広告:ここはグリーン・ウッド (第3巻) (白泉社文庫)
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■女の子たちの制服事情(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-03-07
 
「兄貴さ、最近女物の服が増えてきてない?」
と千里は玲羅から言われた。
 
「うーん。別に良いじゃん。スペースは侵略してないと思うよ」
「その分、男物を処分してるよね?たぶん」
「うーん。処分はしてないけど、着られなくなったのは顕士郎君(従弟)にあげてるし」
「着れてもあげてたりして?」
 
千里の家は、市営住宅で2DKである。2軒単位で1つの家になっていて、村山家は隣の町田家と同じ建物だが、別に隣だからといって特に交流がある訳ではない。
 
1つの建物を共有する村山家と町田家は対称な作りになっていて、村山家では東側から台所・四畳半・六畳と続き、町田家では西側から台所・四畳半・六畳と並ぶ。台所に勝手口があるので、勝手口は東端と西端にあることになるが、玄関はどちらも北側にある。玄関を入った所に2畳程度のスペースがあり、そこにトイレもある。お風呂は台所につながっているが、配置的にはトイレの隣である。
 
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雪国で北側の玄関というのは危険である。ある年は雪が積もりすぎて玄関からの出入りが出来なくなり、春までずっと勝手口から出入りしていたこともあった。
 
御飯は4畳半の部屋で食べるし、ここにテレビもあって居間の役割を果たしているが、夜間は4畳半で千里の両親が寝て、6畳で千里と玲羅が寝ている。一応、6畳の部屋の南側(窓側)を千里が使い、北側(奥側)を玲羅が使い、お互いの領域はできるだけ侵略しないようにしているが、壁側(町田家との境界)に父が手製したクローゼットが設置してあって、横に4mほどの棒が渡してあるので、そこに千里も玲羅も、また母も上着やズボン・スカート、コートなどの類いをハンガーに付けて掛けているのである(父はここに掛けるような服を持っていない)。
 
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問題はその領域なのだが、基本的には一番奥を母、真ん中付近を玲羅、窓側の方を千里が使用しているが、境界線が引いてある訳ではないので、各々の服が増えてくると、隣を微妙に侵略していく感じになる。実際、母の服は多いのでだいたい母の服が50%、玲羅の服と千里の服が25%ずつくらいになっている。
 
玲羅が指摘したのは、その千里の服の比率で女物が増えているという話である。千里は女物の服は奥側に掛けているので、ちょっと見ると窓側に男物の服が並び、その後女物が続くので、その境界が千里の服と玲羅の服の境界線かと思うと、実際には、ふたりの服の境界線はそこより少し奥側にある。
 
窓側からジュニアの男物が30cmほど続き、その後ジュニアの女物が170cmほど続いているが、実は千里の服と玲羅の服の境界線は100cmくらいの所である。つまりこの時期、千里の服は7割くらいが女物であった。
 
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「でもその服の並びを見ると、私が一見お兄ちゃんの5倍くらい使っているみたいだからなあ。実際、お父ちゃんはそう思っているんじゃないかな」
「お父ちゃんは服のことには関心無いと思う」
「確かにそうかも知れん」
 
そんなことを話したのは3年生か4年生の頃だったろうか。
 

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男の子が女の子になりたいと思っている場合、女物の服をどうやって調達するのかというのは大問題である。みんなこれでかなり苦労しているので、ずっと女の子の服を着たいと思っていても、実際に着始めるのは高校を出た後という人も多い。
 
千里はその問題についてはかなり恵まれていた部類に入る。千里の場合、女の子の服を調達する手段を3つ持っていた。
 
ひとつは毎月もらうお小遣いである。お小遣いは最初の頃は月数百円、6年生で1000円ではあったが、千里はそのお小遣いで他の子たちのようにジュースやおやつを買うことは無く、もっぱら下着を買うのに使っていた。またお正月に親戚の人からもらうお年玉もほとんどそういう目的に投入していた。(2月にはバレンタインのチョコの素材に少し使った)
 
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千里の下着の調達先はだいたい、しまむらとかである。千里はよくしまむらでワゴンセール100円のショーツを買っていた。またしばしば上下セット400円とかのブラ&ショーツがあったりするので、重宝していた。
 
なお千里が女の子の下着とかを持っていても、母はとがめたりはしない。変な目的で使うものではないし、変なことをして入手したものではないことが分かっているからである。洗濯物の中に女の子の下着があっても、母は玲羅のものと千里のものをきちんと仕分けしてタンスに入れてくれた。
 

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千里の女の子の服の調達先の第2は他の人からのお下がりである。千里に服をくれていたのは、主として友人の留実子、従姉の愛子、そして叔母の美輪子である。
 
留実子は小学3年の時に引っ越して来た子であるが、千里と留実子はお互いに“異性の服”の供給源となった。留実子は男の子になりたい女の子で、千里は女の子になりたい男の子なので、しばしばお互いの服を交換した。留実子の母は留実子の性格を知っているから、スカートなど買ったりしないが、親戚から頂いたりする。それを千里にくれる。逆に千里が持っている男の子っぽい服はどんどん留実子にあげていた。服の交換は相互の母の了承のもとである。
 
実は、留実子の母は千里のことを普通の女の子だと思っていたし、千里の母は留実子のことを普通の男の子だと思っていた。それで留実子の母は
「これまで女の子の友だちなんて、できたことなかったのにやっとできた」
と思っており、千里の母も
「これまで男の子の友だちなんて、できたことなかったのにやっとできた」
と思っていた。
 
