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■女の子たちの二次試験(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-09-13
 
身体を洗ってから、玲央美と一緒に浴槽につかる。
 
「この旅館に入る時、一瞬思ったけど、もしかして親戚か何か?」
「全然。私、九州には親戚はいなかったはず」
「偶然の一致か。でもどうやってここ見付けたの?」
「勘」
「すごーい! 道内ならまだしも、九州まで来たのに」
 
「九州、福岡県、八女郡までは実は占いで見当を付けた。その後少し考えてこの矢部村がいちばん怪しいと思った。そして現地まで来て、背の高い女の子見ませんでしたか?と訊いたら、教えてもらった」
 
「うん。私って背が高いから目立つんだよね」
「おかげで捕獲できた。実は18時までにレオちゃんの居場所が分からなかったら、警察に捜索願いを出すなんて話になってたんだよ。ぎりぎりセーフ」
 
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「わあ、ごめーん」
 
「一緒に帰ろうよ」
「わざわざこんな所まで呼びに来てくれたんなら帰るしかないかな」
 
ふたりはしばらくお土産何にしよう?なんて話をしていた。
 
「私が何で逃げ出したかって、千里訊かないのね」
と唐突に玲央美は言った。
 
「訊いて欲しい?」
「実は私もよく分からなくて」
「まあそんなこともあるよ」
 
「何となく昨日学校に行きたくない気がしたんだよねー。それでふらふらと空港に行って、見たら福岡行きがあったから乗っちゃって。そのあと適当にバス乗り継いでいったらここに来ちゃったのよね」
 
「昨夜はどこに泊まったの?」
「高速の広川SAで一晩あかした」
「女の子がそれやると危ないよ」
「私、背が高いし腕も太いからニューハーフと思われたかも」
「まあでも性別の誤解はよくあることだよね」
「まあ仕方ないね」
 
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お風呂から上がった所で、旅館の人に許可を取って、中庭で花火をした。
 
「ほんとに花火持って来てくれたんだ?」
「まあそんな話をメールしていたからね」
「こんな時期に花火ができるとは思わなかった」
と玲央美は言っていたが、暗がりでよく分からないものの、玲央美は涙を流しているようであった。
 
「線香花火ってきれいだね」
「凄くはかないけどね」
「うん。ちょっと揺らしただけで落ちてしまう」
「人間もちょっとしたことで死んじゃうからなあ」
「うん。自分も線香花火なのか知れないと思うことあるよ。人間って本当にあっけない」
 
千里はもしかして玲央美の知り合いの誰かが亡くなったのでは?ひょっとしてそれが失踪のきっかけか?というのも考えた。
 
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「でもほら、こちらの花火は勢いよく出てる」
「元気だよね。でもすぐ消えちゃう」
「私たちが輝ける時も一瞬なのかもね」
「かもねー」
 
「玲央美、Wリーグに行ったら? 大学なんかに行っても玲央美の才能を活かせるほどの選手は居ないよ」
 
「うん。実はそうかも知れないという気がしたんだよ」
「どこか好みのチームないの? いくつかのチームから声掛けられてるんでしょ?」
 
「実はスカイ・スクイレルもいいなと思っているんだ」
「ほほぉ!」
「今はまだリーグ下位だけど、だからこそこれから伸びていく可能性もある。しかもスモールフォワードのレギュラーさんが今期いっぱいで引退するという話なんだよね。その後釜を狙おうかと」
 
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「そうだよね。レオちゃん、P高校ではセンターの登録だったけど、実際にはU18で登録されていたようにスモールフォワード的だもん」
「ちょっと札幌帰ったら十勝先生と話し合ってみる」
「うん。頑張ってね」
 

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花火をした後はしっかり水を掛けて、袋にまとめてからゴミの処理は旅館の人にお願いした上で部屋に戻った。博多で買って来たお菓子など出して一緒に食べる。それで少し落ち着いたようなので、心配してるからお兄さんと高田コーチにだけは電話しなよと勧めた。
 
