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■女の子たちの制服事情(3)

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結局30分以上駅で話した後、バスに乗って、旭山動物園に行った。駅から動物園までが40分あるので、その間、隣り合う座席に乗り、たくさんお話ししたが、バスの座席は狭く、身体が接触するので、その接触で千里は結構ドキドキした。晋治の方もドキドキしているような気がした。
 
動物園に着いたのがもうお昼頃だったので、最初に食堂に行き、その後園内を見て回る。前日は雪だったのだが、この日は晴れていて、動物園を見て回るのには良いお天気である。それでも寒いのは寒いので、千里も晋治もダウンコートを着ているし、晋治は黒い手袋に黒い毛糸の帽子、千里はピンクの手袋に赤い毛糸の帽子をしている。2人とも長靴だ。
 
「私たちにとって冬は寒くて大変な時期だけど、ペンギンさんにとってはとっても過ごしやすい季節なんだろうね」
と千里はペンギンたちの様子を見ながら言う。
 
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「人間でもそうだよね。その環境を喜ぶ人もいれば、嫌がる人もいる。物事の価値観って、結構個人の立場で変わるんだよ」
と晋治。
 
「・・・だろうね」
 
その時、ふたりの近くを小学5−6年生くらいかな?という感じの男子のグループが通りかかる。何だかうるさい!千里たちはペンギンたちを見ながら、彼らをやり過ごした。
 
「小学6年生かな? もうみんな声変わりしてた」
と晋治。
 
「うん。早い子は5年生で声変わりしちゃうけどね」
と千里。
 
「千里はまだ声変わりしないんだね」
「それ考えると憂鬱!」
 
「僕は千里くらいの年にどんどん男らしい身体になっていくのが大人になることだという感じで楽しみだったけど、千里にとっては辛くてたまらないことなんだろうな」
と晋治。
 
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「さっきの同じ環境が人によって喜びであったり悲しみであったりという話だね」
と千里も言う。その問題は自分でもさんざん悩んだから、今晋治の前でこの程度のことを口にするだけの心の余裕はある。
 
「でもおかげで最後まで晋治の前では完璧に女の子でいられる」
と千里は言った。
 
でも、その「最後」という問題に関して晋治は言葉を濁している。
 

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北海道の冬は暮れるのも早い。この日の日没は17:18であったが、動物園は3時半で閉まってしまう。千里と晋治は結局、ペンギンとしろくまを見ただけで動物園を出た。
 
千里の叔母で独身の美輪子が、その閉園時間に合わせて迎えにきてくれていたので、車に乗せてもらい、取り敢えず美輪子の自宅に行った。そして2人を中に入れると、美輪子は「買物してくるね。6時頃戻る」と言って出かけてしまう!
 
「今、おばさん出かける時に、千里に何か渡したね」
「えーっと、こんなの渡されちゃったんだけど、どうしよう?」
 
と言って、千里が渡されたものを晋治に見せる。2枚もある!
 
「もしかして、これ・・・・」
と晋治がその単語を言いかねている。
 
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「どうする? 使うようなことする?」
と千里は謎めいた微笑みで晋治を見ながら言う。
「お布団も敷いてあるみたい」
 
と言って、千里はいつもここに来た時に泊めてもらっている部屋の襖を開ける。布団が《1つ》敷いてあり、ストーブも焚かれていて暖かい。
 
「まあ、取り敢えず、お部屋に入ろう。暖かいよ」
「うん」
 
それで2人でその布団が敷いてある部屋に入る。襖を閉める。取り敢えず布団を挟んで座る。
 
「あ、ポットにお湯が入ってる」
と言って、千里はココアを入れて、1つ晋治に渡し、1つは自分で取る。
 
「頂きます」
と言って晋治はココアを飲む。寒い所にずっと居たので、暖かいココアはありがたい。千里もゆっくりとココアを飲んだ。
 
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「やはり外は寒かったね」
「うんうん」
 
「この部屋暖かいし、私、コート脱いじゃおう」
と言って、千里はコートを脱ぐ。ついでにレッグウォーマーも脱いじゃう。可愛いチェックのスカートにタイツ、上は厚手のトレーナーを着ている。
 
「千里・・・胸がある」
「うん。パッドだけどね。ほんとに胸があったらいいのに。私は服を着ている時だけ本当の姿になれるんだよ。裸になったら、偽りの自分になってしまう」
 
「千里にとっては、裸体は偽りなんだな」
「うん。だから、私、服が脱げないんだよねー」
 
これがお互いにあと3つくらいずつ年が上だったら、こんな会話から、どちらからともなく誘って、お布団の中に入ってしまっていたかも知れない。でも、この時は、ふたりとも未熟すぎて、そんなことまではする勇気が無かった。
 
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「晋治に言い寄ってくる女の子、今でもたくさん居るだろうし、これからもたくさん出るだろうけど、私という存在を晋治の恋愛歴のどこかのページに、今の私のまま残しておいてくれたら嬉しい。この後、私、晋治の恋人とは主張できないような身体になっていってしまうから」
と千里は言った。
 
「もう会えないの?」
と晋治。
 
「武士の情けで勘弁して」
と千里。
 
この問題について結局晋治は何も言わなかった。晋治の反応次第では千里は服を脱いで彼に裸を見せちゃうつもりだったのだが。
 

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1時間くらい、たわいもない話をした。もしこれが最後のデートになるのならもっと話すことあるだろうに、などと思いながらも、どうでもいいような話ばかりしてしまう。
 
やがて17:45になる。美輪子叔母さんは18時に帰ると言っていた。帰って来たら晋治をおうち(晋治が下宿している、晋治の伯父さんの家)まで送って行く。それでサヨナラになる。
 
