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■女の子たちの制服事情(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-03-08
 
卒業式翌日の金曜日、千里は中学の通学定期券を買いに出た。実は小学校の通学定期券がその日までの有効期限なので、その期限が残っている間に、買っておきたかったのである。
 
で・・・・・父の船も出ているし(父は金曜日の夕方帰港する)、母もパートに出ているし、というのをいいことに、千里はセーラー服を着てバスに乗った。
 
小学校の最寄りバス停で降りて、その後は留萌駅まで歩いて行き、駅前にあるパス会社の出張所で定期券を買う。母に書いてもらっていた通学定期購入申込書を提出する。身分証明書として健康保険証を提示する。
 
「ああ、中学の新1年生ね」
「はい」
「期間は4月7日月曜日から7月25日金曜日まででいいのね?」
「はい」
 
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係の人は書類をチェックしていたが、「ん?」という顔をする。
 
千里の顔を見る。
「君、村山千里さん、本人?」
「はい」
「性別欄、間違ってるよ。修正しておくね」
 
と言うと、係の人は男の方に○を付けてあったのを二重線で消すと、女の方に○を付け直し、それで定期券を発行してくれた。
 
ともかくも、それで千里は12歳という年齢の所に女性を表す赤い○が付いた定期券を使うことになった。
 

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小学生の間は赤い○の付いてない定期券を使っていたので、女性を表す定期券を持つことは自分が女性と認められたみたいで嬉しい気がした。千里は買物しておこうといつものスーパーに行こうと、バス会社の出張所を出る。
 
するとそこで、駅から出て来た若い女性と目が合う。
 
「あ」
「あ」
 
とお互い驚いたような声を出してから
 
「こんにちは」
「こんにちは」
 
と挨拶する。
 
「千里ちゃんだよね?」とその女性。
「ご無沙汰しております」と千里。
 
それは、ついこないだ別れた晋治のお姉さん、静子(せいこ)だった。
 
「今時間ある?」
「あ、はい」
 
というので、静子が停めたタクシーに乗って国道沿いにあるモスバーガーまで移動した。
 
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「おごってあげるから入ろう」
と言うので
「ありがとうございます」
と言って一緒に入る。
 
ライスバーガーのかきあげと焼肉を頼んで半分に切りシェアする。
 
「今気付いたんですけど、もしかしてライスバーガーは実はおにぎりだということは・・・」
と千里。
「まあ、それは公然の秘密だね」
と静子。
「なるほどー」
 
「千里ちゃんの性別も公然の秘密だなあ」
「あはは」
と千里は取り敢えず笑っておく。
 
「あ、そうだ。遅ればせながら、△△△大学、合格おめでとうございます」
「ありがとう」
 
「でもよく御両親、東京まで出してくれましたね」
「うん。学費は全部自分でバイトしながら払うから入学金と最初の授業料だけ出してくれと言って説得した」
 
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「わあ。確かに東京まで出て行くとなると学費・生活費の問題もありますよね」
「そうそう。都会は生活費も高い。そもそも家賃も高い」
「ですよねー」
 
「千里ちゃんも東京に出たいと言ってたね」
「ええ。東大に通るような頭は無いし、東京都内は生活費も高そうだから、関東方面のどこかの国立で考えているんですけどね」
 
などと言いつつ、実は千里は関東方面にどんな国立大学があるかを全然知らない。
 
「そのあたりも結構レベル高い。勉強頑張らなくちゃね」
「はい」
 

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「静子さんは文学部でしたっけ?」
「そうそう。私は中国史をやるつもり」
「へー」
 
「中国は古い歴史書が揃っているから、他の地域と比べると格段に昔のことがよく分かる。日本書紀を持ってる日本なども世界的に見ると随分資料に恵まれた地域なんだけど、日本書紀が主として4世紀頃以降の歴史を書いているのに対して中国の歴史書だとBC11世紀頃からの記述がかなり明確だからね」
 
「中国の歴史書というと三国志とか魏志倭人伝とかみたいな?」
「まあ、魏志倭人伝も三国志の一部だね」
「ああ、そうだったんですか!」
 
「三国志の中の魏書の中に、当時の倭のことが書かれていて、そこに卑弥呼が出てくるんだよね」
「ああ」
 
「三国志はAD2-3世紀の中国の様子が書かれている。それより古い歴史書として史記、漢書・後漢書などもあるし、春秋みたいなのもある」
「史記って聞いたことがあるような」
 
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「書いたのは漢の武帝に使えた司馬遷という人だけど、宦官だったのよね」
「宦官って、おちんちん取っちゃった男の人ですか」
 
「そそ。司馬遷は最初ふつうの役人だったんだけど、李陵という軍人が奮戦虚しく敵に捕らえられたのに怒った武帝に対して、ひとり彼を弁護した。すると絶対君主だからね。その機嫌をそこねた訳だから大変。ギロリと司馬遷を睨んで『李陵を死刑にする前に司馬遷を死刑にしろ』なんて言うわけ。すると周りの大臣たちが『いや、それはさすがに可哀想』と言って擁護してあげて、それで武帝も『だったら罪一等を減じて宮刑にしろ』ということになったわけよ」
 
「宮刑というのが、おちんちんを切る刑ですか」
「そそ。おちんちんもタマタマも両方切断する。まあ昔のことだから、これを切っちゃった場合、生存率はたぶん2〜3割」
「わあ」
 
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「当時は宮刑というのは死刑に次ぐ重い刑罰だからね」
「刑罰か・・・」
「千里ちゃんなら、むしろ御褒美に切って欲しいかな」
「そうかも!」
 
