言ったら、向こうは鞠古君とるみちゃんを男子と思っていたみたい」
「まあ、そう思われるのが普通」
留実子はBカップのバストを持っているのだが、うまくカバーしていて体操服姿を見ても、まるで胸が無いように見える。
「髪、短いし」
「そこまで短いのは女子として校則違反ではないかという説もある」
「るみちゃん、男物の下着つけてるよね?」
「うん。つけてるよ」
「ね、ね、るみちゃん、おちんちん付いてたりしないよね?」
「うーん。どうだろうね?。だけど今日はトモは試合に出る予定無かったから汗掻いた後の着替えまで用意してなかったからさ。ボクの下着を渡したよ」
ここでブーイング。
食事の後で、取り敢えず久子たちの部屋に、女子生徒6人集まった。
「るみちゃん、鞠古君とデートしたりはしないの?」
「大会中にそんなことできないよ」
「誰かさんは細川君とデートしないのかな?」
「さあ。大会中に女の子とデートしようなんて選手は居ないと思うよ」
「みんなストイックだな」
「副キャプテンが大会中に女の子と会ってたりしたら、他の部員に示しが付かないよね」
と留実子も言う。
「要するに、2人とも大会が終わった後デートするつもりなんだ?」
「細川君はこういう遠出した試合の方が集中できるみたい」
「留萌で試合やってると、ファンの女の子たちが結構うるさいからね」
「彼女たち、細川君の恋人が千里だってことには気付いてないよね」
と久子。
「気付いたとしても、千里はノーカウントだと思うだろうね」
と留実子。こんなことは千里との信頼関係がある留実子にしか言えないことだ。
「だいたい、あんたたちデートとかしてるの?」
と友子が訊く。
「ううん。土日は細川君、ずっとバスケの練習してるから」
と千里。
「それに千里も土日は神社でバイトだもんね」
と数子。
「それではデートできんな」
「結局、この2人、交換日記で主として交際してるんだよね」
と留実子。
「交換日記かぁ〜」
「30年前の交際スタイルだ」
「千里、携帯買わないの? それでおしゃべりしたりチャットしたりできるでしょ? バイトしてるんなら携帯くらい買えるんじゃない?」
「いや、細川君は女の子とチャットしている時間を惜しんでバスケの練習だよ」
と数子も言う。
「うむむ」
「るみちゃん、鞠古君とはチャットするの?」
「毎晩してるよ」
「うむむ」
おしゃべりしながら交替で部屋に付いているお風呂に入った。途中で久子のお母さんが戻ってきて、ヤマサキのスイスロールを3本差し入れてくれたので、歓声があがっていた。
「やはりダイエットより食欲だよね〜」
「美味しいものは美味しい」
さすがスポーツ少女たちで3本のスイスロールがあっという間に無くなる。
「でもみんなスリムだよね〜」
「まあ、体格でしばしば相手チームに負けるけどね」
「すごいがっしりした子を揃えてるチームとかもあるからね」
「まあ、弱小チームは楽しくやれば良い」
「でも今日男子チーム相手にも何とかなったのは、いつもそういう子たちと対戦してるからかもね」
10時に千里たちは自分たちの部屋に引き上げる。
「あんたたち、着替える時は私、後ろ向いてるからね」
と久子のお母さんは言うが
「あ、大丈夫ですよ。私はふつうに女子下着を着けてるだけですから」
と千里。
「ボクは普通に男物の下着を着てるだけだから」
と留実子。
「あんたたち、御両親にはそういうの言ってるの?」
と訊かれる。
「母は知ってるけど何も言いません。父は知らないと思います」
と千里。
「うちは諦められてます」
と留実子。
留実子はお兄さん(?)が女性志向があり、学校に行く時以外は女装しているので、両親もこの兄妹(姉弟?)に、さじを投げているようである。
「るみちゃん、鞠古君が男性能力を失った件について何か言われた?」
と久子のお母さん。
「私が男の子と付き合うのなら、その程度は構わんってことみたいです。どっちみち結婚するような年齢まで続くかどうか疑問だし、続いたとしても、精子は保存してるから子供が欲しくなったらそれで妊娠できるし」
「なるほどねー」
「だけど、そもそもるみちゃん、恋愛対象は男の子だもんね」
と千里。
「まあね。だから千里とは緊張しない付き合いができる」
「うん。私も恋愛対象は男の子だから」
「あんたたちのこと考えてたら、訳が分からなくなる!」
「ボクはただの男装癖だけど、千里のは性転換志向ですよ。ボクは身体まで男にするつもりは無いけど、千里は本当の女の子になりたいと思っているんです」
と留実子は言ったが、久子のお母さんは良く分からないようで悩んでいた。
留実子が朝起きた時に、千里が窓際で何かしていたので声を掛ける。慌てて千里が何か本のようなものを閉じる。
「あ、それが交換日記?」
と留実子が訊く。
「うん。さっき受け取ってきた」
と笑顔で千里が答える。
「今夜もやりとりしたんだ?」
「えへへ」
「何か書いてあった?」
「うん。試合、男子相手に頑張ったね、と褒めてくれてた。それと佐々木君が次期部長を辞退するから、貴司に次の部長になって欲しいって」