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また、旭川市に住む叔母の美輪子がしばしば、自分が着ない服をこちらに送ってきてくれていた。美輪子は母の妹だが、母と12歳も年が離れている。千里が中1の時、母は36歳だったが、美輪子は24歳で、元々童顔でもあり、また若い子が着るような服を好んで着ていたので、車を運転していて検問で
「中学生が運転してはいけない」
などと警官に注意されたこともあるらしい。
 
そんな美輪子の服は千里や玲羅でも充分着れそうな服が多かった。しかしこの時期はまだ玲羅はガールズサイズ140の服を着ていたので、美輪子の服はむしろ玲羅より千里に合ったのである。
 
折角送って来てくれたけど、母はこんな若い服は着ないし、玲羅には大きすぎるしと言っていた所に千里は
 
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「ボクがもらってもいい?」
と言った。母は
 
「あんた着るなら着てもいいけど、スカート穿くの?」
などと訊く。
 
「最近は男の子でもスカート穿くよ」
などと千里は開き直って言うので、じゃあげるよ、ということになったのである。
 
小学校の頃、千里は学校にさすがにスカートは穿いて行かなかったが(千里的見解)、左前合せのポロシャツなどは堂々と学校に着て行っていた。
 
(蓮菜や留実子の見解では小学校時代、千里はかなりスカートで登校していた)
 

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そして千里の女物の服の第三の調達先は、母であった。
 
母は時々気まぐれ的に千里に女物の服を買ってくれることがあった。
 
「これ女の子用だけど、千里はこのくらいは穿けるよね−」
などと言ってガールズのジーンズを買ってきてくれたりするし、
 
「あ、間違って女の子用のパンツ買って来ちゃった」
などと言って(玲羅にはまだ大きすぎて千里のサイズに合う)セーラームーンのショーツを買ってきてくれたこともあったし、
 
「これ暖かそうだったから買ってきた」
と言って、ダウンのオーバースカートを買ってきてくれたこともある。(但しこれは玲羅が「貸してね」と言って借りたまま返してくれなかった。もっとも千里も玲羅の星模様のプルオーバーを借りたまま返していない)
 
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小学2年生頃までがそういう状況だったが、3年生頃からは家庭の経済状況もあり、男物はどうせ千里が着てくれないから、もったいない、ということで千里には女物しか買ってこなくなった。
 

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ところで中学入学の前、千里に学生服を買うのかセーラー服を買うのか母はかなり悩んでいた。千里は当然セーラー服を着ると主張していたものの、母はギリギリまで悩んでいた。母の主たる悩みは
 
“セーラー服のほうが学生服より高い”
 
ということである。何しろ、母はお金を節約しなければという意識が強いのでガソリンを入れなければならないバーベキューセットに「こちらが安いし」と言って灯油を入れて壊した前歴のある人である。
 
取り敢えず見に行った。
 
ショッピングセンターの一角に制服コーナーが設けてあり、市内および近隣の町の全中学の制服がマネキンに着せて並べられている(高校は入試の後になる)。もっともバリエーションがあるのは女子のみで、男子は全校学生服であった。その女子の制服が千里には、まぶしかった。
 
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わあ、いいなあと思い、寄って見る。特に自分が進学予定の中学の女子制服には、つい手で触ったりしてみた。そんな千里を母はそっとしておいてくれたような気もする。
 
係の人が寄ってきた。
 
「今度中学進学ですか?」
「あ、はい」
「採寸はお済みですか?」
「採寸?」
「ええ。女子の制服は受注生産になるので、寸法を測ってから作りますので」
「あっ、えっと・・・」
 
などと言っていた時に母の携帯が鳴る。
 
「ちょっと御免」
と言って母がその場を離れる。
 
その後ろ姿を見送りながら係の人が言う。
 
「早い時期に予約をしていた人も、採寸は今の時期にするんですよ。夏頃採寸していても、その後成長して合わなくなってしまうことがあるから」
 
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確かにこの時期の女子は体形が変わりやすい。主として胸が成長するタイプとお腹が成長!?するタイプと。
 
「お母さん向こうに行っちゃったけど、採寸だけでもしておきません? 注文は後でも良いですよ」
 
などと係の人が言うので
「そうですねー。じゃ採寸だけ」
 
と言って千里はメジャーで身体の寸法を測ってもらった。
 
「バスト65、ウェスト55、ヒップ85、肩幅34、袖丈54、身丈48、スカート丈68かな。あなた身長があるから、身丈・スカート丈は長めの方がいいわね」
 
「あ、そうかもです。鼓笛隊の標準のスカート穿いたら、なんでお前だけミニスカート穿いてる?とか言われました」
 
「あはは。バレーとかバスケとかすると、いいかもよ」
「ああ。いいですね。でも私、運動神経悪いから」
「練習すればいいよ」
と係のお姉さんは言う。
 
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「一応、この数値コンピュータに登録しておくから。この登録番号を電話で伝えてもらえたら、注文できるからね」
「ありがとうございます」
 
「あ、名前と電話番号、訊いていい?」
「はい。名前は村山千里、電話は0164-**-****です」
 
それで係のお姉さんは登録番号 214 で千里の寸法を登録してくれた。千里は採寸の控えを手に取って見ながら、バレンタインデーみたいな数字だと思った。
 
なお、この日は母が急用ができたということで、そのまま帰ったので何も買っていない。そして結局、父の漁師仲間・神崎さんの息子が着ていた、中学の制服を譲ってもらえるという話が来たので、結局千里は“学生服は”買わないことにした。千里は「学生服なんて着ないからね」と宣言しておいた。
 
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