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■女の子たちの二次試験(8)

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26日の放課後、27日(金)の朝とシューター教室をして、27日の夕方のエアドゥ旭川1950-2135羽田で、また東京に行った。都内のホテルに1泊してから翌日□□大学の2次試験に行く。この日は小論文と面接である。
 
この日は8:45に集合し、まずは教室に受験生がみんな入って9:00-9:50の時間割で小論文を書いた。
 
この大学の小論文はしばしばイデオロギー絡みの問題が出る。千里は過去問を見ていて、なぜこういう議論の対立しやすい問題を出すんだ!?とかなり不愉快だったのだが、予備校の先生の解説では患者と根本的な考え方が対立した場合にどう解決策を見出すかの訓練なのだそうである。
 
そんな意見の対立する医者にかからずによそに行けよ、と思ってしまう千里はたぶん医者向きではない性格なのだろう。
 
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しかし今年の問題は中国の古典に取材した問題であった。
 
楊震の所に王密が夜中にやってきて、黄金を渡そうとする。王密はふたりだけの秘密にしましょうと言うのだが、楊震は「天知る、地知る、我知る、汝知る」と述べて、それを断った。
 
千里は「ふたりだけの秘密」というのはそもそも絶対に守られないものだと小論文の中で主張してみた。少なくとも若い女子のネットワークではむしろ「これ誰にも言わないでね」と言うと情報拡散の速度が高速化する傾向がある。人は好奇心の生き物なので、秘密と言われたことほど人に言いやすい。特に他人との連帯感を求める性格の人は、必ずそれを他人に言う。むしろ秘密をきちんと守る人というのは孤独な性格なのではないか、などと大胆な心理学的?な意見を主張してみた。
 
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そしてそんな小論文を書きながら、私、蓮菜・鮎奈・京子の3人にだけ声変わりのこと話したけど、きっと4月頃までには20-30人に知られてそうだな、ということに思い至り、憂鬱な気分になった。
 

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小論文の後は何だか問診票のようなものが配られ、記入した。名前・生年月日、保護者氏名・志望動機、趣味、得意科目、部活と役職、外国語の選択予定、併願についてなどなどである。
 
千里は「村山千里・平成3年3月3日生・女」と記入した後、住所、電話番号、なども記入し、医学部を受けた動機には「中学生の時、大きな病気をして死にかけたものの、半月近い入院の結果無事回復したので、自分も人を助ける仕事をしたいと思ったから」と記入した。
 
併願については「C大学と併願しているが両方合格したら□□大学に入りたいと思っている」と書いた。他に行くとか合格してから考えるなどと書いたら落とされるに決まっているので、たとえ嘘でもこう書くのが受験生の常識である。
 
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得意科目は英語、趣味は読書、読む本はイギリス文学と答える。部活はバスケットボールで副部長を経験と書く。外国語の選択は英語・フランス語と書いた。
 
その問診票?が回収されたあと少し待ったら受験番号が呼ばれたので中に入る。部屋の中には多数のテーブルがあり、各々に面接官が座っている。千里は案内されたテーブルに座った。
 
「****番、村山千里です、よろしくお願いします」
と笑顔で挨拶した。
 
無表情の面接官から、問診票に沿った内容の質問をされる。千里はよどみなく笑顔で答え、面接は10分ほどで終わった。
 
そのまま同じ部屋の中の別のテーブルに案内された。そしてここでもまた質問をされるが、訊かれる内容はかなりダブっている。しかし千里は笑顔でひとつひとつ丁寧に答えてこちらも10分ほどで終了した。
 
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「もう帰っていいですよ」
ということであったので、千里は一礼して部屋を出た。
 

終わったのは結局11時すぎである。後から聞いたのでは、ここの面接は時間のかかる人は3回も4回も面接されて17時頃まで掛かる場合もあるらしい。そんなに掛かっていたら、沖縄に間に合わないところであった。
 
電車を乗り継いで12時半に羽田空港に到着。羽田1320-1610那覇のJALで沖縄に飛んだ。その後タクシーで会場に入ったが、泰華さんから「早かったね!」と言われた。
 
実際ライブにちゃんと間に合うぎりぎりの便は羽田1530-1815那覇という時刻だったのである。おかげで千里はリハーサルの後半にもちゃんと参加することができて、17時半には休憩、軽食を取った。
 
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蘭子はやはり色々行動に制限が掛かっているようで、この日もリハーサルには出ていなかったが、本番の前にはちゃんと来て、例によって『優視線』以外の歌唱に参加した。
 

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翌日はトラベリング・ベルズと伴奏者・コーラス隊は全員那覇1235-1410福岡の飛行機で福岡市に移動し、今日はリハーサルは音の確認をする程度に留めて夕方のコンサートに備えた。KARIONの4人は午前中の飛行機で移動して福岡で少し休んでいたらしい。
 
福岡ライブは今回のツアーの他の公演より早い16時開演・18時すぎ終了に設定されている。これはKARIONの4人は明日学校で卒業式があるので(彼女たち自身が卒業生ではなく在校生ではあるものの)、こういう学校行事がある場合、高校生である彼女たちを使用するための契約書で「前日24時までに帰宅させること」という条項があるので、何としても4人を福岡1915-2045の飛行機に乗せる必要があるためである。
 
