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■女の子たちの二次試験(7)

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新千歳に20:45に到着し、21:16のスーパーカムイ53号(札幌まではエアポート213号)に乗って23:20に旭川に帰着する。千里は飛行機の中でも、その後のスーパーカムイの中でもひたすら寝ていたが、帰宅後も部屋に帰ると、そのまま眠ってしまい、翌朝まで全く目が覚めなかった。
 
まだ半ばぼーっとした状態で朝御飯を食べていたらメールが着信する。玲央美からで「ほんとにありがとね」と書いてあった。Wリーグ入りの話もすぐに進めようということになり、今週中にもスカイ・スクイレルの関係者と会ってくることになったらしい。
 
22日は日曜日なので、千里はバスケ部の練習にだけ顔を出し、シューター組の指導だけして帰って来た。23日(月)は朝学校に行ってシューター教室に顔を出すと、その後授業には出ずに!図書館で勉強し、放課後シューター教室をやってから帰宅するというパターンで過ごした。図書館の先生が
 
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「村山、お前図書館登校?」
などと言っていた。
 
なお、C大学の試験は英語と数学だけなので、22-23日は特に不安のある数学の数列や文章問題の勉強に集中した。
 
24日は朝からまた飛行機で移動である。先日は旭川空港から羽田に行くつもりが、新千歳から福岡に飛ぶことになってしまったのだが、今回はちゃんと旭川905-1050羽田で移動し、総武線で千葉市内に入った。試験場の下見をした上で千葉市内のホテルに入り、その日もずっと勉強をする。だいたい英語を1時間やったら数学を3時間くらいやる感じで勉強していた。
 
この日は夜10時に就寝して、25日は朝5時に起きた。身体を動かした方が調子いいので、早朝ジョギングに行こうかと思ったら雨である。うーん、と悩んだが、取り敢えず散歩してくることにして、傘を持ってホテルを出た。
 
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歩いていたら体育館があり、そこにバスケットボールとバッシュを持った小学生が2人歩いて入って行くのを見た。ミニバスの朝練かな? などと思って見ていたら、30代の女性とぶつかりそうになった。
 
「あ、ごめんなさい」
「あ、ごめん」
 
とお互いに言い合う。それで向こうの顔を見たのだが、千里は「あっ」と思った。彼女もこちらを認識した雰囲気があった。
 
「あんた見たことある。えっと山村さんだったっけ?」
「あっと。村山千里と申します」
「ごめーん。私、人の名前覚えるのが苦手で。私のこと分かる?」
「日本代表のシューティングガード、三木エレンさんですよね?」
「うん。スリーポイント競争しない? 今時間ある?」
「えっと、私、大学入試で出てきたんですけど」
「試験は何時から?」
「会場は西千葉駅から歩いて10分ほどの所で、12:30からなので11時にはホテルを出たいです」
「充分時間あるじゃん」
 
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三木さんは所属しているWリーグ・サンドベージュのチームメイト、宮本睦美さんを呼び出した。彼女が来るまでの間、千里と三木さんは単純にスリーを入れる競争をした。
 
「裸足ですみませーん」
「いつでもバッシュ持ち歩きなさいよ」
「それは無茶です」
 
取り敢えず10本交代で、宮本さんが来るまでやろうということになる。片方がシュートし、片方はゴール下に居てボールを返す役である。
 
千里が先にやる。10本全部入れる。
 
「ふむ」
三木さんが撃つ。10本全部入れる。
 
千里が撃つ。やはり10本全部入れる。
三木さんが撃つ。やはり10本入れる。
 
ふたりが全く外さないので、体育館内の向こう側で練習していたミニバスの子たちが「すげー!」という感じの表情をして、練習の手を休め、じっとこちらを注目しているようだ。
 
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お互いに50本ずつ入れた所で言う。
 
「この競争意味無いね」
「フリーだったら当然入りますよね」
「花園ちゃんも同じこと言ってた」
「試合中に外すのは、無理な体勢から撃ったり、相手のブロックをかいくぐるように撃ったりするからです」
 