お互いにタイムリミットを意識するのか、千里も晋治もチラッチラッと時計に目をやる。
 
「千里、ひとつだけ言っておきたい」
「うん」
 
「僕は千里という人、そのものを好きになった。だから、千里がどんな姿であろうと、どんな声であろうと、そのこと自体は変わらないから」
と晋治は言う。
 
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「ありがとう」
と言って千里は微笑んだ。
 
「手紙は・・・書いてもいいよね?」と晋治。
「そうだね。お友だちとしてなら」と千里。
 
「でも千里、好きだよ」
と晋治は言った。
 
「私も晋治のこと、好き」
と千里も言った。
 
ふたりはずっと布団を挟んで座って会話をしていた。しかし、この時、ふたりは何かに動かされるかのように、そしてお互いに吸い寄せられるように布団の上に乗り、至近距離まで近寄った。
 
そして自然と唇が近づき、ふたつの唇が重ねられた。
 
ふたりとも怖くて目を瞑ってしまったが、無事ふたつの唇は綺麗に重なった。
 

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そのまま、永久に時間が止まってしまったかのような感覚があった。
 
もう我慢できないかのように、晋治は千里を抱きしめた。千里も晋治の背中に手をやり、しっかりと晋治を抱きしめた。
 
このまま、セックスしてもいいかな?と千里は思った。彼びっくりするだろうなあ。
 
晋治が千里を押し倒す。晋治は千里を抱きしめてしまったことで、理性のタガが外れてしまったようだ。千里も抵抗しない。
 
「お布団。めくらない?」
と千里は笑顔で言う。
「うん」
と晋治は答えたものの、動作を停めてしまう。でも抱き合ったままだ。
 
「どうしたの?」
「いや、布団の中に入ったら、僕もう我慢できなくなって、絶対やっちゃう」
「してもいいよ」
 
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そんなことを言う自分を、何て大胆なんだろうと千里は思った。
 
「いや。だから我慢するよ」
「どうして?」
「御免、千里、僕、実は・・・・」
 
晋治が言えずにいるので代わりに千里が言った。
「彼女がいるんだよね?」
「気付いてた?」
「会話の端々に、今付き合ってる女の子が居るんだろうな、というのは感じたよ」
「ほんと?」
「女の勘」
 
「ごめん、千里」
「いいのよ。だって、今日は1日、私だけの晋治で居てくれたもん。私、嬉しかったよ。イヤリング大事にするから」
 
「ごめんな」
「私が本当の女の子だったら、ライバル宣言して略奪するかも知れないけど、私、あと1ヶ月しか女の子で居られないから身を引く」
 
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「そういう言われ方すると凄い罪悪感が」
「それは浮気男の罰だね」
 
「でもさ」
「うん」
「千里、僕ほんとうに千里のこと好きだから」
「私も好きだよ。だから、今夜の0時までは、私の恋人で居て。明日からはただの友だち」
 
「分かった」
 
それで、ふたりはまたお布団の上で、ぎゅっとお互いを抱きしめた。
 

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そのまま時間が過ぎていった。千里も晋治も何も言わなかったが、お互いを思う気持ちは伝わってきた。やがて玄関の鍵を開ける音がした。
 
ふたりは何ともなしに、いったん身体を離し、そしてキスした。
 
美輪子叔母さんの「ただいま」という声が聞こえる。そして千里と晋治は見つめ合って微笑んだ。
 
「あ、これ今日の記念にあげる」
と言って、千里はおばさんからもらったコンドームの1個を晋治に渡した。
 
「彼女とする時に使ってもいいよ」
と千里が言う。
 
「使うかも。千里もそれ、新しい彼氏が出来たら、その彼氏に使わせていいよ」
 
「新しい彼氏か。。。。しばらく恋はしたくない気分。って、だいたい髪切っちゃったら、もう女の子として男の子との交際はできないよ」
 
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「そうかな。千里、こんなに可愛いんだもん。きっとすぐ彼氏できるよ」
「できたらいいけど」
 
「千里、髪が短くたって女の子の服、着ちゃえよ」
「それ変態に見えると思う」
「変態だと思われたら嫌?」
「・・・・・平気かも」
「だったら着ちゃえ、着ちゃえ」
 
「・・・ほんとにそうしようかなあ・・・」
「学校の制服もさ、女子制服作っちゃうといいよ」
「お金無いよー」
「なるほど、お金があれば作りたいんだ」
 
「・・・・そうかも」
「お金、お小遣い少しずつ貯めたら今年は無理でも来年は何とかなるかも」
「そうだなぁ」
 
「そして、千里、多分2ヶ月後くらいには新しい彼氏作ってると思う」
「私、そんなに節操無くないよー」
 
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「じゃ、千里に5月までに彼氏が出来なかったら、僕、千里に去年道大会で優勝した時の記念にもらったボールペンあげるから」
 
「おお、そんな大事そうなの、ぜひもらわなくては」
 
美輪子叔母さんは家の中には入ってきたものの、こちらの部屋には来ず、台所で何かしている雰囲気である、それをいいことに、千里と晋治は更に会話を続けた。
 
「もう一度キスしていい?」
「うん。今夜までは私は晋治の彼女だもん」
 
そういって、ふたりはまた唇と唇を重ねた。そのまま離そうとしたのだが、晋治は千里の口の中に舌を入れてくる。えーーー!? と思うが、されたら仕返してやる、という精神で千里も晋治の口の中に舌を入れる。
 
舌と舌が絡み合う。
 
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何これ!? 凄くHな気分!!
 
その時、美輪子おばさんが
「唐揚げたくさん買ってきたからさ、あんたたち食べない? 今お味噌汁も作ったよ」
と台所からこちらへ大きな声を掛けた。
 
それで千里と晋治は身体を離した。
 

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