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トラベリング・ベルズの5人やコーラスの3人は福岡で1泊して明日東京に帰るということだった(この時刻に終わると東京行き最終新幹線(18:54)には微妙に間に合わない)。しかし千里も明日3月2日が卒業式(しかも自身が卒業生)なので、どんなに遅くても明日の午前10時までには旭川N高校まで辿り着く必要がある。
 
そこでこの日はアンコールは欠席させてもらうことにした。アンコールで歌う曲は『小人たちの祭り』と『Crystal Tunes』である。どちらもピアノパートはそんなに難しくない。ただ蘭子は歌唱に参加するので自分では演奏できない。それで実はこの日のアンコールのピアノは、ヴェネツィアン・マスクで顔を隠していてそもそも誰か分からないのをいいことに、雨宮先生が弾いてくれたのである。
 
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雨宮先生は無茶も言うが、その人にとって大切なものは尊重してくれる人である。もっとも先生は「代理演奏1曲につき100万円」を「千里に」請求するからね、などと言っていた。
 
そういう訳でこの日はラスト前の曲『サダメ』までを千里が電子キーボードで弾き、そのあと千里はステージから下がって、代わりに蘭子が出てきてグランドピアノの前に座り『優視線』を弾く。そして千里は楽屋に置いているマイクで、着替えながらこの曲の蘭子パートを歌ったのである。
 

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千里はこの曲を歌い終えると、望月さんにマイクを渡して一礼し楽屋を出る。これが17:30であった。急いで福岡空港に向かい、18:45の羽田行きANAに飛び乗る。これが羽田に到着するのは20:15である。すると20:55の新千歳行きADOにぎりぎり乗り継ぐことができる(どちらも第2ターミナル。ひとつ早い1820のJALに乗ってしまうとターミナルが違うので乗継困難)。
 
こうして千里は新千歳空港に22:30に降り立った。
 
ここに美輪子の彼氏・浅谷さんが美輪子と一緒に車で迎えに来てくれていたので、千里は浅谷さんの運転する車で、帰宅することができた。
 
「受験もたいへんだね。ほんとに遠くまで行っていると、実際卒業式に出席できない子もいるんじゃないの?」
「ええ。試験優先で卒業式諦めた子います。実際卒業式に出ないと卒業できないわけではないし」
「でも出られないって寂しいよね」
「ほんとですよね。私は何とか出られるから幸せです」
 
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その時浅谷さんが今気づいたように言う。
 
「あれ?ちょっと会ってない内に千里ちゃん、声が大人っぽくなってる」
「声変わりしたみたいですー」
「へー。女の子も声変わりするんだね」
「男の子みたいに、いきなり1オクターブとか2オクターブとか低くなったりはしませんけどね」
「ああ男の子の声変わりは劇的だからね」
 
「あれは男の子を卒業して男になる通過儀礼なのかもね」
と美輪子が言う。
 
「女の子だと初潮がやはり劇的な通過儀礼かも」
と千里は言う。
 
「昔は初潮が来たら大人扱いだったみたいよ」
と美輪子。
 
「逆に男の精通は目立たないからなあ」
と浅谷さん。
 
「あれって最初の射精は覚えているものなんですか?」
「いや、意識してない奴が多いと思う。女の初潮は母親から祝ってもらえるけど、男の精通はまず無視される」
「そもそも気づかれないかも」
「そうそう。恥ずかしがって適当に処理するから。それに明確に精液が出る以前から、ごく少量の液体が出るのが先行するんだ」
「へー」
「まあ女の子も初潮以前に下りものが多くなり出す時期があるけどね」
 
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「じゃやはり女性の場合は初潮で女の子を卒業して女になるんですかね」
「そして閉経で女を卒業する」
「それ、女を卒業した後は何になるんですか?」
「うーん。仙女かも」
「なるほどー」
「いや、女を捨てて男になったんじゃないかというおばちゃんもいるよ」
「確かに確かに」
 
「男の場合は年取って立たなくなっても射精は生涯する奴もいるみたい」
「へー」
「でも立たなくなったら男を卒業かも知れん」
「卒業した男は仙人ですか?」
「まあ男の場合は、男を捨てて女になるというおじさんは居ないなあ。10代で男を卒業して女の子になった男の娘は可愛いけど、50-60代で男を卒業されても需要がないかも」
 
「だけど60代で性転換手術うける人とかも居るんですよ」
「それは凄いな。体力も必要だよね」
「だと思います。健康も維持してないと難しいし」
「だよなー」
 
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「自己満足かも知れないけど、本人にとっては、やはり男の身体のままでは死にたくないって気持ちなんですよね」
「心の問題って難しいよね」
 
心の問題という言葉を聞いて、千里は自分同様に迷い道に入り込んでいるふうの玲央美が、新しいWリーグのチームで自分の新たな目標を見出してくれることを祈った。
 
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