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千里はこの春からバスケをやっていたものの、実はあまり細かいルールが分かっていなかったのだが、今日の講習でそのあやふやだった所をしっかり教えられかなり勉強になった。
休憩時間に女子バスケ部3人でまとまってお弁当を食べた後、千里はふらりと校舎の方に行った。本館1階の廊下は見学してもいいですということだったので、いろいろな掲示を眺める。
そしてバッタリとその人物に遭遇した。
いきなり目が合う。
「あ」
「あ」
とお互いに声を出す。
千里は逃げようとしたが駄目だった。
「待って」
と肩に手を掛けて停められる。
「もしかして千里?」
と晋治は言った。
「あはは、見逃して〜」
「女子制服着てる!」
「私、女子バスケ部だから」
「えーー!?」
あまり人に見られたくないので、まだ午後の講習が始まるまでは時間があるのを確認して、学校の中庭に出て、プールの陰の所に行った。
「その制服で通学してるの?」
「ううん。学生服だよ。今日は部活だから、これ着て来た」
「部活の時はそれ着てもいいんだ?」
「校則では制服を着用のこと、としか書いてない」
「確かに制服な訳だ!」
どうもこの反応からして、晋治のお姉さんは中学の女子制服を千里にあげたことを晋治には言っていないようだ。
「でも学生服なんか着ている所を晋治に見られなくて良かった」
「・・・・髪も長いままなんだね」
「うん。以前言ったように巫女さんのバイト始めちゃったんで、そのバイトに必要だからと言って、異装許可を取った」
「よく通ったね!」
「私もびっくりした!」
「それに声変わりもしてない」
「私が晋治に電話しなくなったら、その時が来たんだと思って」
「そんなの気にすることないのに。だいたい僕たち恋人じゃなくて普通の友だちだし」
「そうだよね!」
「でもバスケやってるんだ?」
「《女子バスケ部》に入ったんだよ」
「そのあたりが良く分からないのだけど」
それで千里は春の大会でメンツが1人足りなかった時、体操服を着て応援に行っていたので、女子と間違われ、S中の生徒なら顔貸してと言われて女子チームに入ってしまったという経緯を説明した。晋治は大笑いしていた。
「まあ、それでその後、女子バスケ部のキャプテンから本当に女子バスケ部に入らない?と誘われて、それはさすがに無茶でしょと言ってたんだけど、5月の連休に男子バスケ部のエースの人に遊園地で偶然遭遇してさ、良かったら入ってあげてと言われて」
「ふーん。その男子バスケ部のエースが、千里の彼氏?」
「うん、まあ、そんなこともあるかもね」
「ふふ」
「私の身体能力では男子バスケ部には入部試験で落とされちゃう」
「でも女子の試合に出られるの?」
「一応《監督》という名目でベンチ入りする」
「なるほどー」
「でも6月には男女混合の大会で試合に出たよ」
「ああ、そういう大会があるといいね」
「他に私の性別のことを知った上での練習試合も何度かやった」
「それもありだろうね。向こうとしては男子が混じったチームとの練習試合はむしろ歓迎のはず」
「そうみたい。でも私は本当に男子なのかが怪しい」
「ああ、怪しい、怪しい。僕も結局千里のおちんちんって見てもないし触ってもないし」
「そんなの好きな人に見られたくないよ」
「まあ、その気持ちも分かるから無茶はしなかった」
「晋治、彼女とはうまく行ってる?」
「ああ、別れた」
「えーーー!?」
「お互い高校受験で忙しくなるしということで」
「わぁ。あれ?そういえば今日はここには何の用事?」
「うん。うちのT中学は共学だけど、同系列のT高校は男子校だからさ。女子はどこか他の高校に進学しないといけない。男子でも敢えて他に行く奴もいる。それで下見だよ」
「晋治、この女子高に進学するの!?」
「まさか。入れてくれないだろうな」
「性転換でもしなきゃ無理だよね」
「千里は入れてくれたりして」
「まさか」
「まあ、今日は同じクラスの女子数人の付き添いだよ」
「そんなのあるんだ!?」
「なんかうまく乗せられた。荷物持ち兼任で。もっともここだけじゃなくて他の高校も見て回るんだけどね」
「なるほどー。でも晋治は優しいからなあ」
「あ、そうだ。鞠古はその後どう?」
「うん。こないだ電話で話したように手術は成功して、今自宅療養中。今日の講習にも出て来てるけど、学校には来月から出てくるらしい」
「まあチンコ失わなくて済んで良かったな」
「それも晋治のおかげだよ」
「千里なら、全部切って欲しかったろうけどな」
「まあね」
「あ、12:50だから、そろそろじゃない?」
「あっと、行かなきゃ」
「僕も一緒に来たクラスメイトたちの所に戻るよ」
それで校舎の所まで来たら、玄関の所で晋治のクラスメイトっぽい女子が5人居る。千里は思わず会釈した。
「誰?誰?」
「あのぉ、おふたりの関係は?」
などと訊かれる。
「こんにちは。青沼君の友人の村山です」
と千里が笑顔で答える。
「友人って、彼女って意味?」
「見慣れない制服だけど、どこの中学?」
などと興味津々の様子。
「いや、本当にただの友だちだよ。この子、彼氏居るし」
と晋治。
「なーんだ」
「僕の地元の留萌の中学に通っているんだよ」
「へー」
「それで、晋治君とはどこまで行ったんですか?」
という質問に千里が思わず赤面すると
「お、かなり進んでいると見た」
などという声。
「A? B? それともCまで行った?」
などと訊かれると千里は恥ずかしがって俯いてしまう。
「いや、ホントに恋人じゃないから」
と晋治は言ったが、彼女たちはあまり信じていない風であった。
体育館に戻って午後の講習が始まる。数子が実習で計時の練習に出ていた時、留実子が小さな声で尋ねる。
「千里、晋治君と会ってたね」
「あぁ・・・」
「まだ続いてたの?」
「違うよ。晋治とは本当に別れたんだよ。ただ偶然遭遇したんで少しお話していただけ」
「ふーん。まあ、旭川と留萌ならバレないよね」
「そんなんじゃないよぉ。それに鞠古君の病院を紹介してくれたのも実は晋治なんだよ。それで彼の病状のことも少し話してた」
「そうだったのか。じゃ、このことは誰にも言わないね」
「いや、だから本当に晋治とは、もう何でもないんだから」
と千里は言ったが、留実子は完全には信用していない雰囲気だった。
もう!