「よし、1on1やろう」
「はい」
 
それで攻守交代しながらマッチング勝負をしたのだが、相手はさすが日本代表である。この日千里は全く彼女に勝てなかった。
 
「負けました」
と素直に千里は敗北を認めた。
 
「いや正直、私負けたらどうしようと思った」
「やはり筋力や瞬発力が私あまりないから、それもあって勝てない気がするんですよね」
「うーん。それは羽良口英子に比べたら筋力無いかもしれないけど、少なくとも瞬発力は私よりずっとあると思うよ」
 
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「そうでしょうか。私、瞬発力が無いのがいちばんの欠点とか言われるのに」
「そりゃたぶん物凄い人と比べているからだと思うな」
「うーん・・・」
「あんたの世代なら佐藤玲央美とかね」
 
「その玲央美に私、全然勝てないんですよ!」
「ふふふ。どうやったら勝てるか教えてあげようか?」
「ほんとですか?」
「私に勝てたら教えてあげる」
「それ富士山に登る前にチョモランマに登れと言われている感じです」
「ちゃんと分かってるじゃん」
 

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そんなことをしている内に宮本さんが来てくれたので、今度は宮本さんにディフェンスされている状態で5秒以内にスリーを撃つというのをやってみた。公平になるように1回交代である。
 
さすがにプロだけあって、簡単には撃たせてくれない。三木さんでさえ10回中4回しかシュートできなかった。ただしシュートしたのは全部入った。千里は10回中2回だけシュートできた。千里もシュートした分はちゃんと入った。
 
「村山さん、結構頑張るじゃん。よし次行こう」
と三木さんは言ったが
「ちょっと待って。10分くらい休ませて」
と宮本さんが言うので、結局15分休んでから2回戦をしたが、2度目はやはり宮本さんが疲れてきただけあって、三木さんは10回内6回、千里も10回内3回シュートすることができた。三木さんは撃った6本の内5本入れた。千里は3本とも入れた。
 
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「やはり修行不足です。負けました」
と千里は言ったのだが
「いや、こちらが負けた気分」
と三木さんは言う。
 
「ああ、エレンは1本外したからね」
と宮本さん。
 
「いや、あれはかなり無理な体勢から撃ちましたもん」
と千里は言うが
「シューターは撃つ以上、全部入れるのが責務」
と三木さんは言う。
 
「まあ確かにチームの期待を背負って撃つからね」
「近くからシュートした方が絶対入る確率は高いはず。それをわざわざ遠くからギャンブルする訳だから、撃つ以上は入れる。入れきれないと思ったら他の子に回さないとね」
 
「すみません。私何も考えずに撃ってます」
と千里が言うと
 
「まあ実は私もそうだ」
と三木さんは言っていた。
 
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「村山さん、大学入試と言ってたけど、4月からどこの大学に入るの? この付近に強い所あったっけ?」
と三木さんが訊く。
「この付近ならT市のTS大学とかN市のE大学とか」
と宮本さんが少し考えて言う。
 
「いえ、千葉市内のC大学で」
と千里が言うと
 
「なんで?」
とふたりから同時に言われて千里はたじたじとなる。
 
「いや、私、高校でバスケ辞めるつもりで」
 
「それは世間が許さん」
 
「みんなから、それ言われるー」
「当たり前」
「むしろ日本中の国民が許さん」
 
「どうしてもC大学に入るのなら、大学のバスケ部には入らずに強いクラブチームに入りなよ」
と三木さんは言う。
 
「ああ、そういう手もあるかもね」
と宮本さん。
 
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「クラブチームにも楽しみでやってる感じの所からプロに近い所まである。そういう所で鍛えるのもひとつの手かも知れないね」
 

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三木さんたちと別れてからホテルに戻り、シャワーを浴び汗を流して高校の女子制服を着る。チェックアウトして試験会場(C大学理学部校舎)に行く。キャンパス近くのコンビニで消化の良さそうなサンドイッチと十六茶を買って校内の食堂で食べ、その付近でトイレに行っておいてから会場に行く。
 