千里は晋治に自分の性別のことを言ってないので、静子も千里を男の子だと思っている(晋治の母は千里を女の子と思っている!)。
 
「でも宮刑とか去勢とかの話をすると、たいていの男の子は嫌そうな顔をするね。晋治もすごく嫌そうな顔してた」
「まあ、普通の男の子にとっては、きっとあれ凄く大事なものなんでしょうね」
 
「うん。そのあたりは女には分からない所だね。農学部とかで家畜の去勢の実習とかする時、女子学生は平気だけど、男子学生はみな尻込みするなんて言ってた」
「ああ・・」
 
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「でも、宦官って、日本には無かったんですよね」
「そそ。それは歴史上の不思議のひとつみたいだけど、日本はあまり牧畜とかの文化が発達しなかったからだろうね。やはり家畜の去勢という習慣があって初めて人間の去勢というのも考えられたんだと思う。日本はあくまで植物の作物を育てる農業国」
 
「なるほどー」
「司馬遷の頃は刑罰として宮刑を受けた人が宦官になった訳だけど、その後宦官は貧乏な人にとっては、ほぼ唯一の出世の道として、自分の意志で去勢して宦官になる人たちが出てくるからね」
 
「なんか凄い選択ですね」
「中には代々宦官になる家なんてのもあった」
「え? だって、おちんちん切っちゃったら子供作れないのでは?」
「だから、子供を作ってから切る」
「ぎゃー」
「そういう家に生まれた男の子は、最初から切られること確定」
「ちょっと可哀想な気もする」
 
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「ところで千里ちゃん、中学はその制服で通うの?」
「通いたいです。でも駄目でしょうね。学生服は一応用意しました。これは父の友人のお姉さんが着てたのをもらったんですよ」
「へー」
 
「私が中学に入るというので、だったら学生服の小さくなったの、あげるよという話だったはずなのですが、頂いたのはこの制服で。あそこの家、女の子と男の子がいるから、お姉さんが着ていた方の服をゆずってくださったみたいです」
「なるほどねー」
 
「多分あそこのお母さんが、私を女の子と思っていたんでしょうね」
「ああ、そういう人は多分たくさんいる」
「やはり・・・」
 
「私だって、千里ちゃんのこと、晋治から聞いてなかったら女の子としか思わなかったと思う」
「そっかー」
 
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「でもせっかくもらったんだから、それで通うとか」
「父がショック死するかも」
「あはは」
 
「髪も入学式までには短く切らないといけないんですよ。だから、この服を着て出歩けるのも、この春休みが最後」
 
「晋治と別れたのも、それが理由?」
「晋治さんの前では女の子の私で居たかったんです。髪も切って学生服を着て学校に通っていたら、もう私、女の子ではいられないから。それにそろそろ声変わりとかも来ちゃうだろうし」
 
「そんなことないと思うな」
「そうですか?」
 
「髪を切ったって、男の子の声になってしまったって、千里ちゃんは千里ちゃんでしょ? 自分が女の子だと思ったら女の子で居ればいいんだよ」
 
「でも女の子には見えなくなっちゃう」
「他人がどう見てようと構わないじゃん。自分の心に従うべきだよ」
 
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「そうですね・・・・」
と言って千里は窓の外を眺めた。
 

「まあ、晋治は旭川でも彼女作って、ここしばらく二股してたからね。どちらかとは別れないといけなかったんだろけど」
 
「二股には気付いてたけど、頑張ろうかなと思った時期もあるのですが、やはり晋治さんの思い出の中では完璧な女の子のままの私で居たい気もして。だから私の方から関係の解消を言ったんです」
 
「晋治。その旭川の彼女とも別れたよ」
「え!?」
 
「晋治としては、多分千里ちゃんの方が本命だったんだろうね」
「ごめんなさい。私・・・晋治さんの気持ちに応えられない」
 
「うん。いいんだよ。晋治も新しい彼女探すと言ってた」
「そうですか・・・。彼人気だから、すぐ彼女できそう」
 
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「そうだね。バレンタインも物凄い数もらってたみたいだし」
「ですよねー」
 
「でももらったのはほとんど部活の友人たちに配って、自分で食べたのは千里ちゃんからもらったものだけ」
 
「なんか心が痛むんですけど」
「まあ、恋の終わりはどちらにとっても傷心だよ」
「はい」
 
「だから千里ちゃんも晋治に遠慮せずに新しい恋を探しなよ」
「・・・・・」
 

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「そうそう。私も中学時代の制服まだ持ってるから、なんだったら千里ちゃんにあげようかなと思ってたんだけど、他で調達しちゃったのが、さすがだと思った」
 
「ちょっと誤解の産物ですけどね。あ、もし頂けるんでしたら、2年後に妹が中学に進学するので、その時頂けますか?」
 
「いいよ。じゃ、どっちみち、東京に出るのに荷物整理するから、その時、千里ちゃんにあげるよ。それを2年後まで取っておけばいい」
 
「あ、それでもいいです。じゃ頂きます」
「うん。4月上旬までには持っていくね。学生服も晋治が学生服だったら、小さくなったのあげられたんだろうけどね」
 
「晋治さんの学校は中学もブレザーですからね」
 
静子は留萌の中学を出た後、旭川の私立高校に進学した。晋治は中学から旭川の私立中学(姉とは別の系列)に進学している。
 
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「それに晋治さんの服は多分私、合いません。一度デートしてて雨で濡れちゃった時にズボン借りたら、ウェストが大きすぎて、洗濯バサミで留めてました」
「なるほどー」
 
「私、ウェスト55、ヒップ85だから」
「・・・・千里ちゃん、完璧に女の子体形!」
「です。だから買った学生服も実はレディースなんです」
 
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