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■女の子たちの制服事情(2)

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2003年2月14日(金)。小学校最後のバレンタインデー。千里は旭川の中学に通っているボーイフレンドの晋治に電話を掛けた。
 
「バレンタインの手作りチョコ、今年もありがとう」
と晋治が明るい声でお礼を言う。(郵便が遅れた場合にそなえて)昨日届くように郵送しておいたのである。
 
「晋治、そちらの中学でも人気だろうから、たくさんもらってるだろうけど」
「まあ、もらうけど、千里のは特別だよ」
 
「ふふふ。特別な子が何人居るのかなあ」
と千里は半ば冗談で言ったのだが
 
「嫉妬してんの?」
と晋治は言った。千里はその反応に微妙な違和感を感じた。
 
「ううん。いいんだよ。私は晋治の子供は産んであげられないしね」
「最近、千里、言葉がきつくない?」
 
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「私も4月からは中学生だし」
「・・・・千里、中学には学生服で通うの?」
 
千里は晋治との関係に限界を感じていたので、彼と別れるには自分は中学には男子として通うことにしておいた方がいい気がした。それで晋治に話を合わせる。
 
「セーラー服で通いたいけど、駄目だろうなあ。髪も短くしないといけないみたい」
「ああ」
「ね。3月1日か2日、時間取れる?」
「1日なら何とかなる」
 
「そちらに行っていい? 一応うちのお母ちゃんには旭川まで行く許可は取ったんだけど」
「いいよ。会おう」
「私が女の子である、最後の姿を晋治に見て欲しいの。それでサヨナラにしない?」
 
その件は実は12月に会った時も示唆していた。電話の向こうの晋治は少し考えているようであった。そして
 
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「千里はたとえ学生服着て、短髪にしても、女の子だよ」
 
と言った。「サヨナラ」の件については何も言わない。これまでも千里がそれを示唆した時、晋治は《黙殺》するかのように反応していた。千里は晋治が《否定》しないことをその返事と捉えていた。
 
「ありがとう。でもさすがに、その格好で女子トイレとか入れないだろうしなあ」
「ああ、それは痴漢と間違えられるね」
 

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翌日の土曜日。蓮菜の家に、美那、千里、留実子、というメンツが集まっていた。何か用事がある訳でもなく、適当に集まって、適当に漫画など読みながら、おしゃべりしているだけである。
 
「みんなバレンタインのチョコは渡したの?」
と蓮菜が訊く。
 
「渡したよ。今年は頑張ってゴディバ」と美那。
「おお、凄い」
 
美那は今は2つ年上でS中学のスキー部に所属している藤代君にラブ♥である。但し藤代君にチョコを渡す女子はたくさんいるし、一応決まった彼女も居るようだ。美那はどうも人気の集中する男子に惚れてしまう傾向がある感じ。もっともそれは千里も同様という気もしないではない。
 
「まあ、取り敢えずチロルチョコを渡した」
と留実子が言うと
「チロルなの〜〜!?」
と呆れる声。留実子の彼氏は同学年の鞠古君である。
 
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「うん。チロルチョコを100個」
「100個!」
「それは食べるのに一苦労」
「留実子らしい」
「鞠古君もそういうジョークを面白がるタイプ」
「ミルクとコーヒーガナッシュを組み合わせてハート型に並べてやった」
「それは、むしろかなり凝っている」
 
「蓮菜も渡したんでしょ?」
「うーん。誰に渡すか少し悩んだんだけどねー。田代が欲しそうな顔していたから『余ったのやる』と言って、押しつけといた」
と蓮菜は言う。このふたりは、本当に付き合ってるのか付き合ってないのか、よく分からないし、いつも喧嘩しているが、多分仲は良いのだろう。
 

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「千里はどうしたの」
「うん。郵送しといた」
「ああ、青沼君とまだ続いてたんだ」
 
「続いているというか半分惰性だけどね。きっと晋治、向こうにも彼女居るよ」
と千里は言ってから、ハッと思う。
 
もしかしたら・・・・そうかも知れない。
 
「別に向こうに居たっていいじゃん」
「男の子って、わりと複数の恋人が居ても平気みたいだよ」
「そうそう。それぞれの彼女をちゃんと愛してくれるみたい」
 
ふーん。男の子ってそういうものなのかなあ。。。
 
「会いはしなかったの?」
「平日だから」
「この週末にデートしても良かったろうに」
「来月会う約束してるよ」
「お正月には会ったの?」
「うん。12月にデートしたよ」
「あの時はセックスしたんでしょ?」
「してないよぉ」
「なぁんだ」
「じゃ、来月会ったらセックスしちゃいなよ」
「おお、大胆な意見」
 
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3月1日(土). 千里は朝から汽車に乗って旭川に出た。この日は叔母の美輪子の家に泊めてもらい、明日帰宅することになっている。留萌から旭川までは車なら2時間(速度制限を守った場合!)で行くが、JRを(深川で)乗り継ぐと連絡が良くても2時間半掛かる。みんなJRに乗らないわけである。留萌本線は日本一の赤字路線らしい。
 
千里は自分が大きくなる頃までこの汽車は残ってないだろうなと思った(が、その後、極限まで経費を切り詰めた運用がなされており、2014年現在も廃止の話は出ていない模様)。
 
旭川駅まで晋治が迎えに来てくれていたので、取り敢えず握手して(まだキスする勇気は無い:人目もあるし)、駅の自販機でジュースを買いベンチに座って少しおしゃべりする。
 
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「あ、これ2日早めの誕生日プレゼント」
と言って、晋治が何やら小さな箱を渡してくれる。
 
「わぁ、ありがとう!」
と言って受け取る。
「開けていい?」
「うん」
 
中身はペンギンのイヤリングである。
 
「可愛い!」
「付けてごらんよ」
「うん」
 
左右の耳たぶをイヤリングの留め金で挟んでネジを締める。何だかこれって大人の女の感覚だよな、などと千里は勝手に思う。
 
イヤリングが見えるように、長い髪を耳の後ろに流して、手鏡で見てみる。
 
「可愛いよ」
と晋治は言ってくれた。
 
「ありがとう。中学の入学式までの命だけど、それまで頑張って使うよ」
「中学生になっても付ければいい」
「えー? でも短髪にイヤリング付けてたら変じゃないかなあ」
「僕は構わないけど」
「私は構うかも!」
 
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「実はアンパンマンのイヤリングとペンギンのイヤリングで迷ったんだけど、こちらの方が可愛いと言うから」
と晋治。
 
「そうだね。アンパンマンより、こちらが良いかな」
と千里は答えたが、今の晋治の言い方を聞いて、こないだから感じていた疑問に確信が持てた。そうか。。。やはり晋治・・・・・。まあ、仕方無いかな。
 
「それから、これは13日早いホワイトデー」
と言って晋治は《白い恋人》の小箱を渡してくれる。
 
「ありがとう!」
と言って受け取る。
 
「ね、一緒に食べない?」
「そうだね」
 
ということで、その場で箱を開けて、ふたりで分けて食べる。
 
「これ美味しいよねー」
「うん。僕も実は好き。《白い恋人》を恋人同士で一緒に食べるって何だか幸せな気分になるよね」
と晋治は言った。
 
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千里は心がじわっとして泣きたいほど嬉しかった。ああ・・・こんなことを晋治とできるのも今日が最後か、と思うと千里はそれがまた悲しい気持ちになる。さっきの疑問も今は忘れよう。だって晋治はきっと《私も》愛してくれているのだろうから。
 

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