玲央美が電話する姿勢なので、千里は部屋を出て玲央美をひとりにしてあげた。ただし変な事をしないように、《すーちゃん》にガードさせた。
 
15分ほどしてから、玲央美がロビーに降りてきて2人と電話で話したことを言ったが、玲央美はまた泣いた跡があった。
 

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その後、一緒に夕食を頂いたが、《こうちゃん》には今の内にお風呂入って来なよと唆した。
 
「男の客は2組入ってるけど、女のお客さんは私たちだけらしいよ。だから誰にも見られないよ」
 
「そうだなあ。じゃ行ってくるか」
「くれぐれも男湯に入っちゃだめだよ。女湯に入りなさいよ」
と千里が言うと
「覚悟決めて入ってくる」
と言って、《こうちゃん》はお風呂場のある別棟に行った。
 
「ね、まさかあの人、男?」
と玲央美が訊く。
「ふつうの男の人だよ。なりゆきで女のコスプレしてるだけ」
「コスプレなんだ!」
「そそ。女装趣味があるわけじゃないから」
「でもあの格好で男湯に入ろうとしたらパニックを起こすね」
「そうだね」
 
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「でもちゃんと女の声で話していたね」
と言ってから、玲央美は、あれ?という表情になる。
 
「自分のことで頭がいっぱいで気づかなかった。千里、声が変」
と玲央美。
 
「声変わりしちゃったんだよ」
「へー。でも大人っぽい声になってる」
 
「実はこういう声も出る」
と千里は男声を出してみせる。
 
「何〜〜〜!?」
「いや、1月13日の朝起きたら、突然声が2オクターブ低くなってて焦ったこと、焦ったこと」
と千里は女声に戻して言う。
 
「なんでこんな時期に声変わりが。睾丸は無いよね?」
「とっくの昔に取ってるけどね。だからしばらくは」
と言って
「こんな感じの声で話してた」
と《ささやき声》で言う。
 
「あ、その声は性別が曖昧」
「そうそう。このささやくような声は響きが無いから誤魔化しやすい。男声と女声のいちばんの違いは実はピッチよりも響きや話し方なんだよね」
 
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「でも何とか頑張ってこういう声の出し方を見付けたんだよ」
と千里はちゃんと女声で言う。
 
「男の声も女の声も出たら、けっこう便利かも知れない」
「いや、この声を見付け出すまでは、どうしようかと思った」
「ああ、本人としてはパニックだったろうね?」
「見た目が女でも声が男だったら、ニューハーフってバレバレだし」
「ああ、でも当事者さんは大変そう」
「ちゃんと女の声が出るニューハーフさんは実はかなり少数派なんだよ」
「やはり練習たいへんなんだろうね」
「もしかしたらそもそもの素質もあるのかも知れない」
「そのあたりは分からないね」
 

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食事が終わった所で旅館から時刻表を借りて帰りの便を調べる。
 
「福岡1055-1305新千歳、って便があるからそれで帰りなよ」
「うん。そうしようかな。千里は?」
「私、明日東京で入試があるんだよ」
「嘘!?」
「9:30に集合なんだよね。福岡からの第1便 福岡710-835羽田では間に合わないから、北九州530-655羽田、を使うしかないと思う」
 
「ごめーん。そんな日にわざわざ九州まで来てくれて」
「私の大好きなレオちゃんのためだもん。頑張るよ」
「今、マジで告白された気がした」
「ちんちんは付いてないから多分襲うことはないと思うし心配しないで」
「千里に万一ちんちんが付いてたら世界がひっくり返る騒ぎになるな」
「それみんなから言われる」
「ふふふ」
 
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「ここから北九州空港まで3時間で行けるから、5:30の便に乗るにはこちらを念のため12時すぎに出れば大丈夫だと思う」
「夜中に出るのか」
「レオちゃんは車内で寝てて。うちのお姉様に、私を北九州空港で降ろした後、レオちゃんを福岡空港まで送ってもらって、そのまま札幌まで付き添ってもらう」
 