鞠古君は予定通り10月の第1月曜、10月6日から学校に出て来た。
が、お約束のからかわれ方をする。
「チンコ切ったんだって? 何で学生服着てる。チンコ無い奴はセーラー服を着てもらわなくちゃ」
「鞠古、名簿は女子の方に入れといたぞ」
「先生、ついでに村山も女子の方に移動してやって」
「名前はどうすんの? ここは苗字と名前を入れ替えて、知佐鞠古にしてマリコちゃんというのでどうだ?」
「バレンタインにはチョコくれよな」
「お前ら、少しは病人をいたわれよ」
と鞠古君も応じていた。
まだ運動するのは辛いようで、体育の時間も見学していたし、部活も顔は出すものの、学生服のまま、ベンチ入りのボーダーラインの子たちの指導をしたりしていて、プレイには参加していなかった。
11月上旬の連休(1土・2日・3祝)、札幌で全道中学バスケット新人ワークスなる大会が開かれた。1〜2年生からなるチームによる大会である。参加チームは男子チーム300校、女子チーム150校(いづれも合同チームを含む)ほどで、抽選による組合せで各チーム6試合行い、得失点差で成績を競うものである。参加チームが多いので市内20以上の会場(ほとんどが市内の中学の体育館)に分かれての開催になる。
この大会にS中からも男子・女子のチームが参加することになった。男子の方は1〜2年生だけでも充分な人数がいるが、女子は実は人数が足りない。
「私と友子・数子・千里で4人にしかならない」と久子さん。
「私は出られません」と千里。
「誰か適当に2人調達しましょうよ」
「うんうん。いつものパターン」
「春の大会に出た**さんは?」
「彼女、連休はテニスの大会」
春はまだレギュラーではなかったので、バスケ部の助っ人をしてくれたのである。それで、取り敢えず数子の友人でバレー部の伊都ちゃんを調達してきた。
「あとひとりは〜?」
「やはり千里が大会までにちょっと手術して」
「いや夏の合宿で手術済みであることは確定してるから病院で性別証明書をもらってきて」
などと言われていたのだが、留実子を誘ってみたら
「ああ、助っ人なら出てもいいよ」
ということだったので、久子・友子・数子・伊都・留実子の5人で登録することにした。久子がキャプテンとなる。千里も名簿には入れるが、出場はできない(大会までに性転換しない限り!?)
エントリー直前になって、男子バスケ部で2年キャプテンの佐々木君が女子バスケ部の方に打診してきた。
「凄く有望な新人がたくさん来るからそのプレイを見せるのに鞠古を連れて行きたいんだけど、選手登録していない奴を連れて行って、何か事故が起きたりするとやばいんだよね。今回は大会主催者が保険を掛けてくれているんだけど、対象はあくまでエントリーしているメンバーだけだから。それでさ、物は相談だけど、鞠古を女子バスケ部の方に登録してもらったりはできない?」
「いいですよー。何ならそのまま出場してもらってもいいし」
「いや、男子だから女子の試合には出られない」
「それは大会までにちょっとお股の形を調整して」
「あいつ、それでさんざんからかわれてるから、その話は勘弁してやって」
ということで、女子バスケ部の名簿は、久子・友子・数子・伊都・留実子・千里に鞠古君まで入れた7人の名前を書いて佐々木君に渡した。一緒に提出してくれることになっている。
それで11月1日の早朝学校に集合し、男子バスケ部の15人、女子バスケ部の7人、に顧問の伊藤先生を加え、マイクロバスに乗って札幌に向かう。運転手は保護者のお父さん2人がボランティアを申し出てくれたので2人で交替で運転する。この他に付き添いで男性保護者1人(佐々木君のお父さん)と女性保護者1人(久子のお母さん)が付いていく。
「鞠古、とうとう女子バスケ部に入ったんだって?」
「性転換おめでとう!」
「いや、鞠古はきっと可愛い女の子になるよ」
「トイレは女子トイレ使えよ」
「連休明けからはセーラー服で出て来いよ」
などと全くお約束の事態である。鞠古君も
「じゃお前らにバレンタインには毒入りのチョコを配るよ」
などと応じていた。
札幌に到着する。男子と女子の行われる試合の会場が異なるので最初に男子をR区市民体育館で降ろした後で、女子をF中学体育館で降ろす。R区市民体育館で他の男子と一緒に鞠古君も降りようとしたら
「女子はまだ乗ってていいんだよ」
「マリコお嬢ちゃん、ここは会場違うよ」
などと言われていた。
千里たち6人はF中学体育館で降ろしてもらい、組合せ表などを確認する。8時から各会場をネット中継で結んで開会式をする。
「各チーム、キャプテン集まってください」
というアナウンスがあるので、久子が運営委員席の所に集合する。
ところが・・・・
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女の子たちの間違い続き(6)