会場前の廊下で梨乃と会った。
 
「まさかとは思ってたけど、ちゃんと女子制服を着てきてたから安心した」
「女子制服を着てこなかったら何なのさ?」
「男子制服はもう捨てたんだよね?」
「あれはサーヤにあげたんだよ」
「なるほどー!」
 
梨乃はこのC大学理学部と、△△△大の理学部の併願である。鮎奈は□□□大学医学部とここのC大学医学部を併願しているが、医学部はキャンパスが別なので、この日は遭遇しなかった。
 
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この日最初の科目は数学である。12:30-15:30という3時間の長丁場だ。千里は理学部を受けるというのに、理科は悲惨に苦手で数学もあまり得意ではないので、問題を考えていて脳が酸欠になりそうな気分であった。
 
しかし3時間の時間をぎりぎりまで使って何とか全問解答することができた。
 
そのあと1時間ほど頭をぼーっとさせて何も考えていない状態で過ごした後、16:30-18:00は英語である。英語は文法が怪しい(!)という問題をのぞけば割と得意なので、これは楽しく解答することができた。これは1時間半の時間はあったものの40分ほどで全ての解答をし終え、2度見直してから17:30には先に退出した。
 

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この日は千里は羽田2025-2200新千歳2214-2252札幌2305-025旭川というルートで帰った。これが「上品な方法で」旭川まで帰られるもっとも遅い連絡である。
 
26日(木)はまた朝からシューター教室をした上で、日中は図書館で古典文学全集の源氏物語の一気読みをして過ごした。一応授業はやっているのだが、もう国立前期試験が過ぎた後は5−6組の進学・特進のクラスでは、むしろ出席している生徒の方が少数である。
 
食堂に行ってお昼を食べてからまた図書館に行こうとしていたら、京子から声を掛けられる。
 
「千里、□□大学の1次試験、どうだった?」
と訊かれる。
 
「あれ?もう結果出たんだっけ?」
「ホームページに合格者が掲載されているよ」
「わっ」
 
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それでいつも持ち歩いているパソコンを開いてホームページを見てみた。
 
「さすがに私は落ちてると思う」
などと言いながら受験番号のリストを見ていたのだが・・・
 
「あれ?」
と千里は声をあげた。
 
「ん?」
「私の受験番号がある!」
 
「おお!」
 
念のため受験票を見て番号を再確認するが、千里の番号はちゃんと1次合格者リストに入っていた。
 
「嘘みたい。理科はほとんど白紙だったはずなのに」
「もしかしたら今年は1次の合格水準が低かったのかもね」
「なるほどー。それで英語と数学で挽回できたのかな。でも数学は易しかったのに」
「私が受けたのとは違う問題とは思うけど、私が受けたのも今年は易しかったよ。私は英語も数学も150点(満点)取ったつもり」
「すごーい!」
「物理と化学もほぼ満点に近いと思うけどね」
「さっすがー! あ、そちらも合格発表は済んだんだっけ?」
「うん。合格。こちらは2次試験は無いからそれで確定」
「わあ、おめでとう!」
「ありがとう。でも□□大学ごときを落とす訳無い」
 
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う・・・・頭のいい人は違うなあ、と千里は思った。
 
「合格はしても行く気も無いしね」
「やはり東大なのね」
 
「□□大学とか△△△大学は、最初から行く気のない受験生が多いよ」
「大学側も何人合格させるべきか悩むね!」
「うん。だから毎年、募集定員の6−8割程度の繰上合格者が出る」
「それって正規に合格した人はみんな他に行くってこと?」
「まあ、私立大学ってそんなものよ」
 
「ところで千里声がなんか変わった」
「うん。実は声変わりしたんだよ」
「へー。なんかおとなっぽい声になってるね」
「いや、一時期は声が不安定でさ」
と言って千里は悪戯っぽく
「実はこんな声になった時期もある」
と男声を出してみせる。
 
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「嘘!?」
「この声は内緒ね〜」
とまた女声に戻して言う。
 
「凄い秘密を知ってしまった」
「男装する時は便利かもね」
「まあ千里の男装はあり得ないから無意味だけどね」
「そうだなあ・・・」
 

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