「逃亡しないように監視役なのね」
と玲央美は苦笑しながら言う。
 
「当然。ここで逃げられたら、私責任取って切腹しないといけない」
「大丈夫。逃げないよ。あ。でも千里が北九州空港発の便に乗るんなら、私も一緒にそちらに乗ってもいいかも」
 
「あ、それでもいいか」
 

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確認すると、羽田945-1120新千歳に連絡できるようである。それで飛行機を予約した上で、旅館には飛行機の便の都合で夜12時すぎに出発する旨を伝え、先に精算してもらうことにした。すると旅館の人は「夜道お気を付けて」と言い、サービスでおにぎりを作ってくれた。
 
出発までの時間仮眠することにする。ちなみに布団の並びは奥から玲央美・千里・《こうちゃん》である。
 
やがて11時半になったので千里は自分を覚醒させ、まず荷物を積み込んでから《こうちゃん》を起こそうとしたのだが・・・・
 
寝てる!?
 
『こうちゃん、こうちゃん』
と起こそうとするのだが、どうしても起きない。
 
困った!
 
『大阪でいろいろ工作してたみたいだからなあ』
『青龍に貴司君からあの子へのメールを改竄させたりとか』
『色々な女の子を貴司君の周囲に出現させてわざと尾行させてとか』
『今日は久留米からここまで山道を運転してるし』
 
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『千里が運転するしかないよ』
と《いんちゃん》が言う。
 
『しょうがないなあ。じゃ、りくちゃん、この子を取り敢えず車の中に積み込んで』
『荷室でもいい?』
『取り敢えず助手席』
『へいへい』
 
それで《こうちゃん》を助手席に「積み込む」。
 
『こいつ何の夢見てるんだ。スカートがテント張ってるぞ』
『男の娘ってたいへんね』
と言ってから千里はふと疑問を感じて
『この子、下着はどうしてんの?』
と訊いた。
 
『女の子下着を楽しそうに着てたよ』
『あまり想像したくないシーンだ』
 
シートベルトを掛けてから、玲央美を起こしにいく。
 
「悪いけど出発の時刻。後部座席で寝てていいから」
「うん。寝てる」
 
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それで玲央美は寝ぼけ半分の状態で車に乗り、後部座席で一応シートベルトはしたまま身体を横にして眠ってしまった。《たいちゃん》に用意してもらった毛布を掛けてあげる。テリオスの狭い室内が、身体の大きな玲央美には少々きつそうだ。
 
千里は旅館の人に挨拶してから車の運転席に乗り込む。
 
ほんとにおまわりさんに捕まりませんように!
 
と祈ってから出発した。
 

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矢部村から北九州空港に行く場合、久留米・博多経由で九州自動車道を北上するルートと、矢部村から鯛尾金山の方に出て九重町から別府市を通り、九州東岸を北上するルートがある。
 
しかし《いんちゃん》が「夜中に鯛尾金山を越えるのは千里の腕では無理」と言い、また田舎道はカーナビが表示する時間では実際には走れないよと言ったので、来た道を戻り、広川ICから九州自動車道を北上するルートを取った。
 
高速に乗る前にいったん筑後市内のコンビニで休憩したが、玲央美も《こうちゃん》も熟睡していて全く起きない。自動車道に乗った後、古賀SAで休憩した時にやっと玲央美が起きた。
 
「トイレ行った後、お土産買おうよ」
「あ、いいね」
 
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それで適当な九州のお菓子を選んで、車に戻ったのだが・・・
 
「あれ? 千里が運転してるの?」
「うん。お姉様が熟睡していて起きないんだもん」
「ふーん」
 
と言って玲央美は後部座席に戻って、またうとうとしていたが・・・
 
「千里、運転免許いつ取ったんだっけ?」
と訊く。
「3月に卒業したあと取るつもり。一応自動車学校の仮予約だけ入れてる。私、誕生日が3月なんだよねー」
 
と言うと、笑っていた。
 

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