「ああ」
3年生は現在男子も女子も、まばらな参加になっているのだが、一応2学期いっぱいで実質引退する予定(スポーツ保険の関係で籍は卒業まで置いておく)で、新しい部長を選出しなければならない。男子はセンターの佐々木君、女子はポイントガードの久子が継承予定だったのだが、今回の大チョンボで佐々木君が責任を感じていて、ポイントガードの貴司に代わって欲しいと言っているというのである。
「貴司は自分はあまり人望が無いから、田臥君(シューティングガード)に頼めないか訊いてみると言ってる」
「人望無いってことないでしょ?」
「いや、貴司は自分の練習は一所懸命やるけど、あまり面倒見が良くないんだよ」
「そうだっけ?」
「下級生の指導とか、確かに佐々木君や田臥君の方が熱心に教えてあげてる。1年生の田代君も他の子に色々教えてる。貴司はそんなの教えられなくても自分で盗めってスタンスだもん。試合で活躍するから女子のファンには人気なんだけどね」
「ああ、そういうのはあるかもね」
千里はバスケットの技術的な面や戦略的な面でも貴司から何か教えてもらった記憶がほとんど無い。むしろ同学年でパワーフォワードの田代君などが色々と教えてくれている。同じスポーツマンでも晋治と貴司はかなりタイプが違うなと千里も思っていた。晋治は熱く燃えるタイプだが、貴司はいつもクールだ。2年間付き合って晋治が激怒している所は数回見たが、貴司とこの半年付き合っていて彼が怒っている所を見たことが無い、と言って優しい訳でもない。
2日目は女子チームは強豪男子チーム相手に50対12、60対28で大敗、男子チームは48対40、57対43で勝利した。3日目は女子チームは第1試合では48対18で負けたものの、第2試合ではかなりの競り合いを演じ、最後千里のかなり遠くからの3ポイントが決まって、43対41で辛勝した。男子チームの3日目は第1試合は70対24で勝利、第2試合は結構強い学校相手に60対60の引き分けであった。
その男子チームの2試合を見学した後で帰途に就く。
「今回、佐々木君の登録ミスのおかげで、結果的には男子も女子も強いチームとの対戦ができたのは収穫だと思います」
と伊藤先生が言った。
「そうそう。男子が練習試合組んでもらった所はみんな強い所ばかり。強豪の場合、本番ではスターティングメンバーにはなれないけど強い選手がいるから向こうもその子たちに実戦経験を積ませたい事情があるというので運営側もそういう所に声を掛けてくれたみたいですね」
運転手役で来ている男性保護者。
「女子も男子チームのほどほどに強い所と6試合やったから、凄く大きな経験になったね」
と久子のお母さん。
「まあ、怪我の功名ですよね」
と貴司が発言した。
佐々木君も佐々木君のお父さんも、本当に申し訳なさそうな顔をしていたのだが、こう言ってもらえると少しは救われる感じだ。
連休明け、千里が(いつものように体操服姿で)教室で少しぼーっとしていたら、同級生の尚子から声を掛けられる。
「連休、札幌でバスケの試合してきたんでしょ?疲れた?」
「ううん。結構楽しかったし、昨夜はぐっすり寝たし」
千里が今回の試合で男女の名簿を誤って逆に提出してしまったが、おかげで男子も女子も強い所との試合ができて良い経験になったということを言うと、そんなミスもあるんだね!と驚いていた。
尚子がふと思いついたように言う。
「英語の敬称でさ、Miss と呼ぶべきか Mrs. と呼ぶべきか悩んだ場合にどうするかという議論があるけど、Mr. と呼ぶべきか Miss や Mrs. と呼ぶべきか悩むようなケースはどうするんだろうね?」
「ああ、悩むような人いるよね。スーパーとかで、女子トイレに入ったはずなのに、中に一瞬男!?と思うようなおばちゃんが居て、ギクッとすることあるし。思わずいったん出て男女表示見直したことあるよ」
「ちょっと待て」
「まあ、Miss か Mrs. か悩んだら Mrs. でいいとは言うね。もっとも最近は Ms を好む人も多い」
と千里。
「そうそう、Miss なのか Mrs. なのか Ms なのかを悩まなければいけない時もある」
と尚子。
「Mr. か Ms か悩むような場合は難しいよね。女性なのに男に間違えられた人は怒るだろうし、男性なのに女に間違えられた人も怒る」
「千里の場合は、Miss あるいは Ms と呼び掛けられたら、それは間違いなんだろうか、それとも Mr. と呼ばれた方が間違いなんだろうか」
「これまで札幌や旭川で道とかを訊かれたりして何度か外人さんと話した時、相手はボクのことを She という代名詞で受けてたよ。プールで水着になってた時やミニスカ穿いてた時は仕方無いけど、一度なんか学生服着てたのに。ボクって、学生服着てても女に見えるのかなあ」
などと千里が言うと
「うーん。。。」
と尚子は《ツッコミ所が多すぎて》どこに突っ込むべきか悩んでいた。
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女の子たちの間違い続き(8)